異世界旅行はみんなで楽しく
「お前さんは知っとるだろうが、ニンゲンのお前のために説明してやる」
怒りが収まったのかまだ収まってないのかわからない神王様は、ミカサと一樹に向かって順番に指を指して話し出した。
「魂世記というのは魂世の王が所有している古い書物で、神が生まれてから今に至るまでの全てが書き記されておる。もちろん、今回壊れてしもうたパイプのこともな」
「あの、魂世ってなんですか?どこにあるんですか?」
最初からわからない単語ばかり出てきたので僕は神王に聞いたつもりだったんだけど、隣のミカサが口を挟んだ。
「魂世っていうのは、消滅後の神とかの魂が送られる場所のことよ。どこにあるといえば、遠く、というのが最も適切かしら。神界から邪神界へ行くにはたった一つのワープゲートを通る必要があって、どのくらいの距離のところにあるのかは神王様でも知らないのよ」
やはり神王は再び顔を真っ赤にした。
「えーいっ!!口を挟むでないこのポンコツ言語係が!わしの説明する部分がなくなったではないかっ!」
「なにがポンコツよっ!私はちゃんと仕事してるわ!説明する必要なくなったんだから別にいいじゃないのよ」
神王に全く物怖じせず張りあえるところがすごい。
「ミカサ、それくらいにしとったほうがええで。怒るとこの顔のまま巨大化してキモいから」
「ラリーゼっ!今キモいと言うたな!」
「キモいやんけ。事実言って何が悪いん?」
「ティナまで!仕事増やすぞこのやろー!」
「わーそれは嫌やねー」
「わーそれは嫌やわー」
「お前らっ!いい加減にしろっ!」
ラリーゼとティナまで巻き込んだ大口論が始まったので、とりあえず僕は城の端まで退避する。と、すぐさまミカサに見つかって、
「何逃げてんのよカズキっ!」
と連れ戻されてしまう。
結局話の続きが始まったのは5分くらい後で、その間僕はミカサに腕を掴まれたまま突っ立っていなければいけなかった。
「ワープゲートはこの王邸の裏庭にある建物でしっかり管理しとる。この代理者証を提示すればゲートが開いて転移できるはずじゃ」
そう言って神王は机の引き出しから2枚の紙を取り出すと、僕らに渡した。
王邸の裏庭に異界へのワープゲート。
「そんな安っぽ……じゃなくて何も書いてない紙で開くなんて、不正はいくらでも出来そうだけど、その辺どうなんですか?」
「ふん、何もわかっとらんようじゃな。これはわしが作った紙じゃ。こうすると……」
スピーウィが紙を頭の上に掲げると、途端に紙が白く光り出した。
「わしが持つ強大な神力を含んだ紙だからの。それに、わざわざ邪神界へ旅立とうなどという勇敢な神は今の所おらんから不正もないんじゃ」
これがシアか。なんだかすごい冒険が始まる予感がする。勇敢な神でないといかないということは、邪神界とはそんなに危険な場所なのだろうか。
「ここからは向こうでの注意点じゃ。邪神界ではシアが使い物にならない。明かりを灯すくらいならできるが、治療などもってのほかじゃ。更にシアを利用したすべての結晶はただの綺麗な石と同じになる。くれぐれも忘れんように」
なるほど、神と魂では使う力が違うのか。転移結晶を使わなくていいのは適応の高いらしい僕にとっては好都合。しかし、治療結晶が使えないため迂闊に怪我してはいけないということだ。
これにはミカサも不安なのかスピーウィの机にある保管袋に自分の持っていた結晶を次々と出しながら顔を歪めていた。
「はい、じゃあ裏庭のゲートまでまたウチが案内したるわ。ほな行こか」
ここから、僕の愉快な異世界旅行が始まる。