危機!
【言語係・ε班のミカサ、言語係・ε班のミカサ、神王邸で神王様がお呼びだ】
ミカサがハッと息を呑んだ。
いぷしろんはん?ペアの名前だろうか。ともかく、ミカサが呼ばれたの?
「今なんて?!」
【繰り返す。言語係・ε班のミカサ、言語係・ε班のミカサ、神王邸で神王様がお呼びだ。早急に行きなさい】
もはや命令。神王邸は神王の家なんだから、そこに呼んでもらえるなんてすごいラッキーじゃないか。
しかしミカサは喜ばなかった。むしろ悲しんでいた。
「うそっ!」
「そんな!私だなんて!」
ミカサの目から涙が流れた。リサも泣きそうな顔をしている。
「まさか呼ばれたのがミーだとは。これ、夢よね?!」
夢?なぜ?王に呼ばれるんだから、名誉なことじゃないの?代理を任されるなんて、召喚係なんかよりずっといいじゃないか。
「なんで嫌なんですか?」
リサは涙を拭いながら答えた。
「サクレーシャル法典第16843条、神王代理者になったものは、今組んでいるペアを解散すること。だから私は…私たちは…」
さ、さくれーしゃる…?
「ペアを解散しなくてはならない、そういうこと?」
「ええ。今までの神王代理者はもっと上の、神界中央庁の幹部とかの偉い神がやってきたから、私たちが解散するなんて考えてもなかったわ」
解散する、そう聞いた途端にミカサは大泣きした。
「なんでわたしなのぉ!リサと…リサとずっとずーっといっしょ…いっしょにいたかったのに!」
顔に似合わない泣き方で大号泣しているミカサは、リサにも止められなさそうだ。まるでさっきとは性格が変わってしまったかのよう。声も幼くなっていた。
「ええ、私もずっといっしょにいたいわ。でも、私たち、隣にいなくても繋がってるでしょう?召喚の時の、結晶結んだときみたいにね。だから、大丈夫よ。急いで取ってきて、早くペア復活しましょ!ほらほら、もう泣かないの、準備しなくちゃ」
こうやって見ると、リサはミカサの母親みたいに面倒見がいい。僕の母さんなんて母親らしいことをされた覚えがないほどだ。まあ、僕が泣き虫じゃないし1人で生きてこれたっていうのもあるけど。リサみたいないい母親が欲しかったな。いっそ、ここで一生を終わらせてもう向こうの世界に戻らないっていう選択肢もあるかもな。そうなったらあっちの世界では、魂の抜けた僕が寝ているだけで、母は絶対に悲しまないだろう。
て、僕は何を考えているんだ。
「だって、だってえ…。りさああぁぁぁぁぁ!」
「はいはい、ミカサのペアの、リサですよ」
ミカサは一向に泣き止まない。リサも頑張ってなだめようとするのだが。
「早急にって仰ってたでしょ?早く支度しなくては、神王様に怒られちゃうわよ」
もはや幼稚園生相手。この神界に幼稚園があるかどうかは別として。
ミカサとリサはすご息があっていたから、それほど長いペア歴なんだろう。2人が離れたくないのは、子供の頃、最初で最後の親友が外国に引っ越してしまった僕にもわかる。
「ミカサが泣くと、私も泣いちゃうんだから、早く泣き止みなさいよね」
リサは涙を必死に隠しながら、無理矢理笑ってごまかす。
「リサは泣かないで!私、頑張るから!笑って帰ってくるんだから!」
その一言でミカサが泣き止んだ。ふたりはまだ涙を流しながら、でも笑いながらモニターを使って支度を始めた。
よくわからない二人の世界だ。僕が入れるもんじゃない。