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81話 最終決戦。vs JOKERですわ!

 

 どこを探せばいいのか悩んでいたら、意外と近くだった事に驚いた。

 学園都市の中央部にある校舎棟。その屋上部分にお師匠様は囚われていた。

 学園都市内に存在する建造物の中で最も古くて大きな建物。

 都市全体を見渡せるこの場は絶好の儀式スポットになりえるわけだ。


「この上よ!」

「建物内を走る時間は無さそうだね」


 エレベーターなんて無いから階段を駆け上がらないといけない。

 ただ、エカテリーナから焦りを感じる。お師匠様がいよいよヤバいみたい。


「禍々しい魔力が見えますよお姉様」

「今からそこに突撃よ」


 迂回路は無さげ。最速で最短で真っ直ぐに一直線に目的地に向かうにはどうするか。


「何かいい方法ない?」

「空でも飛べれば……」


 空を飛ぶ魔法なんて湯水のような魔力が必要だし、空中での軌道変化は困難で、それを使いこなせそうなのは理事長ぐらいじゃないかしら?

 ただ、空から行くのは名案ね。罠の心配も無いし、敵の虚を衝く事が出来るわ。

 今ある手札でそれを可能にするのは…………!


「ねぇ、二人とも。私良い事思いついたわ」















「あははは!やり過ぎた!」


 私が取った方法はいたって簡単。

 魔力障壁を展開した状態でアリアのユニコーンに蹴り上げてもらう。

 馬の脚力は凄まじいし、幻獣クラスのユニコーンともなれば木を蹴り倒す事も可能。

 その勢いで宙に浮いて、第二段階。自分で出した魔力障壁に向かって火魔法の最上位に存在する爆裂魔法を叩きつけ、その爆風で更なる高度を目指す!


 風魔法や真っ当な手段で空を飛ぶと常時魔力を消費するけど、これなら一回分で済むよ。なお、爆風で髪は焦げるし、ドレスも破けてちょっとセクシーな感じに大変身。

 あと、建物の屋上を軽く飛び越えてしまったので、風魔法で位置を調整して三点着地。俗に言うスーパーヒーロー着地を敢行した。

 足が痺れたし、短いとはいえヒールが折れた。

 でも間に合った。


「助けに来ましたわよ。お師匠様?」


 宙吊りで胸に大きな切り傷があるけどまだ生きてる。迅速に治療すれば助かるレベルだ。

 それにしたって服は血みどろだし、イケメンな顔も腫れている。

 この惨状を作り上げた犯人は、


「おや?これは驚きです。どうやってあの場から逃げ出しましたか?」

「あの程度で私を無力化したと思わない事ね。貴方は絶対に許さないわトムリドル!」


 私の使える最速の風魔法を放つ。

 向かい合ったらすぐに戦闘になると空中で準備していた分だ。


「ほほぅ」


 だけど、分厚い魔力障壁を突破する事は出来なかった。


「この杖と闇の宝玉がある私に勝つつもりですか?」

「どっちも他人の力よ。貴方本人は強くない!」


 実際、何度も顔合わせしている時は理事長やお師匠様のような圧力を感じなかったし、授業中に見たお手本の魔法はアリア以下だった。

 恐ろしいのは入念な準備をする執念深さ。でも、予想外の戦闘である今なら勝てる!はずだった。


「だが今この力は私の手の中にある!手間が省けましたよ。マーリンの目の前で死ねぇ!」


 最強クラスの装備で固められたトムリドルはそれだけで強い。

 魔力の量も出力も桁違いで拮抗する事さえ敵わない。

 馬鹿正直に撃ち合っても勝負は見えているので、身体強化をして魔法の弾幕を躱しながらお師匠様の元へ近づく。


「来るなシルヴィア!逃げろ!」

「嫌です!私は絶対にお師匠様を助けます。だって、私が何より大事なのはお師匠様だから!!」


 掠った風の刃で血が流れる。

 襲いかかる炎のせいで火傷する。

 ヒールなんて脱ぎ捨てて裸足で走るから足の裏がボロボロになる。

 でも、私は止まらない。


「生徒と教師の恋愛ですか。美しいですが、お望みなら二人まとめてあの世に送ってあげますよ!」


 バカスカ放たれる魔法の嵐。

 私が手に入れた杖を我が物顔で使っちゃって!それにこいつが隠しアイテムを先取りしてかなり酷い目にあった。腹が立つ!


