表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/30

構成を捻じ曲げる者

 

 病弱な身体にも関わらず凡そ二リットルの鍋に入ったシチューを綺麗にたいらげたエクス。本日二杯目の鍋に入ったシチューもがむしゃらに食べている。大食い設定という事だな。

 実は、作者の物語の中でも料理関係は好きな部類だった。お決まりのように構成は悪意に満ちていたから食べてくれる人はいなかったけど、採取した食材で試行錯誤を繰り返し美味い料理を作れた日は……一口食べた瞬間に真っ白な世界に戻されたな。だが、その一口が美味かったなぁ……つか、腹立ってきたな。とりあえず俺が何を言いたいのかと言うと。


「俺の料理を他人が食べてるというのは不思議な感覚だな。美味いか?」

「絶品ズラ!」

「そうズラか」


 食卓(囲炉裏)を囲むというだけでも嬉しいのに、絶品とは……思わずズラと付けてしまうほど感激しちまったじゃねぇか。


「モグモグ? モグモグ?」

「なんだ?」

「お前は食わないズラ?」

「気にすんな。全部食え」

「モグモグ、モグモグ、モグモグ、ズラ」

「食べるか喋るかどっちかにすれ。と言いたいが、食べる方が優先されてモグモグしか言ってないな。気持ちいいぐらい俺に興味無しだな」


 不思議な女だな。空から落ちてきた男が自分の家に不法進入してるのに疑問を懐かないで飯を食ってる。


「家壊して悪かったな。見た目は変えちまったけど今のところはコレで勘弁してくれ。洋風建築を学んだら元に近い状態に改築するからさ」

「?」


 エクスは疑問符を浮かべると周囲を見渡す。最初に見たのはロッキングチェア、次にベットを見て本棚を見ると上下左右を見ながら目を見開いて慌てだした。


「どうした?」

「わたくしの家具もある⁉︎ ……ズラ」

「ズラが遅れてんぞ。設定がブレブレだな。見た目は変わったけどお前の家だ。家具があって当たり前だ」

「わたくしの家? ……わたくしの家はこんなお城じゃないズラ」


 なるほど、自分の家では無いと思っていたんだな。それなら納得だ。だが、その答えだと一つ大きな勘違いが生まれている。


「お前、俺を誘拐犯だと思ってないか?」

「モグモグ、モグモグ、ズラ」


 ズラと同時に頷く。


「なんで誘拐犯が誘拐したヤツの家具まで運ぶん……」


 いや、待て。おかしいぞ。たしか作者は宮殿を追いやられた魔王がエクスを産んだと言っていたな。もしかして親である魔王を宮殿から追い出した奴等が誘拐したと思っているのか? それなら元は高貴な存在の子供だから低くない可能性で家具も運ぶ。いや、家具を運ぶのは考えすぎだな。


「俺は誘拐犯じゃない。そして、ここはお前の家だ。……一つ聞きたい。お前は、なんでこんな森の中に住んでいるんだ?」

「わたくしは空から舞い降りたシュ•ジンコ•ウを倒せる力を持ってるズラ。母上様がシュ•ジンコ•ウに見つからないようにここに隠れていろと言ったズラ」

(空から舞い降りたシュ•ジンコ•ウ……主人公、俺の事だな。だが、まだ疑問が溶けてない)と内心で整理して、「その母上様は?」

「わたくしを産みここに隠してシュ•ジンコ•ウを倒すために王宮に行ったズラ」

(やっぱりな。『わたくしを産みここに隠して』とはヒロインが産まれる前にはシュ•ジンコ•ウはいたという事だ。そして、母上様はヒロインを産みここに隠してシュ•ジンコ•ウを倒すために王宮に行った。ヒロインの話だけを纏めたら……王宮にシュ•ジンコ•ウがいる、という意味に取れる。俺を誘拐犯だと思っているという事は……)聞いた方が早いなと思い、「王宮にシュ•ジンコ•ウはいるのか?」

