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①おいしいごはんが減ったわけ

銀木犀の香りただよう秋のころ。

夢咲町にある赤い筒形ポストのポーくんと、若い郵便配達員の谷沢さんのおはなしです。

  


①おいしいごはんが減ったわけ


 夢咲町という名の小さな町のはずれ、そこにひなびたバス通りがありました。

 毎年秋の始めになると、その通りは、ほのかなよい香りに包まれます。道行く人たちはだれもが足をとめて、通りに面した板塀の方に目を向けるのです。

 そこには、昔ながらの駄菓子屋と、板塀を越して咲く銀木犀。そして、その店先には最近ではほとんど見かけなくなった、赤い筒型の郵便ポストが置かれていました。それは、駄菓子屋とともに、長い時間を歩んできたポストでした。


 ポストの名前はポーくん。名付けてくれたのは、この店の主であるおじいさんでした。

 おじいさんは朝な夕なにポーくんに声をかけては、まるで孫のようにかわいがっていました。

 それというのも、実はこのポーくん、人と話せる不思議なポストなのです。とはいえ、ポーくんと言葉を交わせる相手はただ二人きり。おじいさんと、夢咲町郵便局で集配の仕事をしている谷沢さんだけでした。


 このごろ、朝が来るたび、ポーくんはせつなそうにつぶやいています。

「あ~あ。おいしいごはんが食べたいなあ」

 もちろんポストですから、ポーくんのごはんは手紙やハガキに決まっているのですが、ポーくんに言わせてみれば、手紙にも、おいしいの、おいしくないのいろいろあるらしいのです。

 何といっても最高においしいのは、いっしょうけんめいに書かれた手紙やハガキ。けれども、そんなおいしいごはんにありつけることは、このごろではめっきり少なくなってしまいました。


 なんでだろう……?

 ポーくんがずっと不思議に思っていた理由が近ごろ、やっとわかってきたのです。

 ポーくんがいる場所から、少し離れてバス停があります。毎日、そこでバスを待つ学生からお年寄りまでのほとんどが、手ににぎった四角いものを、じっとながめたり、せかせかと指で押し続けているのです。

「ねえ、谷沢さん、あれは何なの?」

 あるとき、ポーくんは谷沢さんにたずねてみました。すると、谷沢さんは、ごくあたりまえのような顔つきで答えたのです。

「ああ、あれはね、ケイタイ電話っていうのさ。電話もできれば、ボタン一つで相手にメッセージや写真を送ることもできるんだよ」

「そ、そんなあ! だったら、わざわざ手紙を書いて、切手をはって、ぼくのおなかに入れることなんてないじゃない!」

 さびしいやら、くやしいやらで、ポーくんの心はくしゃりとしおれそうになりました。




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