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スローライフを送りたかった転生者、狐嫁を「収穫」す  作者: 神月大和
第一章 ヘシ折られしスローライフの可能性
3/8

3、狐魔王のココ

 修平の膝が笑っていた。


 何か面白いことがあったワケではなかった。


 そんなときには、躊躇いもなく、人目も憚らず大笑いしていた。

 だってここには人目がないのだもの。


 ――ウン、()()()()は、瞳には数えない。



「は、はわわわわわわ、はわわわわわわ……」


 彼はガクガクと膝を震わせ、蒼褪めた顔で脂汗を滲ませていた。

 見下ろす足元には、


 ――一糸まとわぬ美女が埋まっていた。



 絶世の美女であった。今にもぱっちりと目を開けて、坊や、何を見ているの? と艶然と微笑みかけてきそうなほどには瑞々しい。

 上品な顔立ちで、これほどの美女は芸能人にもいないだろう。


 まるで人形のように整った一つ一つのパーツ。閉じられた瞳の睫毛は長く、白い肌に雪山の稜線のような鼻梁。生きていれば思わず頬ずりしたくなるだろうすべやかな頬に、紅色の魅惑的な唇。その顔が、修平がスキルで作った畑から、まるで芽を出した作物のように突き出ていた。


 金の、髪が覗いていた。

 そして、剥き出しの白く豊満な乳房が、にょっきりと土を押し上げるようにして現れ、ツルリとゆで卵のような肩、なめらかな腕の一部、膝、足先。


 本当に、まるで土の中から生えてきたかのような、或いはヤっちまって埋めたモノが土の中から出て来ちゃったかのような。


 そんな美女であった。



 裸の魅惑的な美女であったが、このような状態で生きている筈もない。

 ギフト「農地作成」には、美少女の種なんてものはなかった。あったのは、


 ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ。

 これが美女のカタチをしたニンジンであるワケがない!



「きっと畑にした地面の下に埋まってたんだよな……。どうしよう……」


 ――よし、埋めよう!

 即断であった。



「なんまんだぶ、なんまんだぶ……」


 異世界で仏教の念仏がいかほどに効果があるものなのかは知らないが、何も唱えずにはいられない。そしてスコップやシャベルのような文明の利器をロリ女神はサービスしてくれなかったから、畑にした柔らかい土を手で掬って被せてやる。


 先に、その白い膨らみから。死体とは言え彼女は絶世の美女であった。アブノーマルな趣味はなかったが、眼には毒だった。



「うぅう、は、はやく埋めないと……」


 修平はテンパっていた。何せ死体など見るのもはじめてだった。

 自分も元死体(けいけんしゃ)ではあったが。


 しかし震える手では一向に作業は進まない。そのうちに、



「…………ってか、この娘、肥料にすればイッパツなんじゃ……」


 彼は禁断の発想へと至る。



「ギフト「農地作成」起動」



 肥料を使いますか?

 対象「『鑑定不能』」

 →YES



 YESが選べた!


 尤も、美女を肥料にして採れた作物など口に出来る筈もなかったが。



「森へお帰りー」


 テンパりきった彼はそんなことまで口にしていた。



 バチバチ、バチバチ。


 美女を肥料にしようとすれば、放電がはじまった。

 まるで何かを召喚するかのような、或いは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。



「う、うわ……、肥料にするってすごいエネルギーなんだ……」


 それはあながち間違いではなかった。何故ならば、その彼女はそれほどの『存在力』を誇っていたのだから。やがて、



「ン、んむ……」


「え……?」


 閉じられていた筈の美女の瞳がむずがるように。

 パッチリと、目が開いた。金髪美女は瞳も金であった。見ているだけで引き込まれてしまいそうな、魔性の瞳。

 瞳孔が縦に引き締まっているそれと、修平の視線が絡んだ。



 どくり


 と、心臓が跳ねた。

 それは罪の意識ではなかった。修平は、彼女のその魔性の瞳に惹き込まれていた。



 ニィ、


 と、彼女は口角を吊り上げた。鋭い犬歯が覗く。

 ――土に埋まったままで。


 バチバチと、ギフト「農地作成」に許可された肥料変換機能が進んでいた。


 途端、



「んぬぉわぁあああッ!」


 美女が咆哮した。



「なんじゃぁあッ! なんじゃこれは、わ、ワシ、分解されはじめとるではないかぁあッ! 貴様ッ! 小僧ッ! これは汝の仕業かぁあッ!」喚き立てる彼女は睨んできた。


 しかしもがくだけでなかなか土から現れては来られない。



「は、はわわわわ、はわわわわ……」修平ははわわわわ。



「これは、ワシを狐魔王ココと知っての狼藉かァッ!


 ミズホ国にワシ在りと言われた、金毛白面九尾の、傾国の、


 ぬんぎゃああああッ!


