③真夜中の女学生
③真夜中の女学生
そんなある夜のことです。
あいかわらずペコペコのおなかをかかえたまま、ポーくんは眠っていました。
通りを走る車もなく、すっかり静まりかえった夜ふけ。白く光る三日月だけが、町を見下ろしています。
ヒタヒタ……。近づいてくる足音の気配で、ポーくんはふっと目を覚ましました。
長い髪をふたつに編んだ、セーラー服すがたの女学生。
ポーくんは首をひねりました。
「はてな? このへんでは見かけない子だぞ」
女学生は、まっすぐにポーくんの前までやって来ると、こう言いました。
「あなたにたのめば願いが届くって……。だからお願いね」
そして、手にした白い封筒を、ゆっくりとポーくんの口の中に入れたのです。
コトン、手紙がポーくんのおなかに落ちたとたん……。
その手紙の甘さ、甘酸っぱさ。からだじゅうをつきぬけるようなおいしさに、ポーくんは、すっかり全身がしびれてしまったのです。
はっと気がついたとき、女学生のすがたは、もうそこにはありませんでした。
「あれれ?」
ポーくんは、あたりをきょろきょろと見まわしましたが、女学生の走り去る足音すら聞こえてはきません。
「本当に久しぶりだったなあ。あんなにおいしい手紙を食べたのは……」
じんわりと残るおなかのぬくもりを感じながら、ポーくんは満ちたりた気持ちで、ぐっすりと眠ることができたのでした。
次の日。
「ポーくん、おい、ポーくんったら!」
谷沢さんの声でポーくんは、やっと目が覚めました。
「ねぼすけポストだねえ。もう十時を過ぎてるよ」
谷沢さんから笑われ、ポーくんはようやく夜中のできごとを思い出したのでした。
「あのね、あのね、谷沢さん」
ポーくんは夢中で、谷沢さんに話しはじめました。
夜中に、見知らぬ女学生が、おいしいおいしい手紙を食べさせてくれたこと。目がくらむようなおいしさに、おなかも心もいっぱいになって、つい寝すごしてしまったということを。
「ポーくんたら、それ、ホントの話かい?」
谷沢さんはニヤニヤしています。
「だいたい、真夜中に女の子がひとりで出歩くなんて……。それもこの近くに住んでないとすれば、ますます変だよ。いつだってはらぺこのポーくんだから、そんな夢を見たんじゃないのかい?」
「じゃあ、ぼくのおなか、早く開けてみてよ。ちゃあんと証拠の手紙があるにきまってるんだからさあ!」
ポーくんは口をとがらせ、自信たっぷりにおなかを突きだしてみせました。
そのおなかの中から谷沢さんはいつものように、集配物を取り出すと、一通一通チェックを始めました。
「ね? ちゃあんとあるでしょ?白い封筒」
「ほんとだ!」
うなずいたとたん、谷沢さんの手が止まりました。
「ポーくん、こ、これは……」
谷沢さんは信じられないように、その手紙とポーくんとをかわるがわる見つめました。