67話 集合。作戦会議ですわ!
トントントントン……。
室内に私が机を指先で叩く音響く。
「シルヴィア、落ち着け」
「これでも落ち着いているわよジャック」
包帯を巻いて、折れた片腕を三角巾で吊るしているジャック。
目が覚めて数時間しか経っていないが、手早く準備をして駆けつけてくれた。
「飛び出していないだけマシでしょ?」
「もぉ、お姉様をイライラさせないでくださいよジャック王子。止めるの大変だったんですからね!」
「す、すまん……」
腰に手を当てて王族を叱り付けるアリア。
連絡があった直後、飛び出そうとした私を引き止めるためにアリアとエースの二人がかりで拘束された。多少の抵抗をしてしまったので、通りかかった生徒数人が宙を舞ったが怪我人は出なかった。やり過ぎたと少し反省しているわ。
「ジャック。無理せずに休んでいていいのよ?まだ体が痛いでしょう?」
「心配いらんよエリス姉。オレは、オレに出来ることをしなくてはならないんだ……」
俯いて無事な方の拳を握るジャック。
ジッとしていられないのは彼も同じね。ここで汚名を返上したいと思っているみたいだし、何もしないと自分自身を責め続けてしまいそうだから。
「そう……。だけど無理をしてはいけないわよ?何かあればすぐに私が止めるからね」
心配しつつも少し厳しい口調でジャックに釘を刺すエリスさん。
もうメガネもいらない。ハッキリとした視線でジャックを見つめる。
……何もなければエリスさんの快気祝いをかねたプチパーティーをして、それからダンスパーティーに参加する流れだった。でも、今はそれどころじゃない。
くそっ。デーブからの聞き込み後すぐにピーター・クィレルを捕まえに行けばよかった!そしたらソフィアが拐われるなんてことなかったのに!
「姉さん、自分を責めないで。悪いのは僕なんだ」
「クラブは悪くないわよ。昨晩の騒ぎの説明をソフィアに任せただけでしょ?」
デーブを捕まえるためにエカテリーナを出したり、魔法で撃ち合ったため、あちこちから通報があった。
私とクラブで追いかけ、手が空いていたソフィアには校舎に入ってエリちゃん先生か理事長に事情を説明してくるように頼んだのだ。
連絡までは行ったようで、昨日の騒ぎは無かったことになっている。その帰り道だった。ソフィアが消えたのは。
「最悪の形だよ。コレだって見つかるし」
クラブの手にはソフィアの名札がある。
落とし物として学園都市の門付近で拾われたものだった。
校舎は学園中央。門は学園の一番外側にあって、ソフィアが門に行く用事は無い。そして、ピーター・クィレルの研究室はもぬけのからだった。
お師匠様の召喚獣は逃げ出したピーター・クィレルとソフィアの臭いが途中から合流している事までを突き止めた。
そして、門番がその名札を拾ったと報告があったのだ。
「お姉様もクラブさんも悪い方へ考えて自分を責めるは止めましょう。今はどうやって逃げた犯人をボコボコにして捕まえるか考えちゃいましょう!」
「それはオレ様達ではなくマーリンとエースの仕事だろ」
「ぐっ……そりゃそうですけどぉ」
私達がお師匠様の研究室に集まって待機しているのには理由がある。
連続の闇魔法による呪いの件、学園都市に眠る魔道具について。それらの内情を把握して、関わっている私の信頼できる人のみ事件の対策班として招集された。
リーダーはエース。理事や大人達への交渉は不安だけどお師匠様だ。
一般の学生達に情報を流すと混乱が生じるため、この少人数が作戦にあたる。上がそれでも不十分と感じれば教師陣に引き継がれるだろうけど。
今、この部屋にエースとお師匠様は居ない。
森の遺跡やピーター・クィレルの逃亡、ソフィアの誘拐とその追跡について緊急の理事会が行われ、会議に参加している。
事件の規模は既に都市クラス、国家クラスにまで届こうとしているので個人的に動けない。
エリちゃん先生や理事長の独断で背負える責任でも無くなってきた。
「じれったいわね。私が会議に乗り込もうかしら」
