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精霊水姫ウンディーネ

 エルフ村はクレーターへと姿を変え、噴き出す泥水や小川の水が溜まり、見事な湖になった。その湖の麓で……


「もぉぉぉぉぉぉぉしわけ! ありま! せん!」


 地面に付けた両膝を合わし、指先をピシィと揃えた両掌と額を地面に擦り付ける事で謝罪の意を伝える特技【土下座】。エルフ村ランスの民に謝罪する。


「気がすむまで殴ってくれ!」

「なぐってるよ!」


 土下座する俺を殴っているのは門番をやっていた気の強そうな青年エルフ。周りで殺気立つ仲間に視界を向け、


「もうアレだ! 全員でタコ殴りだ!」

「俺に任せろ!」


 威勢のいい青年エルフが両手を重ねて関節をポキポキと鳴らしながら歩み寄る。上半身を捻りながら振りかぶり、勢いを付けて俺を殴る。


「いだぁぁぁぁぁぁぁ! テメェ! 何しやがる!」

「何もしてない! 遠慮するな! 殴れ!」


 青年エルフの拳は一センチほど俺には届かない。


「全員でやっちまえ!」

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」


 カイネルばあさん以外のエルフ村の民は俺を囲い、タコ殴りする。しかし、全員の拳や足は一センチほど俺には届かない。


「早く殴ってくれ!」

「「殴ってるよ!」」……一斉に言い放つ。

「そうだ! 攻撃魔法だ! 雑魚の魔法でも多少はダメージになる」

「おうコラ、テメェ、謝罪してんのか? バカにしてんのか?」

「謝罪してんだろ! 遠慮するな、がっつり系の攻撃魔法でこい!」

「上等だ!」


 青年エルフ二人は詠唱無く両手を赤く光らせるとボウゥ! と火の玉を放つ。


「おっ! これはいけんぞ! やっぱ魔法だな」

「お前さ、全身燃えてんのにその余裕はなんだ?」


 プレートアーマーや布の服に火がまとわり付いているのだが……


「んっ? アレ?」


 プレートアーマーにまとわりつく火が掃除機に吸われたように吸収されていく。


「消えてるし!」

「テメェ、そのアーマー、魔法を吸収してんじゃねぇか。脱げや。なんならパンイチになれ」

「言われるまでもねぇ!」


 俺はプレートアーマーと布の服と布のズボンを脱いで、トランクス一丁になる。


「ばちこ……」


 ボンッと間髪入れずに火の玉が直撃する。しかし、火の玉は白い煙を上げながら消えていった。


「…………い。…………」

「…………」


 静寂に包まれ、湖畔からの優しい風が一同の頬を撫でる。


「もっとがっつり系で来いや!」

「がっつり系だよ! 一発でクマを倒せるがっつり系だよ!」

「クマぐらいデコピンで倒せよ! 竜族を倒すぐらいので来いや!」

「よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉし、よく言ったぁ! 全員でがっつり系だ!」


 エルフ村の民は一斉に両掌を俺に向ける。掌を赤く光らせると、合わせたように「はぁ!」と声を揃え、火の玉を放つ。一人一人は単発ではあるけど、五二人一体で放つ火の玉はガトリング銃のように俺を襲う。


「きたきたきたきたキターーーーーー!」


 火の玉が四方八方から次々と直撃。


「なぁコレいけんじゃねぇか⁉︎」

「「余裕だな!」」……一斉に言い放つ。


 余裕? ……確かに俺を中心に轟々と火柱を上げているけど、なんのダメージもない。それだけでなく、火の玉や火柱が身体まで届いていない。

 視覚から得れる情報は、火の玉が見えない壁に当たって轟々と燃えてはいるが、俺の周り、一定範囲には干渉されず白い煙をあげながら消えていくという摩訶不思議。

 火の玉の数が次第に減っていくと、魔法を使いすぎたのかエルフ村の民に息を切らす者が出てくる。気の強そうな青年エルフが放った最後の火の玉が俺の眼前にくるとジュワッと音を立てて白い煙に変わる。

 おそらく、エルフ村の民が一体になって繰り出す最強魔法だったのだろう。絶望感を表情に出す姿に同情する気持ちが胸を締め付ける。


「な、なんか、悪いな」

「お前さ、魔法と言えばエルフだぞ。人間がエルフ五二人の魔法を無効化すんなよ。少しは気を使えよ」

「俺には魔法耐性が無いから無効化なんてできないはず……だ、?」


 俺は並々ならない気配を感じたため空に視線を向ける。


「お、おい、アレなんだ?」

「んっ? ……、……」


 気の強そうな青年エルフが空にある巨大な火の玉を見て額から大量の汗を流し始めると、他の民も空を見て同じく額から大量の汗を流す。

 一同は視界を移し、巨大火の玉を作っているであろう人物を見やる。そこには両掌を空に向け、魔法を詠唱しニコッと微笑むダークエルフの女王イリーミアがいた。


「アレは反則じゃね?」

「やり過ぎ感はあるな。俺は逃げる」


 気の強そうな青年エルフが踵を返すと、


「ウンチー」

「なにがウンチだ!」


 バッと振り返り俺の襟首を掴む。


「何も言ってねぇよ! つかヤベェってお前! 逃げろ!」

「エルフ族をお前呼ばわりすんなウンチヤロウ! 俺にはラームというばば様から頂いた名前があるんだ!」

「わかっかたから逃げろって! 落ちてきてる落ちてきてる!」

「うおっ! ヤベェ!」


 俺は逃げ遅れた青年エルフ、ラームに覆い被さる。その瞬間、巨大火の玉は俺の背中に直撃し爆発、衝撃波が湖畔を揺らす。しかし、背中に直撃した感触はあったもののソレは子猫に撫でられた程度、熱さも無い。疑問符が頭に浮かぶ。


