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円卓の子供騎士とアーサー王の父

 ドワーフ村では金属を叩く音がなくなった代わりに、ドワーフ族の城で宴が催されていた。

 大門から扉までの庭ではドワーフ族とホビット族がお祭り騒ぎ、城内では給仕係が走り回り、二階テラスでは主賓のエクスとエクスの母親が久々の親子での食事をしていた。

 エクスの目が覚めた時に親子は感動の再会をしたのだが……感動的な親子の対面よりも、食事の匂いに釣られて調理場に行き、つまみ食いした時の方が感動的だったように見えた。花より団子、母親より料理という感じでドワーフ族の料理を楽しみにしていたようだ。


 (けい)の字に並ぶテーブルの上座には主賓のエクスと女王が座り、エクスの隣に俺が座る。

 女王の斜向かいでは、ロットとヴァルが大食い勝負をしている。その前でエインが二人の食事を慣れたように取り分けていた。

 俺の斜向かいではドワーフ族族長ロイトがいる。のだが、食事風景を楽しんでいるだけで料理に手を出していない。正確には、皿に料理を盛ってもいない。


「ロイト。食わないのか?」

「ユーサー殿。お気遣いなく。我輩は若い者が食べているだけで腹一杯になります」

「そうか。……そういうもんか……?」


 チラッと大食い勝負をしているロットとヴァルの間にあるエインの皿を見る。エインは自分の皿には料理を盛っていない。ロイトに視線を戻し、


「上に立つ者としてのケジメ、か?」

「お気になさらず」

「おい、女王? エクス?」


 俺はエクスの母親、女王とエクスを見やる。


「「モグモグ? モグモグ?」」

「二人で同じ顔して疑問符を浮かべんな。テメェ等が食って、テメェ等を守る兵隊が食ってねぇだろ。何か言う事はあるか?」

「モグモグモグ、モグモグモグ、だっちゃ」

「モグモグ、モグモグ、ズラ」

「だっちゃとズラだな。よし……」


 ゆっくりと立ち上がりテーブルを回り込んで、モグモグモグモグと食べる二人の前に立つ。


「「?」」……エクスと女王は疑問符を浮かべる。


 そんな二人の顔面をガシッガシッと鷲掴みして、そのまま持ち上げる。


「「ぶっ!!!!」」……ロットとヴァルが口の中の物をエインに向けて吹き出す。


「国のトップがこんなんだから内部が割れるんだ。テメェ等の分はロイトとエインが食べる。いいな?」

「人参ならあげるだっちゃ!」

「ピーマンなら食べていいズラ!」

「よぉし。それでこそ王家だ。人参とピーマンしかいらないとはよく言った」

「「⁉︎」」……エクスと女王はガーンと驚愕する。


 二人の顔から手を離し、テーブルにある料理を取り上げてロイトとエインの前に置く。代わりに、俺の席にある料理をエクスと女王の前に置く。


「国をまとめれない王なら、自分が飢えても民を飢えさせんな。贅沢したいなら国をまとめるための知識と力を付けろ。お前等は俺に絶賛略奪中なんだ。いつまでも国のトップだと思うな」

「ユーサー。食べて生きるのがわたくしのパッシブスキルズラ」

「だっちゃ!」

「それはパッシブスキルではなく、ただの食欲だ。スキルと言うならエインはまだ成長期だろうし、ロイトだって強い身体を維持しないとならない。なのに『お前等が食う分を自分達の分から出していたら力が入らないし、スキルも身に付かない』だろ。……とりあえず俺の分でも食ってろ。足りないなら。ロット?」

「なんでござるか?」

「大食いの女王様とお姫様が満足するぐらいの獲物を狩りに行くぞ」

「行くでござる!」


 ロットが立ち上がると隣にいるヴァルも立ち上がり。


「我も行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「ヴァルも?」

「狩りなら任せろ!!」


 任せれない、と言ってやりたいけどヴァルの性格から聞く耳を持たないだろうな、


「まぁいいか、よし行く……」

「じ、自分も、お供してもよろしいですか?」


 ぎこちなく言葉を並べたのはエイン。


「エインも? ……」


 何か思い詰めているのかエインの無表情が更に堅くなっている。先ほどの闘いで女王を護るという騎士道精神に多大な負の影響を与えてしまったからだろうな。


「女王やお姫様のために行きたいのか?」

「いえ。自分のため、でございます」

「勤勉な事だな。さすがはロイトの……息子か?」

「若輩の息子にご教授していただけるなら、このロイト……」

「カシオスやイリーミアもだけど、上に立つ者が簡単に頭なんか下げんなって。俺はただのならず者なんだ。下げるならドワーフとエルフがお互いに認め合った時にお互いに下げれ」


