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スローライフを送りたかった転生者、狐嫁を「収穫」す  作者: 神月大和
第一章 ヘシ折られしスローライフの可能性
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2、へし折られしスローライフルート

 真っ白に迸った閃光が消えた後、大森修平は何処とも知れない森の中で独り佇んでいた。



「おっ、ぉおっ?」


 奇妙な声をあげた。腕を振り、グーパーして、ヒップ、ホップ、ステップ。



「ぉおおおッ! 十五歳の躰って、こんなにも軽かったのか!」


 未成熟な感じは否めない。しかし、ブラック社畜として洗練されていた生前の躰と比べれば、躰は文字通り羽のように軽いしいくらでも詰め込めそうな気もしてしまう。

 しかし、ここはあの真っ白な箱部屋とは違って森の中であった。


 誰かが通るかも知れない。

 ――自重せねばなるまい。


 しかし、今の彼には自分で見ることは出来なかったが、黒髪黒目の少年。生前の彼の容姿は伏せておくこととして、今の容姿は若干だけ美少年に入った。


 だが美少年とは言い切り難い。


 神さま的なぱぅわぁーによって十五歳の肉体にまで成長させられたようだったが、ハッキリと言って可もなく不可もなく。それこそ、ゲームスタート時に与えられるプレーンなキャラクター。中肉中背で、たるんでも筋肉質でもない。まるでここから好きに自分の肉体をカスタマイズしろとでも言っているかのようであった(物理的に)。


 しかしこの状況、何処とも知れぬ森の只中に放られて、すぐに物理的に肉体をカスタマイズ出来る筈もなく――そしてポケットを見たが貨幣もない。


 ロリ女神さまは、ここは基本剣と魔法の世界で、神と魔王の遊技場とか、神々が見て愉しむ駒だとか、不穏なことも言っていた。それならば魔物などもいるだろう。――魔族とか? 魔王がいるからにはそう思えてしまう。


 ザ・ハード・モード。

 ――らしい。



「ま、ギフトをもらえただけでもマシと思わなくっちゃな」


 人間辛い環境でも、何か一つ支えがあれば頑張れるものである。そしてへこたれない精神が修平のウリであった。だからこそ耐えなくていいものを耐え凌ぎ続けてブラック社畜の地位を確固たるものにしたのでもあったけれど。



「それじゃあさっそく使ってみよう」


 ギフト「農地作成」。



「だけどいったいどうやって使うんだ? ステータスオープン?」


 疑問形だ。

 反応はない。ただの奇態のようだ。



「ステータスオープン!」


 自信を持って叫んだ。

 しかし何も起こらない。効果はないらしい。



「すぅうてぇえたぁあす・おぉおぅぷぅうんぅう……」


 呪文っぽく唱えてみた。

 だが何も起こらない。可哀想な人らしい。


 それから、発音を変えたり、



「ステータス、君に決めたッ!」


「ステータス、お前もか……」


「すんぐるい すてたぐるなふ すてぇたす ぱんどら すてがふなぐる すてたす」



 名状しがたき呪文を改変しても、何処かの奇妙な漫画のようなポーズで叫んだところで、何も起こりはしない。――そろそろ誰か止めなくてはならない。


 だが誰もいない。

 目撃者がいないことは良いことだったが、(これ)(すなわ)ちツッコミ不在の恐怖と言った。



「考え付く限りのことを試してみたけれど、どうやらステータスは開けないらしい。存在しないのか、それとも開ける場所や条件が限られているのか……ふむ」


 思案をはじめた。同一人物とは思えない様子であった。



「「農地作成」よりも「鑑定」とかの方が良かったのかなぁ……。もしもあればだけど……。まあ過ぎたことは仕方がない。それじゃあー……「農地作成」!」


 叫んでみた。

 しかし何も起こらない。



「………………」


 そこで今度は目を瞑り、頭の中で念じてみることとした。


 ギフト「農地作成」。



『農地を作成する範囲を指定してください』



「おぉ! そうか、いいものだな。これが……成功(かち)か」


 修平は噛み締めるように呟く。良かった、奇態に進まないで。――いや、手遅れか?



「えーっと、範囲指定……」


 色々と試してみた。



「ふむふむ……げっ、マジかよ、最初は一坪分しか指定できないのか。農地範囲、指定……って、これ一回作ったらそのまま固定とかじゃないよな? あっ、解除出来るのか……」


 ホッと胸を撫で下ろす。一度畑にしてみて解除すれば、そのままの状態で残された。森の中に一坪、奇妙に畑であった。



「おぉッ!? マジか。ってことは、これを地道に繰り返せば、指定範囲は一坪しかなくても、畑は作り放題……バグなんじゃね? ――いや、チートか……。


「あ、でも、木や岩があるところには出来ない……。これはレベルを上げれば退かせるようになったりするのか? レベル表記とか見れないけれど……。


「――で? 一度畑を作って、植えられるものは……、少なっ! ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ……、あの娘、カレー好きなのか? それか、カレーしか作れないとか……それっぽい。でもまあ、ジャガイモがあると助かるな。だがしかし、調理器具がねぇ!


「………………。ま、まあ、木の枝に刺して焼くとか……、とりあえず作ってみるか? ジャガイモを指定して――肥料を使いますか? いや、なんも持ってないぞ? 『なし』と。これでよろしいですか? →『はい』。



「おっ、おぉおおお……、オラの畑にジャガイモが……。収穫は何時ほどに?」


 修平がワクワクしながらそれを曇りなき眼で見定めようとすれば、



「――は?」


 なんと、どうしたことでしょう、

 芽が出て、伸びて、葉が広がって花が咲いて。全体が黄色くなって、



 ポコン、


 と。

 ジャガイモはさっさと出来上がってしまったではないですか。


 そして修平の頭の中のウィンドウの中に、



 ジャガイモ×3


 畑が消えた。「農地作成」で作った畑は作物を作ると元の土地に戻ってしまうらしい。しかも元の下生えは残したままで。


 ………………。


 ――いや、確かに農業系。農業系のスキルだよ? でも、スローライフと違うくないか? 農業スローライフって、作物の成長を楽しみにして、それで失敗したり学んだり、何かわからない種を見つけてきて植えて、それがアルラウネの女の子になったりしてワキャワキャしたりするもんじゃなかったのか?


 そんなことを考えたって仕方がない。

 だって、男の子だもの。


 しかし、



 ――手に入れるギフト、間違えたかなぁ……。チートは嬉しいけど、チートすぎると楽しみが……。


 それでも、



 ――まあ、まずは食糧が手に入ることを喜ぶべきだよなぁ。もうちょっと作っておくか。


 そう納得して、修平は食糧確保のために畑を作り、作物を収穫して。



 そのうちに、畑の一つを作ったときに、

 眠れる魔王を掘り当てるのであった――。

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