8、遭遇
「えっと……」
ココが俺の「収穫物」?
HAHAHA、そんな馬鹿な。
と笑い飛ばせないところが怖ろしい。
「試してみたら良いのではないかの?」
「………………」――試すって?
そんなん決まってた。
ギフト「農地作成」。
しかし、「収穫物」かどうかを確かめるとはどうしたら良いものか。
「………………」
なんとはなしに、
『収穫物を収納しますか?』
対象「ココ」
「――――――」
は、はわわわわ、はわわわわわわ……。
「のう? 修平よ?」
「は、はひッ⁉」
じとり、
と湿った眼が修平を見た。
「その反応……、その通りのようじゃの」
ガクガクぶるぶる……。
「そうかそうか。ワシが「収穫物」か。狐魔王にして金毛白面九尾の狐であった、恐怖の対象であったワシが、汝の所有物か……。
――クフフ」
笑った。
ココが笑った!
「ならば離すなよ。クフフ、ワシを所有するなど。そのようなこと、三千世界の誰も出来るわけのないことであったのに。まさか、そのような印込みで――クフフ」
何故かはわからないが彼女は上機嫌そうであった。そして、何故かはわからなくとも、何を言わなくてはならないかだけは――わかった。
修平は彼女の眼を見て、
「わかった。こんな成り行きだったけれど、俺はココを離さないよ。お前は俺のモノだ。なんせ――もう、俺はお前のこと、好きになっちまってるし……。じゅ、順番は逆だけどさ」
ポリポリと、熱く赤くなる顔を掻く。
と、
「ココ、顔真っ赤」
「う、うるさいわいッ! 旦那さまがおかしなことを言うからじゃろうが。ほんに、ほんに。ワシはとんでもない男に捕まってしまったものじゃ」
ピコピコと、二尾の狐尻尾が愉しげに振られていた。
「ココ、尻尾触っていい?」
「ああ、いいぞ。優しくしてくりゃれ? ――じゃが、まだ日も高い。そ、その先はまた……」
「わかってる。だけどこの森って、誰もいないじゃないか。そろそろ――」
「ひぅんッ!」
尻尾を捕まえれば可愛らしい声があがる。
「だ、駄目じゃぞ、慎みは持たなければならぬ」
「何を言ってるんだ。そもそも最初って、まだ日も明るいのにココが――」
「い、言うでないわッ! 好きと言われてから、ワシ、変になっとるんじゃからぁッ! こ、このままじゃと……」
「このままじゃと……?」
訊ねる修平にココは狐耳をピクピクと振るわせて、
「旦那さまから片時も離れられんくなってしまう……」
「………………」
「ど、どうした……?」「ココッ!」「ひゃうッ!」
修平がココに飛びついて押し倒せば、
「うわわわわわわ……」
「………………」
「………………」
顔を真っ赤にさせつつも、可愛らしい茶色の瞳を真ん丸にさせて、食い入るように見詰めている少女がいた。
彼女の頭には狐耳、お尻からは狐の尻尾。
狐人族であった。――
◇
彼女はヒノと名乗った。
キツネ色のショートカットに同色の狐耳、そしてもちろん狐の尾である。
――こう見ると、ココの尻尾って随分と毛艶がいいんだな……。
修平は二人を見比べた。
「何を見ておるか、浮気は許さんぞ」
「いや、そんなつもりで見てはなかったけど……。じゃあ尻尾握ってるか?」
「流石に人前では止めよ!」
「うわわわわ……」
顔を赤らめるヒノには、これでもまだまだはやいらしい。しかし、その反応からすればはやくもないのかも。
彼女の見た目はまだ十歳前後ほど。
「大きな爆発の音が聞こえて、それで、私が見て来るように言われて……」
と彼女は言う。
「それで、違うものを見ちゃったけど……」
――ごめんなさい!
