表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

③真夜中の女学生

③真夜中の女学生


 そんなある夜のことです。

 あいかわらずペコペコのおなかをかかえたまま、ポーくんは眠っていました。 

 通りを走る車もなく、すっかり静まりかえった夜ふけ。白く光る三日月だけが、町を見下ろしています。


 ヒタヒタ……。近づいてくる足音の気配で、ポーくんはふっと目を覚ましました。

 長い髪をふたつに編んだ、セーラー服すがたの女学生。

 ポーくんは首をひねりました。

「はてな? このへんでは見かけない子だぞ」

 女学生は、まっすぐにポーくんの前までやって来ると、こう言いました。

「あなたにたのめば願いが届くって……。だからお願いね」

 そして、手にした白い封筒を、ゆっくりとポーくんの口の中に入れたのです。


 コトン、手紙がポーくんのおなかに落ちたとたん……。

 その手紙の甘さ、甘酸っぱさ。からだじゅうをつきぬけるようなおいしさに、ポーくんは、すっかり全身がしびれてしまったのです。

 はっと気がついたとき、女学生のすがたは、もうそこにはありませんでした。

「あれれ?」

 ポーくんは、あたりをきょろきょろと見まわしましたが、女学生の走り去る足音すら聞こえてはきません。

「本当に久しぶりだったなあ。あんなにおいしい手紙を食べたのは……」

 じんわりと残るおなかのぬくもりを感じながら、ポーくんは満ちたりた気持ちで、ぐっすりと眠ることができたのでした。


 次の日。

「ポーくん、おい、ポーくんったら!」

 谷沢さんの声でポーくんは、やっと目が覚めました。

「ねぼすけポストだねえ。もう十時を過ぎてるよ」

 谷沢さんから笑われ、ポーくんはようやく夜中のできごとを思い出したのでした。

「あのね、あのね、谷沢さん」

 ポーくんは夢中で、谷沢さんに話しはじめました。

 夜中に、見知らぬ女学生が、おいしいおいしい手紙を食べさせてくれたこと。目がくらむようなおいしさに、おなかも心もいっぱいになって、つい寝すごしてしまったということを。


「ポーくんたら、それ、ホントの話かい?」

 谷沢さんはニヤニヤしています。

「だいたい、真夜中に女の子がひとりで出歩くなんて……。それもこの近くに住んでないとすれば、ますます変だよ。いつだってはらぺこのポーくんだから、そんな夢を見たんじゃないのかい?」

「じゃあ、ぼくのおなか、早く開けてみてよ。ちゃあんと証拠の手紙があるにきまってるんだからさあ!」

 ポーくんは口をとがらせ、自信たっぷりにおなかを突きだしてみせました。


 そのおなかの中から谷沢さんはいつものように、集配物を取り出すと、一通一通チェックを始めました。

「ね? ちゃあんとあるでしょ?白い封筒」

「ほんとだ!」 

 うなずいたとたん、谷沢さんの手が止まりました。

「ポーくん、こ、これは……」

 谷沢さんは信じられないように、その手紙とポーくんとをかわるがわる見つめました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