交渉人
浴室の扉を開き廊下に出る。全裸でエクスとエルフの元に行くのか? という疑問を持たせないために言っておく。エクスの家側にも扉があり、廊下が脱衣所になっている。
バスタオルという気の利いた物は無い。かと言って濡れた身体を拭くモノがあるかと言ったら無い。自然乾燥を待つわけにもいかないから濡れた身体の上に布の服と布のズボンを着る。囲炉裏で乾かすしかない。因みに、プレートアーマーと聖剣エクスカレバーはエクスの家に置いてある。
中世ヨーロッパの世界観がまともに出てきていないのにファンタジー世界の住人代表とも言えるエルフが登場するとは……なんか未知との遭遇を間近に控えて鼓動が高鳴るな。それに、室内にはエクスとエルフの気配しかないが、家の周りには友好的ではない気配が数多くある。エルフの仲間で間違いないだろうな。とりあえず室内に一人で来ているという事は話し合う気構えではいるってことになるから、考えるのは交渉人であろうエルフと話しながらだな。
俺はエクスの家側の扉を開ける。
エルフの特徴的な外見は、美を感じさせる顔立ちと金髪から突き出る横に尖った耳、細身の長身で白肌、ダークエルフとなれば銀髪に黒肌だが外見的な特徴は色の違いこそあれ、生まれついての美は変わらない。そして、その容姿から妖精や小妖精とも呼ばる。魔法力が高くファンタジーの住人として無くてはならない存在だ。……あくまでも俺のイメージだが、白肌のエルフは金髪、黒肌のダークエルフは銀髪のはずだ。
「お前ら、なにやってんだ?」
眼前には、俺が作者から与えられた聖剣エクスカレバーを囲炉裏に乗せてフランスパンみたいな形のパンを焼いているエクス。その斜向かいに、ランニングシャツ風の布の服と布の短パンに俺が作者から与えられたプレートアーマーを着ながら、とんでもない勢いで腕立て伏せをしている『ドワーフのようにずんぐりむっくりな体型をした銀髪おかっぱ頭の白肌チビ』。
「ロットはパン屋ズラ。パンを持ってきたズラ」
「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん」
「いや、ロットがパン家とかいいから。お前がパンを焼くために敷いてるのはなんだ?」
「ユーサーがパンや肉を焼く鉄の棒を壊したからパンを焼けないズラ」
「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん」
「自在鉤にした鉄の棒は調理器具だったのか……それなら仕方ないな。それで、さっきからふんふん言ってるロットとやらはなんだ? ドワーフか?」
「ロットはエルフズラ。シチューを食べて体脂肪が増えたから消費してるズラ」
「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん」
「俺には耳が尖った毛深くないドワーフにしか見えないが?」
「ロットはエルフズラ」
「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふんふん…………ふぅ」
ずんぐりむっくりのチビ、ロットはプレートアーマーを脱いで床に置くと、俺に視線を向けて、
「重量のあるアーマーを前に鍛えずにはいられなかった故、平にご容赦いただきたいでござる」
「ござる?」
「ロットでござる。お見知りおきを」
「俺はアーサーだ」
「ユーサー殿。我こそはアーサーと名乗る人間族は数多くいるでござる。国の統一をしていない者が堂々と聖王アーサーの名を語るのは精神疾患を疑われるでござるよ」
「なるほど。ユーサーと名乗る事にしよう」
腕立て伏せをしていた時は見えなかったけど、ロットの顔立ちは喋り方に遜色ない精悍な顔立ちと胸に響く綺麗な声音。ずんぐりむっくりな体型でなければ湖畔で歌うエルフと言ってもいいと思う。不明なのは性別、顔立ちは男性にも女性にも見えて声音ではその判断はできない。
「ロット。悪いけど性別を聞いてもいいか?」
