7、二尾の力
【二尾双魂】!
「おぉッ!」
修平は、ココが自分にかざした手から“力”が送り込まれて来るのを感じた。そして、
「ふぉッ⁉ 尻尾が生えたぁッ⁉ おおお、狐尻尾だぁあ……、耳も――はっ!」
「よいではないか、よいではないか」
気がつけば、ココが指をワキワキさせながらいやらしい顔で近づいて来ていた。
「今まではよくもワシばっかり弄んでくれおったなぁ。ワシがどんな気持ちじゃったか、汝も、その身を以て味わってみれば良いのじゃ」
「いっ、いやぁ……」
修平が後ずされば、アワレ、背には木が。
「だっ、駄目、この子は、この子だけはっ……」
尻尾を抱いてふるふると首を振ってしまう。
「問答無用、じゃっ!」
「りゃめぇえええええ~~~~~~ッ!!!」
いっぱいモフモフされた。
だからいっぱいモフモフやり返した。
――アイウチ!
「ふふ、ふ……、汝も良い尻尾を持ったではないか……」
「お前は、いつも通り見事なモフモフだ」
「「――がくり」」
と、イチャついたりもしたが、ココが修平の愛(意味深)で増えた二本目の狐尻尾の力は、相手に尻尾を生やすと言う能力――ではむろんなかった。
「良いか? ちゃんと感じておるか?」
「ああ、すっげぇお前を感じるぞ。気持ち良いくらいだ」
「むぅう、恥ずかしいのう……」
「何を言っているんだよ今更、初々しさを失くさないところは滅茶苦茶ポイント高いけど」
「むっ、ワシ、イイ女か?」
「当たり前だろ、お前以上の女なんて知らない」
――お前以外の女を知らないと言うのが正しい。
「むふ、むふふふふ、それではさぁびすせねばなるまいな」
「くっ、ぅお……、すげぇ、お前の熱いものが躰の中で渦を巻いて……」
「それを手の平に集めるのじゃ」
「ああ、こうか……?」
「よいよい、そうじゃ、その調子じゃ。はじめて汝の「魔導適性」を見たときはゼロじゃったからな、そう考えると、むしろ信じられんの一言じゃ。これは――あれじゃな? あれ」
「あれって言い出したらボ……」
「あぁん?」
「ヒィッ!」
御年千歳越えのB――にそれはヤヴァかった。
「あれじゃよ、ゼロのところに、ワ、ワシが這入ったのじゃ。結婚契約で結ばれて、それで、随分と相性の良かったワシらは、汝がワシに這入るだけではなく、ワシも……」
テレテレとするココ。
BBA、無理すんな。
とは、その美少女の容姿には言えない。
しかし、その言葉は真であった。
【二尾双魂】とは、自身の分身を造り出す力である。通常それは文字通り分身を造り出すか、或いはその分身を憑依させて対象に力を与える。だがこの場合、結婚契約によってお互いの間に結ばれた回路を通り、直接的に修平にココの力を送り込み、彼女同様の“力”の行使を可能としていた。
ココは修平の肩に手を置き、彼の裡に流れ込んだ自身の力――魔力の制御を教えているのであった。
「ワシを感じ、ワシの熱を躰の裡で渦巻かせ、その悶々とした想いを手の平に集めるのじゃ」
「言い方」
「何じゃ! 汝のワシへの想いはその程度なのか!」
「………………」
――カチンと来たのでおもっくそ想いを籠めてやった。
「ほ、ほぉおおお……、なんと、こ、ここまでとは……、信じられないほどの力が集まっておる……、今のワシでもここまで練れないよ? ま、まったくぅ、旦那さまはワシのことが好き過ぎじゃな。ワシよりもワシを上手く操っておるではないかぁ♪
汝は「魔導適性」(-)じゃったが、「ワシ適性」Sじゃな。むしろ適性:ワシ? クフフフフー、照れるのぉ。あっ、でも、Sじゃからと言って、ワシは攻められるよりも攻める方が好きじゃぞ? 何せ狐“魔王”じゃし? じゃしぃ?」
――うぜぇ。
と後、
――ダウト。お前はMだろう。――閑話休題。
「ならば修平よ、その熱く滾ったワシへの想い、【狐火】の言の葉と共に解き放つのじゃ! そして、これぞまさしく夫婦の共同作業ッ!」
それならやぶさかではない。
修平は地面と水平に手をかざし、
【狐火】!
ドゥンッ!
もしも修平の前世の世界であれば、ここで、
一カメ:ドゥンッ!
二カメ:ドゥンッ!
三カメ:ドゥンッ!
四カメ:ドゥンッ!
ドゥウウウウウーーーーンッッッ!!!
