潔癖魔王と内気JKと黄色い小人が出会ったようです
このお話は以下の作品の主人公達が出てきます。
一つでも分かる作品があればそれなりに読める筈です。
①「潔癖症な二代目魔王、身分を隠して仲間と共に珍道中! 目指せ夢のマイホーム!」
②「内気少女の怪奇な日常 ~世与町青春物語~」
③「黄色い小人のまん丸な家」や「黄色い小人とドブ色の旅人」などの小人シリーズ。
誰が読むんだ? って位の茶番です。
おっす、俺二代目魔王。
正確には元魔王だ。
好きな物は新玉ねぎの
ピカッ
「うお眩しっ! 目がぁ、目がぁぁ!」
折角の導入に水を差すかのように目の前が白く光る。
そして目を開けると、俺は真っ白な部屋の片隅に立っていた。
ワケガワカラナイヨ。
「何だここは? 随分と綺麗な部屋だが……」
キョロキョロと室内を見回すと、酷く困惑した様子の黒髪の少女と目が合った。
ふむ。十六、七歳位だろうか──大人しそうな娘だ。
「おい、そこの娘」
「ひっ、な、何ですか? ここは一体……?」
「それを今聞こうとしたんだが、知らないなら結構だ」
「す、すみません……」
シュンとする少女の姿に良心が痛む。
謝る程の事じゃないからもっと元気出してこーぜ。
「ふむ。扉はあるが、鍵が掛かっているようだな……ん?」
扉を壊す勢いでガチャガチャしてるとすぐ横に小さなメモが貼り付けられている事に気が付いた。
「何々……『相棒自慢をしないと出られない部屋』? どういう事だってばよ」
「相棒、ですか? 何でまたそんな……」
紙を覗き込んでいるとどこからともなく第三者の声がかかる。
「そうしないとここから出られないって事なのかなぁ?」
「「え!?」」
ビックリした! ビックリした!
この部屋、俺達二人以外誰も居なかったよね!? 怖っ!
「いいいやビビってねーし。俺ビビってねーし!」
「あの、大丈夫ですか?」
少女は俺を気遣いながら声の主を探すように視線を巡らせている。
大人しそうな割りに肝は座っているらしい。
「今の声、一体どこからでしょう?」
「ここ、ここだよ。あ、踏まないで!」
足元に目をやると五センチ程の小さな黄色い奴が両手を挙げて跳ねていた。
あぁー、小人がピョンピョンするんじゃぁ。
「これは気付かなくてすまぬ、小さな御仁。もしや貴公も我々同様、閉じ込められて動揺どうしようなのかな?」
「そうだよ。ぼくは黄色い小人。相棒はよく分からないけど、お友達ならいっぱいいるよ!」
かっわ! と思ったのは俺だけでは無かったようだ。
隣でしゃがみ込む少女も口元を押さえて「可愛い……」と呟いている。禿同。
「俺は魔……マオー。超絶パンピーなイケてる兜系男子だ。して娘。君の名は?」
「あ、はい。宮原ハル、高三です(この人何でコスプレなんてしてるんだろう)」
俺の爽やかな自己紹介の甲斐もあり、場の空気が幾分か和む。
さて、まずはこの部屋からどう出るか──それが問題だ。
扉は何らかの封印魔法が施されているのか、この俺の力を持ってしても開く気配はない。
「とりまメモの指示に従うとするか。相棒自慢、だったか。誰から話す?」
「あ、あの、私、相棒? がよく分からないんですが……」
「ズッ友と聞いて思い浮かんだ奴で良かろう」
それにしても相棒……相棒か……
俺のバヤイ家臣のグルオ一択だわ。
カロンとエーヒアスはあんなんでも一応ヒロイン枠(仮)だし。
うわっ……もしかして俺の友達、少なすぎ……?
しかもグルオの自慢しなきゃいけないとか苦行かよ。
雰囲気イケメン爆発しろ。
殺意の波動に目覚めかける俺の隣では少女ことミヤハラが顎に手を当てて考え込んでいる。
もしかして:俺と同類?
「じゃあ、ぼくから話しても良い?」
「どーぞどーぞ」
見るからに陽キャな黄色い小人氏を手で促すと、彼はピョコリと一礼してから我々を見上げた。
「ぼくのお友達はね、赤小人と青小人と緑小人と混ぜ色小人がいるんだ!」
登場人物多っ! パリピかよ。
「赤小人と青小人と緑小人の三人はよくケンカするけど、いっつも元気で楽しいの。混ぜ色小人は最近引っ越してきた小人で、色んな事を知ってるんだ。皆すっごく優しいんだよ!」
「それは……可愛いね」
ミヤハラの表情がヘラリと緩むのが見てとれる。
恐らく黄色い小人氏の色違いがワラワラいる様を想像したのだろう。
「あと、皆お家を作るのが上手だよ。おわり!」
「あ、クライマックスは突然なのね……では次はどちらが話す?」
「え、と。ではマオーさんからどうぞ」
「リスナーの期待に応えるとしよう(やべぇ何も考えて無かった)」
コホンと咳払いを一つして、俺はAIBO-のすましたツラを思い浮かべる。
「自慢なぁ……うん、無いな!」
「えぇ!?」
「お友達なのに何も無いの?」
目を丸くする二人の素直な反応にたじろぎ、心優しい俺は少しだけフォローを入れてやる事にした。
「誤解するな。奴……グルオは有能すぎる故、褒める点が多いのだ。モテるし仕事はできるし掃除のプロだし俺に対する忠誠心の鬼だし……何かもう嫉妬で禿げそう。この俺の醜い心を癒すヒロインが欲しい」
「そう、ですか。大変なんですね」
「そんな時は星を見ると元気になるんだよ」
禿げ増し、いや、励ましの言葉をありがとう若人達よ。
ってあれ? もしかして俺ノルマ達成してね?
