95.4%
「95.4%」
それがお客様満足度。
「微妙じゃね?」
相場竜彦はこの店のお客様満足度を現した数値であった。
今日はこんなお店で飲み会をする事になっている。そんなお店が掲げる自慢のお客様満足度である。
「どうせなら99.9%にすればいいのに」
「いや、そりゃ無理じゃね?」
今日はそんなお話である。
◇ ◇
飲み会はみんながバイトをして稼いだお給料から、2000円ずつ出して開催された。
「じゃあ、来月もガンバロー!」
「おーー!」
「みんな同じバイトってわけじゃないけど」
短期のバイトだったり、長期のバイトだったり様々だが。この学園生活においても、金という地位は高い。
メンバーは相場、舟、坂倉、四葉の男性4人と。御子柴、川中、迎、嶋村の女性4人。
「ビールはなしね。未成年は特に、ダメ」
そう言いながら、御子柴は普通にタバコを吸い始める。高校生での喫煙もあまりよろしくない事だぞ。
「じゃあ、ワインでも行ってみよう」
「俺は様子見でチューハイ」
「サワーで!」
「日本酒、挑戦だ」
ビールは出さないが、酒を頼んでんじゃねぇーか!
なんだかんだで飲みニケーションを鍛えるとしたら、こーいった高校生からだろう。ジュースでワイワイやるのは中学生までだ。
「はい、分かりましたー!」
そういって、店員さんもお客様の要望通り。飲み物をご用意し始める。
「さっき看板に書いてあった、95.4%。あながち間違ってないんだな」
相場がその数値が気になってまた口にした。
「高校生の俺達に酒を出すとはな」
「灰皿まで出してくれて嬉しいわ」
なかなか融通の効くお店だと、すでに満足気な御子柴。早くもタバコを2本目に差し掛かる。
「焼肉のお店ですから、換気も良いですね」
「見て!口臭リフレッシュの飴がもう置いてある」
「洋服用のファブリーズもあるな」
誰だって気になる臭いの消臭もしっかりセットされている。すでにお客様を安心かつ、気持ちよくご利用できる配備がされている。
「実際、95.4%ってどんなくらい?」
「数学で言うなら、100人中95人が満足してるんだろ?」
「ただの算数じゃない。分数のレベルよ」
お酒も置かれ、焼肉前の前菜も行き渡った。盛大に乾杯をして、肉が来るまでの間。
「つまり、5人は不満を抱えるわけか」
「なるほど。どんな5人なんだ?」
「私、コンビニのバイトしてますけど、態度の悪いお客様の事じゃないですか?」
「あ~~、御子柴みたいな?」
そういった安易な発言をする舟に投げられる、火の着いたタバコ。ちょっと入ったアルコールのせいもあろう。
「失礼ね。私はまともよ」
「ぎゃああっ!熱い!」
タバコを投げつける奴が、どの辺がまともなの?そう口に出来る男子は誰一人いなかった。しかし、川中だけは違っていた。
「もー。危ないよ、御子柴。タバコはちゃんと灰皿でしょ?」
「いや」
「舟くんは灰皿じゃないんだからね!投げてもダメ!男の人なんだよ!」
「悪かったわね」
さすが、天使。あの小悪魔、御子柴を軽々と諌めて謝らせる言葉。タバコの3本目もすぐにしまった。なんという効果だろうか。
「で、続けるが」
「続くの?」
「実際、満足できない奴ってどーゆう奴なんだ?」
「あ、お肉が来た」
嶋村と四葉が味付け肉を受け取り、熱々の網に載せていく。その香りはさらに食欲をそそる。
「やべっ、旨そう!」
「これはご飯と一緒に進めそうね」
「肉の味はもう見て分かるな!」
実際、100%はあり得ないだろう。人間ってのはどいつもこいつもまともじゃない。まともという言葉を使って、普通じゃない。
性格は千変万化。合わさり、争い、感情と思想は変わっていく。
みんなして、喰らい合う。
「くはー!たまんねぇ!」
「食べ放題の肉とは思えねぇ」
「生!生、頂戴!!やっぱり生は良い!ジョッキでお願い!」
ビールという単語を使わずに注文。会計が割に合わなくても、この至福を楽しめるのならガンガン行く。どうせ、割り勘だしと御子柴は調子に乗っている。
しかし、御子柴だけではない。舟も相場といったバカ男子も盛り上がる。
「しゃーー!肉も、米も、アルコールも、身体に染み渡ったー!」
「まだまだ肉を頼もうぜ!」
自分達がこの95.4%のお客様に分類されていて、凄く良かった。なんというフリーダムな焼肉屋なのだろう。お客様の注文を次々応えていく。食べ放題、なんでも飲み放題、未成年のお遊びもOK。学校という監視から逃れた天国だった。
8人は盛大に今日を楽しんだ。
焼肉屋にいた時間は3時間53分。
お会計は8人で2万1000円。ちょっと追加注文とかをしたから、若干多くなったが。
「それでも3000円も行かないわ!」
「すげぇ、安すぎる!」
「また来るぜー」
酔いも勢いも、最高に乗った。
◇ ◇
翌日の事。
「うう~」
8人は授業中、二日酔いに襲われていた。これは完全に教師にバレてるっぽい。
「やっぱり、翌日が日曜日の方が良かったよな」
「でも、そこは部活とかバイトだろ?みんな」
「そうですね~」
今、なんとなくだが。その5人が思った気持ちが分かった。一般的な思考から考えたものであるが、
「旨い、安い、飲み放題、食い放題。そりゃ毎日行きたくなるけど、平日しか店はやってなかったな……」
「酔っ払った私達を心配して、タクシーまで呼んでくれたわよね。要らないって言ったけどさ」
「酔ってたし、眠かったし、明日は朝から学校だから……」
「あれだけの接客をしていただけたから、断れず……」
「さらに追加の割り勘が発生したし」
「絶対、店側がワザとやってた気がした」
「アルコールを飲ませて、判断力を鈍らせるとは……。私達は高校生よ。止めなさいよ」
頼んだのはお前等だろ?
飲み会はやっている最中は楽しいけど、家に帰ってからが辛いよ。
「また、あの店にするか?」
「……考えましょ」