 俺は歩を進め、ロットとヴァルの襟首を掴み、


「エイン。背中に乗れ」

「は、はい」


 エインが背中に乗ると二階テラスの壁際まで行く。


「それじゃ。行ってくる。ロイト、ちゃんと食ってろよ」

「感謝いたす。ユーサー殿……出口は向こうじゃが?」


 ロイトが二階テラス出入口に指差すと、二階テラスの外に向かって特技【打兎】、塀の凹部分に足を乗せて蹴り上げると、走り幅跳びと同じ要領で飛ぶ。特技【打兎】からの走り幅跳びは庭を越え、大門を越え、ドワーフ村の中央辺りまで届く。


「ゆ、ゆ、ユーサー殿! 飛行魔法は⁉︎」

「ロット。俺は魔法を使えない。後で教えてくれ」

「魔法を使えないのか⁉︎」

「ヴァル。魔法が無くても鍛えれば魔法の代わりになる身体能力が付く」

「自分もこのように身体能力だけで飛びたいです」

「エイン。将来、エクスが産むアーサーを守るのはロットやヴァルやエインだ。これぐらい簡単にできないとアーサーが国を統一できないぞ」


 それだけじゃない、と加え、


「お前等が、アーサーと対等になり、アーサーの長所を伸ばし、短所を改めさせ、今みたいに上下のある家臣ではなく全部族が対等の国を創るんだ。……できないか?」


 理想を語る俺にロット、ヴァル、エインは……


「ユーサー殿が一番弟子ランス村の騎士ロット! やるでごさる!」

「ユーサー師匠の二番弟子パーシ村の戦士ヴァル! 任されたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ユーサー様が三番弟子、ガウ村の騎士エイン、命尽きろうともお教えを忘れません」

「よし。とりあえず、今日の修行はクマをデコピンで倒すところからだ」

「「⁉︎ ……、…………み、見本を……」」


 ズダン! と着地したと同時に走り、ドワーフの地を駆ける。


「見本か。たぶんその辺は……」

『閑話休題だな』


 どこからともなく作者の声が届く。


(だろうな)

『まぁ……今回はエクスが寝てる間が勝負だったからな。どんな捻じ曲がりがあるか不安だったが、寝ている時に無防備なのはヒロインの特徴らしい』

(エルフ村と比べてホビット村とドワーフ村の展開が早いと思ったのは『エクスを警戒していた』のか……何故、ロットだけでなくヴァルやエインも狩りに同行させて俺の弟子にした?)

『……、閑話休題は止めて三人を教育しながら会話をしよう。右側の森の奥に巨大なクマがいる。巨大と言ってもお前が遊んでいたクマだ。三人を鍛えながらになるけど大丈夫か?』

(大丈夫だ。致命打をくらいそうになったら特技【剣気】を使う)

『よし、まずはクマを……』


 タイピング音が耳に届く。


 作者のタイピング音に合わせて俺は右側の森の中に入って行く。


「ユーサー様。この森には(ぬし)がいるため、オヤジ殿に立ち入り禁止と……」

「エイン。それならオヤジ殿が手こずる森の主を三人で倒してみろ。デコピンでは無理だろうから剣を使え」

「師匠! 我は空を覆い隠す主を見たことがある! アイツは! 狩りのプロの我がいても紙一重で逃げるしかない!」

「俺の弟子なら逃げずに倒せ」

「倒すでござる!」


『さぁ、空を覆い隠す巨大クマの登場だ』


 作者の声音が届いた瞬間、険しい森の中から雄叫びを挙げた巨大なクマが現れた。

 太い四肢に生える鋭い爪で地面を抉りながら木々をへし折り、二本足で立った瞬間、赤茶色の毫毛が空を覆い隠す。懐かしのクマさんだ、と思い出に浸れるのは俺だけだな。


「主だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ヴァルが絶叫した瞬間、エインは俺の背中から飛び降りて巨大クマの前で大剣を構える。間髪入れず、ロットは「ユーサー殿! 手を離してくだされでごさる」と言い、俺が手を離した瞬間、イリーミアから渡されたアロンキエルとダイトロールを抜刀しながらエインの横に並ぶ。二本の鞘がカランカランと地面に転がる中、ヴァルは……


