奪われた魂世記
改行を使い、書き方を変えてみました。
以前に投稿したものも、この書き方で統一しようと思います。
「うおーっ、すっげー! ひょっとしてこの建物、神王邸より立派なんじゃないか?! 恐るべし、邪神力!」
神王邸は白い壁に金の装飾、ドイツかなんかにあるノイシュバンシュタイン城のような外見だったが、この邪神王事務所は黒い壁に赤い炎。まるでスーパーマリオシリーズのクッパ城だ。それに大きさは3倍以上はあるのではないだろうか。建物の上の方は黒い霧で隠れていて見えないから、これよりもさらに大きいかもしれない。
「そうね、確かに大きいわ。多少、こ、怖い印象は否めないけど……」
「え、まさか、ミカサ怖いの?」
「ち、ちがうわよ? は、初めて見る人はちょっと怖いかもっていう意味よ、ほら、黒いし。別に私が怖いわけじゃ……」
と言いながらも、神王邸の時のように手が震えている。
「そ、そうか」
前を見ると、夜川が門の横の機械で城(事務所)の中と連絡を取っている。フェニックスはその背中をつついて遊んでいるが。
「フェニックス様がお戻りになられた。ついでに神界より客神が来ておる。神王様にお通ししろ」
「はっ、夜川様」
邪神王側付きってことは、秘書みたいなものなんだろうから、意外と偉い役職なのか。それともただのフェニックスお世話係か。かまってほしいと夜川の髪(神)の毛を引っ張るフェニックスを仕方なく撫でている彼を見ると、そう思えてくる。
「ミカサ殿、一樹殿、謁見許可がおりたので、中へ案内させていただく」
「あ、どうも」
夜川が操作していた機械のスクリーンが暗くなるとともに、大きな門がギギギ、と音を立てて開いた。
城(事務所)の中へ入るのにもいろいろ時間がかかるんだな。そういえば、神王邸のときは何もせずただ普通に扉を開けて入ってしまったが大丈夫なのだろうか。カレスティナとラリーゼの二人が付いていたからなのか、神王邸が無防備すぎるだけなのか、別に仕事場なんて守る必要ないとか思っているからなのか、もしくは神王がやる気がないからか。
まあそれはともかく、とりあえず中に入って邪神王に話をしようじゃないか。スピーウィはガキっぽい見た目だったし、今度はどんな神様なのかとても気になってしょうがない。
「お帰りなさいませ、フェニックス様に夜川様。執務室へ向かわれますか?」
夜川と同じようにスーツを着た受付っぽい女性が丁寧にお辞儀をして問う。
「いや、来客があるので、このまま邪神王の方へ向かわせてもらう」
「畏まりました」
神界の神王邸よりきっちりしていて、本当の事務所という感じがする。
そう思うと神王がどれだけ異質なのがわかったが、あれは大丈夫なのだろうか。仕事場でペンや置物を部下に投げつける(キャッチされるか避けられる)神が、神界を統べられるのだろうか。そしてその世界に元の人間の世界が管理されていると思うと不安になってくる。
この事務所はどうやら、5階建てらしい。一階はここで働く神たちの住処となる寮、二階が仕事場で、三階、四階に倉庫や資料館があり、五階には王の部屋しかないんだそう。1階建てでオフィスしかない神王邸よりよっぽどしっかりした造りである。
五階へは、『短距離転移装置』と呼ばれている四角い板を使って行った。二枚セットで一枚の上に乗ると、もう一枚の板の上に転移できるというもの。乗っている感覚としては、上るスピードの速いエレベーターに乗ったときのフワッとする感じ。久しぶりにジェットコースターに乗りたくなった。
元の世界に帰ったら、親の目を欺いて息抜きにテーマパークでも行こうかな。もちろん某夢の国みたいな大きいところじゃなくて、もっとシンプルな普通の遊園地でいい。バレたら本気で怒られそうだけど。
「ただいま帰りました、夜川です。南の神界境界ゲート付近にてフェニックス様を発見、連れ帰ってまいりました」
