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69話 師弟コンビで大乱闘ですわ!

 

「命中確認!」

「建物ごと吹き飛ばすつもりか!!」


 お師匠様の拳骨が落ちる。


「ちゃんと加減したからちょっと崩れただけじゃないですか〜」


 目的地である砦のような建物から少し離れた崖から私とお師匠様は敵を観測していた。

 私達の手にはお師匠様お手製の双眼鏡がある。魔道具で、相手が魔法使いか魔法使いではないかも見えるのだ。


「でも今ので分かりましたね。相手は魔法使いが全然居ません」

「服装からして野盗か。警戒すべきはピーター・クィレルだけだ」


 状況把握したお師匠が手に持っていた白いスカーフを振る。

 すると、建物の近くに犬の軍勢とユニコーン、ケルピーに大きな鷹が集まって敵を襲い始めた。


「先程のような大規模な魔法は控えるように」

「あれは敵を炙り出して人数を把握する為です。ソフィアにも当たるような事はしませんよ」


 今回は非常事態ということもあり、杖の使用は許可されている。

 クラブ達は別行動で、出来るサポートは召喚獣を暴れさせることだけ。特にアリアとエリスさんはこの場に着くまでの魔力の消耗が激しかった。一休みもせずに走らせ続けたからね。

 その護衛と私達との連絡をする役目がクラブには与えられている。


「では行くぞ」

「はい!」


 お師匠様が呼び出した大きな白い犬……二人乗りサイズだと犬と呼んでいいのかわからないわね。


「ワン!」


 吠えながら崖を駆け下りる。その勢いを利用してトップスピードで戦闘区域へ突入した。


「なんだ!」

「新手だ!デカい犬に乗ってやがる!」


 野盗達は手に剣や棍棒を持って襲ってくるけど、そんなものは魔法使いの敵じゃない。


「ふん!」

「やぁ!」


 お師匠様の杖から火が。

 私の杖からは風が。

 それぞれの魔法が発動し、混ざり合い、火炎の竜巻が吹き荒れる。触れれば火傷するのは勿論だが、ジェット噴射のような勢いが大の男達を軽々と吹き飛ばした。


「いけシルヴィア!」


 敵の態勢が崩れた場所から私は建物の中へと侵入した。

 お師匠様が派手に外で暴れてくれるおかげで相手はそこに釘付けだ。

 その隙に私がソフィアの安全を確保する。


「頼むわよパグちゃん」

「ワフッ!」


 先導してくれるのはお師匠様の犬の軍勢の中で一番鼻が効くパグ。

 事前にソフィアの下着の臭いを覚えさせておいた。きっとこんな場面があると想定して学園都市を出る前に物色して持って来たのよ。みんなからドン引きされたけどね。


「おい、中にも一人入って来「邪魔!!」」


 大声で仲間を呼ぼうとした髭面の男に風の塊をぶつける。綺麗に上半身だけ壁にめり込む男。意識はない。


「魔法使いが調子に乗るな!」

「足元がお留守よ」

「なんだ……うわぁあああ⁉︎」


 次に出て来たハゲた男には落とし穴をお見舞いする。

 深さは5メートルくらい。自力ではまず這い上がれない深さだ。


「どこにいるのソフィア?」


 ここでの目的は二つ。ソフィアの安全を確保することとピーター・クィレルを捕まえること。

 最優先は前者だが、騒ぎに紛れてあの男を逃すようなことはしていられない。

 身体能力を魔法で強化したまま、建物内を走る。外では爆発音や人の悲鳴が断続的に聞こえる。

 お師匠様が負けるわけないと知っていたけど圧倒的ね。そもそもキチンとした防具や装備も無い状態で学園の教師レベルの魔法使いに挑むのがどうかしている。


 この世界ではいかに多くの魔法使いを確保しているかで国の強さが決まるのだ。魔法使いは意思を持って動く戦車みたいな存在。……お師匠様クラスだと戦闘機や戦艦と渡り合えるわね。

