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正確な魔王の倒し方  作者: うっちーさん
第1章 絶対魔王の傘下
3/5

絶対魔王のわがまま

・絶対魔王の力


よく『200年』という単語を私は使っているが

細かい事を話すと『203年』だ。

私が不老不死になったのは14歳の時

『王都』の連中に攻め入られ

私が瀕死の攻撃を受けてしまった所から始まった。

運が悪かったのだ。

父の必死な防戦虚しく、城に侵入を許し

手当たり次第に『王都』の連中は民達を

我らの家族の命を奪っていった。


多少なりとも経験を積んでいた話はしたな?

私も自信はあったし、ある程度の連中相手なら

遅れを取らない と思っていた。

ま、結果その考えが甘かった訳で…

民達を守る為に壁になった。

私が攻撃を受けた後の記憶は朦朧としてあまり覚えてはいないが

父が怒り狂い、殺生など殆どした事無かった「魔王」が

初めて全力を振るったと聞いている。


「絶対魔王」なんて単語が生まれたのはこの時だそうだ。

表現の通り『王都』の連中を虐殺したらしい—。

一瞬だったそうだよ、でも自分の家族は巻き込まない。

けれど、確実に[敵]を(ほふ)ったそうだ。

当時に蘇生魔術など無く、今でも開発段階なのに

一人の錬金魔術師によって私の命は繋がれた。


《生命を糧とし、永久的な命を生み出す。》

有志によって、4人の民が命を捧げると言った。

全員、名のある元勇者達だ。

最初に父に戦いを挑んだ勇者達だった。


「貴方に救われたこの命、せめて我々が守りきれなかった者達を…」

「繋ぐ事でそれが叶うのであれば」

「老いたこの身でよろしければ」

「不老不死の禁術を、貴方の娘様に…」


糧を得て、生み出す。それが錬金術。

そう、それこそが私が話した

単純だが強力な《不死の宝玉》という訳だ。

私自身が壊せない呪いを掛けたのは他の魔術師

ま、当時は「呪い」としてでは無く

無限に秘められた…無限に近くなった私が

「全力を出した時に、宝玉を巻き込み壊さない様に」

と、心配した魔術師がいたのだ。


そこからはあらゆる対抗魔術を加えられたものだ。

今の私のこのバグの様な性能はその為である。

不老不死は確定していたものの

あらゆる面での耐久性はなんら変わらなかったのでな。


なので、私は今『217歳』だ。

100年おきにしか身体が成長してないのが現状。

私が老いぼれな見た目になるまで

数千年は必要な身体になってしまったのだ。


理由はこれだけではないが

いささか理解しただろう?

