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王の責務

 エクスの車椅子に必要な荷物を入れ、ロットの荷物袋に食料を詰め込みエクスの家を出る。

 森の中は虫の鳴き声と風のざわめきしかない。が、エルフの村の方向を見ると赤や青の魔法的な灯りでぼんやりと明るくなっている。幻想的と言えば大袈裟かもしれないけども、森の中にある光は少なからず心を暖めてくれる。


 ロットがエクスの車椅子をベッド型にすると、俺はヨダレを垂らしながら熟睡するエクスをベッド型車椅子に乗せ、エクスが落ちないようにロットが持っていたロープで縛る。後は車椅子型の時と同じく、聖剣エクスカレバーの刀身を底の収納スペースに納めて持ち上げる。

 隣にいるロットは、リュックサック型の荷物袋に布団や毛布を縛り付けて背負っている。まるで登山家のようだ。


 荷物をまとめて詰め込んでいた時にロットが言ってたのは、物語を構成する起承転結の転に思えた。


 その内容は、イストラーディ国での勢力図になる。

 一つの山になっていたイストラーディ国の一合目から三合目がドワーフの街になり武器や防具の生産。

 四合目から七合目にある平野にホビットの街があり、農作物や家畜の生産。

 そして、八合目から一◯合目にはエルフとダークエルフの街があり、国家運営の中核としてイストラーディ国をまとめていたようだ。


 決定権はあくまでもエクスの母親、女王にあるのだが、人口が多くなると政務だけで過大な負担を与えるためエルフやダークエルフやドワーフやホビットの族長会議での結果を女王に報告し許可を得るというものだったらしい。

 一見、族長会議で公平を記してるモノに見えるが、一つの山にあるイストラーディ国に住む位置が族長会議の立ち位置というようにドワーフとホビットは苦湯を飲まされていたらしい。そんな不条理な上下関係の中にロットみたいな真面目な子がいれば他人の長所を見れなくなるのは当たり前という事だな。


「ロット。ワイバーとシュ•ジンコ•ウは種族の長がいるイストラーディ国を攻め落とした。視点を変えれば精霊の地を汚していたエルフやホビットやドワーフは精霊の敵だから、ワイバーは精霊の勇者ということだ。だが、攻め落とした後に自分達しか住めない地にしたのは精霊から見れば裏切りだ。俺から見たら攻め落とされたエルフやドワーフやホビットや奥義【天の鉄槌】で潰した竜族や竜人族含めて自業自得だ。なんでこんな結果になったと思う?」

「お互いの長所を見なかった結果でござる」

「そうだ。だが、長所を見るだけではダメなのも現実だ。お互いに短所も見せて認め合わないとならない。理想に聞こえるかもしれないが、短所を突いて相手を陥れるのは自分の長所を相手に伝えるチャンスを無くすという事になり、関係を悪くし、確執が生まれ、次第に短所も長所も認め合えなくなる。今のエルフ•ドワーフ•ホビットがそんな状態だ」

「ユーサー殿。拙者、遅くも今、身に染みているでござる」

「ロットはカシオスやイリーミアの容姿がコンプレックスだと言ってたな。自分のエルフらしくない見た目をコンプレックスに思ってるだろうけど、俺から見ればそれも長所だ」

「拙者の見た目が長所でござるか?」

「長所だ。間違いなく長所だ」

「……、……」


 自信なさげに俯くロットの背中をバンッと叩き、銀髪をワシワシと撫で回す。


「俺が立派な騎士にしてやる。ロットはこの世界で俺が認めた仲間だ」

「……、……ユーサー殿! 仲間ではなく弟子がいいでござる!」

「弟子? どっちも変わらないと思うけど……?」


 ロットの真剣な表情にその方がロットらしいなと思い、


「それなら弟子だ。山を斬れるぐらいにはしてやる」

「拙者も山を斬れるでござるか⁉︎」

「俺は最初から強かったわけじゃない。色々な経験を積み、少しずつ強くなって今に至る。ロットやラームより弱かったからな」

「なんと! ユーサー殿にもそんな時が」

「当たり前だ。……んっ? あぁ……話し込んで見つかっちまったな」


 山羊小屋の屋根から飛び降りる人影はふわっと静かに着地する。


「すぐにでも出発できましたのに我が子への教鞭を優先していたのは、見つかるようにしていたのでは?」

「まぁな。それで、精霊の意思を優先してイストラーディ国が攻め落とされるのを高みで見物し『これで女王様に姫様を任せれると言えます』と言ったイリーミアはロットや俺に何か言うことはないか?」


