表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/30

ヒロインのお目覚め

 

 高級品と思わすまな板にはモザイク処理がされたリスの肉。このまな板は丁度いいサイズの乾燥した木材が家の裏にあったからエクスカレバーで綺麗に加工して使わしてもらった。これから中空に描かれたレシピを元に調理を…………割愛する。


『おいおい』

「割愛する」

『リスのレシピを探すのに苦労したんだぞ』

「割愛する」


 くされ作者が! ただでさえ物語が進んでないのに何考えてんだ。


『まずは一口大に切り……』

「割愛する」

『塩は貧乏なエクスの家にはありません。代わりに……』

「割愛する」

『……………………』


 調理場はシーンと静まり返る。


「冗長だ。割愛する」

『うるっせぇ! リスのシチュー作るんだよ! ブイヨンから作るんだよ!』

「玉ねぎがねぇだろ! 山菜でどうやってブイヨンを作るんだよ!」

『俺の苦労を無にすんな!』

「鶏肉とリス肉を変えただけのシチューのレシピじゃねぇか! どんだけ手抜きしてんだ⁉︎」

『グラタンにもするんだよ!』

「パン粉にチーズはどこにあるんだよ!」

『買いに行け!』

「金ねぇよ!」

『アレだ! もうアレだ! ツボ割ってタンス漁って金を手に入れろ!』

「住民はゲームのNPCでねぇだろ! 速攻捕まっちまうわ!」

『めんっどくせぇなぁ! もういい、割愛でも閑話休題でもなんでもしろ。完成品だけパパッと出せ』

「こんっっっのくされ作者、開き直りやがった」


 というわけで閑話休題。


 エクスのボロ屋は少し広めのワンルーム。洋風建築というのは内装がどうなっていたのかわからなく、家を直したと言っても原型がわからないため和風に改装した。

 それに瓦礫を片付けている時に疑問になった事もある。冷蔵庫になるような保存庫はなくガス代の代わりも無い、正確には調理場らしき場所は無く、暖炉しかなかった。

 ワンルームのど真ん中に作った囲炉裏でリス肉メインの鶏肉と野うさぎの肉を入れたシチューを煮込みながら、エクスは飯をどうしてたんだ……思う。

 作者がうるさいため、森の中で山羊を探し、生け捕りにしてミルクを生産した。ブイヨンからは作れなかったがそれなりにシチューにはなっていると思う。因みに、山羊はエクスの家の横に小屋を作って飼う事にした。

 話は逸れるが、この囲炉裏で拘った部分がある。それは自在鉤(じざいかぎ)だ。

 暖炉がどういう物かがわからなくて囲炉裏に至ったのだが、暖炉らしき物があった場所に長い鉄の棒があったためレベル九九九の腕力で加工。森にあった蔓を天井から吊るし、自在鉤を作った。これで魚のモチーフがあれば完璧だがまだ作っていない。

 ひと段落して気付いたのは中世ヨーロッパという環境だ。外も室内も乾燥して病人にはけして良い環境とは言えない。今は囲炉裏にあるシチュー入りの鍋から蒸気が出ているから湿度は上がっているけど、ワンルームを満たす湿度には至らない。今後の課題だな。


「それにしても、いつまで寝ているんだ?」

『お前さ、長々と地の文を語っていたけどここに住む気なのか?』

「ヒロインが病人なら主人公的には一緒に住んで看病する感じじゃないのか?」

『独り暮らしの女の家に上がり込むとは無作法の極みだな。デリカシーの欠片もない。絶賛不法侵入中だし。お前は見た目が十代でも転生後は時間軸とか関係ないから色々な物語の中で数百年は生きているんだぞ? 女の扱い方ぐらいわかるだろ?』

「誰かさんの構成でヒロイン無し村娘との出会いさえ無し、道具屋のおばちゃんとしか喋った事ねぇよ。正確に言うと、男友達も作った事もない正真正銘のソロプレイヤーだ」

『お前に関わると死亡フラグが立つからな』

「その噂はお前が広めてるって知ってんだぞ?」

『まぁいい、とりあえずヒロインとちゃんと会話して決めろ。さっきから『独り言を呟いてる』お前を変人を見る目で見てるぞ』

「なにっ⁉︎」


 バッと視界をベッドの方に向ける。そこには変人を見るどころか、道端にある犬の糞を見るような下げずむ視線を向けてくるヒロイン……いや、魔王にしておこう。ヒロインにこんな視線を向けられていると思ったら悲しくなる。


「よ、よう。勝手に上がらしてもらってるけど、怪しいもんじゃないぞ」

「ペラペラペラペ! ……、ペラペラ!」

「んっ? 言葉が……」

『中世ヨーロッパだからな』


 ワンルーム内は怒ったようなエクスの英語かフランス語かスペイン語か不明な言語が響く。


(おいコラ! どんな部分に拘りを入れてんだ!)

『初めての中世ヨーロッパ的なファンタジーだからな。読者に「なんで日本語なの?」と言われないように語源が不明なペラペラにしてる』

(どんだけ読者に怯えてんだよ! 方言は気にしても言語なんて気にしてる読者はいねぇよ! その辺は大人の事情でふわふわした感じでいいんだ! 読者も日本語とペラペラが混ざる物語なんて読み難いだろ! 今すぐ日本語に翻訳すれ!)

『このままでは台詞がわからないまま主人公が物語を牽引する事になる。言語がわかる魔法を勉強しろ』

(それは勉強して言語を理解すれって事だろ! なんでヒロインをこんなめんどくせぇ設定にしてんだ!)

『登場人物だけ練りに練っといて構成が見切り発車になった結果だ』

「なんとかすれよ⁉︎」

『この物語はお前の一人称だ。俺の三人称なら作者の身勝手な都合で日本語にできるが、主人公が一人称をしてる以上はお前が言語を覚えるしかない。……そしてこっちの時間は夜の九時だ。朝までにエクスのペラペラをなんとかしといてくれ。おやすみ』

(寝るの早っ! 健康的だな!)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