私が不老不死を捨てたい理由。

半分は人間の血が流れているのだ。

これ以上、大切な物を失う辛さを感じたくはないからな。



・絶対魔王の実力



「スルトとやら、この火力が限界ではあるまい?」

「当たり前だ…!お前から受けた[炎]の攻撃で、今までに無いぐらい魔力が昂ぶってる…!」

「ほう…ではこれならどうだ?」


単純な、練り込みの要らない属性魔法なら

フルチャージにそう時間は取られない。

空に輝く天体1つ分程の大きさの火球を

スルトに見せてやった。


「吸収してみよ!その能力が追い付くならな!!」

「こいつぁ…たまげた…だが!」


最早隕石と言っても過言ではなかろう。

スルトに向けて火球が落ちる。

先程と違い、切っ先を火球に向けて構える。


「はぁぁぁぁあっ!!」


火球は対象を潰す事なく

剣に徐々に吸い込まれていく

追撃する など無粋な事はしない。

奴の本気を見たいが為に、奴に魔力を『与える。』

程なくして、火球は消滅し

剣には、先程とは比にならない程燃え盛っていた。


「後悔するなよ…行くぞ魔王!!」

そう言葉を発すると、剣で連続して空を切る。

先程より密度が濃い[炎の衝撃波]が浮遊している私目掛けて

いくつか飛んでくる。


「少しサービスしすぎたか…?」

相性的には水属性で恐らく相殺できるだろう。

だが『それもしない。』

同じ[炎]で受け答える。

全身を[炎]でコーティングする。


「正気かよ…?!」

「見せてやろう…魔王の力を…」

薄く纏った属性のコーティングで

両腕へと意識を集中させ、拳で計6発程の衝撃波を

全て砕いた。


砕いた時の爆炎と共にスルトへ直接殴りかかる。

「っ…!」

「ほう…中々いい反応じゃないか!」

私の拳を剣で捌く。

一度剣が光り、魔力を集中させたそぶりを見せると

「おらあっ!」

目の前に極太のレーザーの様な火柱が立った。

咄嗟の攻撃に、私の左腕が持っていかれる。


「ふん…!」

消えた左腕をスルトに突き出し

『再生と同時にスルトの胴体に拳を入れる』


「がはっ…!」

「実体が無ければ、捌き様が無かろう?!」

「なんつーやりにくさだ…!」

肉を切らせて骨を断つ、この言葉

本当に私の為にあるのではないかと、たまに思う。


切られても尚復活する私の身体だ。

奴が捌いて四肢を切り落とそうとも

私は永遠に二択を掛け続ける。

「魔法による攻撃」か「純粋な打撃」だ。

こんな言い方は変だが、『再生慣れ』してきた。

最高回復速度、とまでは行かないが

私の魔力の高揚に伴い、3秒を下回る速度で回復してゆく。


切り落とされたなら残りの腕で

質量の高い火球をゼロ距離でぶっ放すか

同じ様に拳を繰り出すか

私も消耗しない訳ではないぞ?

ちゃんと疲れるとも。

ただし、再生に使う体力は必要ない。

ほっといても生えるからな私の身体。


永遠と殴られるか、魔術を受け続け

スルトもやがてジリ貧になっていた。

「はーっ…はーっ…」

「さっきまでの威勢はどうした?肩で息をする様になっているではないか」

「ふん…ウォーミングアップにはちょうどいいぜ…」

「まだ啖呵(たんか)を切れるだけ良しとしよう。」

「俺の攻撃方法が、(つるぎ)だけだと思うなよ…!」


一応、《(ほのお)精霊(せいれい)寵愛(ちょうあい)》を受けているとは言え

ゼロ距離で高密度の[炎属性]攻撃や

純粋な物理ダメージを受け続けているが

“同属性のダメージカット” にも限界はある。

…が、寵愛のお陰で、魔力も幾分(いくぶん)か奴に吸われているはず…

いや、『焦って』いるな?

まだ若いな…その事(魔力吸収)に気付いていない様だ。

まぁ私からしたら全員若いがな。


初めて対峙する。自分より、もっと上の存在。

生きてきた中でこんな感覚味わった事はない。


これは負けるだろう。


本能がスルトの脳裏をよぎっていた。

今まで使う所が無かった…いや

「使える程の魔力を有していなかった」から

スルト自身、初めて使う。

炎精暴走(オーバーロード)