「師匠! 我は後衛だ! まだ離すな!」


 ヴァルを掴んでいた首根っこを離す。


「まだ魔法がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「闘いながら魔法を使え。二人はすでにクマに立ち向かっているぞ」

「秘技! 戦略的撤退!」


 ヴァルはものすごい速さで木の上に逃げて行った。


「なんだかんだでヴァルが一番長生きしそうだな」

『そうだな。設定上ではロットやエインは武闘派の前衛タイプだから、ヴァルよりも個々の武力が高い。だが、ヴァルは二人よりも強い』

「強さの意味が違うという事か?」

「ヴァルは周りを見る力があり、攻守の判断を見極め、地形や障害物など物ともせず走り抜けて援護する。ロットとエインが武将ならヴァルは軍師って感じだな。疾走のパーシヴァルとでも言っとくか』

(疾走のパーシヴァル? ……)


 俺の視線の先では黄色の光を全身に纏わせながら木から木へと飛び移り、ロットとエインに身体能力を上げる緑色の地魔法を放ち、巨大クマの視界を奪うように火薬袋を投げつけて翻弄していた。それだけではない、周囲に他の敵がいないかまで警戒している。


「ヴァル。やるじゃねぇか」

『ロットとエインはヴァルがいるから周りを気にせずに闘えるという事だな』

「魔法が苦手なロットと自分に強化魔法を使わなくていいエインが攻撃に集中できている。だが、ヴァルの援護は最高だけど、ロットとエインがまだまだだな」

『ロットとエインは武力がある分ヴァルほど周りが見えていない。お互いにフォローしながら闘っているつもりでもコンビネーションもクソもない荒削りな攻撃だ。この闘いから三人で力を合わせる事を学べば上々だが……ヴァルが言った紙一重で逃げるという判断は正しい』

「倒すさ」

『ヴァルが疲労して魔法を使えなくなったら助けろ。巨大クマのヒットポイントが一◯◯◯◯だとしたらヴァルの火薬袋は一ぐらいしか効果ないし数も無い。ロットとエインの斬撃は硬い毛で皮膚まで届いてない。アーサー王と共に歩む円卓の騎士とはいえ、子供時代はこんなもんだ』


 ヴァルの援護や火薬袋での翻弄がなければロットとエインは鋭い爪からのベアクロウが直撃するだけでなく、乱立した牙の餌食になっている。それにしても、円卓の騎士とはよく言ったもんだ。


「パーシ村のヴァルでパーシヴァル。ガウ村のエインでガウェイン。ランス村のロットでランスロット。……か、円卓の騎士を弟子にできるなんて光栄だな」

『お前さ、ここまで言ってるのにわからないの? あなたの思春期特有の精神疾患は何の疑問も浮かばないのですか?』

「アーサー王の物語から登場人物を参考にしているんだろ?」

『お前さ、ユーサーって名前に何の疑問も無いの? アーサーを知ってるならユーサーも知ってるなぁと俺は思っていたんだけど?』

「アーサー王とユーサーに何かあるのか?」

「何かあるのか? って、お前なぁ……」


 はぁとため息を吐くと、作者は更に語を繋げる。


『アーサー王の父親の名前はユーサー。ユーサーがいるからアーサー王が産まれるでしょうが。お前が、まがい物の聖剣エクスカレバーではなく精霊の加護がある聖剣エクスカリバーを持つに相応しいアーサーを産むんでしょうが。何のために精霊をパンツの中に飼っているのですか? 国を統一するアーサーの道を創るのがあなただからでしょうが。わかります?』

「わかります? って……お、お前さ、なに、壮大なネタを、バラしてんの?」


 呆れるの一言に尽きるだろう。だが、この作者がネタをバラすのは日常茶飯事、たぶん……他に理由がある。


『はぁ? ネタバレ? 全然ネタバレじゃねぇよ。お前が主人公の物語のテーマは、お前に対して【思いつく限りの悪意】だ。アーサーを産めると思うなよ! エクスはヒロイン兼魔王だからな! 俺が作者の権限を使ってアーサーが産まれるのを阻止してやる! がはははははははははははははははははははははははははははははははは』

「て、て、テメェ……それでも、作者かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ドゴォン! と俺の怒りが気合いとなり、ロットとエインとヴァルが苦戦していた巨大クマがあっさりと気絶した。


「あっ……」

『あぁぁああ。やっちゃいましたよ。この際、あなたがアーサーになるルートでいいのではありませんか?』

「割愛でいいからせめて童貞だけ捨てさせろ」


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