「お前は空から舞い降りてきたズラ。わたくしをみくびるなズラ。お前がシュ•ジンコ•ウと見抜けないわたくしではないズラ」

「やっぱりそう思っていたか。あのさ、母上様が倒しに行ったシュ•ジンコ•ウが俺なら、お前はそのシュ•ジンコ•ウの作った飯をなんの疑問もなく食べているのは何故だ?」

「?」

「疑問符って……、毒が入ってるかもしれないだろ?」

「⁉︎」


 エクスは驚愕を顔に出す。


「それにシュ•ジンコ•ウがここに来たって事はお前の母上様はすでに倒されているって事だぞ?」

「?」

「詳しくはわからないけど、ここはお前をシュ•ジンコ•ウから守るための秘密の家なんだろ。俺がシュ•ジンコ•ウならなんで秘密の家を知ってんだ? 母上様を倒して聞き出した事になるだろ」

「⁉︎」


 エクスは驚愕を顔に出す。


「たしか天然設定だったな。まぁ、天然だからわからなかったんだろうけど。まぁアレだな。問題はこの先だ。わかってからの先があるのも天然だからな」

「は、母上様を、……、母上様の仇! ズラ!」

「思ったとおりだこんちくしょう」


 エクスは木のスプーンを振り上げて飛び込んできた。


「とりあえず」


 俺はその場に座ったまま微動だにせずに、


「俺は母上様を倒してもなければ、見た事もない。シュ•ジンコ•ウとは別の人物だ」

「仇、ズラ、仇、ズラ、仇、ズラ、仇、ズラ、仇、ズラ、仇、ズラ、仇、ズラ!」


 エクスは何度も木のスプーンで叩き付けてくるが、俺に物理攻撃は届かない。正確には、ある一定以上、前回の物語では【布の服(呪)】という最弱装備でレベル九○○以上の敵にしかダメージをもらわなかった。と言っても薬草も必要がないダメージだけどな。加えて、今回は作者から与えられたプレートアーマーの防御力もある。病弱な女が木のスプーンで攻撃したぐらいでは『肌にも届かない』。


「とりあえず好きなだけ攻撃してろ。それがお前の設定だ。その代わり、俺の質問に答えろ」

「仇! ズラ!」


 木のスプーンを顔面に遠慮なく突いてくる。しかし、肌に届く一センチ前で木のスプーンは止まる。エクスは気づいてないけどな。


「物語を始めてヒロイン問わずライバルや王様などに出会ったらまずは自己紹介からだ。……んっ? …………、……自己紹介?」


 自己紹介……自己紹介……


「作者ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「⁉︎」


 俺の大声にエクスは木のスプーンを振り上げながら固まる。


「俺の名前はなんだ⁉︎」


 転生してから作者の悪意でソロプレイヤーを余儀なくされ、まともな会話相手は作者ぐらい。物語の中で数百年も生きているが、会話をしたのはいつも同じセールストークしかしない道具屋のおばちゃんと世界の半分をなんちゃらとしか言わない魔王のみ。肝心の作者は主人公かお前としか呼ばない。


「転生前は……なんて名前だったんだ。忘れちまったぞ。記憶術を習得した時には名前という概念が無くなってたし誰に聞かれる事も無かったし」

『主人公。お前が人間の世界にいた頃の資料はシュレッダーのお世話になっている』

(テメェ、起きていたのか?)

『明日の朝めっちゃ集中して構成を練ってやるか、と善処して九時に寝たが……お前の突っ込みがうるさくてな。目が覚めた』

(構成はいいからシュレッダーから俺の資料を探せ)

『資料は最近シュレッダーした中には無い。お前の細かい設定とか聞かれたらめんどくさいと思って転生直後にシュレッダーした』

(今さらだがパソコンに保存は?)

『同じ事だろ。お前がこっち側の人間だった頃を細かく聞かれるのは色々とめんどくさいんだ。俺みたいに過去を振り返るな。その方が俺もお前も都合がいい』

(確かにそっち側の記憶が無くなるぐらいこっちにいるからな。まぁ、考えてみれば今さらだな。それなら俺の名前はどうすんだ?)

『シュ•ジンコ•ウにしてもいいか? その方が今の流れ的にいいだろ?』

(母上様も王宮も知らねぇし。ブレブレになんだろ?)


