⑤真夜中の若い母親
⑤真夜中の若い母親
それから二日後の真夜中のことでした。
ポツポツと小雨が降り始め、肌寒い風が銀木犀の小枝をゆらしていました。
ピタピタ……。かすかな足音とともに、現れた人影。
今日こそはとばかりに、ポーくんは大きく目を見開いて、その人影を見つめていました。
雨の音に混ざって、赤ちゃんのむずかる声が聞こえてきます。
やがて、目の前にやって来たのは、赤ちゃんをおぶった若い母親なのでした。
傘をさしたまま、若い母親は、むずかる背中の赤ちゃんをゆすり、祈るような目でポーくんを見つめました。
「願いをかなえて。お願い」
ひと言つぶやいて、ポーくんの口に入れてくれた手紙の、なんと優しく、まろやかな味わいでしょうか。まるで、ふわりと包み込まれるようなおいしさに、危うく目を閉じかけたポーくんでしたが、ぐっとがまんして、その人の顔を、くいいるように見つめました。
ふっくらと色白の面長の顔立ち。美しい切れ長の瞳。
よくよくながめているうち、ポーくんは、その人と、以前どこかで出会ったことがあるような気がしてきたのです。
「はて? どこでだったかな」
思い出そうと、ポーくんが目を閉じたその一瞬のうちに、母親も赤ちゃんもかき消すようにいなくなっていました。
翌日。
ポーくんは、谷沢さんに昨夜の話をしました。
「その女の人はね、顔が面長で、ふっくらして、一重まぶたで……」
ひとつひとつていねいに思い出しているうちに、ポーくんは、とつぜん、あっとさけびました。
「どうした? ポーくん」
「そういえばさ、前に来た二人も、そんな顔をしてたような……」
「ますますわからなくなるなあ……」
頭をかきかき、苦笑いする谷沢さんを横目に、ポーくんは不思議そうにつぶやくばかりでした。
「どこかで、どこかで会ったような気がするんだけどなあ……」