⑥苦い手紙
⑥苦い手紙
満月の光が、ポーくんのまわりを明るく照らし出しています。
今夜は、やって来そうだな。
ポーくんは、そんな予感がしていました。
今夜こそ、四通目の手紙を持ってきた人に声をかけてみよう。
眠ったふりをしながら、ポーくんはそう心に決めていました。
夜もふけて、満月が、ゆっくりとポーくんの真上にやってきたころ。
サクサク……。
ポーくんの予想通りに、かすかな足音が近づいてきました。これまでよりも、ずっとゆっくりとした足どりです。
やがて、ポーくんの目の前で、足音がぴたりと止まり、白い封筒が、ポーくんの口に差し出されました。
ポーくんは思いきり目を見開いて、目の前の人を見つめました。とたん思わず大きな声をあげてしまったのです。
「お、おばあさん!」
すっかり真っ白になってしまった髪。
しわだらけで、やせ細ってしまった腕。
しばらく見ないうちに、おばあさんはこれまでの何倍も年をとってしまったかのようでした。
「あの人はどうして返事をくれないのかしら。ずっと、ずっと待ち続けているのに……」
おばあさんは、しわがれた声でつぶやきながら、封筒をポーくんの口にすべりこませました。
ゴクリとポーくんはその手紙を飲み込みました。が、あまりの苦さに思わず顔をしかめました。
苦くて、しょっぱくて、あやうくせき込みそうになってしまったのです。
きっと、おばあさんは、おじいさんからの返事を待ちあぐねて、寂しさと、悲しさのやるせない気持ちで、この手紙を書いたに違いありません。
「もうわたしのことなんか、すっかり忘れてしまったのかしらね……」
泣きはらしたような一重まぶたの奥から涙がひとすじ、ふたすじと、おばあさんのやつれたほおを伝いました。
「わたしは、あの人との想い出を、ずっとあたためながら、やっとここまで生きてこられたの。でも、もうそろそろ、あの人のそばに行きたいのよ。そういう時が来たら、自分あてに手紙を書いて、このポストにたのんでごらん、きっと願いをかなえてくれるよって、あの人、たしかにそう言ってくれたのに……」
ポーくんの中で、からまった糸がほどけるように、するするとこれまでの謎がとけてきたのでした。