王都へ行こう! その1
ガタガタと揺れながら馬車は進む。
お城へ行くので普段の荷馬車とは違って、屋根付きで座席がふかふかの馬車をレンタルしている。
向かい合わせで座る四人乗りの車内には私とお師匠様、それからアリアとクラブが居る。
「あー快適。我が家も普段からこの馬車を使うべきよね」
「姉さん。維持費と使用頻度を考えたらいつもの方が安上がりなんだよ」
「うぅ、貧乏貴族……」
領地内の開発にお金をかけて自分達は節約。
軽んじられないように見栄を張るためのレンタル馬車で我慢しよう!っていう方針が既に貧乏くさい。
「わたしからしたら馬車に乗るだけでお金持ちですよ」
そう言うのはアリア。
故郷の町にも馬はいたけど、主に運ぶのは人じゃなく荷物らしい。
「馬車に乗るのは行商人か貴族くらいだからね。普通は他所の土地に移動しないから。姉さん達の旅はどうやって移動してたの?」
「私達の旅は基本は歩きだったわね」
山越え、森越えの険しいルートもあった。
二人だけならお師匠様の大っきいワンちゃんに乗れたし、身体強化と風魔法を使えば幅の狭い川なんてひとっ飛び出来た。
「でも偶には商人のキャラバンに参加して護衛をする代わりに乗せてもらったりしたわね」
「お姉様が盗賊相手に戦い慣れていた理由が垣間見えます…」
夜になると襲おうと近づくけど、エカテリーナの熱感知とワンちゃんの嗅覚があれば夜襲にも対抗出来るから楽だった。
捕まえた盗賊の数に応じてキャラバンから報奨金も出たしね。
「盗賊を放置すると後から通る人が迷惑するからね。アジトごと潰すのよ」
「発想が物騒だよ姉さん」
悪は根元から断つべし!ってね。
「お城に行く前に別の場所に寄るんですよね?」
「えぇ。私やお師匠様がお世話になった商会にね。護衛していたキャラバンもその商会がメインでやっていたのよ」
本店を王都に構えていて、商会長がいる筈だから会いに行く。
そこでお金貰って馬車買う?
……馬車買っても馬と御者がいないわね。
それにやっぱ屋敷に持ち帰っても置き場所が無い。野晒しだとすぐに壊れそう。あと、手入れ出来そうな人が……大人しく諦めよう。
「アリアとクラブは先にお城で待っていていいわよ」
「僕はそれで構わないけど、アリアさんは?」
「わたしはお姉様と一緒がいいです。王都には初めて行くので街中を見てみたいです!」
「お師匠様も商会に行きますよね?」
私の隣に座ってここまで全然口を開いていないお師匠様にどうするか聞く。
「…………別にどちらでもいい」
窓の外を見て、不機嫌そうに言った。
拗ねてらっしゃるわ。
「まだ昨日の事で怒ってるんですか?」
「……怒ってなどいない」
視線をこちらに合わせてくれない。
怒ってるじゃん。超機嫌が悪いじゃん。
私が頼んだ事とはいえ、お師匠様があんなにノリノリでリーフと遊んでくれているとは思わなくてロリコン呼ばわりしてしまった。
囚われの姫を拷問する悪い魔法使いなんておままごとしてるなんて予想できないでしょ?
私の影響?……ナンノコトカナ〜。
「一応、謝ったじゃないですか〜。あれでチャラになりませんか?」
「ならない」
「うっす…」
即答でした。
どうしたら機嫌直してくれるのかしら?
「もう、私に出来る事ならなんでもしますから許してください」
「……クラブ、アリア君。今の発言を聞いたな」
投げやりに私が発言すると、バッ!と急にこちらを向いた。
え、え?
「聞きました。迂闊だよ姉さん」
「なんでも……お姉様になんでも……」
約1名が脳内トリップしているけど、クラブはこめかみを抑えている。
あー、失言だったよコレ。
「お師匠様。なんでもっていうのは言葉のあやで、その後の許してくださいって言うのが伝えたい事なんですよ?」
「分かっている。許してやろうじゃないか。なんでもすると言ってくれたのだから」
ゆ、許されてない!
許したと言ってるだけで、私に何かさせるつもりだ!!
体力尽きるまでマラソン?召喚獣のワンちゃんと鬼ごっこ?
それとも属性限定でお師匠様との決闘!?
蘇る思い出。
修行という名前の地獄の日々があった。
お師匠様は今より人の心が無くて、まだ自分が世の中の基準だと考えていた頃の無茶ぶり。
学園都市でお師匠様の授業が厳しいとか言ってた人がいたけど、かなりマイルドになっているからね!?
私を実験台にして改善したのよアレで。
「一体、何をさせるつもりですか!?」
「え、お姉様にナニを?」
水魔法発動。
頭がまだ桃色のピンク髪の顔に水球をお見舞いする、
クラブの風魔法によるアシストで車内に水は溢れずにアリアだけ濡れる。
今は私服だけど、お城についたら学園都市の制服に着替えるからそれまで頭冷やしてなさい。
「シルヴィア。そのまま前を向いて座っていなさい。何があっても動くな」
背筋を伸ばしてピシッ!と座る私にお師匠様が倒れ込んで来た。
そしてそのまま頭を横にして膝に乗る。
「王都に行くために仕事を急いで……眠気が…」
膝枕状態でポロリと弱音を漏らすお師匠様。
そういえば、一昨日までは栄養剤を自作して仕事していたものね。
夜も遅くまでやってて、先に私が寝てベッドに運ばれていた事もあったっけ?
「……着いたら起こしてくれ…」
そう言い残してお師匠様は目を瞑った。
少しもしないうちに寝息が聞こえて来た。
「機嫌が悪かったのは姉さんのせいだけじゃ無かったんだね」
「もー、最初から言ってくれれば良かったのに」
こんな風に何かの対価じゃなくても喜んでしてあげたのにね。
それにしても膝枕を御所望とはバレンタインの時に気に入ったな?
ゆっくりと優しくお師匠様の髪を撫でる。
すやすや眠る横顔はあと数年で30才になる人とは思えない。まるで小さな子供だ。
でも、きっとそれは子供の頃に誰かに気を許して甘える事が出来なかったから。こうして幼児退行しているんだろうと思うわ。
「姉さん笑ってる。幸せそうだね」
「そうでもないわよ。膝が痺れたらどうしようか困ってるわ」
「魔法を使えばどうにでも出来るんじゃないの?」
「さぁ、どうかしら?」
いじわるな言い方をしてくる弟にとぼけてみせて笑い合う。
王都に着くまであと数時間。
それまでは我慢してあげますからちゃんと癒されてくださいねお師匠様?
「さ、寒い……風邪引きます。温めてお姉様….」
「光魔法で乾かしなさいよね」
「言葉まで冷たい!?」