表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末街の迷宮  作者: 高橋五鹿
終章 始まりの街のオクテット

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

144/154

第144話 悪神降臨

 宇宙の神――そう呼ばれるような存在といえば。

 コズミック・ディザスター……。

 ケクロプスの本能を書き換え、暗躍する黒幕。

 それはもう、カダとヴリトラのことで間違いあるまい。


 シュウダの魂を得ればコズミック・ヒュドラは完成する。

 それが未来の状況だったはずだ。

 なのに奴らは、その最後のピースを手にしてしまったのか?


 何故だ。

 俺が過去に来てしまったからか?

 歴史は変わってしまったのだろうか。


 衛兵たちが迫ってくる。

 シュウダの身体をどうしようというのか。

 カダの新たな肉体にでもするつもりなのか。


 分からない。


 分からないが。


 ただ、今の俺に分かり、今の俺に出来ること。

 それは――


 断じて……。

 断じてこいつらの、好き勝手にはさせないということだ!




(つるぎ)の街より来たれ――――《百頭竜》バジリスク!」




 謁見の間に、白煙が立ち込める。

 シュウダを取り囲んだ衛兵たちは、次々にその色を失い、石像と化していった。


「な……に?」


 カダの声に驚愕の色が浮かぶ。


「こ、これは……《百頭竜》メドゥーサの石化毒!? 創世神族の御業だぞ!? 何故そんな術を使えるのだ! あれは……あれはいったい何者だ!」


 ()()()()()()()()宿()()()俺は、衛兵たちを全て仕留めたことを確認した。

 カダには魔術防御で白煙を防がれたか。


 人間であった頃の全ての能力が蘇り、更に以前よりも研ぎ澄まされていく感覚がある。

 これは……シュウダの肉体に刻まれた記憶の力か?

 人間とは、ここまで強くなれるものなのか。


 だが、この身体ではバジリスクの毒には耐えられない。

 煙が完全に収まるまでは動けないな。


「クッ……クククク……」


 瞬く間に静寂に包まれた謁見の間で、不快な笑い声が響き渡る。


「ククッ……やはりそうか! 転魂玉とは、ふたつの器の魂を()()()()()――それしか出来ないコズミック・クラフトなのだな!」


 セルベールはいつの間にか壁際のほうに退避していた。

 完全に傍観の構えである。


「セルベール……? 貴様……もしやそれを確認するため、余にこれを使わせたのか!?」


「その通り! 皇帝に成り代わった小細工の裏も取れたことであるし――」


 金髪の美丈夫は、その表情を(よこし)まに歪め――


「貴殿もこれで、用済みというわけだ! フハハハハッ!」


 ――死ぬほどムカつくツラで爆笑していた。


 カダより先に、あいつを始末しようかな……?


「舐めるな! 貴様ら如き……この幻魔侯に敵うと思うてか!」


 カダの周囲に、見たこともないような攻撃魔法、道術の数々が展開される。

 コズミック・クラフトの力など借りずとも、こいつはネメア帝国史上最強の道士なのだ。


「聞かなくても良いのかね? シュウダ殿の魂と入れ替わり、史上最強剣士の肉体に宿った魂――天叢雲剣に封じられていた魂が、いったい何者であるのかを」


「なに……?」


「貴殿とて、創世神話に刻まれるその名を知らぬわけもないであろう。其は毒の眷属を討ち破る者――終焉(しゅうえん)の街に現れし巨大な蛇、(つるぎ)舞う街に巣食う毒竜、夢幻(むげん)の街駆ける黙示録の騎士、戦塵(せんじん)満ちる街薙ぎ払う神竜――それら数多の創世神の眷属を、(ことごと)く焼き尽くし滅び(もたら)す者。《破毒の狩人》――悪神オロチの名を!」


「あ……悪神オロチだと!? 何故そのような魂が六合器の中に!?」


 六合器が登場したのは創世神話の二百年後だもんなあ……。

 そりゃあ不思議だよなあ……。


「何故だろうね? 存外マヌケにも、うっかり自分から封じられてしまったのかもしれないね?」


 聞こえてんだよテメー!

 事実なんだけどさあ!


「ふざけるな! 余がその化けの皮剥がしてくれよう!」


 カダの周囲に展開していた術式が、石化した衛兵たちをも巻き込みながら襲い来る。

 石化は後で解除するつもりだったのに、ひでえことしやがる。


 片手剣を握る手に力が籠もる。

 構えは、自然とシュウダのそれになった。


「《魔力剣》――アギト」


 目の前の術式を斬り裂き、消し飛ばす。

 魔力の刃が踊り狂い、カダの術を次々に迎撃する。

 達人シュウダの剣閃によって、《魔法斬り》は鉄壁の城塞と化した。

 道術も魔法も同じもの。

 迫る攻撃術式の数は三十六。

 その核三十六箇所を、魔力剣によって全て両断する。

 術式はひとつ残らず霧散し、バジリスクの石化ブレスも消え去った。


 あ……。

 石化ブレス、これで消せたのか。


「あらゆる術理を喰らい引き裂くという世界蛇のアギト……! ま、まさか……本物だと……いうのか?」


 追い詰められた表情のカダは再び転魂玉を掲げる。


 あれだけの力を持ったコズミック・クラフトなのに、連続使用が可能なのか?