魔王から吸収した魔力で十分足りない分は補えている。

寧ろ、多いぐらいだ。

全身全霊を掛け、一撃を叩き込む決意をする。


「これで…終わりにしてやる…!!」

スルトの発する熱で、周りの気体が蒸発し始め

地面からすら蒸気が湧いて出る。


「来い。貴様の本気を見せてみよ。」

魔王の娘が挑発すると

スルトから赤と黄色が混じった光を放ち

アミンとはまた別物の、炎が燃え盛ったオーラが

スルトを纏った。


「剣技だけじゃない事を…見せてやる…!」

まさに一瞬。そう告げるとアミンの前には

スルトの姿があった。

「っ!何っ!」


流石のアミンも呆気に取られる。

これ程の速度、200年来見た事が無かったからである。

瞬間速攻、見えない打撃の連打がアミンを襲う。

再生してもその都度身体が吹き飛ばされ

追いつかないスピードと火力で押されている。


「これで…終わりだ…!!」

再生が追いつかなくなった

風穴だらけの胴体と頭しかないアミンを掴み

スルトは上に放り投げた。

「《炎精(オーバー)っ…放出(ブレイブ)!!!》」


大火葬。アミンは瞬く間に灰になった。

予想以上の火力

先程放たれた火柱より密度や火力が段違いの物だ。

薄れゆく意識の中、アミンは確信する。


「こいつは…ぜひ我が手元に置いておきたい。」


全てを放出し終えたスルトは、その場で膝をつき

息も絶え絶えに、喜びに満ちていた。

「やった…やったぞ…!」


「俺が!魔王を!倒したんだ!!!」


アミンが『200年振り』に倒された瞬間だった。



・絶対魔王の緊急王政


不老不死でも、形なく吹き飛ばされる事は何度かありはした。

不死の確認をする為、父に一度本気の攻撃をしてもらった時が一番記憶に残っている。

当時の私は感心したものだよ。

「あぁ、私の父はここまで強いのか」とね。

その時の与太話も色々あるが、今はやめておこう。


魔力回路を通じて、周辺に放たれた魔力さえあれば

私はいくらでも甦れる。たとえそれが

『魔力の残り(かす)』程度だとしてもだ。


音なく、スルトの後ろへ蘇生した私は

歓喜に震えるスルトを驚かそうと

満面の笑みで彼の肩を叩いた。


「……?………?!!」

最高だね。この瞬間。

絶望の淵へ叩き落とされた良い表情だ。

ただ、使い果たし過ぎだ。

立つ気力すら無いぐらい、奴は動けなくなっていた。


「よぉ、中々いい戦いだったぞ」

「そんな…?!跡形もなく、完全に消滅させたはず…?」

「ああ、消えはしたさ。」

「じゃあどうして…?!」

「魔力の形跡さえあれば、我は幾らでも甦れる。」


「例えば、魔力を消す事の出来る場所や物があってもな。」

そういう場合は、付近での蘇生は出来ずに

魔力反応のある場所でのみ、だが。


「くっ…くそっ…!」

「無駄だ、本気を出すのはいいが、全て出せとは言ってないだろう」

「…ここで、終わるのか…俺は…」

「反抗しようとしたり、諦めたり…忙しい奴だなお前」


スルトは死を覚悟したのか

膝から落ちているそのままの格好で力なく答える。

「殺せ、ただし村の人達には手を出すな…」

「その身体で我に指図すると?」

「あぁ、そうだ。人間の意地ってやつだよ。」


仲間を大切に思う所もある…と

ふむふむ、ますます気に入った。


「それでは、一思いに…」

「っ…」

スルトの表情が、覚悟を決めた顔になった。

その時、アミンは笑いながらスルトに話した。


「貴様を、我が(しもべ)として迎え入れよう。」

「…は?」

「お前、私と会ってから驚く事多くないか?」

「いやいやいやいや、ちょっと待ってくれよ。」


動けないせいか、その発言をしている格好が

3割り増しで可笑しく見える。

「つまり…配下になれってことか?」

「そうだ、私はお前を殺しはしないし、お前の村の住人など知った事か。」


「第一に、私は無駄な殺生はしない。」


予想外の結末に、スルトは何を思ったのだろうか。

ただ唯一汲み取れたのは

「こいつ、本当に魔王か?」

といった感想が顔に出ていた。


「私は、私の目的の為に…僕、というよりは仲間を探している。」

「目的…?」

「そうだ。私以外にしか壊せない、私の『命の源』である物を壊してもらう為に。」


「そんな事したら…お前が…不老不死ではなくなるんじゃないのか?」

「そうだ、その時は今負けた時の悔しさやら何やらを糧にして、私を切り裂くがいい。」


「少なくとも、今みたいな絶望は生まれんよ」

年齢的には217歳だとしても

その無邪気な笑みは、一人の少女の様に輝いていた——。



所変わって魔王城。

アミンは無事を(しら)せるべく

城に戻って来た。土産を携えて。


「ま、魔王様がお戻りだ!!」

「なんだ!?あの抱えている物は?!」

「いや…者か…?」


「っこの!離せって!」

「暴れるでない!うざったいわ!」

左脇にスルトを “抱えた” 状態で

空からアミンは戻って来た。

家臣達からしたら、そりゃ大騒ぎになるだろう。


「貴様…何者だ!!」

「アホか、お前ら、私の新しい僕だ。」

「この…いけすかない顔の野郎がですか?!」

「いけすかないって…ただの僻みじゃないか…」

「おい!魔王!どうなってんだ!!」

「こいつ…!今魔王様の事を魔王と呼び捨てに…!」

いや、待てよ、さっき出て行こうとした時に

真っ先に私に捕縛魔法かけた奴だよなお前。

言動と忠誠が伴ってないぞ。


「ここは私の根城だ。」

「はぁ?!じゃあ俺は敵の本拠地に連れてこられた訳か!?」

「スルトよ、1つ訂正すると、お前はもう私の配下だ。なんなら貴様の命、今すぐに潰す事など簡単に出来る。」


「情けをかける訳ではないが、貴様をどうしようと私の自由だ。」

そう言うとスルトは大人しくなった。

家臣達はまだ煩かったが、(物理的に)静かにした。

救護班を呼び、スルトを直ちに回復させる様命令し

奴が落ち着くまで私は緊急の王政を開いた。


「皆の者!聞くがいい!!」

静まり返る家臣どもや、民達

緊急王政の時は全国民にも報せる義務があるからな。


「私は…我は、これから旅に出る!!」

周りがざわつき、どよめき始める。

「いつ帰って来るかは分からぬが…必ず帰って来ることを約束しよう!!」

「目的は、すまぬが今は言えぬ。だが我が父と、我とで築き上げた…誇るべき国だ!!」


「だからどうか、門出を祝ってほしい。」


混乱を見せると思われた緊急王政だったが

どうやら私の取り越し苦労だったらしく

程なくして


国民全員から料理やら、旅に使える民芸品やら

我が国にある物全てを持って尽くしてくれた。

家臣達からは理由をかなりしつこく聞かれたが

「私が滅多に言わないわがままなのだ、聞いてくれ。」

と真面目な顔して言ったら、渋々頷いてくれた。

ちょろいなこいつら。


スルトは客間に通して、もてなした。

待遇の良さに、いちいち驚いていたがな。

1日経った辺りでスルトの村にまた(おもむ)

村民達に説明する旨を話し、了承を得た。


これからの目的は

あと3人、仲間を見つけること。

先ずはそうだな…スルトに『王都』で有名な人材の話でも聞くとしようか。


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