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スローライフを送りたかった転生者、狐嫁を「収穫」す  作者: 神月大和
第一章 ヘシ折られしスローライフの可能性
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4、狐魔王の眷属?

「――ふむ、貴様は〈転生者〉か。神の恩寵であるギフトを使えば――確かに、その程度の力量であろうとも、ワシを害することは可能であろう。じゃが、ロクに確かめもせずに女子(おなご)を肥料に変えようとは、汝、さいこぱすというやつか?」


「いいえ違います」


「違わんわ! どうせ狐美女を肥料にした野菜、うめー、とか悦る予定じゃったんじゃろ!」


「いいえ違います」


「口答えするでないわぁッ! ()(かく)、どうしてくれおるこの小ンまい躰ァッ! 汝には責任を取ってもらおうぞッ!」


「ハイゴメンナサイ!」


 修平は、草生える森の地面に正座させられていた。木々の梢を揺らす風が吹く。

 その前には、文字通り怒髪天を衝く狐美少女。あの美女の面影を残し――いや、今は愛らしさの方が先にくるが、あの美女に成長してもおかしくないと思わせる美少女であった。


 大きくてクリッとした瞳は瞳孔が縦に細まった金の魔性の(ひとみ)。美女のときのような妖艶さはないが、しかし、見詰めていればぞくりとさせられてしまう。端正な鼻筋、透き通るような肌の色、輪郭の線も柔らかくて艶めかしい。


 口角泡を飛ばす唇はピンク色。

 腰まで伸びた艶やかな金髪の頂には三角の狐耳をいただく。お尻からは一本の狐の尾だ。


「このッ! ワシの自慢の九本の尾も、いっ、一本になってしまいおってぇえ……ぅ……」



「すまん! 泣かないでくれ!」


「泣くかぁッ! まだまだワシの気は済まんぞッ! ようやく【勇者】どもにかけられた封印が解けて遊ぶのに良さそうな坊主を見つけたと思えば、むしろワシの方こそ弄ばれることにはなろうとは……、ワシとあろうものが一生の不覚……」


 ――それなら俺だけが責められるのは間違いなのでは?


 とは思うが、こうした手合いには、冒頭の反応くらいは許容範囲ではあろうとも、その類の口答えは火に油を注ぐどころかダイナマイトに点火するに等しい。

 拳を握りしめてぐぬぬぬぬする彼女は可愛らしい。


 しかし、


 ――服は着てくれないでしょうか?


 眼福であると同時に眼に毒だ。

 と、


 ひとしきり喚き散らして疲れたのか、ひとまず今しがたの溜飲を下げてくれたのか、彼女は肩でゼェハァと息を吐く。――素っ裸で。


「もういい、魔王たる者、過ぎたことをいつまでゆうてても埒が明かん。それに、の。どうやら汝はワシにメロメロなようでもあるからな。イイ女がぐちぐちゆうてもイカン」



 クフフフフ、


 といやらしい含み笑い。


「眼福じゃろう?」



 こいつ、ワザと見せてやがった。――痴女である。

 しかしどうせなら最初の美女の姿の方が良かった。まだまだ発展途上の少女の肉体は、たとえ将来を感じさせるものであろうが、――犯罪臭。


 まあ、チラチラと、顔を赤らめながらも堪能はさせていただいたけれど。

 それもひとまず矛を収める理由の一つにはなってくれたのか。


 しかし、ようやく発散してくれたとは言えすでに日も落ちかけた時間帯なのだから、イイ女(自称)とは片腹痛い。――イイところで痴女だ。だが、これだけの時間を費やしても、“魔王”時間にすればまだイイ女の許容範囲なのだろうか。


「――ああ、良いものを見せていただきありがとうございました」



「――ウム、素直なのは良いことじゃ」


 森の中、夕暮れの薄闇に美痴少女が発展途上の胸を張る。

 ――ムカつく!



「そこで、じゃ!」


 と彼女は裸の堂々として修平を指さした。



「貴様はワシの従僕と成るのじゃ。このようなイイ女の従僕など、汝にとっては感涙してしかるべきものじゃろう?」


 ンぅ? と、睨みつけるように。

 確かに感涙してしまいそうだ。――面倒事に巻き込まれて。


 ――スローライフを送りたかったのに。


 おずおずと、手を上げてみた。


「えっと……、それは平穏に暮らせる?」



「んぅ? 平穏ぅ? 平穏ときたか……、くふ、くふふふふふふ……」


 噛み殺すような笑いは、彼女はやはりまだまだ情緒不安定であるのかも知れない。



「それもいいかも知れぬのう」


「おぉ」


 と思うのは、むろん儚き願い。人の夢と書いて儚いと読む。


「――だが断る! ワシを傷物にしておいて平穏とはなんたる言い分! そこになおれい! 一刀の下に切り伏せてくれよう!」



【顕現・一尾一刀】!