「初対面の方に聞かれること故、お気になさらず。拙者は女でござる」
「そうか。あっ、悪い。ちょっと待っててくれ。お茶と茶うけを出す」
俺はカラになった鍋を自在鉤から取って立ち上がる。
「お気にせず。格別に美味しいシチューをエクス様にいただいたでござる」
「女なら男に恥をかかすなって。俺がおもてなししたいんだ」
「! ……、かたじけない」
一瞬、表情に戸惑いを見せたロットはかしこまるように一礼し、エクスの斜向かいに座った。
俺は調理場に行くと、木で作った中ジョッキサイズのコップに森の中で採取したハーブや野草を入れる。更に、水釜から尺で水を汲んで中ジョッキに入れる。
ハーブや野草が浸透する間、お茶うけに……たしかエクスが体脂肪が増えたから消費してると言ってたな。おそらく、ロットのずんぐりむっくりな体型は筋肉質だろうから体脂肪がだいぶ低い。だが、女の身体というのは男よりも体脂肪を必要とする。あえて木の実などの糖分を与えたいが、それでは腕立て伏せを繰り返すだろうな。ここは茹でた鳥のササミを出して、ハーブと野草を浸したハーブ水との相乗効果で内蔵や筋肉に癒しを与えよう。
シチューが入っていた鍋を洗って水を入れる。続けて、ハーブ水が入る中ジョッキと通常サイズの木のコップを持って囲炉裏に行く。
パン焼きフライパンになった聖剣エクスカレバーを少しズラして、自在鉤に水入りの鍋を乗せる。続けて、ロットの前に木のコップを置いて中ジョッキからハーブ水を注ぎ入れる。
「ロット。ハーブ水だ。脂肪にはならないから安心してくれ。逆に『過酷な身体強化』で弱った内蔵の働きをハーブや野草から出たエキスが良くしてくれる」
「お気づかい感謝するでござる」
「すぐ茶うけを出すから待っててくれ」
俺は調理場に戻り、保存庫代わりの木の箱から一羽の鶏肉を出す。この時代では肉の保存方法は確立されていないだろうけど、肉は一定の温度下で美味くする方法がある。その一定の温度をいくらか保てるのがこの木の箱だ。二重構造にしてあるため外気の温度変化を受け難い構造になっている。念のために防腐効果のある野草とエクスの風邪薬にもなっている葉っぱを底に敷き詰めている。更に、調理する前に特技【鑑定】を使って腐ってないか確認すれば……うん、大丈夫だ。
鶏肉の加工は簡単だ。レベル九九九の手刀で皮と関節を切り、解体し部位を分けるだけだ。木の器に切った部位を入れて、囲炉裏に行く。
「ロット。身体を鍛えるのが好きなら鶏肉、このササミが一番いいぞ」
「鶏肉でござるか?」
「なんだベジタリアン……野菜しか食わないのか?」
鍋にササミを入れて茹でると、木の器に入った残りの鶏肉を鉄板の変わりになっている聖剣エクスカレバーの上に乗せる。あとは勝手にエクスが食うだろう。
「ベジタリアンではごさらぬが……肉は脂肪になるでござる」
「甘い甘い。考えを少し変えてみるんだ。肉という脂肪にならない食物は肉という筋肉にもならないだろ? 肉は脂肪にも筋肉にもなるという事だ。でも、牛や豚の肉には余計な脂肪分がある。もちろん馬や羊や山羊もだ。それは生きるために蓄える脂肪だ。その点、鳥は生きるために飛ぶから脂肪をほぼ蓄えない。それは余計な脂肪が無いって事だ」
「鳥は飛ぶために余計な脂肪を蓄えない、でござるか。一理あるでござるな」
「一理どころじゃないぞ。あと、エルフの身体情報は俺には無いから確信は無いが、女の身体は男の身体よりも体脂肪が必要だ。それは女である事の短所ではなく長所だ。何故なら、女性特有のしなやかな身体から繰り出される鞭のような動きは男にはできないからな」
「……、……女、でござるか」
ロットはかしこまるように俯く。
「どうした?」
「拙者は見た目からエルフとは見られる事がなく、女として見る者も両親以外はエクス様と女王様しかいないでござる」
