神々の喧嘩も人間同様
リサも協力して、全ての荷物を運び終え、とうとう出発することになった。広場のようなところに、他の神も集まり、僕も呼ばれた。
するとそこに、
【言語係・ε班のミカサに放送する。言語係・ε班のミカサに放送する】
再び放送が入った。あまりにも遅いから怒られたのだろうか。
【もう1人、研究対象のニンゲンも連れて行きなさい】
研究対象の、ニンゲン……。
一斉に全員の顔が僕の方に向いた。
「え……?」
「なぜ……」
なぜって僕に聞かれても、わからないよ。研究対象なんて僕の他にもいるんじゃないの?ここに来ていないだけで。
「今まだ戻れてないニンゲンって、一樹だけ、よね。連れて行くって…」
「…どういうこと?何が起きてるの?」
「あんた何したのかしら?」
集まった神が騒ぎ出した。
いやいや、何したのって何もしてないよっ!
でもなんで僕だけ…?僕はなんのために行くの?2人で行くならリサでいいじゃないか。
【繰り返す、もう1人、研究対象のニンゲンも連れて行きなさい。以上、報告する】
「僕、なんで?なんで僕も呼ばれたの?」
「知らないわよ、そんなの、あんたの問題でしょ?」
そう言ったのは、ついさっき『何したの』と聞いてきた栗色の髪の少女。その子のペアらしき少年が慌てて、
「ちょっと、冷たすぎだよ、マグ」
と注意。他の神も続く。
「その言い方はないぞ、マガラノカ。ニンゲンも困ってるじゃないか」
あ、聞いたことある名前。そうかこいつがミカサが嫌っていたマガラノカか。尖った鼻に鋭い目、いかにも性格悪そうな顔だ。まあ、今注意したペアの子がそれを和らげているみたいだが。
「でも、ナユセラ、事実でしょう?私たちになぜなんて聞かれても、しょうがないわ」
「そんな言い方は良くないよ、マグ!事実でも言わない!」
「おいおい、こんなとこでペア喧嘩か?みっともない。ボクなら思ってても口に出さないよ」
止めたのは、一人称が「ボク」のボーイッシュな紫髪の少女。
「あんたもその口調なんとかしたら、ファル?女神なんでしょ、このまま男神になっちゃうつもり?」
「ボクのことを軽々しく呼ぶんじゃないよ、マグ。ボクはファルストナだ」
どうやらファルストナはこだわりが強そう。性格はいい(?)みたいだけど。
「ファル、やめな。お前がそんな奴と張り合ってどうする」
すかさずペアが止める。
「ご、ごめんなさい。つい…」
ファルストナはいきなりシュンとして肩を落とした。
「ちょっと、ここで喧嘩なんかしたって、なぜ研究対象を連れて行かなきゃいけないかわからないじゃない。どうするの?」
どんな時でもリサは止める。
「あら、さすがリサ。こんなとこでも偉い子ぶるのねえ、あんた」
で、そこに嫌味をぶつけてくるのがマガラノカ。リサも言い返す。
「ああ、そうだったわ、あなた、偉そうにしてもみんなに無視されてしまいますものね、マガラノカ様。いっそ、神王にでもなっちゃえば?」
今度はマガラノカとリサの口喧嘩が始まった。リサも全然負けてない。というか、リサの方が強いし、みんなこっちを応援しているように見える。
「そうだそうだ言ってやれ、リサっち!マガラノカなんかに負けるな!」
いろいろなところで同じようなリサへの声援と拍手が沸き起こる。こいつらほんと何なんだ!これだったら元の世界の学校で喧嘩してるバカどもと同じじゃないか。
一樹はどうすることもできなく突っ立っていた。