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ペラペラペラペ! ……、ペラペラ!

 

 無責任な作者がいなくなり……いや、実際にはこの世界にいないから語弊になるな。作者の口出しがなくなりヒロイン兼魔王エクスと二人きりになった。


 しかし問題が多々ある。


 まずは構成が見切り発車なため、主人公として物語を牽引できない。

 どういう意味かと言うと、作者が構成を練らないと『点を線』で結ぶ牽引役の主人公では『点』すなわち目標物(構成上の到着地)がないと『線』で結べないのだ。有り体の言葉だが、作者が構成を練らないと物語が進行しないということだ。

 そのために作者のプロットを見たのだが……あれはプロットとは言えない。今まであんなプロットで物語を歩まされていたのかと思うとゾッとする。

 そして最大の難題が目の前で起きている事だ。


「ペラペラペラペ! ……、ペラペラ!」


 このとおり、ヒロインが何を言ってるかわからないのだ。わかるのは鈴虫が奏でる涼やかな鳴き声を思わせる声音。こんな森の中の小屋ではなく石柱造りの王宮なら、その広い空間に癒やしのメロディを与えてくれるだろう。現在は怒っているからその声音は耳にキンキンと響くだけなのだが……


 物語に登場する作者というだけでも異常事態なのに、ヒロインの言語が主人公にわからないという設定までぶち込んできている。

 登場人物の設定だけを練り、飽きたという理由から構成を適当にした結果、物語は脱線。

 見切り発車になったのをわかっておきながら構成そっちのけで就寝。

 そして主人公の俺に丸投げ。

 冷静に考えると改めて思う。作者はアホだ。俺には作者が混沌を生む者としか思えない。


「まぁ、作者は創造主だから物語内なら故意的に混沌にするのは可能だ。だが、今回は冒頭から構成を外れたから作者にとっても予定外、自業自得が生んだ混沌という事だな。だが、その自業自得を主人公の俺に丸投げするのは作者としてどうよ? ……、……つか、ペラペラペラペラうるせえな! 考え事してんだよ! 少し黙ってろ!」

「⁉︎」エクスはキッと睨み、「ペラペラペラペ! ……、ペラペラ!」と強く言うとシチューが入る鍋に右手人差し指を差す。

「なんだ? 食いたいのか?」

「ペラペラペラペ! ……、ペラペラ!」

「まったくわからねぇ。解読できる自信ねぇよ」と言いながら、木の器にシチューを入れ、木のスプーンを差し込みエクスに向けると、「ほら、食え」


 エクスは警戒してベッドから降りようとしない。まぁ、起きたら空から飛んできた男が飯を作っているんだから当たり前の反応だな。

 エクス側の囲炉裏の端にシチュー入りの器を置くと自分の器にもシチューを入れ、木のスプーンで掬い取り一口食べる。


「このとおり毒は入ってない。俺が近くにいると食いにくいなら……」壁際にある本棚に視界を向け、「本を何冊か借りる。あっちで読んでるからとりあえず食って気持ちを落ち着かせろ」


 俺の言葉もエクスには通じてないだろうから本棚を指差す手振りを加えて意思の疎通を図る。

 シチューが入った器を持ちながら歩を進め、本棚から二冊の本を取り、改築した台所の方に向かう。チラッとエクスを見るとジッと俺を見ている。警戒してるな……今は下手に言い寄っても火に油だと思うし距離を取るのは正解だろ。

 台所近くにあるロッキングチェアに腰を下ろし、一冊の本を膝上に置いてその上にシチュー入りの器を置く。

 ベットや本棚やロッキングチェアは瓦礫の下敷きになりながらも原型を残していた家具だ。あの崩壊でよく原型を保てたな……

 ロッキングチェアとは、椅子を支える脚下右側二本、左側二本にそれぞれカーブを描いた板を付けた椅子だ。前後に揺れる事から揺り椅子とも呼ばれ、座ると小気味の良いギィッギィッという音を奏でる。


「はぁ……英語に近い言語だと思うから、本の絵から文字が何を伝えているのか予想するところから始めるか。とりあえず、ヒロインがよく言ってる『ペラペラペラペ! ……、ペラペラ!』がわかれば……」


 本を開いて一ページ目を一瞥、次のページを開いて一瞥、時間にして一ページ一瞥一秒を全ページにしていく。一見、読んでいるようには見えないと思うが、実際に『まだ読んではいない』。

 紙質が硬いからめくりにくいが、本来はパラパラとページをめくり記憶してから頭の中で読むのだ。簡単に言うと、瞬間記憶や完全記憶と一緒で、物語内では特技【記憶術】と名をうってる。たしか推理物の物語で得た能力だ。いや、交差点を通る人の人数を数える物語だったかな……まぁ、どっちでもいいか。

 二冊目も同じように全ページを一瞥。記憶の箪笥への収納を終えると、冷めたシチューを一気に飲み干し、目を閉じて記憶の中で読書を開始する。これが俺の本の読み方だ。


(ふむふむ……石柱造りの豪勢な王の間。その玉座で指を差す綺麗な女性は王妃……違うな、玉座は一つだからこの女性は女王という事だな。この絵は、女王が指を差して玉座の下にいる者達に何かを命令しているんだろうな。文字が読めればその何かがわかるけど……解読は困難だな。わかったのは何かの物語を描いてる本ってことだけだ……んっ?)


『グゥゥゥ……グゥゥゥ……』


 何処からともなく作者のイビキが聞こえてきた。


(作者……オンとオフぐらい分けてくれ)


「ペラペラ、ペラペラ」


 エクスが何やら喋っている。さっきみたいな怒った感じではないな。まぁいい、読書再開だ。


(でも、この物語の女王……誰かに似て……)

『グゥゥゥ……グゥゥゥ……』

「ペラペラ! ペラペラ!」

『グゥゥゥ……グゥゥ————』

「ペラペラペラペラ !」

「つか、グゥグゥペラペラうるせぇ! 黙って寝ろ! 黙って食え!」

『グガッ! ゲホッゲホッ!』

「無呼吸症候群か!」


 二人が邪魔でまともに読書ができないため、目を開けて突っ込みを入れる。しかし、目を開けた先ではエクスが吐血していた。


「なんっでやねん! リス肉を食ったら吐血しない設定だろ!」

『グゥゥゥ……グゥゥゥ……』

「そこは起きれや!」

「絶品ズラ! おかわりをつくるズラ!」

「元気だし! 喋ってるし! つかズラって!」

『ムニャムニャ……めんどくせぇからお前がリス肉を食ったら言語がわかるようにした。ムニャムニャ……その変わりエクスの吐血はリス肉では治らない。違う設定にした。ムニャムニャ……そしてエクスは魔王城から追いやられた魔王が田舎で産んだ子、子魔王って事だな。ムニャムニャ……生まれも育ちも田舎の森の中だから語尾にズラだ。ムニャムニャ……』

「なげぇ寝言だな⁉︎ テメェ起きてるだろ!」

『グゥゥゥ……グゥゥゥ……』

「寝たふりすんなっ!」

「おかわりズラ!」

「うるせぇ! 鍋に…………つか、全部食ってるし! どんだけ食欲旺盛な病人だ!」

『グガッ! ゲホッゲホッ!』

「ガチで寝てたんかい⁉︎ つか、その無呼吸症候群直せ!」


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