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ドワーフ村ガウ

 ドワーフ村ガウは石畳の道に石造りの洋風建築が建ち並ぶ街になり、エルフ村やホビット村のような木造りの建物は無い。一本道の左右に屋敷が連なる街並みは森に囲まれたエルフ村や彩り豊かなホビット村と変わらないけど、木造りと石造りの違いからなのかドワーフ村はどこか重く感じる。

 更に、周辺の家屋からはカンカンカンと金属を叩く音やガンガンガンとドラム缶を叩いたような騒音が響いている。


 ホビット族は今だに俺に繋がっている縄を引っ張りながら「わっせい! わっせい!」と綱引きをやっている。そんな中、数人のホビット族が正面から歩いてくる二人のドワーフ族に…………なんか逞しいロットがいる!

 身長は俺の腰ぐらいでロットよりも少し背が高いずんぐりむっくりの男女。

 逞しい髭を蓄え、ゴツゴツした筋肉質な体型に緑の布服を着た男性とずんぐりむっくりだがどこか女性らしい柔らかな体格の女性。二人は夫婦と思わせる。

 ドワーフの夫婦はホビット族から何やら話を聞くと俺の前で上腕二頭筋を見せびらかせニヤッと輝く歯を見せると、ホビット族が開催している綱引きに参加した。


「ユーサー殿。ドワーフは力自慢でござるが…………」

「んっ?」


 俺は何事も無いように歩く。


「大丈夫でござるな」

「全然大丈夫だ」

「あの城に女王様がいるでござる」


 ロットが向く先、一本道の先には石造りの城……というより、見た目から豪勢なのだが、


「地下世界に石造りの城か。……思ったより小さいな。城というより洋館だな」

「城と洋館の違いは建物の大きさよりも、攻められる前提か住む前提かのどちらを前提に建てているかでござる、と母上に教わったでござる」

「なるほど。城は攻められる前提に建てるのは当たり前だ。エクスの母親にイストラーディ国の城を弁償しろと言われた時に役に立つ知識だな……、んっ?」


 全身にまとわりつく縄をホビット族とドワーフの夫婦が俺の前進を止めるように引っ張っていた。大した力でもないし、エクスの母親がいるドワーフの城へと歩を進めていたのだが、不意にズシッと引っ張られた。

 歩を止めて背後を見てみると呆れるの一言。

 ホビット族の縄に綱引きで使うような太い縄を縛り付け、ホビット族数十人を先頭にドワーフ族数十人がズラァァァァと並んで綱引きをしていた。


「ロット。コイツ等は綱引きに飽くなき執念があるのか?」

「ユーサー殿はホビット族の自己主張を無視するだけではなく、ドワーフ族の力自慢も通用しないでござる。エルフのプライドをズタボロにした時と同じでござる」

「種族それぞれに特性がありプライドがあるって事か。まぁ、コレだけの人数がいれば俺も……」

「イストラーディ国を両断した力を使うでござるか⁉︎」

「クマと遊ぶぐらいの力は出せる」

「……………………」

「どうした? なに落ち込んでいる?」

「ドワーフ族の力はクマと肉弾戦ができるでござる」

「俺が今まで遊んできたクマは一○メートルはあったからな」

「拙者、山を斬る自信が無くなったでござる」


 ロットが落ち込んでしまった。

 何事もなくドワーフ族の城へと向かうと、施錠された大門を前にする。聖剣エクスカレバーの柄先を扉に押し付けて破壊、石畳みの道を進み、城の扉へと進む。

 城門だけでなく城の扉まで破壊されてはたまらないと思ったのか城の扉は自動で開き、室内が明るみになる。

 ドワーフ族の城の室内は規則正しく石柱が並ぶ広いロビー、中心に大階段があり、赤い絨毯が敷き詰められている。


 大階段の上には丸いテーブルがあり一人の女性が椅子に座って食事をしている。

 金糸のように輝く金髪は腰まであり、生きる芸術と表現してもいい美顔には透い込まれそうな碧眼。

 ウエディングドレスのようにフリルやレースがある純白ドレスを着こなした彼女には美や輝という言葉がそのまま当てはまる。

 エクスの家で読んだ本に描かれていた女性に似ている。おそらく、エクスの母親だろう。いや、間違いなくエクスの母親だ。テーブルを埋め尽くす料理の食いっぷりがそっくりだ。