「このハゲ!」

「まだハゲてない!間も無く増毛剤は完成するのだ!!」

「ブサイク!加齢臭!分かりにくい上に黒板に書く字が汚いのよ味覚音痴!!」

「貴様ぁああああああああああああああああっ!!」


 事実を説明してやったらブチ切れたトムリドル。

 私だけじゃなくて生徒全員が思っている事を教えてあげたのにね?

 頭に血が上ったせいで魔法の弾幕が激しさを増した。

 前にお師匠様から貰っていた防御用の魔道具は衝撃に耐えきれずに壊れたし、魔力障壁もゴリゴリ削られて、動きを止めたら死ぬ。


「調子に乗るなよ。生まれながらのエリート魔法使いでもなく、マグレで魔力に目覚めた紛い物!王子達へ色目を使って取り入り、マーリンを籠絡し、理事長達へも媚を売る売女め!その強がりを叩き壊して惨たらしく殺してやる!」

「ざっけんな!私だって死ぬ思いをして魔法使いになったんだ!後悔も未練だって遥か昔に置いてきた!自分を見失いかけて、やっと見つけた今がある!私の輝かしい青春をお前なんかに奪う権利はないのよ!!」


 決めたんだ。この世界でシルヴィア・クローバーとして生きていくと。

 学園生活を楽しむって。家族と笑って暮らすって。

 その瞬間、瞬間を必死に生きる。刹那的快楽主義者でもいい。それが私の夢、生き様にしたいこと。

 その為に乏しい頭を使って、体を鍛えて、主人公や攻略キャラ達にも負けない力を手にした。

 転生したイキりオタク女子を舐めるなよ!