「周りがロットをどう見てようがどうでもいいだろ。ロットには悪いが、俺も初見ではエルフとは思わなかったし女ともわからなかった。だが、見る人はちゃんと見てるし、ロットが女なのもエルフなのも変わらない。もし、男のように強くありたいとか思っているなら勘違いだぞ。男なんて女に比べれば弱いからな……まぁ、力とかそういう強さじゃないから目には見えないけどな」
「……、……ありがたい言葉でござる」
「初見とはいえロットを誤解した償いだ。俺が今以上にロットを強くしてやる」
「……、……」
「さては疑ってんな。それなら……」
左手人差し指と中指を立て、ロットの前に出すと、
「片手でも両手でもいいから俺の人差し指を折るつもりで押してみろ」
「!」
「バカにしているわけじゃないから勘違いしないでくれ。ロットでないと人差し指一本……いや、第一関節で十分だな。それが俺の力って事だ」
「折るつもりでいいでござるな?」
「なんなら殴ったり蹴ったりしてもいいぞ。すべて、この二本で防ぐ」
もちろん特技【記憶術】と特技【鑑定】状態で待機している。ロットには悪いがエルフの情報を少しでも欲しいからな。
「行くでござる」
「おう」
ロットは俺の二本の指を右手で握る。一瞬だが困惑した表情になり、右手に左手を添え、奥歯を噛み締める。
「力を入れてみろ」
「⁉︎」
「加減は必要ないぞ」
「い、入れてる。で、ござる」
「今の状態がMAXか?」
「……、……まだ、まだ!」
ロットは更に力を入れた表情になるが、俺には子猫がじゃれついているぐらいにしか感じない。従って、今のロットに足りない強さを教える事にする。
「ロット。力の無いうさぎが力のあるライオンに勝つ方法は何だと思う?」
「俊敏な、動きという、長所を生かして、一か八か、逃げるしかない、でござる」
律儀に答えたロットだが、それは強さを説いているのではなく長所を活かして逃げる答えだ。
「違う。一匹より二匹、二匹より三匹、仲間と試行錯誤をして一匹一匹の長所を生かして倒すんだ。それが力のある者に弱い者が勝つ方法。そして、その長所には上下関係は無い。全員が一つの長所という力だ。俺の力を前にして、ロットに足りないモノがわかったか?」
「……、一人では、ユーサー殿には、かなわない、でござる」
ガシッとロットの手の上に緑色に光る両手を重ねるのはエクス。魔法を使っているのは言うまでもなく、その表情はムキになるように力んでいる。
「ロット。仲間が手助けに来たぞ。俺の指を折ってみろ」
「ござる!」
「ズラ!」
「まだまだだな。子猫に撫でられてるみたいだぞ」
力む二人を左手人差し指と中指で制しながら、右手に箸を持ってロットの器に茹で上がったササミを入れる。更に、聖剣エクスカレバーの上で焼けた鶏肉をエクスの器に入れていく。
「ロットは俺がレベル四○○の時だな。エクスは……俺的にも残念だがレベル一以下だ」
「はぁはぁ。……エクス様、拙者等の負けでござる」
「ロット。ユーサーは母上様の仇ズラ! 何度負けても倒すズラ!」
「女王様の仇? ……拙者は今日、女王様にパンを届けたでござるが?」
「?」……エクスは疑問符を浮かべる。
「ユーサー殿は拙者が女王様にパンを届けた後に倒したでござるか?」
「一日中エクスといた」
「どういう事でござる?」
「エクスの勘違いだ。気にするな」
「ユーサー! 母上様を倒したと言ってわたくしを騙したな! ……ズラ!」
おいおい。これは天然でなく、自分の感違いを今さら訂正できないから、あくまでも俺の責任として押し付けようとしているな。
「動揺するとズラ設定がブレるんだな。とりあえず誤解が解けてよかった。つか、母上様は生きてたんだな」
「宮殿を侵略され、今はレジスタンスを組織しているでござる。拙者の両親も元々は宮殿住みの騎士でござったが今はパン屋を隠れ蓑にして機をうかがっているでござる」
ロットが襟を正してその場に座ると、エクスはふて腐れながら自分の定位置に戻ってパンに鶏肉を挟んで食べ始める。エクスは兎も角、ロットとの話を続けよう。
「レジスタンスか……なるほど。それなら準備ができるまではエクスをここに住まわせておかないとな」