と、効果的な演出がなされたハズであった。
「はわわわわわわ……」どこまで続くとも知れない森に風穴が開いていた。
「さっすがワシの旦那さまじゃ! しかも夫婦の共同作業! これくらいは出来なくては!」
カンラカンラと呵々大笑するココだったが、修平は、今しがた自分の手から打ち出された極大の狐火に「はわわわわ」が止まンない。
――えっ? 今、ココは俺の「魔導適性」とやらがないって言ってたよな? ココとの相性がバツグンなのは認めるが――えっ?
「ココ……、お前、俺に魔王の力を与えたのか?」
「いいや、違うぞ。旦那さまであれば好きなだけやって構わんとは思うとるが、残念ながら今のワシに魔王として胸を張れるような力はない。これはあれじゃな、あれ。やはり汝のワシを想う気持ちが強すぎて――」
「いやいやいやいや、それを否定するつもりはさらさらないけれど、それでこれは凄すぎじゃない? 元々のココの力ってのも知らないけれど……それだったら、ココの全盛期の力と比べるとどうなんだよ」
どうなんだYOー、ユー。
「ウム、遜色ない!」
「マジかー……、魔王の力かー」
一周回って魔王の力であることになった。
しかし――何故?
想いの力云々は絶対に違うとは言い切れないし、言い切ってしまいたくもない。出会ってまだ一週間ではあったが、彼女のことは愛していると言い切って良い。千年クラスの喪乙女である彼女も自分のことを愛してくれているとは信じている。
今までオタク趣味でなかった者が、歳を取ってから嵌ると一気にドボンするのと同じ原理であった。ソシャゲの課金沼に嵌ると言い代えても良い。
そう言い切るのは失礼――か?
しかし、どうやら二尾になったココの【二尾双魂】は、修平に使うと以前の魔王時代の力を引き出せるようである。
ただし、
「【狐火】以外は使えないかー、そっかー……」
「落ち込むでないわ」とココが頭を叩いてきた。しかし、痛いと言うよりは、甘い? ココは人差し指を立てて諭すように――KAWAII! 「確かに【狐火】しか使えはせぬがそもそも汝の「魔導適性」はなしであったが故。むしろ物凄いことじゃぞ。魔力すら扱えぬ適性であったのに、ワシと結ばれた途端にこの威力 ワシ、凄い! いやいや、凄いのは汝じゃ。――コホン。あれ、普通【狐火】では出せん威力じゃぞ?」
と、「ふむー」とココは思案をはじめた。
チク、タク♪ チク、タク♪
――時計はないけれど。
「もしかすると――」とココは前置きして、「汝のギフト「農地作成」が関係しておるやも知れぬな。普通、【二尾双魂】でワシの力を受け取っても、ここまでにはならぬ。それに、たとえ使えるほどに力が流れ込んでおったとはしても――その場合躰の方が耐えられぬ。そなた程度の気力と魔力、そして肉体では、木っ端微塵☆じゃ」
キラッとされるとイラッとした。
いくら狐美少女でも、右手のピースサインを横にして、その間から目を覗かせられれば――いや、やっぱ可愛い。
KAWAIIは正義であった。だがBBA無理スんな。
「力がそこまで流れ込んだのは、結婚契約によるものだとすれば納得がゆく。じゃが、ワシはそれほどまでの力が流れ込むのは抑えておった。せっかく婚いだと言うのに、すぐに未亡人にされてしまってはたまらんからのう。まだ子も産ませてもらっておらぬし?」
チラッと赤い顔で見られてドキッとした。
――ガンバリます。
「じゃから、ワシは汝のギフトに秘密があるのではないかと睨んだ。ワシはこんなナリにされてはしもうたが、腐っても「魔王」。“格”として人間側から引っ張られることはない筈なのじゃが――」とココは胡乱気な眼で修平を見やる。「ワシ、そなたに肥料にされたよな?」
ジトッとした眼は、たとえ結婚契約をして今ではお互い身も心も繋がった今となっても、あれ自体は許してはおらんぞと如実に告げていた。
そりゃあそうだろう、生きたまま畑の肥料へと強制分解される恐怖など、想像を絶した。
「――ハイ、その節はたいへんご迷惑をおかけいたしました」
「――ウム、一生を懸けて償ってもらおうと思っとる。子供は少なくとも九人以上で、ヨロシク」
「――ハイ、ガンバリます」
「言質取ったぞ」
BBAはキッチリしていた。
「で、じゃ」
仕切り直し。
「この一週間、ワシはそなたがギフトを使うところを戦々恐々として見ておった」
「……あ、ウン、お前絶対畑には近寄らなかったからな」
「おうよ!」
――力いっぱい。
「そこでもしやと思ったんじゃが――」
と、彼女は、
「ワシ、汝の「収穫物」にされてしまったんじゃないのかの?」
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