サラッとグルオの事褒め上げちゃったよね?
「はい、次の方どうぞー」
「えっ、そんな病院の呼び出しみたいな……! ど、どうしよう」
急に話を振られたミヤハラは散々口ごもったあげく、意を決したように口を開いた。
「あの、相棒というかお友達なんですけど……アカリちゃんとカスミちゃんって子が仲良しです。どっちが一番とか決められなくて……」
「かめへんかめへん」
you、言っちゃいなよ。
黄色い小人という登場人物過多の前科持ちが既にいる訳だし気にすんな。
「アカリちゃんは明るくて、初めて友達になってくれた憧れの子で……カスミちゃんは最初は怖かったけど、本当は優しくてしっかりしてる強い子です。二人とも、私には勿体無い位のお友達なんです」
「ふむ、友に恵まれたか。類は友を呼ぶという。ミヤハラはもっと自信を持つがよい」
「ぼくもそのお友達に会ってみたいな!」
テレテレと頬を掻く少女と脳内お花畑の黄色い小人の図。
これは癒される。
──カチャリ。
「おっと」
あれほど頑なに心を閉ざしていた扉さんがデレる音がした。
これで出れる!
試しにドアノブを回してみると何の抵抗もなく開いた。
よっしゃよっしゃ。
「これで軟禁からは脱却だな」
「は、はい……」
「これで帰れるね!」
いやそれはどうだろう、と思ったけど黙っておこう。
女子供小人の夢を壊すのは良くないからな。
オープンザドアー。
ギィィ……
開け放った扉の先には我々にとって予想外な人物達が座っていた。
見慣れた金髪が音もなく近寄って来る。
「お疲れ様です。魔王様」
「グルオじゃん。何故ここに?」
「謎の光に包まれ、目を開けたらこの部屋にいました」
「把握」
それはさておき、個人的にはグルオの隣にいた小柄な少年とカラフルな小人達が気になって仕方ないんだが。
俺が声をかけるよりも早くミヤハラと黄色い小人が駆け寄っていく。
「もしかして、竜太君も気が付いたらここに?」
「それ以外考えられる?」
冷たっ!
女の子にそんな言い方したらいかんだろ!
近くで再会を喜び合っている黄色い小人と赤青緑と……何かコケ色の小人達とのギャップが凄い。
小さき彼らは「会えて良かった」だの「心配したぞ」だのと口々に騒いでいるが、どの小人が発した言葉なのか見分けがつかなくて困る。
可哀想な程おろおろしているミヤハラには目もくれず、グルオは小さなメモを差し出してきた。
「こちらの部屋にはこんな物が」
「何々……『相棒が来るまで出られない部屋』?」
なんじゃそりゃ?
首を傾げていると、引く程無表情な少年が壁にかかる薄い箱を指差した。
「あのモニターにハルさんや兜のお兄さん達のやり取りが流れてた」
「モニ太? え、何、さっきの会話見られてたの!? マジで!?」
「マジでございます、魔王様。あとモニ太ではなくモニターです」
恥ずかしすぎワロエナイ。
黄色い小人達は呑気に「不思議だね!」とモニターとやらの下で跳ねている。
俺? とてもそんな気分にはなれない。
「俺の妬みに染まる醜い心がバレた悲しみ」
「その程度の事で魔王様に対する評価は今更変わりません。元気出して下さい」
「追い打ちやめろ泣くぞ」
悶える俺とは似て非なる心境なのか、ミヤハラも俯きがちで目を泳がせている。
「えと、竜太君。なんかその、怒ってる?」
「怒ってはいない」
~会話終了のお知らせ~
え、何この二人、友達じゃないの?
気まずっ!