 ずらり、


 と

 彼女が一本だけになった狐尻尾から刀を取り出した。


 美しい刀であった。

 白銀の輝きは月光すら切り裂いてしまえそう。それを大上段に振りかざす! ――素っ裸で!



「ままままま、待ってッ! わかった、わかったからッ!」


「何が待ってなのじゃ?」鬼気迫るすっぽんぽんの狐美少女。薄闇に、残酷な刃と美少女の裸身が白く輝く。その眼はZANNINである。「ワシの眷属になると言うことかの? ワシを傷物にしたセキニンとして、元の姿、輝く九尾を取り戻すまで、汝はワシに協力し、平穏な日々など許されぬ。そのこと、本当にわかっておるか?」


「………………」


「わかっとるかッ!」


「はははいッ!」


「よろしい」


 うむうむと彼女は頷く。なんという恐喝、脅迫。正座をしたままの修平は逆らえない。



「それでは汝をワシの眷属としよう」――口答えはいっさい許されなかった。


「『狐魔王ココがここに宣言する。我、汝――』、


 ――名前はなんと言うのじゃ?」


「えっ? 大森修平だけど……」


 それは駄洒落なのかと一瞬思っていた修平はポロリと答えてしまった。



「――ふむ、ちゃあんと、真名のようじゃな」


 ニンマリと、彼女は笑った。



「――へ? ――あ!」


 真名を握られるとは、つまりは今世に於ける『魂』を握られるも同じ。この異世界〈パンドラ〉のルールなど知る筈もないが、それはどうやらこちらでも同じであるらしい。

 彼女はニンマリと嗤ったまま、――魔力が吹き荒れだす。



 ざわざわと、


 ざざざざざ、


 と。

 木々が魔の風に揺られて葉々をざわつかせる。


 修平は正座で呆気に取られたまま。



「『狐魔王ココがここに宣言する。我、汝大森修平を我が眷属とし、その(たま)の尾を握らん。これより汝は従僕として、病めるときも富むときも、我に付き従い、その死が二人を分かつまで、この契約に違うことは許されぬ』」


「まるで結婚の宣言のようだな」


「けけ、『結婚』ンッ⁉ ――あ、」


 それは過剰反応し過ぎではないかと思ったが、彼女はお口をあんぐりと開けたまま、真っ赤な貌で固まった。



「ちち、違うッ! 今のは呪文ではないッ! ワシが使いたかったのは従属契約であって、結婚契約ではな  しまったぁあッ! すでに魔力は十分になっておるぅうッ!!」


 わたわたと、刀を持ったまま地団駄を踏むと――アブナイ。

 が、



 パァア、


 と、

 二人の躰が同時に光り出す。



「なぁあッ! 出会ったばかりの少年とッ⁉ しかも真名を掴んだうえで結婚を迫るって。ワシ、こんなんなっても魔王なのにッ! 絶対に誤解されるぅうッ!」


 そんな案件なのか。

 ――確かにエゲツねェな。


 しかし、発動しちまったもんはぁ仕方がねぇ。

 お互いの躰から発せられた光は互いに絡み合い、そして


結婚契約(エンゲージ)】は結ばれた。



「――ふは、ふははははは……、ワシ、マジで? マジで【結婚契約(エンゲージ)】結んでしもうたのか? こんな形で? ずっと、『運命の相手』に出会えるのを、千年以上楽しみにしておったのに?」


 ――マジか、すげぇ年代物の喪乙女だ。



「ふ、ふふふふふふ……」


 彼女は膝を抱えて座り込み、いじいじと土を弄りはじめた。――素っ裸で。

 狐耳も狐尻尾もへにょんと垂れ、



「ふふふ、笑いたければ笑えばエエのじゃ。【勇者】どもとの熾烈な戦闘に敗れて封印され、ようやく封印が解けたと思えば肥料にされかけたじゃろ? ――いや、されたのう。したらこんなチンチクリンじゃろ? 傷物じゃ、傷物。その上眷属を作ろうとすれば、【結婚契約(エンゲージ)】など結んでしまい? 確かにセキニンはとってもらえておるが……(のう)?」


 どよんとした彼女の眼を見ることは出来ない。



「あ、あの……気にするなよ。【結婚契約(エンゲージ)】ってのが何なのかはわからないけど、結婚契約なんだろ? 制約とか、そんなのとかあったりするのか……?」


「ものによってはあるが――今回のものはただ近くにいて裏切るな、という程度のものじゃ。浮気すればもげるみたいな制約はかかっとらん」


 ――しようと思えば出来るのか……。

 ――ぶるるッ!



「な、なら、別に……、そ、それに契約解除ってのも……」


「――ワシ、×イチになるのかの? この契約、今世を生きている限りは痕跡、残るのじゃよ? それにワカルやつにはワカル。神とか、魔王とか……」


 ――重い!