 それを相手にお金欲しさで集まった烏合の衆が勝てるわけがない。


「ワフッワフッ!」


 地面の臭いを嗅ぎながら走っていたパグの足が止まる。二つに分かれたT字路だ。

 その右側に向かって大きく吠えた。


「この先ね。ありがとう!」


 戦闘に巻き込んでも戦えない子なのでここでお別れすると、役目を終えてパグは光となって消えた。

 そのまま通路を真っ直ぐ進むと目撃証言と同じ馬車が止まっていて、それを背にするようにターゲットが待ち構えていた。


「くそ!よりによってお前が追手か!」

「覚悟しなさいピーター・クィレル。貴方は学園都市と王家の両方から指名手配されているわ。大人しく投降する事をオススメするわよ」


 お互いが杖を構えたまま睨み合う。

 外道に落ちたとはいえ、学園の教師。模擬戦の経験も豊富で、実戦や殺し合いも経験しているかも。

 ヒリヒリとした緊張感が肌を刺す。


「そちらこそ強気に出るのはここまでだ。これを見ろ!」


 ピーター・クィレルは後退りをして馬車の影へ移動し、何かを連れて出てきた。

 ロープで拘束され、タオルで猿轡をされた人質のソフィアだった。


「ソフィア!」

「それ以上近づくとこの使用人の首が跳ぶぞ」


 服装が乱れ、一部肌が露出しているソフィア。顔を叩かれたのか頬が赤く腫れていた。


「……絶対に許さない!!」

「動くな!杖を捨てろ!」


 怒りで頭が沸騰しそうだが、今は杖の先がソフィアの頭に押し付けられている。

 あの距離ならどんな魔法使いも攻撃を外さない。


「これでいいのかしら?」


 ソフィアが何かを言いたそうに唸るが、モゴモゴとしか聞こえない。

 大人しく私は手に持っていたコブラの杖を前方へと投げ捨てた。


「次は両手を上に上げてその場に座れ!抵抗するな!」

「注文が多いわね」

「いいから早くしろ!」


 癇癪を起こして唾を飛ばす敵。

 ゆっくりとバンザイして私はその場に座り込んだ。片膝を地面につけた体勢で。


「はははっ。人質がいれば蛇姫も大した事ないな!そのまま首を垂れて土を舐めろ!さもないとこの女の命はない!」


 素直に言うことを聞く私が面白いのか、ピーター・クィレルは逃げもせずに屈辱を与えようとする。

 でも今動くとソフィアが危険だ。


「ここの地面は不潔そうで不味そうね。私って美食家だからもっと良い土を所望するわ」


 自分でも土の味ってなんだっけ?と思いながら会話を引き延ばす。

 さっきから余計な一言を言い続ける私に相手は愉快な表情から鬼のような形相を浮かべた。


「おのれ、この期に及んで減らず口を……人質の前にお前を殺してやるぞ!」


 ピーター・クィレルは服のポケットから野球ボールサイズの青い玉を取り出して投げた。

 するとその中から紫色のサソリが出てきたわ。


「その魔道具、見たことあるわね」

「私はお前やマーリンのような規格外な力は持っていないからな。こうして召喚獣を持ち運んでいるのだ」


 大型犬サイズのサソリはハサミをギチギチと鳴らしながら私へと近づいてくる。


「モガモガモ……お嬢様!」


 自力で口からタオルをずらしたソフィアが泣きそうな顔で私を見る。

 自分が怖い目にあって、今も恐怖で震えているだろうに私を心配してくれている。とってもご主人様思いのメイドね。


「今まで受けた屈辱と恨みだ。もがき苦しんで死ね!」


 その声と共にサソリの尻尾が私に突き刺さる。


「うっ……」


 激痛に顔を歪ませて、私は倒れた。


「お嬢様ぁああああ!!」

「ははははっ!ついに殺してやったぞ!計画の邪魔者が一人減った!喜べ同志達!」


 悲鳴をあげるソフィアと歓声をあげるピーター・クィレル。

 指先をプルプルと痙攣させながら私は地面を転がり、のたうち回る。


「苦しいか?苦しいだろう?安心してそのまま死ね!マーリンも同じようにあの世へ送ってやるさ!」


 歓喜に震えながら同じ手段でお師匠様を殺そうとソフィアを無理矢理連れて行くクソ野郎。

 私をその場へ放置してこちらに完全に()()()()()


「エカテリーナぁあああ!!」


 その隙を逃さずに私は地面に出来た影を叩く。

 黒い闇の中から這い出るのは一心同体の相棒。呼び出したばかりにも関わらず私の意図を理解してくれた。


「な、何⁉︎」


 飛びかかるエカテリーナに驚き、ピーター・クィレルはソフィアから手を離してしまった。

 主人の危機を察知したサソリがエカテリーナ目掛けて高速移動して私から離れる。


「あらら。相手がしっかり死んだか確認しないから」

「馬鹿なぁ⁉︎」


 埃を払いながら立ち上がる私に驚愕する男。

 そしてソフィアは私の胸へと飛び込んできた。


「お嬢様……うぅ……」

「泣かないの。まだ終わってないんだから泣いちゃだめよ」

「ありえない!お前はサソリに刺された!毒は即効性で身動きを封じて命を奪うはずだ!」


 髪を掻き毟り、苛立つ相手に私はネタバラしを言ってやった。


「こっちだって毒持ちの召喚獣なのよ。これくらいの毒なんて耐性あるに決まっているじゃない?そんな事も分からないで、よく教師が務まったわね。お師匠様以下よ貴方なんて」


 タイプ相性をご存知ない?エカテリーナが毒を持っているから万が一にでもその毒で死なないように、私は自ら毒を浴びたりした。そうやって少しずつ毒への耐性を作った。

 今更、こんな毒が効くか!ってのよ。……体調は悪くなっているけどね。

 でも、その甲斐あってソフィアを取り戻せた。

 毒持ちのサソリはこのままエカテリーナに相手をさせる。あんなのに負けるような子じゃないわ。

 ちょっと辛いけど、後はこの男を捕縛するのみね?


「おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ!!!!!」


 煽っておいてなんだが、完全にキレたピーター・クィレルの目が血走っている。

 眉間や頬に血管が浮き出てダルマのように真っ赤になった。


「ならば呪い殺してやるぅううう!!」


 絶叫を上げながら、またまた懐から何かを取り出した。

 綺麗な黒曜石のような石の欠片が埋め込んである腕輪だった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


「『絶望しながら死ね』」


 あ。これは不味いかも。

 冷静さを失わせて隙を作る作戦が、やり過ぎて暴走させちゃったんですけど⁉︎

 腕輪から発せられた予想外の大量の黒いモヤ。アレに包まれたら精神的にどうなるか想像したくない。おまけに今はソフィアが腕の中にいる。



 あんな悪夢を見ながら死ぬのにこの子を巻き込みたくない。



 こんな所で負けて死にたくない。



 まだ私にはやり残した事がある。



 死んでも死にきれない。



 だから、私が取るのは最終手段。



()()()()()()()()


 魔力を流した瞬間、右手の薬指から指輪が崩れ落ちる。

 そして、







「このタイミングで使うとは、何をしくじった馬鹿弟子め」







 世界で一番頼りになる人が眼前に瞬間移動して現れた。






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[一言] シルヴィア無茶するねぇ そしてやっちゃってくださいお師匠様!
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