「エクス様は切り札でござる。魔力量に堪える身体になり、シュ•ジンコ•ウに太刀打ちできる兵が集まるまで辛抱してもらっているでござる」
「なるほど。それで、『外の友好的ではないお仲間さん』には俺の事をなんて報告するんだ?」
「やはり、気づいていたでござるか」
特技【剣気】を使うまでもなく外には友好的ではない気配がある。数にして数十人、おそらくはエルフの村の住人だろう。レジスタンスではないのは、有志で組織されてる武闘派ならロット一人だけを俺(敵)のいる場に送ってこないで強襲してくるからだ。エクスという切り札を奪還するためにな。まぁ、この世界の常識をわからないから、あくまでも俺の予想だが。
おそらく、ロットの用事は俺がどんな人物かの確認と友好的なら交渉、そしてレジスタンスへの勧誘だろう。あくまでも俺の予想だが。
「率直に聞くでござる。ユーサー殿は我々の敵になり得るでござるか?」
「ある」
間髪入れず肯定する。ロットは動揺を表情に浮かべるが、エクスが魔王な以上は今は敵にならなくても、主人公と魔王という関係上、いずれは敵になるのは決まっている。期待を裏切って悪いが、肯定するしかない問いだ。
「都合のいい事を言うでござるが、何とか、身代金でエクス様を返していただけぬでござるか?」
「闘っても勝てないとふんで身代金か。都合のいい事とは思わないが……さっき言ったように、全員の長所を合わせれば勝てるとは思わないか?」
「む、無理でござる」
「負ける戦はしない。それは勝者であり続けるために必要な決断だ。あくまでも決断だから力の無さを恥じる事じゃない。……ロット、エクスがいないとシュ•ジンコ•ウを倒して宮殿を取り戻せないなら、レジスタンスの敵はシュ•ジンコ•ウと俺の二人になったわけだ。さぁ、どうする?」
「こ、交渉に」
「一時的な味方になってくれ、休戦協定、自分達がシュ•ジンコ•ウを倒すまでエクスを返して欲しい、などは却下だ。理由は、俺は味方がいなくてもシュ•ジンコ•ウを倒せるし、休戦協定は友好的ではない連中からの交渉としては信用度にかける。エクスを返さないのは、俺が来る前のここの環境がエクスにとって良い環境ではなかった。その三つからロット達にはエクスを任せれない」
「ごもっとも、ですが! エクス様はまだ魔力が不安定な身体故、子を作るには……命に危険があるでござる」
「子供? ……? どういう意味だ?」
「?」……ロットは疑問符を浮かべる。
「いや、子供ってなんだ? それは気が早すぎるだろ。俺は恋愛結婚派だぞ?」
「……、……ユーサー殿の国は?」
「日本だ」
「聞いた事のない国でござる。そのニホンでは戦で勝った者が敗国の姫と婚儀、略奪できるというのは?」
「そういう事か。たしか戦国時代に似たようなのがあったな。中世ヨーロッパにもそんなのがあるのか……なるほどなるほど」
「ユーサー殿?」
俺の独り言にロットは困惑している。まさかこの世界の常識を知らないだけではなく、別世界から来ているとは思えないだろうから当たり前の反応だな。そんな俺や作者の都合を説明するわけにもいかないし、今知ったこの世界の常識を前提に話を進めるしかないな。
「シュ•ジンコ•ウは自分を唯一倒せるであろうエクスを嫁にしたいから今頃躍起になって捜している。だが、ロット達はエクスを略奪されないためにここに隠している。だんだんと構成の意図がわかってきたぞ。こうなると…………ロット?」
「なんでござろうか?」
「シュ•ジンコ•ウは強いのか?」
「拙者の父上がかなわなく、宮殿兵が犠牲にならなければ……、! 、女王様や父上は兵を犠牲に逃げたわけではないでござれば!」
「当たり前だ。その時に逃げていなかったら王政を背負う資格はない。国のため自分達のために犠牲になり亡くなった兵のためにも宮殿を取り戻し、慰霊碑を作ってやらないと浮かばれない。……まぁ、アレだな。そんな時に俺というイレギュラーが現れてエクスと暮らしていたら女王様も頭を痛めただろうな」