「ご苦労。ゲートとは、なぜそのような遠いところまで。あそこは謎のゾンビの目撃情報が絶えないところではないか」
夜川がひときわ豪華な扉をノックし、重そうに開けて入った。
中から夜川の声のほかに、低い女神の声がする。まさか邪神王は女性なのだろうか。
「それが、神界からの客神がそのゾンビに襲われそうになっていたのでございます。フェニックス様がご加護を与えなければ、今頃どうなっていたか」
そう言って再び扉が開く。夜川が手で招くので入るとまあそこは、扉に似た豪華な部屋であった。
そして一番奥の机に座っていたのが、美しい冠をかぶり、黒いマントを羽織った女神。先ほどの声の主、邪神王だろう。
「神界からといえば、神王の代理か。よく来たな。名を、何と申す?」
「は、はい、僕は一樹です」
「私は、ミカサです」
「そうか。私は邪神王アルヴァンテである。よろしく、カズキ、ミカサ」
長い黒髪に赤い眼をした女邪神アルヴァンテは、フェニックスを受け取ると夜川を退出させ、一樹たちにソファを勧めた。
ご主人様のもとに帰ったフェニックスは嬉しそうにアルヴァンテに頬ずりしていたが、くるるっと鳴くと今度は、一樹の頭の上に乗っかった。
「はは、だいぶ懐いているようだな、カズキ。フェニックスは滅多に神界の神には懐かないのだよ。前に来た神王が、撫でようとしたら指を噛まれてね」
あ、それで自分ではなく代理者が邪神界に交渉に行くなんて決まりを作ったのか。
神界の神には懐かないのに、フェニックスが僕に懐くのは、僕が神ではなく人間だからではないか。でも最初、ミカサが撫でた時は気持ちよさそうにしてたから、神全員を嫌うわけではなさそう。
「それにしても、この時期に代理者を送るなんて珍しい。会合はまだ三ヶ月先であるが、もしや神王、ボケが始まってるのではなかろうか」
「あ、いえ、今回は別の急案件で、邪神王様に頼みたいことがあり、ここへ参りました。実は、神界と人間界とのパイプが、壊れてしまったのでございます」
ミカサがこれまでにないほど丁寧な口調で、ゆっくりと訳を話した。
「つまり、魂世記を借りに来た、というのかね」
「はい、よくお分かりで」
「……残念ながら、それはできん」
アルヴァンテは腕を組んで、しばらく唸り考えて、答えを出した。
一樹もミカサも、はっと息を呑んだ。
「わざわざここまで来ていただいたのに、本当に申し訳ない。しかし、貸すことはできない」
「……訳を、お聞かせもらっても、よろしいですか?」
「魂世記は、私の手を離れてしまった。奪われたのだ」
「それは、誰に?」
「間世神ヨルシカ」
ビトウィーナー? 誰だそれ。
Betweenが間、という意味だから、世界の間にいる神、とか?
「間世神とは、邪神界と闇の狭間に住む生物と言われているわ」
「神とは認めがたいがな。やつらは、闇と邪神界を行き来しては何かを奪って去っていく。この前はその間世神に、邪神王事務所並列図書館を奪われたのだ」
え、そんな簡単に奪われるようなものなの、図書館て。ファンタジー系の本でしか読んだことないよそんなの。そもそも闇ってなんだし。
「で、その図書館に魂世記__アルミターナがあったと」
「ああ、そうだ。ヨルシカから図書館を取り返さねばならない。しかし、ただ取り返しただけではあやつは再び奪いにくるだろう。だから、ヨルシカ討伐を狙いたいのだ」
「なんでできないんですか? 邪神の力でなんとか倒せそうに感じますけど」
「わからぬか。間世神は闇に住んでいる。次にいつこちらへ来るか誰にもわからないのだ」
「邪神が闇に行くってのは」
「闇というのは未知の世界。中がどうなっているかも、無事に帰ってこられるかもわからない。誰も行きたがらないのだ」
で、間世神は自由に行き来できると。なんて不利。
さて、どうするべきか。
Betweenの読み方、カタカナで書く場合はビトウィーンとビトイーン、どちらが正しいのでしょうか。発音的には「ウィ」な感じがするんですけど……。