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第9話 化物の本気

凍りついたような張りつめた空気が道場を支配していた。


「二人とも準備はよいか?」


壮厳が対峙する二人に確認を取る。


一人は幼少より次元流を骨の膸まで叩き込まれ、その力を世のため、人のために使い、力あるものはそれを世のために使うべきだと主張する少女、次元綾乃。


もう一人は己を化物と呼び、圧倒的な身体能力で全てを押し通し、その力ゆえに、自らの力を抑制し、忍び隠れるように生きる青年、影山一樹。


二人の意地の張り合いが今始まろうとしている…


「いつでもどうぞ!」


「ハッ!とっと始めて、とっと終わらそうか!」


「では、はじめっ!」


壮厳の合図と同時に木刀をふりだす綾乃。

しかし、その動きはすぐに止まった。

否、止められたのであった。


は?と驚愕する綾乃だが、すぐに視界に一樹が居ないことを確認すると、木刀を手放し右側より抑えられて居ることに気付き、そちらに向け蹴りを放つ。


その鋭い蹴りを一樹は上体を反らす事により、紙一重で避ける。


「ふ~ん、思ったよりいい反応だな。判断力もいい。人間にしてはやる方だな。」


「お前にに誉められるとはなぁ。今までの鍛練の成果が実っているという事か。」


二人ともニヤリとしながら言葉を交わす。


「所でお前は今なにをした?私が見失うなどありえん事だ。」


「ワシにも見えんかった。まるで瞬間移動のようだったぞ。」


綾乃は臨戦態勢を崩さず、壮厳は目をぱちくりさせながら、一樹に疑問を投げ掛ける。


「そりゃあ、企業秘密だ。それより、てめぇ!それが本来の得物じゃねぇだろ?」


「ん?どういことだ?」


「普段、何を振ってるかって話だ。」


「む?確かに普段は真剣を振っているが?それがどうした?」


「得物の重心が違うせいか、振りがブレてんだよ。それよか、なんでそれを持って来ない?舐めてんのか?」


「アホか馬鹿者!真剣なんぞ人に向けられるか!?」


「ハッ!てめぇごときの一撃が俺に当たるかよ!?」


「そういう問題ではない!真剣とは人に向けるものではなく、己の心に向けるものだ!」


「ハッ!次元流は剣道じゃなくて剣術だろ?剣術は殺しの技術だろうが!甘ったれた事言ってんじゃねーぞ!この、クソヴァージンが!」


「ヴァージンとは何事だ!女子に対して失礼だぞ!」


「ちげーよ!てめぇは殺しをした事がねーって事だ。そんなキリリングヴァージンの相手なんぞしてられるか!だいたい、剣術ってなんだ?あん?殺しの技術じゃねーのか?えぇ!?」


「それについては影山君の言う通りだ。特にウチは周りの流派が現代に合わせスポーツ化する中、頑なに変えて来なかった。」


「だとよ?どっちにしたって、てめぇじゃ話にならねぇ。俺の勝ちでいいだろ?」


「綾乃との力の差は歴然だしのぅ。それより、影山君は真剣での勝負を望むのかね?」


「そういう訳じゃねぇが、こんな尻切れトンボみてぇなのはスッキリしねぇなぁ。」


「ならばワシがお相手しようか?」


「なっ!?父上!なにをアホな事を言っておるのですか!」


「ワシもたまには全力でやりたいしのぅ!」


「御当主さま直々にか?いいだろう。ただ、中途半端な事はするなよ?正真正銘、全力で来い!」


「うむ!しばし待たれよ。」


壮厳はそう言うと道場の壁の一部を押した。

すると、壁の一部がまるで引き戸のようにスライドして、中から壁に掛けてある日本刀が数本見えた。

その内の一本を手に取り、壮厳が戻ってくる。


「また壮大なしかけだな?それよりも、その刀まさか残火(ざんか)か?」


「ほぅ!まさか残火を知っておるとはな!」


「父上、残火とはなんですか?」


「江戸初期から中期くらいまで存在したと言われる刀鍛冶集団だ。何十、何百と打った中で一本だけを残し名を刻んだと言われておる。残っておる刀は5本ともないと言われておるがのぅ。」


「そんな名の刀鍛冶は聞いたことないのですが…」


「あたりめぇだ。残火の刀は全て特化型だからな。刀がどんどん装飾品になっていく中、残火の刀は実用性だけを追い求めた。追い求めた結果一つの事に特化したんだよ。」


「そうだ。そして、そんな刀は当然実用され続けてきた。つまりは、ずっと裏社会を渡ってきたと言うことだ。この刀も先代から受け継いだ物だ。」


「そんな刀が現代に残っているなんて…」


「二代目残火作、瞬化終刀(しゅんかしゅうとう)、抜刀に特化した刀だ。抜刀に最も適した反り、長さ、厚み。それを徹底的に研究した二代目残火の集大成だ。その居合い抜きは、気づいたら切られていたと言うほどだ。」


「ほぅ、まさかそこまで見ただけでわかるとは!」


「残火作は特化してるから分かりやすいんだよ。実物を見るのは始めてだかな。」


一樹は珍しく興奮していた。

真剣が自分の向けられる事、その相手が一流の剣術家であること、そして、その刀が人を切る事に特化している事。

正に命が懸かった勝負ができることに興奮していたのだ。


「父上!そんなもの出してなにか起きたらどうするのですか!?」


「なぁに、影山君がそれを望んでおるのだ。それになにか起きてもそれは事故だ。」


「父上!訳のわからない事を言わないで下さい!影山!お前もよさんか!こんな事してなんになる!?」


「ハァ?化物を殺すのは人間なのは当たり前だろう?死んだら俺はそこまでだって事だ。それに久しぶりに骨のありそうなのとヤれそうだしな。あー後、俺を殺しても罪に問われないから安心しな!」


「影山!それはどういう意味だ!それに、そういう問題ではなかろう!」


必死に止めようとする綾乃に対し、 一樹も壮厳も完全に止まらなくなってしまった…

そう確信した綾乃は逆に吹っ切れたようだ。


「はぁ…もうよい!よし!もう好きなように、好きなだけやれ!誰が死んでももう知らん!その代わり、合図は私が出そう!父上も影山もそれでよいですねっ!」


「うむ!よかろう!」


「あぁ、いいぜ。」


ヤケクソにいい放つ綾乃に対して二人が返事をする。


そして、次元流の頂点と化物の戦いが始まろうとしている…

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