死ぬんですけど、何をすればいいですか?
「___一樹!大丈夫?!」
目が覚めた。
ミカサが目の前にいて……さっきとは違う、大きな城の前に来ている。
神界にきたばかりの一樹でもわかることだ。
「もう、なんで転移中に動いちゃうのよ。確かに、何も説明してなかった私も悪いけど…」
ああ、そうだ。僕は転移とかいうのをしようとしていたんだっけ。知らない場所にいるということは、転移には成功した……。では、なんで僕の意識はなくなった?
「痛いっ!」
再び激痛が走った。
痛む左手を、首を下に向けてそっと見る。
「ひっ!なんだこれは?!」
手首がぱっくりと割れていて、血が噴き出している。
「これでもよくなったのよ」
ミカサがため息をつく。
これでよくなった?!まだ痛いのに?中学の保健の授業で習う、治療の基本は
1. 出血を止める
2. 痛みを和らげる
3. 細菌感染を防ぐ
だけど?
まあさすがに、神界で③はないとして、①も、②もできてないじゃないかっ!
ミカサが僕の気持ちを汲み取って、こめかみを押さえながら言った。
「右手の方が怪我が酷かったから、そっちの治療を優先したの。そしたらシアを使い果たしちゃって…」
みると、右手はなんともない、いつもの状態だ。ただ、少し感覚が薄いかも?
今、ミカサなんて言ったか? シア? シアって何?
「それに!左だって、これでも、バラバラだった手や指を全部くっつけてあげたんだから」
ミカサは困った僕を見て必死で弁明する。
手がバラバラ……。
「なんで?どうしてこうなった……?」
「一樹の晶石適応が強すぎて、通常の3倍もの威力が発生したの。そこで手をストームエリアから出してしまったから、その威力が風になって手を吹っ飛ばしたのよ」
あ、あだていと?ストームエリア??なんだそれ?
ああ、なんだか視界がぼやけてきた。血が足りないのかな。
「ごめんなさい、私、治癒結晶少ししか持ってきてなかったの。だって、まさかここで怪我するとは思わなかったし」
うん、まあそうだね、僕も思ってなかった。
「ねえリサ、どうしたらいいと思う?この辺でサニタイトかシア復活結晶をもらえるところないかしら」
ん?リサ?リサは呼ばれてないからここには来ていないはず……。
慌てて周りを見回してみるが、一樹の隣にいるのはミカサだけ。え、まさか見えない友と会話してる?
もしかして、この世界にもAIスピーカーなるものが?
もうわけわかんないんだけど。僕にもわかるように説明してくれないものかなあ。
「うーん、私の知ってる限り……ここから1番近い街でも結構遠いかなー。また転移するのも苦痛でしょう?」
なんとリサの声が聞こえてきた。まさか幽霊?いや、神様死んでも幽霊にはならないだろうし。そもそもリサは死んでないし。
「どうしよう、でもこのまま神王邸まで行ったら一樹死んじゃうわよ」
そう言っている間も僕の血は減っていく。僕が幽霊になっちゃうよっ!
ああ、やっぱり、ミカサとリサが会話してる。神界でも幻聴が聞こえるほど疲れてるんだな、僕は。
「一樹? どうしたの? 死にそう?」
治してもらった右手で頭を抱える僕を見て、ミカサが心配そうに振り向いた。
「死にそうってひどいこときくなあ。でも、大丈夫、幻聴が聞こえるだけ」
「幻聴?どんな?」
苦痛に顔を歪める僕を見て、納得したように頷くミカサ。
「ああ、そういうことね」
そう言って、いつの間に現れていた、宙に浮いたモニターのようなものを指で操作し、僕の方に向けた。
リサの不思議そうな顔がモニターに映し出された。
「一樹、これはね、コミュニケイト、と言って、違う場所にいる神と会話できるものなの。地球人で言ったら、デンワみたいなものね、わかる?」
「わ、わかる」
「私はこれでリサと通信していた、それだけよ」
「は、はあ」
「ミー、どうしたの?」
「一樹にコミュニケイトの説明してたのよ」
ミカサが表示させた、コミュニケイトの中で、リサが納得したように深く頷いた。
そして、首をかしげて、
「あら、その説明を聞けるぐらい元気なんだったら治療いらないんじゃないかしら?」
あのー、リサさーん、僕死んじゃいますー。
「確かに!サニタイトが無駄になっちゃうものね」
あれー、ミカサさーん、そこ賛成しちゃだめなとこなんですけどー!
僕死んじゃうー!!
「嫌だ嫌だ! こんなとこで死にたくないよ! 治療してくださいお願いしますお願いしますー!!」
「もう、わかってるわよ。ミカサが親王邸に、あなたの死体を持って行くことになるなんて、ミカサの気持ちも考えてほしいわ。それに……」
「それに?」
スクリーンの向こうで、リサがニヤリと笑った。何かある。
「ミカサがあなたのこと__」
「やめてっ!!リサ、余計なこと言わないのっ!バカっ!」
え……。ミカサが僕のことを、何?
「一樹、そんな深く考えなくていいのよ。リサは、私があんたを無事に帰らせてあげたいって思ってる、と言おうとしたのよ。気にしないでね」
「いや、それなら余計なことじゃない__」
「んもうっ!だから、気にしなくていいのっ!お願いだから忘れてっ!」
ミカサは僕の肩をゆすって言った。
いや、そんなに強くゆすったら、僕の体にある残りの血が全部外に出て死んじゃうんだけど……。
「あのお……」
いきなりミカサの後ろで声がした。慌てて彼女が振り返ると、そこには2神、見た目小学生ぐらいの神がいた。
「ミカサって名前のやつ見んかった?」