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軌跡はシュレッダーへ

 

「ヒロインが気絶して物語が進められない。作者、吐血ってヒロインはどんだけ病弱なんだ? ……、……、……何も言ってこないな。設定がブレてるのか気分で吐血さしたってところだな」


 俺は瓦礫になった家の中からエクスが愛用していたであろうボロベットを外に出す。


「布団にホコリが……」


 石造りの家を破壊した結果、瓦礫やホコリがボロ布団に散らばっている。エクスが喘息持ちだと致命的だな……と思いつつ左手で布団を掴み、背中にある聖剣エクスカレバーを右手で取り、大袈裟に布団をぶっ叩く。

 布団は叩くとホコリやダニが奥に入り込み綿を崩すと言われているが、このボロ布団は綿の代わりに(わら)が入っている。ホコリとダニだけ……説明を長々としても意味が無いな。とりあえずレベル九九九の攻撃でダニは即死した。

 人生初のお姫様抱っこはヒロイン……と自慢したいがエクスは魔王も兼任している。つか、魔王を守る連中はいないのか?


「普通なら家を破壊した時点で敵に囲まれるはず。作者、敵はいないのか? ……、……、……何も言ってこないな。まさか魔王を守る連中も決めてない見切り発車か……いや、急に槍や弓矢が飛んでくるパターンかもしれないな」


 周りを警戒しながらエクスをベットに運び、ボロ布団を被せる。視認では周囲に敵はいない。しかし、森に囲まれたこんな場所では視認は大した意味を果たさない。仕方ないな……


「たしか日記に葉っぱの枚数を書いてるとか言ってたな。よし、植物には無害の動物のみ殺気で斬られたように感じる特技【剣気(けんき)】を使うか」


 俺は周囲に視線を向け、聖剣エクスカレバーを地面と水平に構える。

 内心でむんっ! と気合いを入れて周囲に殺気を込めた剣気を向ける。その瞬間、木々からは鳥やリスが落下、周囲からはキュゥ! と野うさぎが鳴いた声が届く。とりあえず、警戒していた人や魔物がいない事が確認できた。


「作者のヤロウ。俺の好感度を下げるために小動物を犠牲にしやがったな。こういう時は『森が静寂に包まれた』的な感じでいいだろうが……」

『リスが食える小動物なのか見たくてな』

「うおっ! 急にどうした!」

『野うさぎや鳥は食料にしてるのにリスってどんな漫画や小説でも食料にしてないだろ?』


 作者は何を言ってるんだ? まるでネタが尽きたような言い方だな。……つか、思いっきり見切り発車じゃないか? まさか、目先の構成さえ作ってないんじゃ……


「お前さ、どんな方向性で物語を構成してんだ? 今までは嫌がらせ九○パーセントで練り込まれていたけど、なんだかんだ言いながらも進行はできた。今回は最初から見切り発車だろ? 結局、飛行魔法も習得しなかったし」

『読者に「こんな構成や設定はどう?」と言われたら採用していく所存だ』

「……、……、……作者が構成を作り主人公が牽引する物語を読者の声から採用するとは……堂々と言いすぎだ」

『ゴ○ゴ13の作者も採用してる方法だ』

「テメェ、大御所がやってるからって自分も通用すると思うなよ」

『うむ。重々承知だ。それよりもリスは主人公として食えるのか?』

「倫理上食いたくない。気絶してるだけだから野うさぎと鳥だけ締めて晩飯にする」

『ヒロインの吐血がリスを食ったら治る設定も却下ということだな』

「よし。リスは鳥と野うさぎの中に混ぜて食わせる。その設定は採用だ」

『うむ』


 俺は周囲で気絶している鳥や野うさぎやリスを拾い集める。たまにエクスを見るが熟睡しているのかピクリとも動かない。前回の魔王のように攻撃する前に絶命したか……と思い、心配で見に行く。


「透き通るような金髪は肩を掠め、きめ細かな白肌と薄っすら赤みのある頬は白桃のようで彼女自身から甘い香りがただよう。長い睫毛(まつげ)を濡らす涙は甘い果汁を思わせ、自制心が許すならこの雫を飲み干したい。ってところか?」