まだ押し倒したところで良かった。
だが、まだまだ年端もいかない彼女のような少女を偵察に使うとは……、
――まあしかし、
「……ごめん、さっきのは俺たちの仕業なんだ。魔法の練習をしていたら爆発しちゃって……」
「うわぁ……、あれ、お兄さんの魔法だったんだ……、すごい……」
ソンケーの眼にはバツが悪くなってしまう。何せあれ、ココ曰く「魔導適性」(-)の修平に使えるはずもないものだったから。
「ココの“力”を借りて、だけどな」
「ウム、こやつはワシを使っただけじゃ!」
ココが得意がって胸を張るが、字面は倒錯していた。
ヒノがどのような反応を示すのか
「えっ、ココ……?」
そちらに反応していた。
「だって、ココって……」
「ふむん?」とココは不思議そうな顔をして、
「ははぁん、」
と。
「そうじゃ、何を隠そうワシこそ、狐魔王のココである! ヒノと申したな、狐魔王の午前である、頭が高い、控えおれぇえいッ!」
ドヤ顔で胸を張る狐美少女。
――まったく、こいつは。
と修平が思えたのも束の間。
カチャリ。
「「――へ?」」
「この神聖なる領域で不埒な真似、狼藉を働くだけではなく、ココさまの名まで騙るとは――、その蛮行、流石に捨て置けませぬ!」
ヒノは一本の刀を手にしていた。
それを、ココの首筋へと――、
「狐魔王ココさまより伝えられし【九尾変妖術】が一、【顕現・一尾一刀】にて泣き別れとさせましょうぞ!」
「ぬぉわぁあああッ! なんじゃとぉおッ!」
「覚悟!」
ギラリと刃が光る。彼女はそれを己の一本の尻尾から取り出していた。
「ちょっ! じゃからワシがココじゃと――」
「まだ言うか! お前のようなチンチクリンがココさまである筈がない! ココさまは女すら蕩かす絶世の美貌の持ち主! それに貴様からは「魔王」の力の片鱗も、強大な妖気も感じられん。これを騙っていると言わずしてなんと言う!」
「じゃからワシ、「収穫物」にされて……」
「わけのわからんことを」
――そーだよなー。
「問答、無用ッ!」
白銀の刃が宙を滑った。
「くそぉおッ! 話を聞かんぞ、こやつ! 【顕現・一尾一刀】!」
ギィイイインッ!!
白の刃と刃が交錯した。
「なっ、これは私と同じ……」
「クフフフフフフ、じゃろう? じゃからワシ、ココなんじゃって」
狐耳狐尻尾の少女同士が刃を立てて唾是り合う。
笑みを浮かべるが、ひとまず――どころではなく年上であるココの方が蒼褪めてはいた。
「い、いやっ、ヒノ、ここにいるココは本当のココで……」修平はわたわた。
「そうじゃぞ、小んまい躰なのは否定できんが、それは旦那さまの趣味で……」
「あなたは別口で殺しますッ!」
キィイイインッ!
想いの籠った斬撃がココへと振り降ろされる。
「鉾先を俺に向けんじゃねーよッ!」
と、実際には刃を受け止めていない修平が言われます。
「旦那さまじゃろッ? ワシを「収穫物」にしおったッ! 愛する妻を助けるのが道理と言うモノではないかのぉッ!」
キィンッ、キィンッ!
「な……、私の剣をイチャつきながら受ける止めるとはッ! 万死に値しますッ!」ヒノは別のボルテージが上がっているようにも思える。「そもそも、ココさまの名を騙るのであれば、あのお方が封印されるまでの千――年、純潔を守り通すほどに男の方と関わりがなかったことくらい調べておきなさいッ!」
グサリと言葉の刃がココに刺さった。
――そうか、千――歳だったのか……。
「ふぬぉああああッ! ワシの歳をバラすでないわ馬鹿者ぉおおッ!」
「あぁッ!」
想いの籠った剣撃がヒノを跳ね飛ばした。
「旦那さまよッ! 忘れよ、今の数字は忘れるのじゃッ!」
「おーけい、忘れた」修平は親指を立てて破顔した。
「イイ笑顔が憎いッ!」
「このッ、またイチャついてッ!」ヒノが少女の容貌に似合わない歯を剥いた顔を見せる。「封印されたココさまをお慰めするため、巫女に選ばれた私も純潔を守り通さなくてはならないと知っての狼藉かッ!」
「ごめんなさいッ!」
ココが謝った。
「あなたに謝られたところでなんともなりませんッ! 狐魔王ココさまでないとッ!」
「じゃからごめんなさいってぇッ!」
土下座すらしそうな勢いであったがもししようものならば打ち首獄門は免れまい。
「問答無用ッ!」
――やっぱり。
ヒノは大上段に刀をかかえて打ちかかろうとする。
と、そのとき、
「……な、なんてこった、狐尻尾――もふもふが、二本……」
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