「汝も災難じゃのう、このような、もう腐りかけておるような狐女と【結婚契約(エンゲージ)】してしまいおって。……良いぞ。もう一度ワシを肥料にしてくりゃれ? そうすれば、ワシも望んでおれば、ちゃあんと消滅できるかも知れぬ。……ふふ、ふふふふふふふ……」



 ――はわわわわわわ、はわわわわわわ……。


 もはや修平は何も言えない。――いや、言わなくてはならないのである!


「えっと……、俺は、別に君と結婚するのは嫌じゃないけど……」



「なん、……じゃ、と……?」


 そんな喰いつき方ッ⁉

 と、修平はいったん眼を剥いてしまうものの、「ああ、本当だ。――まあ、滅茶苦茶やってしまったセキニンを取らなくっちゃいけない、ってのは、本当のことではあるし……」



「その通りじゃな」


「うっ……」


 ジト眼が目に沁みた。



「で、でも、そっちこそ、俺と結婚なんて迷惑だろうし……」


「まったくじゃの。そんな、何処にでもいそうでいていなさそうな顔で」


 ――グサッ。



「見る限り鍛えておるわけでも、頭が良さそうにも見えぬ」


 グサグサッ!



「しかも、女の死体を隠蔽するために肥料にしようとするさいこぱすじゃ」


「………………」


 ――違う……とは言いたいが、修平のライフはゼロに近い。



「でも、の」


 ――お?



「このような姿となったワシにも欲情するようなヘンタイじゃ」


 どぉふッ!

 破城鎚(バリスタ)で風穴を開けられる場面を幻視した。


 もはや修平のライフは風前の灯火……。

 が、彼女は笑っていて、くすぐったそうな(かんばせ)で。


「何を凹んでおる、それは褒め言葉じゃぞ? ワシのことに興味を持たぬ男などこちらから願い下げじゃ。ホレ、立ちおれ」


 と彼は彼女に手を引かれて立たされた。

 十五歳の姿に転生した黒髪黒目、中肉中背、そして一応美少年一歩手前ではあったが、やはり何処にでもいそうでいていなさそうな顔。その彼と、絶世の美女へと成長することが約束(不定)されている金髪金目、狐耳狐尻尾の美少女 (すっぽんぽん)――は誰も知らない森の中、立った二人だけで見つめ合った。


 さわわ、と風が吹く。


「まさか汝のようなのを旦那にするとは思わなんだ。冴えないが、ワシを受け入れてくれようとしたことには好感が持てる。じゃから――これからよ」



「――へ?」


 ニヤリと覗かせた犬歯、可愛らしい顔なのにその不敵、不穏さにはイヤな予感がしてしまう。



「はじめっからこうしておれば良かったのじゃ。イイ女の条件として、内助の功と()うものがある。旦那が冴えなければ、みっちりと教育して、冴えた旦那へと育てれば良いのじゃとな」


 彼女は――刀を持ったままだ。肩に担いで。



「はわわわわわわ、はわわわわわわ……」


「ワシを肥料にしたセキニン、キッチリ取ってもらおうぞ!」



「幾久しく」――ちゅ


 と、修平は柔らかいものを感じた。



「もちっと嬉しそうにせい。なんじゃ、その狸が殴られたような顔をして」


 拗ねたような彼女の声と紅い顔。



「ああ――ありがとう」


 修平は噛みしめるように頷く。



「くふふ、どういたしまして、じゃ」


 悪戯が成功した少女のように笑うココ――だったが、彼女はそのまま修平の両腕をガッシと掴むと顔を近づけた。刀が落ちてざくりと大地に刺さる。


 ココは修平のことをさいこぱすとは言うが、それならココだって十分エキセントリックだ。しかし、狐耳、狐尻尾、金髪金目の縦に窄まった瞳孔の彼女に顔を近づけられ、美少女のアップに修平はドギマギとしてしまう。


 精神も、十五歳の肉体に引きずられているよう。

 それは――彼女も?



「では(くな)ぐぞ修平」


「はへ?」


「また狸が殴られたような顔をしておるぞ?」


 また言った。

 彼女はそんなにも狸を殴りたいのか。


 だがそれどころではない。



(さて)、ワシははじめてじゃが、汝も見たところはじめてじゃろう。はじめてじゃなかったら拗ねるぞ、旦那さまよ」


「は……へ……? え……、まあ、俺もはじめてだけど……ここ、外だぞ?」


「構わぬ。ワシは魔王じゃが狐じゃ。外こそおんすてーじ、じゃ」


「いやいやいやいや」


 抵抗する修平。だが、流されスキルに卓越する彼はそのまま――、

 しかし、年季の入った純潔の彼女だったから、内助の功でなく、


 ――いっしょに勉強した――。



 →大森修平は狐魔王のココと【結婚契約(エンゲージ)】を結んだ。

  結婚契約(エンゲージ):ココ

  称号:〈魔王と婚ぎし者〉


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