『うむ。地の文で語る描写を台詞にするとは思わなかったが、そんなところだ。絵師さんには俺の方から細く言っておく』

「作者。顔立ちも大事だが、着瘦せするBとCの間の聖なるマシュマロはたとえ編集者や高名な絵師に修正を求められても譲るな。なんなら俺が土下座してもいい」

『お前の土下座は見事の一言だからな。心強いぞ』


 主人公が首を突っ込む案件ではないが、作者はBとCの間と言った俺の提案を守ってくれそうだ。心強いのは俺の方だと言葉に出したいけど、そもそも読者の目に届いているか不明な物語だ。感謝を言葉に出すのは控えよう。


「俺の命を狙う魔王でなかったらなぁ。まぁ、病弱なまま倒したら罪悪感しかないし、吐血だけでも治して今後の魔王ぷりを見ていくか」


 拾い集めた小動物を両手に持ち、森の中に向かう。目的は小動物を肉にするための加工なので詳細は割愛する。

 落ちていた木の枝に(つる)を縛り合わせた簡易的な大皿を作り、肉を盛る。サバイバル知識や技術は、魔王という名前の川の主を釣る物語で学んだからお手の物だ。山菜や木の実などの見分けもできるから付け合わせとして採っていくかな。


「作者。今までの物語が役に立ってる。こればかりは感謝を言葉に出したい。ありがとうな」

『今までの物語は布石だ。お前が培ってきた能力や知識、そしてレベルはこの物語のためにある……事にしておこうゴニョゴニョ』

「んっ? この物語のためにあるの後、最後はなんて言った?」

『気にするな。こっちの都合だ』

「そうか。……つか、この物語のためにあるって言うなら、なんでヒロイン兼魔王を倒す物語にしてんだ?」

『その辺は読者の采配で左右する構成であり、俺の気分でもある』

「見切り発車もここまでくると気持ちいいな。一度でいいからお前のプロットを見てみたいもんだ」

『見るか? ファンタジーの世界だから魔法陣みたいに空中に文字を書ける。一度やってみたかったんだ』

「……、オチが予想できるぞ」

『物語のタブーである作者自らプロットを公開する読者の激怒間違い無しの暴挙! 見よ! トゥルルルル!』


 最後のトゥルルルルは魔法が発動した時の効果音のつもりか? 自分の口で言ってる時点でこの世界に魔法があるのか不安になるぞ。

 内心で作者に対しての不安を募らせていると中空に黒い文字が浮かんできた。


「汚ねぇ字だな! 草書文字か⁉︎」

『立派な現代文字だ。誰かに見せる前提に書いてるわけじゃないから汚いだけだ。そんなことはいいからプロットを読め。そして感想をくれ』

「字の汚さがガチの魔法文字を見てるみたいだ」


 俺は中空に浮かんだ文字を見やる。


【主人公は真っ白な部屋で作者と会話する】

【会話内容は主にヒロインの顔立ちや体型】

【作者は主人公を中世ヨーロッパ的なファンタジーの世界に飛ばす】

【主人公は空からヒロインに向けて落下】

【飛行魔法なんてどうやって習得するんだ? まぁこの辺は適当でいいか】

【ヒロインと激突】

【完】


「プロットになってない。それだけでなく、ヒロインと激突の次に完ってなってる。予想した以上のオチだ」

『パンをくわえながら走って登校したらドンッと主人公とヒロインが出会うだろ? この王道パターンをちょっとひねってみた』

「ちょっとどころじゃねぇな」

『実はな、登場人物の設定だけ練りに練って飽きたんだ。構成は、お前の要望を聞くだけ聞いて期待を上げるだけ上げてヒロインが魔王だと暴露し、激突させて完の予定だったんだ』

「お前の最低ぷりには今さら言う事は無いが…………それならなんだ? 今はロスタイム的な扱いか?」

『いや、俺の執筆は登場人物が勝手に動く。プロットもこのとおりだから脱線する。実はヒロインの両手が魔法的な感じで光ったのは予定外なんだ。不発したように見えたアレは、たぶん自分の方に飛んできたモノを移動させる重力制御的な魔法だな』

