⑦届かない思い
⑦届かない思い
「おばあさんだったんですね……。三つ編みの女学生も、和服の女の人も、赤ちゃんを抱いたお母さんも、みんな、みんな……」
出会ったときから、一途におじいさんを好きだったおばあさん。想い出の手紙を書くときは、気持ちがひとりでに昔に戻ってしまっていたのでしょう。たとえ、すっかり年をとってしまっていても、心だけはそのときのままだったのです。
「おばあさん、だいじょうぶ。おじいさんはきっと返事をくれますよ」
寂しそうなおばあさんを、精いっぱいはげましてあげたいのに、おばあさんの心には、ポーくんの声が届いてはくれないようでした。
おばあさんはポーくんに向かって、すがるように手を合わせると、力のない足どりで家に帰っていきました。
ポーくんは、星のまたたく夜空を見上げました。
おじいさんは、きっと今ごろ、この果てしない宇宙のどこかで、おばあさんを見守ってくれているのでしょうか。
「ねえ、おじいさん、どうしておばあさんを待たせるんですか? おばあさんは、こんなにおじいさんのこと、想っているのに」
そう考えながら、ポーくんは思わずはっとしたのでした。
「おじいさんが迎えに来るってことは、おばあさんを連れて行っちゃうってこと? つまり、おばあさんが……」
それは、決して考えたくもないことでした。
「だめだよ。迎えにきちゃだめだ! この手紙をもし、おじいさんにわたしたら、きっとおばあさんは……」
思わず、身ぶるいしそうになりました。
けれどもその一方で、ポーくんはこれまでに味わった手紙の美味しさをしみじみと思い出さずにはいられなかったのです。
「あんなに、あんなに、おじいさんのことを想って書いた手紙なのに、わたしてあげられないなんて……」
わたす・わたさない
二つの気持ちが、綱引きのようにポーくんの中でせめぎ合います。
「ああ、もうだめ。決められない!」
ポーくんが長く深いため息をもらした、まさにそのときでした。
「ありがとうよ。ポーくん」
目の前におじいさんが立っているではありませんか。
「お、おじいさん!」
元気だったころとまったく変わらない笑顔で、おじいさんはポーくんに話しかけました。
「おまえさんが、ちゃんと預かってくれていたおかげで、ばあさんからの手紙を読むことができたよ」
「じ、じゃあ、おじいさんは……」
おっかなびっくり、ポーくんはたずねたのです。
「……おばあさんを迎えに来たんですね?」
おじいさんは、ゆっくりと首を横にふりました。
「わしはな、まだまだばあさんには元気でいてもらいたいんじゃ。近々、きっと楽しいことが待っているからな」
「それならひと言、おばあさんにそう伝えてあげたら……。」
おじいさんの目が、切なげにうるんでいました。
「それができさえすればなあ……。ポーくんや、今のわしはそっちからの手紙を読むことはできても、わしから手紙を出すことはできないんじゃよ」
ああ、そうなのか……。
おばあさんへのあふれる思いを伝えたくても伝えられない。
そんなおじいさんの辛さを、ポーくんはひしひしと感じたのでした。
「わしが、ばあさんを迎えに来るのは、まだまだ先のことじゃろうな。わしにはわかる。ばあさんが毎日楽しそうに笑っているのが見えるんじゃ。きっともうすぐ幸せな毎日がやってくる。早く、ばあさんの笑顔が見たいもんじゃのう……」