「「「「それだけはない」」」」
その場にいた全員から否定された。
「お姉様だけはダメですよ」
「シルヴィアさん。人には向き不向きがあるの」
「姉さんが行くと逆に時間がかかるよ」
「貴様、理事会を血祭りにでもする気か」
しかも必死に説得された。ジャックだけ失礼な事を言ったので、三角巾にデコピンしてやった。
「魔法で一応はくっついたがそこを攻撃するか普通⁉︎」
「あら、すっかり元気ねジャック?」
ムキーっと地団駄踏むジャック。
その反応を見て、ほんの少しだけスッキリした。
誰かをからかうってストレス発散になるわね。
「……どういう状況だいコレは?」
「またシルヴィアが何かしたのだろう。全員席につきなさい」
ジャックで遊んでいると、研究室の扉が開いてエースとお師匠様が入ってきた。
どうやら理事会は終了したみたいね。
散らばった書類や実験道具を隅に寄せて、おのおのが椅子を持って部屋の中心に集まる。
「まず、この一連の事件を学園側はピーター・クィレルの独断と判断して彼の捕縛を決めた」
「証拠や証言は少ないが、今回の無断での逃亡とソフィアくんの誘拐が決定打となった。やましい事があると判断された」
よし。これでGOサインが出たわね。
「ただ既に学園の外に出ている為、逮捕や処分についての権限は学園に無いという話になった」
学園都市内であれば絶対的な強制力を持つが、一度外に出ればそこはこの国の他の貴族の管轄になる。いかに影響力があるとはいえ、学園理事でも貴族に一方的に命令して言うことを聞かせるのは難しい。
「そこは俺がいたから王族としての権限を使ったよ。シルヴィアとジャックを操っての王子の殺人未遂。これで国家反逆罪が適応出来るからね」
ゲームでシルヴィアがやらかして投獄や処刑されたやつね。
ターゲットが私やお師匠様だけならまだしも、王族と公爵令嬢を狙ったのが運の尽きよ。
「これでピーター・クィレルを逮捕する為の理由と許可は降りた。続いて捜索隊についてたが、」
「勿論、私は行くわよ!」
「あぁ。君は確定だよシルヴィア」
ほらね?なら準備して早く追わないと!
「それとアリアくんとエリス。クラブとマーリン先生だ」
「おい待て。オレ様は」
「俺とジャックは留守番だ。怪我人は大人しくしておくんだ。俺も消費した魔力が回復していない。ついて行っても邪魔になるだけだ」
「だが、この件はオレにも責任が!」
「なら王族として後始末や後方支援に徹しろ。城への報告や手配書については俺達の方がスムーズに回る」
食い下がろうとするジャックと突き放すエース。
納得いかないと睨みつけるジャックだけど、エースは意見を変えるつもりがなく動じない。
やれやれね。
「ジャック。エースは口ではこう言ってるけど貴方が心配なのよ。これ以上貴方が無茶して怪我したら取り返しがつかないでしょ?責任を感じているのはエースも同じなんだから」
肩に手を置き、浮いた腰を座らせる。
落ち着いてくれたのかジャックは抵抗して立ち上がろとしなかった。
「………クラブ。任せたぞ」
「はっ。ソフィアは僕にとっても大事な家族です。必ず犯人を捕まえます」
「シルヴィアには敵わないね。エリス、俺の代理として貴族や一般人への交渉、対応を任せる」
「カリスハートの名にかけて任務を遂行しますわ」
クラブとエリスさんがそれぞれの主人に頭を下げる。
「私達も負けてられないわよアリア」
「ソフィアさんは大切なお友達ですからね!」
私のこの世界で最初の友達。
人生で拐われるのが二回目の運が悪い子だけど、必ず救ってみせるわ。
昔の、7年前の何も出来なかった私とは違う。成長した私の実力を味合わせてあげるわよピーター・クィレル!!
「出発は今から一時間後。学園都市の外に出る準備をして校舎前の正門に集合だ。夜間の出発になるので各自野営の用意を忘れるな」
「「「「はい!!」」」」
こうして、ソフィア救出隊及びピーター・クィレル絶対袋叩きにして逮捕する隊が編成された。