「いやいや、そんな引力の法則を無視するような魔法なら俺の身体が何かしらの違和感を感じたはずだ。回転斬りで方向転換しただけだ」

『じゃあ、作者の俺が魔法的な感じで言っちまったキラキラした両手はなんだ?』

「手汗だろ」

『……、……なるほど。手汗か。一理あるな』

「とりあえず、今は作者自身が迷走状態だから過去の物語で得た能力を紹介する感じに立て直しているんだな?」

『そうなるな。だが、俺は適当にお前で遊んでいただけだから能力云々はうろ覚えだ。このとおりシュレッダーで整理してるぐらいだし』


 ダッダァァァァダッダァァァァとシュレッダーが用紙を切り裂いていく音が聞こえる。この作者が物語内に自分の世界の事象を持ち込むのは慣れているから気にしても仕方ないが、今までの物語をシュレッダーにかけるとはなんたる暴挙。


「パソコンに保存してあるんだろうな?」

『原稿用紙がシュレッダーにかけられている時の音に心が和むのはなんでだろうな』

「保存してあるんだろうな?」

『このダッダァァァァを聞くために執筆してると言っても過言ではない』

『保存してないだろ?』

『俺は過去を振り返らない。そして、苦労して書いた原稿用紙をシュレッダーに流す快感はやめられない』


 ダッダァァァァダッダァァァァと次々に俺の歩んできた物語がシュレッダーにかけられている。まぁ、過去の物語が必要なら俺が語ればいいし、作者のストレス解消に口を出すのは止めておくか。


 シュレッダーの騒音と作者の高笑いを聞きながらエクスの元に戻る。先ほどとは逆側にエクスの頭があるのは何故だ? 寝てるフリでもしているのか? と勘ぐるが、顔を覗き込むと寝息を立てて寝ていた。


「寝相が悪いのか? ……まぁいいか。とりあえず肉や山菜は家の中を片付けて食器や調理器具を…………いや、病弱だったな。このまま外に寝かせるわけにいかないし、家を直してやるか」

『意味が無いと言っていた大工の能力が役に立つ時が来たな』

「覚えていたのか?」


 過去を振り返らないとか言ってもそこは作者、覚えていたようだ。意外感しかないが……


『お前が物語には意味がないと言い張っていた能力は、俺が本気で必要と思った構成の一部だからな』

「年をとらない世界で五○年も宮大工をやらしておきながら、使う機会を与えずに作者自身がボツにした物語だったな。予想するまでもなく、魔王の家を直す主人公という感じで利用してるだけだな」

『俺の物語はレベルや能力を引き継ぐ構成だ。たとえボツになった物語であっても機会があれば覚えている範囲の能力は使う』

「俺としては無駄な五○年にならなくてよかったと思ってる。これは久々に腕がなるな」

『閑話休題だけどな』

「テメェ! 下積みからやっとの思いで極めた棟梁直伝の能力を…………」


 二時間後……


『中世ヨーロッパ的な世界に平屋の純日本家屋とは…………普通は世界観に合わして石造りか木造りの洋風建築だろ。俺への当て付けか?』

「中世ヨーロッパの世界が初めての俺には洋風建築はわからんし、日本家屋を建てる能力しか無い。お前が創ってきた物語の結果だ」

『エクスに気を使って森の奥の木を伐採するまでは男として成長したなぁ……と思ったけど、中世ヨーロッパ的な世界観を崩したくない俺への気づかいが欲しかったな』

「中世ヨーロッパの世界観を崩す前に、中世ヨーロッパの世界観がボロ屋しか出てきてないからな」

『そのボロ屋を破壊したのは誰だ?』

「…………」


 お前が冒頭から無茶な登場シーンを創るからだろ。と言ってやりたい。しかし、俺が破壊したのも事実だ。仕方ないな……


「大工の腕はあるから洋風建築を見て建て直す。わからない事は進行に響かない程度に学ぶ」

『世界観は大事だ。そうしてくれ』

「とりあえず、ヒロインを部屋に運んで飯を作る。この辺は割愛していいから次話に行く前に全体的な構成を練り直しとけよ」

『任しておけ』

「おい。付箋に資料と書かれた料理のレシピが中空に浮かんでいるぞ。構成を練り直す気ないだろ?」

『…………』

「次話が調理から始まったら語り手として割愛するからな」


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