「モグモグモグ、モグモグモグ、だっちゃ」

「だっちゃ……て。娘はズラで母親はだっちゃかよ。つか、食うか喋るかどっちかにすれ。と言いたいが、食う方に専念しすぎだ。親子揃ってどんだけ俺に興味が無いんだ」

「モグモグモグ……お主、モグモグ、モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ」

「娘よりひでぇな。まぁいいか。とりあえず……」


 大階段上で食事をするエクスの母親から正面に視線を向け、二人のドワーフの内、屈強なドワーフを見やる。

 向かって右側にいる屈強なドワーフは、二本角の兜を被り、緑色に輝くプレートアーマーを装備し、右手には両刃の斧を持っている。

 いかにもドワーフのイメージそのままだが、彼を屈強と表現するモノは他にある。

 プレートアーマーの下にはパンツと布シャツしか着ていないため肌が露わになり、その肌に歴戦の傷痕が無数にあるのだ。

 初老の厳つい顔立ち、ライオンの(たてがみ)を思わす髭、左目から唇まで通る傷痕が痛々しくも精悍に見えるのは彼がそれほどの戦士だからであろう。


 そして、左側にいるのは青年ドワーフ。

 一見、茶髪の無造作ヘアから覗かせる顔立ちは勇敢で凛々しい、が表情が希薄で何を考えているかわからない。無表情と言った方がいいな。

 兜の代わりに緑色の金属の額当て、緑色に輝くプレートアーマーを装備している。左手には剣先が丸くなった大剣を握る。


「ロット? この時代の習わしなら略奪って感じでいいのか?」

「話し合いの余地がなく、力の差がわかっていながら受け渡しを拒否した場合は略奪でござる」

「そこに女王の意志は?」

「ユーサー殿の意のままに」

「そうか。……」


 ヒョイっとロットをエクスが眠るベット型の車椅子に投げる。「ぶぎゅ」と声が詰まったように言ったためロットは顔面から無防備に着地しのだろう。後で謝らないとならないな。


「略奪は俺の趣味じゃない。個人的にも女王には興味が無い。だが、女王の身の安全を考えるなら、エクスと共に俺の元に居た方がこの国以上に安全がある。女王の受け渡しを拒否するなら……好きなだけ攻撃し、諦めろ」


 ベット型の車椅子に聖剣エクスカレバーを納めたまま、ヴァルを足先でリフティングしながら歩を進める。

 視線の先のドワーフ二人は構えを取り、絨毯を焦がす勢いに特攻。

 青年ドワーフは大剣の剣先を俺の胸に向け、初老のドワーフは両刃の斧を首元に向ける。

 どうやらヴァルの人質は役に立たないようだ。二人の剣術と斧術は高い技術があり、リフティングするヴァルの顔や身体を寸前で交わす。


 しかし、それだけだ。


「「⁉︎」」……二人は驚きを表情に出す。


「好きなだけ攻撃しろ」


 武術や剣術のたしなみがあるなら一撃で気づく。自分が放った刃が肌に一センチ届いていないと。

 俺は二人の驚きに構うことなく大階段に向かう。ヴァルが自分も闘っているようにアピールしているが二人には邪魔にしかなっていない。


「親父殿。……剣が」

「うむ。エイン、地の魔法で強化するのじゃ」

「はい」


 ヴァルの話が出ないため、障害物としか見ていないのだろう。エインと呼ばれた青年ドワーフは全身に緑色の魔法的な光を纏い、初老のドワーフに左手を向け緑色の光を初老のドワーフにも纏わせる。


「おっ魔法か。身体強化ならドワーフにうってつけだ。頑張れ」

「覚悟!」


 初老のドワーフが声を挙げながら飛んだ瞬間、エインは低い体勢で特攻し大剣を俺の左足首に向けて振る。


「上に注意を向けて下を攻める。か……」


 右膝を上げ、リフティングしてるヴァルを右膝に乗せると、


「二人で闘う常套手段だが……それは刃が届く相手にしか通用しない。残念だったな」


 ガッと左足首に届く一センチ前で大剣は止まり、両刃の斧は額の中心一センチ前で止まる。

 自分達の最高の一撃が通用しないとわかっても、二人は諦めずに攻撃を繰り返す。騎士道精神と言えば聞こえはいいが、この差は精神に多大な影響を与えるだろう。

 嵐のような連続攻撃にヴァルは自分の許容範囲を越えて涙目になっている。

 それでも大階段を上がる俺の歩は止められず、エクスの母親が食事をするテーブル前に到着する。

 傷心したヴァルをヘディングしてベットに飛ばす。ロットは頭突きしながら受け止め、ヴァルは気絶する。


「飯なら娘と食え」

「モグモグモグ……、精霊はなんと言ってるだっちゃ?」


 澄んだ泉にさえ波紋を作らない透き通る声音。エクスの声音も綺麗だと思ったけど母親はそれ以上だ。それこそ王宮に響き渡るソプラノだ。


「自分で聞け。ウンディーネとサラマンダーがベッドで寝てる」


 遠慮無しにドレスの襟首を捕まえてベッドに投げる。ロットが身を挺して受け止めてくれると思ったけど、顔面で受け止めるとは……縄を切ってやればよかったな。


「略奪成功だ。悪いが、エルフとドワーフの政権争いはコレでお終いだ。あと、ドワーフには関係ないと思うけど、ワイバーは俺がなんとかする」

「そなたは、アーサーか?」


 両刃の斧を持つドワーフがアーサーと言った後に周囲のドワーフ族やホビット族がザワザワと騒ぎだす。


「俺は国の統一なんて興味ない。そして、剣を向けといて自分を名乗らないヤツに名乗る謂れはない」

「すまなんだ。我輩(わがはい)はドワーフ族族長ロイト。不躾な振る舞い、ご容赦くだされ」

「気にするな。俺はユーサーだ。テーブルにある料理、勿体無いからもらっていいか?」

「ユーサー殿。敗者の弁など聞く気はないと思うが、耳を貸してくだされ」

「ロイトは勝てないとわかっていながら奇策を持ち入らず、正面から挑んできた。俺は真正面からきた相手なら敗者の弁を聞いてもいいと思ってる。敗者の弁とは言わずにドワーフ族の戦士として言ってくれ」

「感謝いたす。女王様に興味が無いと言われたユーサー殿をこのまま手ぶらで返せばドワーフ族の恥。我輩を戦士と認めてくだされたなら、我が家にて一時(ひととき)のおくつろぎをお願いしたい」

「それはありがたい。寝ないで歩いていたからロットを休ませたかったんだ。戦士ロイトの言葉に甘えさせてもらう」


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