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厄介な待ち伏せ人

久しぶりとなってしまい、申し訳ありません…。あたたかい感想をくださった皆様、心よりお礼を申し上げます。


 ごくり、と息を呑む。


 私たち一行は、ナイメリア国とエンフィオネ国の国境付近にある村に辿り着いていた。遂にここまでたどり着いたのだ。関所を抜けて国境である深い森を越えてしまえば、今ほどの危険はない。


 (これでようやくナイメリア国に帰れる!!)


 私は逸る気持ちを抑えるために両手を握りしめた。





 森を見下ろせる場所に馬車を停めたあと、カインとヴァンは馬車から少し離れた場所で偵察をしていた。


「あ〜あ、少ないけどやっぱいるよねぇ…。3、4〜?数えるのめんどくさ……。俺らも追っ手がいない所を探して急いできたのに…」


 目がいいカインがうんざりしたようにそうこぼす。賊に扮した傭兵たちが、森の中をうろうろしている様子が視えたのだろう。げぇ〜、とあからさまに嫌そうな顔をしている。


「こうなることは()()()()()でしょ?文句言ってないでリアの傍についてなよ」


「はいはい、わかってるよ〜っとぉ?」


 分かっていたことに対して文句を言うカインに、ヴァンが小言を言う。それに適当な返事を返そうとしたカインは、とあるモノを視てしまった。そして思わず驚いた声を出してしまう。


「何?体調悪いの?あんたに有利な夜なんだからちゃんとしてよね」


 それを不審に思ったのか、ヴァンがカインに声をかける。しかし、カインは決して体調が悪い訳では無い。ただただ驚いただけなのだ。


 更に事態が面倒臭いことになってきた、とカインはそっと瞳を閉じる。()()()()()()()()()を視なかったことにしたくてたまらない。


「あ〜いや、違う。俺とヴァンちゃん、交代した方がいいかも?」


「は?何言って…」


 カインは視えたものを伝えようと、頭を傾げながら言葉にしようと試みる。そうして、諦めて苦笑いとともに視たままを口に出した。


「待ち伏せの中に厄介な『異能』持ちが1人混ざってる」


「…は?『異能力者』がいるの?」


 カインの言葉に一瞬固まったあと、ヴァンは盛大に溜息をついた。綺麗な顔に「信じられないっ!」と、苦悶の表情が浮かぶ。


 リアたちの出身であるナイメリア国ならばともかく、エンフィオネ国に『異能力者』を用意出来る手段があったとは。可能性の低い予想だったため、思考の外に出していたのが仇となった。


 ヴァンたちが設置された追っ手をかわしながら、なかなか尻尾をださないことに苛立ったのだろうか。エンフィオネ国側も賭けにでたのだ。そして、その賭けである『異能力者』は見事ヴァンたちの進路に現れた。カインが直前まで気が付かなかったのならば、契約したのは本当にいまさっきなのだろう。でなければ、カインがこの道を選ぶはずがない。ムカつくことにあちらさんは賭けに勝ったのだ。ムカつくことにね!


「何の異能かも分かったけど、どうする?」


 頭を抱えるヴァンを面白そうに見ながら、カインは指示をあおぐ。カインにとっての驚きは既に薄れ、ヴァンの苦悩っぷりへの面白さで目を細めた。カインにとって、エミリアの前では格好つけてばかりのヴァンの取り乱した姿など、面白い以外の何物でもない。実に愉快な光景である。


 少しの間それを楽しんだあと、カインは提案した。


「ヴァンちゃんに意見がないなら、俺の作戦でもいいよね?」


 一応確認の形をとってはいるが、その実ヴァンに拒否出来るほどの代替案などありもしない。それを分かってのこの笑みである。ヴァンは悔し紛れに「変なことは許さないからね」と、眉間に皺を寄せた。






 何故かドア越しに、明け方まで待機とヴァンの声で伝えられる。少々面倒な事になっているから、絶対に馬車の中から出ないでとの念押し付きで。


(そんなに厄介な事が起こったのかな…?)


 気になるものの、婚約破棄された私にとって1番大事な事は無事に実家に帰ること。それはどうあっても変わらない。だから、どれだけ歯がゆくても今の私に出来ることは、自分の幼馴染たちを信じて待つだけなのだ。


(どうか2人が無事でいますように)


 私は静かに祈った。




 そうして待つこと2時間ほど。


 辺りが夜に飲み込まれたころ、馬車のドアがノックされてカインの声が聞こえた。ドアを開けた私は目の前に広がった光景に目を見開く。


「え、2人ともその格好どうしたの?」


 ドアを開けた先に居たのは、長い黒髪のカツラを被ったヴァンと短い銀髪のカツラを被ったカイン。カインはヴァンの格好で、ヴァンは髪だけ長いという状況に困惑する。


「ん〜?ヴァンちゃんのしゅみ♡」


「勝手なこと言うな!!」


 にへらっと笑ったカインにヴァンがそうキレながら黒いカツラを足元に投げ捨てた。そしてカインの頭から自分の髪色のカツラを剥ぎ取って回収する。「ヴァンちゃんたら積極的〜」と揶揄うカインを無視して、ヴァンは足元のカツラとカインから剥ぎ取ったカツラを荷台に詰め込んでため息をついた。


「ぼさっとしてないで仕事しな!今夜のうちに国に帰るよ!」


「ふふっ♪はぁ〜い」


 いい笑顔で御者台へと消えていくカイン。相変わらず夜になると生き生きし始める男である。


 機嫌が悪いヴァンを置いていかないでと思うも、既にカインの姿はなし。無言で馬車に乗ってきたヴァンになんて言葉をかければいいのか分からず、私はあ〜だこ〜だと考える。しかし、言葉が見つからず、馬車内にはなんとも言えない空気がただよう。


 チラッと横に座るヴァンの横顔を盗み見ると、目が合ってしまう。ギロりとその綺麗な瞳で睨まれ、慌てていた私の耳にヴァンの小さな声が聞こえてきた。


「…あんなの俺の趣味じゃないから」


 ムスッとした表情で告られた言葉に、私は一瞬呆けるてしまった。趣味じゃないとは?ん〜趣味、しゅみ…ああ!


「大丈夫だよ、ヴァン。私、誰にも言わないからね?」


 私なりの精一杯の気遣いがこもった言葉に、ヴァンの表情がにっこりと擬音がつきそうなほどの笑顔になる。…おっとぉ?これは言葉を間違えましたね。


「ちょ〜っと説教が必要なのかなぁ??」


「そ、そんなぁ……」


「黙らっしゃい!!!」


 狭い馬車の中でヴァンから逃れられるはずもなく。あっさりと壁際に追い詰められる。背後に般若を背負うヴァンと逃げ腰の私。どう見ても詰みですわ。


 そんな私たちをにこやかに見守る侍女たち。ここにいる侍女たちはヴァンの親戚の方々で、私たちが幼い頃から仕えてくれている人達なので、助けを望めそうにもない。私は泣く泣くヴァンによる説教「紳士・淑女編」3時間みっちりコースを大人しく受けることにしたのだった。



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