 何故じゃあッ! どうして人の子の術程度で魔王たるワシが……、ってぇ! これは、あのスイーツお花畑女の……、


 ぬぐぉああああッ!


 止めよ! すぐに止めよッ! よかろうッ! 汝が求めるものならばなんでもやろう! 金銀財宝、富、名誉、不老不死ィいッ! ぬぉおッ! よいぞ、純潔を守り続けてきたワシのこの躰でも一向に構わんッ!


 じゃから、じゃから、これを、止め……」



 まるで蘇ったゾンビーのように、傾国の美女はやっとの思いで土から起き上がり、バチバチいう肥料変換の火花の中でその絶世の裸体を曝け出した。見ているだけで、男の子であればビクビクと震えてしまうような悩ましく豊満な肢体。それが青白い火花に照らされて、隅々まで丸見えとなっていた。


 頭の金の狐耳も、そしてお尻から伸びた九本の狐尻尾も。



「は、はわわわわ、はわわわわわわ……」修平は、やはりはわわわわ。


 しかし、切れ長の瞳を吊り上げ、牙をむいて慟哭する狐美女のなんたるスサマジサか。

 てっきり彼女を死体だと思って肥料変換にゴーサインを出した修平であったが、ただただ慌てふためくだけで何も出来やしない。


 そもそも、肥料変換のコマンドにキャンセルはなかったのだけれども。

 そして強引な解除の方法は、彼女が肥料にされてしまう前にその畑から連れ出すことだったのだけれども。



「貴様ッ、貴様がしようとしていることは、か……」



 バチィイイイッ!


 閃光が爆ぜた。

 途端、辺りは森閑として静まり返る。


 迸っていた火花も美女の咆哮も。


 何もかもが静まり返って、実は生きていた美女の姿もなく、ただただ彼女を肥料に使った一坪の畑だけが残されていた。

 そして、呆然とする修平の前で、その畑から芽が伸び始めたのである。



 もこり、


 もこり、


 と土を持ち上げて、芽は伸び、葉を伸ばし、茎を太くし、幹と成り。

 それは、ちょうど、その幹に、転生した修平と同年代くらいの子供が入っていられるような、そんな太さの木となった。――モノスゴイ成長速度だ。そして、



 パァアアア……、


 木は光り輝き、



「ぅえ……?」


 輝いた木は開き、中からは一糸まとわぬ、輝く裸身の美少女が――。

 修平と同年代の、見たこともないほどの美少女ではあったが、その彼女の頭には、金の可愛らしい狐耳、そしてぷりんとしたお尻からは一本のふさふさとした狐の尻尾。



「もしかして……」


 もしかしなくとも……。



「あっ、危ないッ!」


 輝きも、彼女を収めていた木も消えて、倒れそうになる彼女を彼は咄嗟に抱きとめた。だが、そのまま押し倒されるようにして尻もちをついてしまう。



「ン……、むぉ……、あ……」


 美少女の瞳がむずがるように。

 現れてきたのは瞳孔が縦に細まった金の魔性の瞳。



「く、ぅうううう……、酷い目にあったわ……。じゃが、消滅しておらぬということは、ひとまず助かったということじゃな。あンの小僧、狐魔王たるワシに……」


 と、そこで彼女は気がついたらしい。

 今、自分がその小僧に圧し掛かっておるということに。



「こッ、小僧ぅッ! 汝ッ、貴様ぁあああッ!」


 激情のままに拳を振り上げた。



「うぉわぁあああッ! ごめんッ! 本当にごめんなさいッ! まさか生きていただなんてッ!」


「ごめんで済むならば断罪の剣は振り降ろされんわぁッ! 今ここで、ワシじきじきに、ワシ、じきじきに……」


 そこでようやく彼女は気がついたらしい。

 パリクリと、可愛らしいお目目で瞬いた。


 文字通り彼を断罪しようとして振り上げた拳を、人間の少年、しかも見るからに戦闘訓練も受けておらずになよっちく、気力も魔力も練られていない様子なのに、彼は彼女の手首を掴み、殴られないようにと必死に耐えていた。


 ぷるぷると、二人の腕が震える。

 しかし、そんなもんで耐えられるような拳ではないのに。


 彼女は訝しがり、



「ふぁ……? ワシ、小っちゃくなっとるッ⁉」


「あ、ああ、小っちゃくなってる。だけどお願いだからまずは服を着てくれッ!」


「貴様、他人事のようにぃッ! 元はと言えば貴様の所為じゃろうがぁあッ!」


 吠え声を上げる素っ裸の狐美少女に、彼女に馬乗りになられたまま必死で殴られないようその手首を捕まえ続ける修平。


 さやさやと、森の葉々が風に囁くように揺れる。




 →大森修平は、〈魔を討つ者〉〈 殺し〉〈 を収穫した者〉の称号を手に入れた。

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