「死ねぇ!」

「死なない!」


 最後の魔力障壁が撃ち破られた。これで次に魔法が直撃したら私は死ぬ。

 しかし、それと引き換えに私はトムリドルの攻撃を掻い潜ってお師匠様の元にたどり着いた。


「お待たせしました」

「来るなと言っただろう……馬鹿弟子が」


 怒られてしまったけど、悲しくない。怖くない。

 きっとこの人が相手なら私はどんな所にだって行ける。立ち向かえるから。


「感動の再会してんじゃないですよ。私を無視して良い雰囲気になって。そういうのが気に入らない。だから『死ね』」


 闇魔法の呪い。


 ソフィアを奪還するためにピーター・クィレルと戦った時に最後に見たあの腕輪。恐らくはトムリドルの持つ闇の宝玉とやらの欠片だった。

 欠片でも人を呪殺出来るのだから、この呪いを受ければ私もお師匠様も死ぬ。


 同じ闇魔法使いの私と何故だか光魔法が使えるようになってたお師匠様の呪いへの耐性は高い。

 しかしながら、闇の神の力が相手となればそんなものは無意味に等しい。

 だから、私は私に出来る最大限の抵抗をする。


「せいや!」

「無駄だ!」


 制御もロクに出来ていない闇魔法を放つ。

 ただの黒いモヤが広がって視界を塞ぐだけ。同じ闇魔法が使える状態のトムリドルには邪魔な目眩しになっただろう。

 でもそれだけ。確かに無駄な抵抗だ。


 でも、だからこそ、私は笑う。

 戦っている時に聞こえたんだ。蹄の音が。

 戦闘開始から少し時間は経過した。その少しは生死をかけた戦いであり、私達の未来を繋いだ。


「知ってるかしら?夜のような深い闇はいずれ日の光に照らされて消えるって」

「それがどうした!貴様達はその闇に飲まれて死ぬのだ!」


 息を吸う。

 最後の抵抗。

 そして、仲間への合図。


「アリア!エース!今よ!!」


 私の声は届いた。

 地面に亀裂が入り、真下から光り輝く角のユニコーンが現れる。

 その背に乗るのは光魔法の結界を張るアリアと、遺跡で回収した剣を手にしたエース。

 宗教画の一枚のようなポーズでこの場を終わらせる切り札が来た。


「いつ呼ばれるかヒヤヒヤしたよ」

「お姉様このタイミングですか⁉︎」


 真正面から極大の呪いを受け止める二人。

 私なんかじゃ太刀打ち出来ないのに、それを可能とするのは流れる血と選ばれた素質。


「光の巫女と聖剣を持った王子か!小癪な!」


 ラスボスには主人公をぶつける作戦。

 アリアとエースには普通に建物内を登ってもらった。

 お師匠様を人質にされたり、逃げられたりすると困るので私が注意を引きつける。

 そしてお師匠の身柄を確保した時点で二人に後を任せる。


「逃がさないんですからね!」


 屋上は既にアリアの支配下に置かれた。下の階に魔法陣を描いて結界を張ったのだ。

 もう、転移も出来ない!


「逃げはしませんよ。ここで後の不安材料を叩くのですから!」

「そうはさせない!」


 エースが剣を振り下ろす。

 彼が持つ剣は敵の魔法による威力を半減。自らの魔法を二倍にする能力がある。

 トムリドルの攻撃だって打ち砕く。


「二人とも、狙うのはあの黒い玉よ。アレさえなければ闇魔法は使えないわ!」

「分かりましたお姉様」

「任せてくれシルヴィア」


 その隙に私はお師匠様を拘束していた魔法を解除する。

 落ちてきたお師匠様に巻きついたロープを解いて、傷の具合を確認。

 体がかなり冷たくなりつつあった。


「しっかりしてくださいお師匠様」

「……アリアくんとエースか。良い判断だ。始まりの再来。これが神に与えられた啓示の結末か」

「呑気に状況説明してる場合ですか!意識を保ってください。まだ言えてない事だってあるんですから」


 光と闇の激しい戦いの中、私は必死に血を止めようとする。

 持ち合わせの薬草と引きちぎったドレスの切れ端でどうにか止血を試みるが、止まってくれない。


「……私もだ。……君に伝えたい事が……」

「死亡フラグ立てないで!傷が治ったら後からいくらでも聞きますから今は口を動かさずにじっとしてください!」


 主人公補正か、今までの積み重ねか、アリアとエースは少しずつ押していた。

 トムリドルは転移や私との戦いで少なからず魔力を消費していたし、手にしたばかりの杖や強大な闇の神の力を制御しきれていない。

 対するこちら側は、歴史が証明するように闇の軍勢に対して有利だ。

 盛者必衰。闇は光に祓われる。


「止まれ止まれ止まって!何か持ってないですかお師匠様⁉︎準備万端な貴方なら手があるでしょ!」

「……今日はオフだ……持ち物は一つしか……」


 震える手でポケットから何かを取り出すお師匠様。

 四角い小さな箱には見覚えのある魔道具が入ってた。


「……この前、壊れたからな。……新しいのを……用意したのだ…」


 小さな青い石が埋め込まれた指輪。

 確かに使って壊れたけども!今じゃないでしょ!


 光と闇が衝突した。


「この私が、JOKERである私が負けるなど!!」

「お姉様に手を出して!マーリン先生を傷つけた貴方をわたしは許しません!」

「俺達がこの学園を国を守るんだ!王になる者として民を守る!」


 剣を持つエースの手にアリアの手が重なる。

 膨れ上がった光の魔力は折り重なって天を衝く極光を生み出す。

 聖剣に相応しい光の柱が、トムリドルの頭上へと落ちる。


「「エクスカリバーぁあああああああっ!!」」

「おのれぇえええ!」


 お師匠様がマーリンで聖剣といったらやっぱりソレよね。アーサー王万歳よ。

 光の渦に巻き込まれたトムリドルの手から闇の宝玉は滑り落ちて砕けた。

 さっきまでの禍々しい魔力も霧散し、戦いに決着が付いた。


 ゲーム通りにアリアが攻略キャラと協力して悪者に打ち勝ったのだ。






 でも、指輪を持ったお師匠様の手は力無く地面に落ちた。

 綺麗な顔で眠るように、息が止まった。









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[一言] えー!お師匠様!?
[一言] え?死ぬの!?
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