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終末街の迷宮  作者: 高橋五鹿
終章 始まりの街のオクテット

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第141話 コズミック・クラフト

 案内人のおっちゃんは、洞窟から出てきたセルベールを見て驚いた顔をした。


「妙に時間がかかると思ったら……。そ、そのお方は?」


 む……?

 これはセルベールをお偉いさんかなんかと誤解している?

 セルベールの格好はこの時代じゃ浮いている。

 顔も気持ち悪いレベルで美形だ。


『帝都の貴族とか言っても信じちゃいそうだな』

「……この御仁は帝都から来ていた先客でな。山賊の件を話したんだが、村に視察に来てくれるそうだ」

「そういうことだ。よろしく頼むよ」

「そ、そうですか? そりゃあありがてえ。早速案内しますぜ」


 ふたりとも役者だな。

 感心していると、脳内でおぼろげに意識していたウィスプの視界に違和感を覚える。


『おい、まずいぞ。村の周囲に賊が集まってきている』

「いや、どうも悪い予感がするからオレは急いで村に戻る。あんたは後からゆっくり来てくれ」

「吾輩も、シュウダ殿に付いて行くことにしよう」

「え?」


 言うやシュウダは元来た道を駆け出した。

 セルベールもその後にぴたりと続く。

 お貴族様がいきなり全力疾走するとは思わなかったのか、唖然としたおっちゃんはそのまま洞窟前に置き去りとなった。


「我が同胞たちは進化しても互いに争っているのか。嘆かわしい」

『大きい群れなんてそんなもんだ』

「オロチ、今どうなってる」

『村の連中が異変に気付いた。いかん、始まっちまうぞ』

「数キロ先にある人の集まりがその村かね? ならば、吾輩は先に行かせてもらうよ」


 セルベールが速度を上げてシュウダを追い抜く。

 ハイドラにも匹敵しようかという俊足だ。

 しかし――


『まずい、もう襲われている奴が居る。このままじゃ――』


「替天刃・雷光歩!」


 突如、シュウダの足元から爆発音が起こる。

 それは、シュウダが地面を蹴ったことにより起きた破壊の音だった。

 五感に乏しい現在の俺ですら、視界が急激に後ろへ流れる感覚に目まいを覚える。

 蹴りつけた地面を次々に粉砕しながら、前方へと遠ざかっていたセルベールを一瞬で追い抜いた。


「なっ!?」


 驚くセルベールをあっという間に引き離し、跳躍して森の木々の上に出る。

 地面を蹴った足は、次に木の幹を標的と定める。


『シュウダ! あのウィスプの下だ!』

「応!」


 山賊の集団を見つけて慌てて逃げようとした村人のひとりが、地面に足を取られて転倒している。

 村に入り込んだ賊の先頭に立つ男が、今まさに凶刃を振り下ろさんとしたその時。


 森林から飛び出した影が賊に向かって突進し、その上半身を吹き飛ばした。

 一刀のもとに斬り飛ばされた上半身は、遅れて地面へと叩き付けられる。


 山賊たちも村人も、一瞬何が起きたのか理解できなかった。

 片手剣を携え、ゆらりと起き上がったシュウダは双方に向けて言い放つ。


「遅くなっちまったな。今片付けてやる」

「おや失礼。残りは既に片付けてしまったよ」


 セルベールの声がした。

 見れば山賊どもの顔には生気が無い。

 ひとり、またひとりと崩れ落ち、村に押し寄せた賊は次々に絶命していった。


 これは……。

 本来のあいつならサボって人任せにしそうなもんだが。

 セルベールの奴、走って追い抜かれたことをちょっと気にしたらしい。


 それにしても、ネメア人相手にえげつない攻撃だ。

 いや……あの攻撃ならたいして苦しませずに済んだのかもしれないが。


「オロチ、奴の今の攻撃はいったいなんだ?」


『あれはこの世で最強の生物由来の毒――《ヒュドラ毒》だ』




 所詮山賊程度では、このふたりの相手にもなるまい。

 だから、これで終わりと思っていたのだが。


「む? ひとり討ち漏らしたようだ。オロチ殿、ネメア人にもヒュドラ毒に耐える者がいるのかね?」


『いないとは言い切れないが……。あまり油断しないほうが良さそうだな』


 セルベールとシュウダは頷き合うと、村から離れていく生存者の後を追う。

 向こうもそれに気付き、山道の途中でこちらを迎え撃つべく停止した。

 ウィスプを先行させ標的を視界に収める。


『道士服だな。山賊堕ちした道士か』

「たまにいるな。雑魚とは別格の強さだから、そいつが首領だろう」

「ならば後顧の憂いは絶っておかねばなるまいよ」


 そう言ってセルベールが指をパチンと鳴らすと、こぶし大の火球が前方に放たれた。

 火球は瞬く間に巨大化すると、周囲の木々を巻き込みながら道士めがけて飛んでいく。

 ドゥームダンジョンの上位攻撃魔法だ。

 普通にこういうのも使えたんだな。当然かもしれないが。


 前方の地面に着弾して爆発した火球は森林に引火するかと思われたが、その火はあっという間に掻き消され、目標の人影が浮かび上がる。


 驚くべきことに、敵はヒュドラ毒だけでなく火球を受けても無傷のようだ。

 短い杖のような武具を掲げ反撃用の魔力を練っている。


「この魔絶杖は敵の攻撃術を無効化する六合器だ! 道術戦で俺に勝てる者など――」


 とか言ってる道士の喉に天叢雲剣が、つまり俺が突き刺さり相手は即死した。


『いきなり何すんだテメー!』

「お前のほうが短くて投擲向きだったんだよ」


 そりゃあシュウダの片手剣は投げるにはちょっとデカいけどさあ!


「ふむ、攻撃魔法を無効化する道具か」

「六合器だな。こんなものを持ってるとは、結構名のある奴だったのかもしれん」

「オロチ殿が入っているその剣も、同じ六合器という道具かね?」

『ん? ああ……。この剣は無効化なんて便利な魔法は使えないけどな』

「オロチ殿、先程の現象は魔法ではないよ。厳密にはね」

『あーん?』

「六合器、宇宙の器か……。ふざけた名前だ」


 セルベールは魔絶杖と呼ばれたその武具を拾うと、もう片方の手に火球を発生させ、それを掻き消してみせた。


「魔法というのは多かれ少なかれ理を曲げるものだからね。放っておいてもいずれ反動で消えてしまうが、この武具はそれを加速させたわけだよ」


 うん? その理屈って……。


「これはこの世の理を捻じ曲げた後に訪れる、『反動』を封じた器。超小型のコズミック・ディザスターとでも呼ぶべきものだ」


『な……』


 なんて言った? 六合器がコズミック・ディザスターだと!?


「吾輩が名付けるならば――《コズミック・クラフト》」

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