何とも言えない空気に固まっているとグルオがヒソヒソと耳打ちしてきた。
「(ヒント、相棒に相棒認定されてなかった少年の心境)」
「(グル子、それヒントちゃう、答えや)」
そうか、友人女子にスルーされたか。
それは可哀想になプックスー。
だがな少年、そういった恥ずかしさ悔しさ悲しさを重ねて人は大人になるのだぞ。
「(ヒント2、自分は相棒と思ってる女子に好意を持たれてると自覚していてちょっと気まずい)」
「許さんリア充滅ぶべし(早口)」
「全部聞こえてるよ、お兄さん達」
年不相応に冷たい目を向ける少年に負けず、俺は温かい言葉を贈る。
「爆発しろ」
「やだ」
やだは俺のセリフだ。もうやだ辛い。
何で俺だけいっつもモテないの。
ガンゴンドゴンと壁に頭を打ち付けているとミヤハラと小人達に止められた。
っていうかグルオ、お前は何で少年と一緒に扉調べてんだ。
相棒なら俺の心配を優先しろし。
しばらく歓談していると突然、それまで黒かったモニターが点灯した。
キーン、というかん高い音の直後に何者かの姿が映る。
大きな葉っぱのお面をつけており、性別は分からない。
『……これで繋がったかな? あ、やべ、もう映ってる……』
グダグダかよ。
しかも声がくぐもって聞き取りにくいからイライラ倍増である。
『皆さんお疲れ様です。こちらの目的は達成されたので、もうご自由にお帰り頂いて結構です』
「いやこの状態でどう帰れと!?」
全力の突っ込みに対して葉っぱ仮面は『そうでした』と笑い声を上げた。
なにわろてんねん。
『お帰りの呪文はドルーワ・ハイサ・ア・ツッイです。なお、元の世界に戻ると同時にここでの記憶は全て消去されます』
「何そのご都合展開怖い」
「お前の目的とは何だ。なぜこんな真似をした」
ギロリと殺気を向けるグルオを諌めていると場違いな声がキャイキャイと騒ぎだした。
「じゃあぼく達帰るね。マオーもハルも元気でね!」
黄色い小人と仲間達が「じゃあな、グルオ、リュータ」「いつか遊びに来いよ」などと手を振っている。
シリアス? 実家帰ったってよ。
小人達が元気よく「ドルーワ・ハイサ・ア・ツッイ」と唱えると、彼等の体ははみるみる薄らいで消えてしまった。
なるほど、これが帰宅呪文の効果か。
「ハルさん、俺達も帰ろ」
「え? あ、うん。あの、マオーさん、色々とありがとうございました」
「いやぁ何の何の……おい小僧、何ちゃっかり手ぇ繋いでるし。俺に対する嫌みか」
「何でそうなるの」
彼は無表情のままコテンと首を傾げると、真っ赤になるミヤハラと共に呪文を口にした。
小さく頭を下げる二人の体が薄くなって消えていく。
後には何も残らない。
「ふぅむ、葉っぱ仮面の返答もないし、こうしていても仕方あるまい。我々も帰還するとしよう。帰ってふて寝だ」
「……承知しました」
白黒つけたがりなグルオを無理やり納得させ、呪文を口にする。
「「ドルーワ・ハイサ・ア・ツッイ」」
視界がピカッと眩しく光り、俺の意識は一瞬途絶えた。
──────────
「ハッ!」
ベッドの上で目を覚ます。
……まだ深夜ではないか。
何だか変な夢を見た気がする。覚えてないけど。
向かいのベッドではカロンとエーヒアスが寝息を立てているのが気配で分かり、俺は静かに寝返りをうった。
「……チッ」
偶然にも同じタイミングで目を覚ましてしまったのだろう。
隣のベッドからグルオの小さな舌打ちが聞こえた。
<了>
ここまでお読み頂き誠にありがとうございます。
以下、ただの蛇足です。
<裏話>
各々状況に対する認識に大きな差がありました。
魔王様→「長く生きてると色々不思議な事もあるんだなぁ」程度。むしろ楽しんでた。
ハル→「なにこの怪異。小人とか非現実的だし、どうしよう!」内心ではほぼ半泣き。実はずっとビビってた。
黄色い小人→「不思議だなぁ。でも早くお家に帰って干しブドウ作らなきゃ」程度。そんな事より大きなお友達出来て嬉しい。
グルオ→「魔王様、余計な事喋ってないでさっさと扉壊して下さい」イライラ。魔王様と自分を閉じ込めた元凶をボコる事ばかり考えてた。
竜太→「変な怪異だけど油断できない。早くハルさんと合流しなきゃ」実はグルオや小人達すら疑ってた。あと相棒除外されて複雑になってた。
赤小人、青小人、緑小人、混ぜ色小人→「黄色い小人ー、頑張れー(わいわい)」ザ・呑気。閉じ込められてる実感が無かった模様。
葉っぱ仮面→作者のアバター。全ての元凶。正直すまんかった。もう二度としません。
<裏話2>
一人称で動かしやすいという理由から魔王様視点でお送りしました。彼はミヤハラが名前でハルが名字だと思ってます。
ちなみに竜太が手を繋いだのはいつもの如く、はぐれないようにする為半分、ビビってるハルの心情察して半分でそれ以外の他意はありません。やったね魔王、リア充じゃなかったよ!(作者半ギレ)
黄色い小人達は帰ってからも変わりません。たまにケンカもしますが平和なままです。
<以下、宣伝↓↓>
「潔癖症な二代目魔王、身分を隠して仲間と共に珍道中! 目指せ夢のマイホーム!」
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「内気少女の怪奇な日常 ~世与町青春物語~」
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「小人シリーズ」
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