 主人公の設定を一番練ってないとならないだろ。その設定の一番上には何がくる? 普通は名前だろ。つか、名前を決めないで今までの物語を歩ませていたとは……前衛的なのか適当なのかわからねぇな。


『誰だよシュ•ジンコ•ウって……マジめんどくせぇ脱線になってんじゃねぇか。どうすんだ?』


 シュ•ジンコ•ウも脱線? 作者……それは予想外だぞ。お前の執筆は自分の妄想を制御できないレベルになっていないか? いや、ある意味、ソレならあのプロットも納得するしかない。


 この作者は、その場のノリで筆を流してる可能性が高い。俺が主人公の物語だけだと思うが……まぁ、いいか。なんだかんだで物語を完結させるだろうし。それよりも……


(今は構成よりも俺の名前だ。資料が無いなら名前を付けろ。さっきからヒロインがシチューを食べるか俺を殴るか迷ってんだ)

『わかった。俺が北海道生まれという事に因んで、北島○郎』

(偉大すぎる! こんな見切り発車の物語を書く作者の作品で背負える名前じゃねぇよ!)

『だよな。お前が納得したらレベルを一にするところだった』

(モブにするレベルだ。とりあえず俺らしい名前にしてくれ)

『すでに決めてある。マルボロ•メン•ソールだ。ぷはぁぁぁぁ……』

(テメェの吸ってるタバコだろ!)

『うるせぇ! ソールってカッケェだろ!』

(カッケェけども! 大人の事情もギリギリクリアすると思うけども! 中世ヨーロッパの世界観に合ってないだろ)

『めんっどくせぇなぁ……ソレならアルジ•キル•エクスも世界観に合ってねぇだろうが。この辺は練りに練った設定になってるから世界観を度外視してんだけどよ。お前の設定なんて、結果的にチート、の一文なんだ。名前無しでもノリで物語を進ませてバグを言い訳にしたらいいかぁ程度のノリ設定なんだよ。もぅアレだ。バグだバグ、バグが発生したから名前はチートを言い訳に自分で決めろ』

(バグを発生させた結果のチートでも、小説を創る過程にバグは無いだろ。あるとしたら設定を口にする作者の頭がバグってるだけだ。つか、今だから言うけどさ……お前のそういうところマジでスゲェと思うよ)


 ネタバレも恐れない作者のいい加減さにため息を吐き、ヨダレを垂らしながらシチューを食べたそうにしてるエクスに視線を向ける。


「俺の名前はアーサーだ。お前の名前は?」

『ぷっ。エクスカレバーとエクスカリバーをかけてアーサー•ペンドラゴンから自分の名前を付けやがった。まじセンスねぇ。あなたの思春期特有の精神疾患は重症です。病院直行レベルです。ですが、ファンタジーの世界に精神科はありませんよ?』

(……、……物語の中なんだからいいだろうが! アーサーかっこいいだろ! 大人の事情も楽々クリアだし! そもそもテメェが……、!)

「母上様の仇ズラ!」

「なぜ⁉︎」


 名前をアーサーと言っただけでエクスはキラキラと白光させた両手を俺に向けてくる。何故だ? アーサーという名前に恨みでもあるのか⁉︎


『な、なんだソレ! 主人公⁉︎ 手汗じゃないぞ!』


 作者が困惑してる。つか……


「作者のテメェが知らねぇもんを俺が知るか!」

『ヤバいヤバいヤバい! ガチ魔法ヤバいって! でもスッゲェな! マジ、スッゲェ!』

「お前はもぅアレだ。作家辞めろ」

「リ……」


 リと言った瞬間、エクスの両手から湧き出る魔法的な何かがシュワシュワと音を立てながら凝縮され、野球玉サイズの光る球を形成する。その瞬間。


「ボール! ぶはぁ!」


 エクスは紅い血飛沫を中空に撒き散らしながら背中から倒れていく。


「またかい!」


 俺が突っ込みを入れてる間、術者が倒れているにも関わらず光る球はフワフワと浮いたまま消えない。いや、消えるどころか重力に従うように……


『主人公!』

「おう!」


 作者の声に『共鳴』し、俺はエクスに向けて落ちていく光る球に右手を伸ばす。作者は……


『秘技! 音速タイピング! この技は主人公が都合良く物語を進めると俺がキーボードを犠牲に物語を瞬時に捩じ曲げる技だ。そして、「キーボードが壊れて……」と編集さんに言い訳するために使う。しかし、編集さんは締め切りギリギリになると請求書付きのキーボードを輸送、又は持参して自宅に訪れる。合鍵を渡したのを後悔してるのは言うまでもない』

