神はネトゲに夢中?
「リサ!あんたが喧嘩に乱入してどうすんのよ!神王様に命令されたら連れて行くしかないでしょ!そんなこと、喧嘩しなくたってわかることだわ」
ミカサがリサを叱るのを初めて見た。でも、リサは怒るとつい何でも言ってしまうタイプみたいだ。さっきの運の神のことでもすごい怒ってたし。
「そうね、ミカサ。この子の荷物っていらないわよね。スマホはポケットに入ってるみたいだし」
スマホ、と聞いた瞬間、ファルストナの目が輝いた。
「え、君、スマホ持ってるの?!ボクに見せてよっ!げーむしたいっ、げーむ!」
え?こいつもスマホ知ってんの?
あ、そういえばリサが、ファルストナが呼んだ人間がスマホ依存だったって話をしてたな。
でも、ゲームしたいと言ったって、僕のスマホにはそこまでたくさんゲームが入ってるわけじゃないし。
「こら、ファル、どこまでニンゲンに迷惑かける気だ?げーむなんかに夢中になって、神の仕事おろそかにしてどうするんだ!」
「ひ!ご、ごめんなさいっ!」
怒られたファルストナは必死でペアに言い訳していた。さっきから、彼女はペアを怖がっているように見える。仲が悪いのだろうか。
「だってあれ面白かったし。サーシャルもやったでしょ?あの変なものつなげるやつ」
おいおい、変なものつなげるやつってなんだよ。パズル系?ゲームの知識はないからわからないけど、きっとあのしょっちゅうCMが放送されているやつだろうな。
「うむ、まあ楽しかったが。あれはなんだか、この神界にはない不思議な機械だったな。俺も仕組みを知りたいとは思う」
サーシャル、と呼ばれたこのペアの表情が一瞬だけ緩んだ。仲が悪いわけではないらしい。
て、何賛成してんだよこのポンコツペアがっ!
「でしょでしょ〜、また遊びたいでしょー?」
するとミカサが
「ごめんね、ファルストナ、もう時間だから、行かなきゃいけないのよ。帰ってきたら見せてあげるから、ちょっと待っててくれる?」
と、珍しく最もまともなことを言った。
「あ、そっか。残念……。また今度ここに帰ってきたら、ボクのこと呼んでねっ! 待ってるよー!」
この言葉をきっかけにしてみんなからの見送りの言葉が続々と続いた。
「行ってらっしゃい、ミカサ!」
「気をつけてねー! そのニンゲンさんも、いってらっしゃい」
「早く帰ってくるのよ!」
なんだか、結局僕も行くことになったみたいだ。ますます帰りづらくなるし、でも行かなかったらパイプが直せなくて帰れなくなるし、どっちにしろいかないっていう選択肢ないし!
このうるさいミカサと2人きり?そろそろおしゃべりで耳が壊れそうだ。まあ、母さんよりは性格いいけど!
「ほら、一樹、早く行かなくちゃ。荷物は……なんか必要?」
まあそりゃそうだなあ、もう放送があってから1時間ぐらい経ってるからね。そろそろ遅すぎて怒られそうだね。
「荷物はスマホがあれば十分……だと思う。それでも、早く行くって、どうやって?」
ぶっ! ミカサが突然吹き出した。
「やだっ笑えるっ! そんなの、うふふ! 転移するに決まってるじゃなあい!」
転移?ああ、神が使える権能?いや、それってでも、僕にはできないんじゃ……
「ほら、こっち来て!」
見ると、ミカサが手招きしている。
「もう早くっ! はい、これ」
急いでそちらに行くと、ミカサから何かを渡された。石、のようなものだ。中学の数学で出てきたような正二十面体で、黒く、ツヤがある。
「なんですか……これ?」
よく見ると尖った先に、白くて丸い出っ張りがあった。
「転移結晶って言うのよ。その白いボタン、押してみて」
「は、はあ…」
とりあえず、押してみる。
「これでいいんですか?」
前を向くと、ミカサの姿はなかった。
「あの、ミカサ__!」
その瞬間視界が真っ白になった。体の周りで渦が巻いているように見える。思わず手を動かす。
全身が熱くなるような激痛が走った。
意識がなくなる直前、誰かが僕の名前を呼んだ気がした。