⑧「果たされた約束」
⑧果たされた約束
谷沢さんは、カーテンがずっと閉じられたままの駄菓子屋の呼び鈴を押そうとしていました。
今朝、ポーくんは谷沢さんに一部始終を話したあとで、強くお願いしたのです。
「ね、おじいさんからの返事を、おばあさんに伝えてよ。谷沢さん」
「うん……でも、信じてもらえるかな?」
自信なさげな谷沢さんに向かって、ポーくんはきっぱりと言いました。
「谷沢さん、もしこのままだったらおばあさんは、ずっとおじいさんが迎えに来てくれるのを待ち続けるだけでしょ? 今日こそは明日こそはって……。あれだけ、ぼくに願いをたくして手紙を出し続けたのに、なんの手応えも感じられなかったら、ますます生きる希望を失ってしまうよ。もし、おじいさんの伝言を信じてもらえたら、少しでも元気になれると思うんだ」
三回目の呼び鈴を鳴らし終えたとき、ようやく、ゆるゆるとカーテンが開きました。
「どなたかしら?」
やつれた顔がガラスごしに、若い訪問者の様子をじっとうかがっています。
「郵便局の谷沢です……」
おばあさんは、はっとしたように急いでガラス戸を開けると、谷沢さんの手もとを見つめました。
「これは、しげるさんあての手紙です」
谷沢さんが、手にした四通の手紙を差し出すと、おばあさんのくちびるが、わずかにふるえました。
「ご主人は全部お読みになったそうです。ですから、奥さんにお返しします」
おばあさんはだまって、その手紙を受けとると、ひと言つぶやきました。
「わたしったら……返事が来たのだとばかり」
「お返事は、ちゃんとうかがってきました」
おばあさんは、はれぼったい目を見開いて、口を真一文字に結んだまま、じっと谷沢さんを見つめました。
「直接、返事をもらったのは、ぼくではなくて、ポストの方なんですけどね」
「もしかして、ポーくんですか? 主人がいつも話していた……」
「ええ。限られた人とだけ交流できる、不思議なポストです」
「やっぱり本当だったんですね……。ポストが人と話せるなんて、私には信じられなかったんですけれど……。それで、ポーくんはなんて……?」
おじいさんからの返事を待ちきれないように、おばあさんは歩み寄ってきます。
谷沢さんは、ゆっくりと口を開きました。
「ご主人は、まだまだ奥さんに元気で過ごしてほしいとおっしゃったそうです。近いうちに必ず幸せなことが、きっとやって来るからそれまで待っていてほしいって……」
その返事を聞くなり、おばあさんはうつむきました。手にした封筒に、涙がぽたぽたとこぼれ落ちました。
「そうなんですか……。じゃあ、わたしは、もう少しだけ、こちらで待っていなきゃいけないのね」
うつむいたままのおばあさんの肩にそっと手をのせ、谷沢さんは力強くはげましたのでした。
「ご主人のおっしゃることは、きっと本当だと思います。私もポーくんも、いっしょにその日を待っていますからね」
おばあさんは、ただだまってうなずくばかりでした。