「おい。テメェのそんな都合はいいからこの球はどうすんだ?」


 作者がこの調子だからというのもあるが、俺の右手にある光る球が爆発しなかったのは運が良かったとしか思えない。


『編集さんに投げろ』

「よぉし。俺が主人公の物語をお前が書籍化する意思が無いのはわかった。いや、シュレッダーにかけてる時点で気づくべきだったな。とりあえず……主人公兼……」

『テメェ! それはやらない約束だろ!』


【語り手奥義】


 俺は光る球を右掌と左掌で包み、記憶の箪笥にある今までの経験から光る球の事象を瞬時に分析する。

【語り手奥義】とは、一人称で語れるという強みを生かした『私感』からの地の文や自分の台詞を創る技である。その効果は一人称である以上は不安定なモノだが、俺の能力と合わさるとソノ効果は絶大になる。


「この光る球は『未知の次元』から干渉してきた物体だな。いや、干渉してきたというよりはヒロインが未知の空間から取り出したと言った方が正しいな。だが……もしもコレがシュ•ジンコ•ウを倒す魔法だとしたら、シュ•ジンコ•ウはアンデット系の魔物になる。何故なら、この光の球を持っている俺自身の身体に薬草と同じ効果を与えているからだ。これはヒロインに与えた方が……いや、魔王でもあるから魔の力に反応する魔法かもしれない。主人公である俺には治癒系の魔法であっても属性や設定で攻撃になるかもしれないからな。コレは、俺が食っちまった方がいいな」


 右掌にある光の球を口に含み、飲み込む。


「うん。美味い。俺が致命傷を負ってもコレがあれば体力の半分は回復するな」

『自分の経験、見てきた事象からそのモノの事象を瞬時に分析する特技【鑑定】。その効果範囲は作者が考えに考えた必殺技や特技を見抜くまでに至る。【語り手奥義】との合わせ技を使われたら作者の面目丸つぶれだ。魔法にも通じる能力だとは思ったが……テメェ! エクスの最強魔法を鑑定して食っちまったら魔王としての受容性が無くなるだろ!』

(テメェ! やっぱりヒロインが魔法を使えるの知ってたんじゃねぇか! なんだあの自分は知りませんでしたアピールは!)

『ノリだよ! こんなふざけた物語でねぇと作者なんて冒険できねぇんだよ!』

(主人公にふざけた物語とか言うな! つか、俺に効果が無いんじゃ魔王の受容性以前に本末転倒だろ! いや、テメェが本末転倒なのはいつもの事だ。とりあえず、冗長だ。話を進めるぞ。ヒロインは何事も無かったようにシチューを食ってる。どんだけタフな病人なんだ?)

『知らん。血が減って腹が減ってたんだろ』

(テメェが創った設定だろうが⁉︎)

『お前さ、エクスが吐血した瞬間の俺の反応をどう思ったの? 結構マジで焦ったんだけど? 光の球がエクスに落ちていく時めっちゃタイピングして新品のキーボードをダメにしたんだけど? 領収書にキーボード代としてと書いてあるのが何枚あると思ってんだ? 個人事業主の財政難なめんなよ』

(キーボードをダメにした解説を聞いたら自業自得としか思えねぇよ。つか、無駄話に逸らすって事は……また、予定外の脱線をしたって事か?)

『うむ。まぁ、……そう、だな』

(なんだ端切れ悪いな)

『いや、まぁ、アレだな。これは言うか迷っていた事なのだが……、……』


 作者が言葉を止めると、ワンルーム内には木のお玉でシチューを器に入れ、モグモグと食べるエクスの咀嚼音が響く。

 作者が語り始めたのはカチッカチャと何かを外し何かをハメたような音を立てた後。おそらく新しいキーボードを設置したのだと思う。何故ならキーボードをタイピングした音が鳴り始めたからだ。


『プロットを見ただろ。本来はエクスとお前が激突してこの物語は完結なんだ。それを捻じ曲げて脱線に導いたのはお前の「はぁぁぁぁぁ!」だと思ったが、俺は回転斬りも予測してあの手この手を考えていた。だが、その前にプロットに無い事象が起きた』

(プロットに無い事象って言ってもアレは色々な意味で何も無いぞ。何が作者の中では無いかを言ってくれ)

『エクスの両手がキラキラと光っただろ。本来なら一人称の地の文でお前に言わすのを、俺は三人称として見た事だけを自分の台詞として言ったんだ』

(見た事だけ?)