「森を見回っていた者がここの近くの森が伐採されているのを見つけ、小川を見回っていた者がユーサー殿とエクス様を見かけ、拙者がエクス様の家を見に来た時には贅沢に湯水を流した城郭が築かれ、家も様変わりしていたでござる。報告に行った時、女王様は吐血して倒れたでござる」
「吐血は遺伝かい!」
「王家のパッシブスキルでござる」
「体質って言うんだよ」
遺伝で吐血という事は特技【鑑定】で見た俺の知識にない未知、魔法が関係しているのだろう。エクスを切り札とも言ってるし、魔法に対してのリスクが病弱ということになる。俺の診断は間違いではなかったな。
「まぁ、アレだ。俺がエクスの身体の事を考えているのは様変わりした家や源泉を流した城郭でわかっただろ。俺はレジスタンスが刃を向けないかぎり干渉はしないから、やるべきことをやれ」
「それは、どういう意味でござるか?」
「エクスの事は俺に任してさっさと宮殿を取り戻す準備をすれ」
「!」
「味方になるわけじゃないからな。俺はエクスの側にいないとならない理由があるだけだ。刃を向けてきたらレジスタンスだろうがシュ•ジンコ•ウだろうが容赦なく潰す。このまま俺がエクスの面倒を見るというのはレジスタンスには悪くない条件だと思うぞ。ロットの手柄にでもしておけ」
「手柄にはせずユーサー殿の言葉をそのまま伝えるでござる」
真面目だな。俺に交戦の意思は無いとはいえ自分達から見れば外にいる友好的ではない連中と同じく臨戦状態になっているはずだ。そんな場に交渉人として赴くのは命を奪われる前提にしていないと足を踏み入れれない。現状は何か変わったわけでは無いが、味方にはならないが友好的な交渉ができたと言ってもいいと思うが……ロットは真面目だなぁ。だが、このままでは真面目なロットは浮かばれないな。一肌脱ぐか。
「そうか。あと、俺にエクスを任せる以上はどれだけの力があるのか確認したいと思う。ロットが指二本で負けたと言っても信用度は薄いだろうから……」
「女王様は信じるでござる」
「交渉人が言った事を信じるのが交渉人を送った者の務めだ。でも、外にいる連中を含め、女王様の側近連中はやすやすとは信じない」
「なるほど。一理あるでござる」
「ロット……自分の仲間が信じないというのは交渉相手の前で口にしたらダメだぞ。本当に真面目だな」
「これはしたり!」
ロットが動揺したため「まぁいいけど」と呆れながら言い、更に言葉を繋げる。
「そうだな、明日はエルフの村にエクスと行くから好きなだけ俺に攻撃しろ。ロットの倍以上の力があればかすり傷ぐらいは付けれるが……そんなヤツはいないだろうな」
「拙者は父上、騎士団長の血筋でござるが未熟な下級兵でござる。もっと強い者はいるでござれば」
「それは楽しみだ。遠慮なく殺す気でこい、と言っておけ。それでないと俺を信じないだろうからな」
「わかったでござる。拙者は外の者を引き上げさせ、女王様の元に行ってくるでござる。明日、エルフの村にてユーサー殿の武の一部、見させていただくでござる」
ロットは深く一礼する。そして、交渉人の務めを果たしたため、手前にあるハーブ水で喉を潤し、隣の器を取りササミを咀嚼する。
交渉成立しないかぎり相手側の施しを受けないのは自分を戒めているわけではなく、味方への礼儀になる。それはロットと同じく外にいる連中も命をかけているし、女王様は娘が心配で吉報を待っている。もしも礼儀に反して施しを受けた後、交渉不成立にでもなれば自分だけが相手側から施しを受けた事になり、それは不忠に繋がる。
シチューは食っていたからハーブ水やササミも食うと思ったけど、エクスからもらうモノと俺が出したモノは違うからな。エクスに対しては忠義、俺に対してはあくまでも交渉相手、立派な武士道……いや、騎士道精神を見させてもらった。是非、ロットを育てた親に会ってみたいな。
「ロット。騎士団長の父上も加われって言っておけ。それが一番手っ取り早い」
「承知したでござる」