 させるかよ!


「替天刃・雷光歩!」


 シュウダの肉体に刻まれし記憶――その技をもって、カダとの間合いを一瞬で詰めた。


 振り上げられた石化の力宿りし刃は、カダの身体を頭から一直線に通過する。

 獅子の獣人は、転魂玉を掲げた姿勢のままで石と化した。




 石化したカダの魂に対して、直接の交信を試みる。


 カダの心の底の風景。

 そこに居たのは、地下牢で見たあの人間種の老人だった。


『余がどうなろうと、シュウダが無事だろうと、結果は変わらない』

『知ってるよ』

『かつて……六合器の使用を重ねるうち、世界の果てにそれは現れた』

『…………』

『余は、宇宙の神に会った』

『神って……そいつ、ただの自然現象だぞ』

『だからなんだね? 始まりの民は自然現象を恐れ、神と崇めることで恐怖を和らげたというではないか』

『地球の信仰なんてよく知ってるな』


 最初から神が実在したこの世界では、つまらん話だろうに。


『天地を覆い隠すほどの巨大な姿を余はこう呼んだ。竜の王――ヴリトラと』


 それは恐らくコズミック・ディザスターの起点となる存在。

 ケクロプスたちの本能を塗り替えてしまったモノでもある。

 果たして実体は在るのか無いのか……。

 ケクロプスは自分の中に、何か別のものが入り込んだと言っていた。

 複数の九つ首に影響を与えるのならば、少なくとも分離くらいは出来るのかもしれない。


『この動乱の時代に三つの英雄の魂あり。余とトウテツ、それにシュウダ。これら三つと創世の神々五柱の魂を贄に、ヴリトラ様は顕現する』


 百頭竜ネメアは創世の神にカウントされてるのか。

 やっぱ初代皇帝のことで合ってるみたいだな。


『五柱はカオス、クロノス、ネメア、ケクロプス、メドゥーサだな』

『そうだ。後は始まりの地に居るであろうケクロプスの帰還を待てば、宇宙の神は完成する』


 ケクロプスか……。

 そいつが戻ってくるのは二百年後だぞ。

 そして、ケクロプスが戻る前に今度はシュウダの魂が行方不明になるわけだな。


 だいたい分かった。

 この時代のカダに、もう用は無い。




 ――意識が戻る。


 石化したカダ……というより皇帝ネメアの手に、既に転魂玉は無い。

 それを持っているのはもちろん――


「セルベール。天叢雲剣がシュウダの魂を封じる器というのは、カダの動きを誘導するための嘘か?」

「当然その通り。しかし、『嘘から出た真』という言葉もあるのだよ」


 ……………………。


 セルベールは転魂玉を手で弄んだまま、意味ありげに微笑んでいる。


「いいからまず、俺たちの魂を元に戻せ」

「もういいのかね? では……《コズミック・クラフト》転魂玉!」




 俺は再び剣となった。

 そして、シュウダの魂が還って行くことも確認する。


「も、元に戻れた……のか」


 よし、シュウダは無事だな。それじゃ。

 今の俺に呼吸器は無いが、気分的に大きく息を吸い込んでから。


『セルベールてめえ! 魂を雑に交換して動けるわけねえだろ! 危うく本物の皇帝みたいに廃人化するとこだったわ!』


「…………??? 動けていたではないか」


『あれは《星の超越者》アネモネの魔法、《精神憑依》だ』


 本当に追い詰められたら、俺にも少しだけ使えるようになった。

 もう少し時間がかかっていたら危ないところだった。

 つーか、こいつの作戦はいっつもガバガバだな!


「フフフ……まあそのときは吾輩がカダを始末していたので、そう怒らないでくれたまえよ」


 最初からそうしろよ。

 絶対お前がコズミック・クラフトの実験したかっただけだろ。


「謁見もカダの企みの露見も全部……お前の仕込みだったのか。皇城に乗り込み、全てを解決するための。ヴリトラに従うというのも、演技だったんだな」


 いや、こいつは穴だらけの策を弄するタイプだ。

 騙されてはいかん。


「ヴリトラ? そんな者に従うなど、一度も言った覚えはない」

「はあ!?」


 うん。確かに言ってねえな。

 こいつは自分もカダも、「主はひとりしかいない」って言っただけだ。


「吾輩の心酔する主は唯ひとひ……プッ、クフッ!」


 噛みやがった……。


「ま……魔王ハイドラ様だ。クッ」


 心酔する主のはずなのに魔王呼びはおかしくて仕方がないらしい。

 分かるけど。


「チッ、食えねえ野郎だ。だが……オロチはこいつのことを信じていたんだな」

『気持ち悪いこと言うな』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