『作者の俺が予想だにしない何かが起こったんだ。主人公、これは真剣な質問だ。作者である俺の構成を捻じ曲げる力がお前にはあるか?』

「⁉︎」


 作者の構成を捩じ曲げる力は主人公には無い。主人公はあくまでも作者の構成を元に物語を進行し牽引していく存在なのだから。


(ま、魔王の力か?)

『魔王に構成を捻じ曲げる力があるなら、どの物語も魔王は倒される存在にはならない』

(それだと……ヒロインの力になるだろ)

『そうなる。本来、ヒロインは物語を牽引する主人公と共に歩む。だが、その本来の中にはヒロインがいるから世界観が広がるという構成ができあがる』

(待て、もっとわかりやすく言ってくれ)

『主人公一人の物語だと今までお前が経験してきたように狭い世界の小さなストーリーになる。だが、そこにヒロインがいたらどうなった?』

(出会いがあり、会話があり…………世界が広がる!)

『そうだ。ヒロインの一言(ひとこと)一挙手(いっきょしゅ)一投足(いっとうそく)が世界観に花を与え、幅広い構成を生む。そして俺はヒロインを書くのが初めてだ。加えて絶賛脱線中……現段階のエクスは母親の仇として主人公であるお前を見てる。気楽にモグモグとシチューを食ってるがな』

(だ、だが、作者の構成を捻じ曲げる理由にはならないだろ?)

『明日の朝に構成を練ると言っただろ。まだ構成はできてないんだ。これは予想だが、練られたヒロインの設定から物語が生まれエクスは無意識に進行している。マジの脱線だ。正直言うとヒロインを書くのが初めての俺では未知の領域だ』

(や、ヤバくね? つか、いつもの余裕も無くなってるし)


 作者らしくない弱気な声音だ。切羽詰まる状況だからこそ、悪意に満ちた構成をぶち込むのがこの作者だった。これではまるで俺を……


『どの物語も主人公を色々な意味で倒せるのはヒロインだ。それに魔王設定が付けば結果的にチートな主人公でも……倒せる』


 ……心配している。作者が俺を……


『すまん。ヒロインにこんな未知(アンノウン)要素(ファクター)が含まれていたなんて予定外だったんだ。構成を中途半端に転生させるべきではなかった』


 ……なに謝ってんだよ。いつもどおり笑い飛ばせよ……


(作者、ま、まぁ、アレだ。最強魔法は俺には治癒(ちゆ)にしかならないし、物理攻撃もダメージにならない。らしく無い事言うな)

『主人公、この物語は魔王を倒して完結だ。それは変えられない。だが……ボツにする事はできる』

(ますますらしく無いぞ。初めてのヒロインだから書きたいんだろ? 俺も一緒だ。初めてのヒロインだからこの物語をもっと歩みたい。もしも、見切り発車の構成を進めた結果、俺を……主人公を倒さないとならないってなっても遠慮すんな。お前やヒロインが満足するように物語を牽引してやる)


 俺の発言に嘘や偽りは無い。況してや、作者が弱気になっているから並べた言葉でもない。


 クソゲー顔負けの魔王や悪意に満ちた構成をぶち込む作者だが、俺はこの作者の長所を知ってる。誰よりも信頼できる作者だ。だからこそ、俺が信頼してる作者が俺に不安を懐いたのは裏切られた気持ちになった。


「二度と俺を見損なうな。作者らしく笑い飛ばして、高笑いして、俺に無理難題をぶち込め」

「?」……声に出した俺に対してエクスは疑問符を浮かべる。

『エクスが捻じ曲げる構成を俺は立て直す。お前が魔王を倒さない限り、この世界を終わらせない…………悪いが付き合ってもらうぞ。アーサー』

「おう。相棒」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