 イリーミアは純白のローブを風に靡かせ、優しく微笑みながらロットの前に行く。その手には二本のロングソード。どうやら俺よりも先に、ロットに用があるようだ。


「ロット。持つ者の心一つで聖剣にも魔剣にもなる【アロンキエル】です。もしも、あなたが道を誤り、このアロンキエルが魔剣となる時がきましたら、ユーサーやエクス様の前から去りなさい」


 イリーミアはロットの目線に合わせて両膝を付くとロングソードの一本を前に出す。

 聖剣にも魔剣にも成るアロンキエルは、水色の波模様で装飾された純白の鞘、そして白金に輝く柄。高級というよりは高貴な雰囲気がある。刀身は見えないが魔法的な力がありそうなロングソードだ。


「母上。父上の、アロンキエルはエルフの宝剣でござれば……」

「こちらは、ダークエルフの宝剣。【ダイトロール】……」


 言葉を被せるともう一本のロングソードをロットに渡す。

 ダイトロールは、鞘や柄は黒色メインになり、より濃い漆黒の霧模様がロングソード全体にある。


「ロット。アロンキエルはあなたの父上が魔剣になる事を恐れ、エルフの王位を継いだ日から抜く事が無くなりました。そして、ダイトロール……持ち主に二心があると鞘から抜けなくなります。私が精霊火姫サラマンダーと契約した日に鞘から抜けなくなりました。どちらも持ち主の心で光にも闇にもなります」


 イリーミアの優しい微笑み顔に二本のロングソードを受け取ったロットは口先を尖らせ、寂しそうに俯きながら、


「母上。形見でござるか?」

「……? ……形見? 形見ではありません」


 形見として二本の宝剣を渡したつもりが無いのは俺にもわかる。ロットにしてみれば、二本の宝剣はそれだけのモノという事だが、誤解は解いておくに限るな。


「ロット。精霊サラマンダーの意思に従うイリーミアは最初から女王やエクスだけの味方だ。立場上、エルフやダークエルフを見捨てる事ができないからロットに自分の意思を託したんだ」


 俯いていたロットにイリーミアの意思を代弁すると、ロットはハッ! とその意思に気づいて、


「母上! ち、父上もでござるか?」

「エルフの王であるあなたの父上はエルフの民全員の未来を守らなければなりません。たとえ、アロンキエルを魔剣に変える心を持とうとも、民を未来に導くという責務を果たすのが王です」

「拙者、拙者……父上と母上の長所、苦労を見えていなかったでござる」

「良いのです」


 イリーミアはロットの銀髪を優しく撫でながら、


「ユーサー。エルフとダークエルフの未来をあなたに預けます」

「わかった」

「それと……」


 右手人差し指を俺の眼前に向け、魔法的な何かなのか水晶のように丸い火の玉を出す。よく見ると火の玉の中で、赤髪ショートカットの気弱そうな目元をした掌サイズの少女が布団で寝ていた。


「すでに眠ってしまいましたが、火姫サラマンダー様は水姫ウンディーネ様と遊びたいと申しておりました」

「契約を解約されたのか?」

「精霊は私やユーサーを宿にされているだけですので、離れていても契約は解約されません。このように実体化はしておりますが、精霊の加護がある地、水、風、火、全てが精霊であり、契約者とは精霊に選ばれた地、水、風、火を守る者です」

「なるほど。妖精みたいな形で実体化してるだけで自然全てが精霊って事だな」

「ショーツの中に入れといてください」


 イリーミアが指先を俺の下腹部に向けるとソレに従うように精霊火姫サラマンダーが眠る火の玉、寝室(?)がスゥと下腹部へと入って行った。


「なんでウンディーネもだけどパンツの中なんだ?」

「精霊は清らかな場所を好みます。大きさも自由自在なのでショーツの中で遊ばれても気にはなりません」

「そういう意味じゃなくてさ。イリーミアもパンツの中に宿していたのか?」

「精霊がショーツの中を住処にするとは聞いた事がありません。サラマンダー様は恥ずかしがり屋なので私の体内に隠れていました。表に出てきても髪の中に隠れております」

「なんで俺の場合はパンツの中なんだ?」

「さぁ。なぜでしょうか?」


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