「ウンチー」

「んっ? ラーム、なんか言ったか?」

「お前なんで大丈夫なんだよ! これは精霊(せいれい)火姫(かき)サラマンダー様の加護を受けたイリーミア様の魔法だぞ!」

「いやいや、ラームも大丈夫だろ」

「んっ? ……、……どうなってんだ⁉︎ いや、炎が届いてない! お前の魔法か⁉︎」

「俺は魔法を使えないって」

「ウンチー」


 ヒョコと俺のパンツの中から水色のウェーブヘアが出てくる。ウンディーネだ。その姿は先ほどの掌サイズではなく三頭身、トランクスの上部分からクリクリの瞳をした可愛い顔を出し、下部分から短い足を出す。


「お前……パンツの中に幼女を飼うってどんな趣味してんだ? さすがに引くぞ。今日イチに引いたわ」

「いやいやいや、さっき声が聞こえたって言ったろ! あの時にいただろ!」

「知りません。お願いしますから近寄らないでください。幻聴幻覚幼女インパンツのあなたの将来は監獄です」

「蔑んだ顔にセリフ口調ってどんだけ引いてんだ!」

「ウンチー」

「変なヤツだと思ったが……まさかコレ! お前のウンチか⁉︎」

「んっなわけあるか!」


 ラームと言い合っていると巨大火の玉は白い煙を上げながら消えていった。すると、俺とラームの前に興味津々に俺の股間部を見るイリーミアがいた。正確にはウンディーネを見ているのだが。


「ユーサー。あなた重罪ですよ?」

「いやいやいや! コイツはいつの間にか消えていつの間にかパンツに入ってたんだ」

「ウンチー」

精霊(せいれい)水姫(すいき)ウンディーネ様と契約を済ましているという事ですか?」

「契約?」

「ウンチー」


 ウンディーネの全身が青い光に包まれるとシャボン玉のような青い玉が溢れ出して俺の周りをふわふわと浮遊する。パンと音はしないが青いシャボン玉は弾け、俺の身体を魔法的な青い光で包み込む。


「なんだこれ?」

「ウンチーウンチー」


 ウンチーウンチーとキャッキャッしながらトランクスの中で遊ぶウンディーネは俺の周りで浮遊する青いシャボン玉を更に増やす。


「信じられませんが契約はしているようですね」

「イリーミア様。本当に精霊(せいれい)水姫(すいき)ウンディーネ様なのですか?」

「ラーム。精霊(せいれい)火姫(かき)サラマンダー様の加護を受けた私の攻撃魔法を無効化するのは竜族でも不可能です。同じく精霊の加護を受けた者かウンディーネ様にしか無効化はできません。ですが……(いにしえ)からウンディーネ様は契約をしない精霊のはず……」

「イリーミア」


 イリーミアの背後から現れたのはエルフの王カシオス。


「ウンディーネ様の前だ。失礼な……」

「ウンチー!」


 ウンディーネはカシオスをキッと睨むとピューッと口から水を出してカシオスの股間部にかける。


「う、ウンディーネ様、お戯れを」

「ウンチー! ウンチー!」


 ウンチーウンチーと言うたびに水圧が強くなり、最終的にはカシオスの全身に鉄砲水を放つ。見るからにカシオスを拒絶しているようだ。


「普通さ、相性の悪いサラマンダーと契約してる方を拒絶すると思うけど?」

「精霊に相性の悪さはありません。そもそも自然を司る地水風火の精霊の相性が悪ければ自然は崩壊します。相性が良いからこそ自然は保たれるのです。主人は娘や小動物だけでなく精霊様にも嫌われる性分なだけです。ウンディーネ様が最後の希望でしたのに……」

「よくいるよな。好きな相手に心底嫌われる残念なヤツ」


 両手両膝を地面につけて四つん這いになり酷く落ち込むカシオスに向けて、ウンディーネは追い打ちをかけるようにペッと水を吐きかけていた。


「ユーサー。ウンディーネ様の加護がある以上、私とあなたの魔法攻撃や防御は拮抗します。エルフの村を湖にした力がある以上、私の力では及ばないでしょう。主人は精霊契約をした者に……正確には精霊様に対して刃を向けれません。こちらとしましては友好関係を結びたいのですが?」

「エクスはどうする?」

「ウンディーネ様は清らかな泉や温泉に住むと言われてます。あなたのショーツの中は清らかなのでしょう」

「童貞だってはっきり言えよ。逆に気を使われてる方が恥ずかしくなる」

「ユーサーが清らかな心を持っているという事です。『これで女王様に姫様を任せれると言えます』」

「これで……か。最初から殺す気は無かったのか?」

「ロットが語ったお話を女王様はいたく楽しんでおられました。私達に倒せなければ姫様を任せても良いとも言われてます。友好関係……レジスタンスに協力していただきたいのですが、気持ちは変わっておりませんか?」

「味方にはならない、というより、俺一人で十分だ。イストラーディ国がある場所を教えてくれるだけでいい」

「一人で十分、とは?」

「言葉のとおりだ。俺一人でワイバーとシュ•ジンコ•ウを倒すだけだ」

「「!」」


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