不思議な鳥と邪神力
「えっと、この鳥、何?」
一樹の手の上には、今も赤くて大きな鳥が特等席とでもいうかのように陣取っている。
「くるっくるるっ」
「すごく可愛いのね」
「……うん、そこは同意する」
赤とオレンジの羽は風が吹く度にふわっと軽く浮き上がり、首のあたりの羽毛はさらにふわふわで布団に使われるあれの10倍は柔らかそうだ。尖ったクチバシがどこか威厳を持たせるが、つぶらな黒い瞳は優しさに溢れている。雌だろうか。鋭い爪がついた足さえも可愛さの一部に思えてきてしまう。
そこで、ミカサがあることに気づいた。
「ねえ、一樹。なんか首輪がついてるんだけど」
ふさふさの羽毛に隠れて、何か鎖のようなものがくっ付いている。
「首輪?誰かがこいつを飼ってたってこと?」
「そうみたい。逃げてきたのかしら。ずいぶん一樹に懐いてるみたいだし」
懐かれるのはいいんだけど、餌とか何も持ってないしな。どうすればいいんだろ。
「フェニックス様!!!」
突然の大声。音のする方に振り向くと、何やら黒いスーツのような服を着た男。
「「__は?」」
おじいちゃん、といったところだろうか。
神の子供の姿しか見てこなかった一樹も、おじいちゃんというものをあまり見たことがなかったミカサも、目を見開いて驚く。
その男(神)は一樹たちには目もくれずにフェニックスことその赤い鳥を抱えて撫でまわす。
次にフェニックスが嫌がって翼をはためかせるのも構わず抱きしめる。
そこまでは、ああ愛着があるんだな、とみていたが、頰ずりまでしだすとちょっと引く。さすがに見た目30歳の男がペットの名前に『様』つけて撫でまわしているのを見せられても、ね。
「フェニックス様! 探したのですぞ?!」
「くるっくるるー」
フェニックスはやっと解放された、という風に一息吐いてから、全身の羽を逆だたせてブルブルッと震わせた。
「せっかく綺麗になりましたのに、まったく……」
いや、お前が抱いたせいだろ、と一樹とミカサ二人で同じことを思って目配せする。
「すいません、あの__」
いい加減黙っていてもどうしようもない、とミカサが一歩踏み出して話しかけようとする。
「__だ、誰ですかこの人たちは?!」
途端に飛び上がるようにして驚かれた。
別に最初からここにいたし、この人が勝手に僕ら無視してただけなんだけど。
「くるるっくるっるる」
「ともだち、ですと?!何をおっしゃるんですかフェニックス様、お仲間でしたらフィナシェ様もルクス様もいらっしゃいますのに」
驚く反応だけで再び、二人の世界に入られてしまう。
このおじさん、鳥と話せるのか。
フェニックスにともだちと読んでもらえたのは光栄だと思うが、フィナシェ(?)とかルクス(?)とか謎の言葉も聞こえた。他にもフェニックスのような鳥がいるのだろうか。確かルクスは照度の単位だった気がするが。
「くるー!!くるるるるる」
「あ、も、申し訳ございません。では、帰りましょう」
フェニックスが何を言ったかは一樹たちにはわからなかったが、男(神)はフェニックスを連れて元来た道を帰ろうとして、
「くるるっくるるっくるるるるっ!」
叫ぶような甲高い鳴き声とスーツを足でがっちりと掴む強い力によって止められた。
「この二人も連れて行け? なんでです? というか誰ですか、あなたたちは。先ほどからフェニックス様をじっと見つめて」
いや、さっきそれを話そうとして話を切ったのはお前だろ、と言いそうになって、口を歪めて堪えるミカサ。
「さっき、ゾンビに襲われそうになったところを、助けてもらったの」
「きゅるっ!」
ミカサの言葉にドヤ顔で胸を張るように、男の頭をくちばしでつつくフェニックス。
「なんと?!」
たったそれだけの言葉なのに、なぜかオーバーアクションで一樹の予想以上に驚く男。
「フ、フェニックス様のご加護を受けた……? しかも初対面で……?!」
そう言って一樹たちの体を見回す男神。フェニックスはその男のと一樹の頭を往き来して遊んでいる。
「なぜこのような辺境地に迷い込んだのか、なぜフェニックス様がこちらに引き寄せられたのか。詳しいことを知りたいのでご同行願いたい。名前を教えてくれ」
男はずっと目を細めてこちらを睨んで言った。先ほどの慌てようとフェニックスへの態度から一変した威圧感に圧倒される。
「は、はい、俺は、神王代理者のカズキだ」
「私は、同じくミカサよ」
「神王の代理、やはり向こうの世界の者であったか。私は邪神界中央庁、邪神王側付きの夜川である。これから、邪神王事務所に行くため転移を使用するが、問題ないな?」
かしあ、りんく……?
「ええ、問題ないわ」
「いやちょっと待て、まだそれが何かも知らないのに問題ないとは言えないんだけど。そもそもいきなりこれから中央庁行きますって時点で問題ありありなんだけど」
「大丈夫、向こうで使ったマデスタイトと同じようなものよ。ただ、怪我しても直してあげられる保証はないから、今度はストームエリアから手を出さないでね」
そ、そうなのか……? 本当に信用していいのか? でも、多分中央庁ってところに行かないと魂世記が貸してもらえないんだろうから、早く帰るためには信用したほうがいいんだと思う。
「わ、わかった、問題、ない」
「了解した。では、カシアリンクを行う。この中で一番邪神力が強いのはフェニックス様だから、お二人はフェニックス様の足に触れなさい」
「くーるるっ!」
カシアが強い人が転移をする、なんて決まりがあったのか。一人一人の力か決勝の持つ力で行う神界の転移とは違う方法だ。
フェニックスが喜んで差し出した右足を包むようにそっと触れる。ミカサも左足に触れた。
「くるるる、くる〜っ!!」
全員が触れたところでフェニックスが嘶き、その場で翼をばさっと動かした。
途端に、周りに風が巻き起こる。風は強さを増していき、マデスタイトを使った時のように一樹たちを取り囲んだ。
今度は、動かないよう注意する。
「くる〜」
頭の上に何かが乗って、鳴いた。フェニックスだ。
「あ、あれ」
目を開けると、そこには大きな赤い砦のような建物。
邪神界中央庁だった。