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一方その頃、お城では。

 

「最近調子が悪いみたいだね」

「……なんだエースか」


 学園が長期休みに入り、俺達は城に戻ってきた。

 休みだからといってのんびりと出来るはずもなく、王族としての公務や貴族達との交流に多くの時間を割いていた。

 そんな中、ジャックの様子が変だとメイド達から報告があがったので様子を伺いに来た。

 部屋に入って当の本人を見ると、なるほどね。


「調子は……まぁまぁだな」


 随分とぼっーとしている弟がいた。

 普段の自信と活力に溢れた姿は何処へやら。髪の毛に寝癖が残っているレベルだ。

 今日は来客の予定が入っていないが、この状態で人様の前に出られると王家の威信に関わりそうだね。


「休みだからといって怠けている暇は無いよ?」

「休息も必要だろう。今はその時だ」


 少し煽ってみるけど、いつもなら噛みついてくる筈なのに反応が薄い。

 なら、これでどうだ。


「失恋して傷心中かい?」

「……………」


 無言で、されど不機嫌そうな目でこちらを睨むジャック。

 そうそう。この反応じゃなくっちゃね。


「学園に居た頃は気にして無かったじゃないか?」

「JOKERの事件についての対応で忙しかったからな。そんな余裕は無かった」


 トムリドル・J・ドラゴンが中心となって巻き起こされた舞踏会での戦い。

 その渦中には学園の人間だけではなくシザース侯爵まで関わっていた。

 一方的ではあったが、幼い頃から面識のあるシザース侯爵家は取り潰し。娘のベヨネッタは国外追放になった。

 何の私財も持たずに貴族の箱入り娘が国外で生きていけるとは思っていないので、実質的には死刑に近い。

 とはいえ同情の余地は無い。


 余波は貴族社会全体に広がり、また闇の神が復活して国が滅びるのでは?と心配する人が多い。

 王家はその不安の払拭と、シザース侯爵以外に連中のパトロンになった貴族がいないかの調査に忙しい。


「それで、ひと段落して城に戻って気が抜けたのかい?」

「あぁ、そんなところだ。エースは平気そうだが落ち込んだりしないのか?」

「そんな暇は無い。こういうのは切り替えが大事だ」


 俺とジャックには決定的な差がある。

 それは、あの夜に屋上での戦いに参加したかどうかだ。

 薬を盛られ、捕まった人達を解放する為にジャックは剣を振るって舞踏会の会場内で戦っていた。

 一方の俺はシルヴィアやアリアと共にマーリン先生の救助へ向かい、JOKERを倒した。

 光の巫女であるアリアと聖剣の力でどうにか倒せたが、かなり危なかった。


 そして、奇跡が起きた。


 致命傷だったマーリン先生を助ける為にエリクサーを作り、シルヴィアのキスで息を吹き返した。

 まるで御伽話のようなその光景に俺は目を奪われ、そして諦めた。

 もうこの二人を引き離すのは神すらも不可能だと。

 それ程までに運命的な二人の光景だった。


 操られたジャックを助ける為にシルヴィアに協力して貰ったし、色々と心配された事もある。

 だがしかし、あそこまで彼女が泣きながら助かるようにと祈りを捧げた事は無い。

 あれはきっと特別な感情だろう。


「傷心していないといえば嘘だが、立ち止まる暇は無い。我が国は混乱の渦中にいる。それを治める事こそが俺のやるべき事だ」

「エースは強いな。オレはこうして未練に囚われているのに」


 ジャックが撫でるのは、卓上に飾られたイヤリング。

 これを用意し、渡すまでにどれだけの想いが込められていたのか、これを返された時のジャックの心はどれだけ傷ついたか。

 推し量る事は出来てもそれはジャックだけの気持ちだ。


 同じ女性に初恋をし、拗らせて戦ってきた双子の兄弟は共倒れした。


「傷つくのは悪い事じゃないさ。ただ、そこからどうやって自分を磨き上げて強くなるか。それが一番大事だと俺は思うよ」

「磨き上げる……」


 宝石は最初から綺麗な形で光るわけではない。

 剣だってただの鉄の塊だ。

 それを叩いて、磨いて、形を整える。

 そうやって初めて価値のある物へ変わる。


「その為にお見合いだって始めるつもりさ」

「やっぱりそうなるよな」


 俺達二人にとっての一番の問題。

 それは今更になっての花嫁探しだ。


 シルヴィアに執着して婚約者にしようと競っていたからさぁ、大変。

 一からのスタートになってしまった。

 古今東西、あちこちから自分の娘達を売り込む為の手紙が届く始末だ。


「シルヴィア以上にいい女って見つかるのか?」

「さぁね」


 ただ、ジャック。

 君は気づいていないだけで身近にお似合いの相手はいると思うよ。


 一緒に婚約者選びについて悩む事で、少しはジャックの気力も湧いてきた。

 好きな女性について色々と話していると、まるで王族じゃなくてただの男子学生の世間話みたいだ。


 今はまだ、このぬるま湯に浸かっていてもいいだろう。

 俺だって諦める事は出来ても忘れる事は出来ないのだから。


 近々、シルヴィア達が城へやって来る。

 その時に笑って出迎えるように。











「おいエース。貴様の選んだお見合いの写真、吊り目だったり性格がキツそうな相手が多いのはなんでだ?」

「ジャックこそ。さっきから見てるその令嬢がシルヴィアに似ているんじゃないか?」




 …………………………………。




「「ちょっと修練場に行こうか」」






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― 新着の感想 ―
[一言] 未練たらたら
[一言] まぁ…引きずりますわな(笑) ダメ聖女がおるやん。ダメ聖女がww
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