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主人公に休息は無い

 

 作者の一話分の構成にまんまとハメられたのが二日前。あの日からもう二日も経ったのか……と風呂に浸かりながら、二日前を振り返る。

 あの日はエルフの村には行かずにエクスの家に戻り、伐採した木の枝と葉っぱを集めてエクスの風邪薬を大量に作った。いや、作ったと言ってもすり潰したり細かく切ったり乾燥させたりしたただけなのだが。今後はエクスの風邪の症状を緩和させる観点から身体に良い薬膳(やくぜん)料理やお茶など薬の研究をしようと思っている。

 その前にやる事があっただろ。という声が聞こえそうだが、研究の前にやらないとならない浴室小屋や下水道や温泉を冷やす城郭の改築は二日間で終わらした。残りは、中世ヨーロッパの世界観に合わした内装と外装にするだけだ。基本工事は終わったけど和風のままという事だな。

 実は温泉にはエクスが大喜びしてくれた。エクスの家の環境も温泉の蒸気で湿度も上がり、寝付きが良くなったのか就寝後の暗殺(?)が減った気がする。

 そんなこんなでこの二日間は物語の進行とは関係の無いリフォームをやっていた。


 という事で、明日からは物語を進行させようと思う。


 中世ヨーロッパの世界観でいうなら俺はエクスの家以外は知らない。それも破壊した後しかわからないから無知もいいところだ。

 そういう意味もあって浴室や城郭は和風のままで細かな装飾は後回しにしているのだが、明日はエルフの村に行って中世ヨーロッパの洋風建築とファンタジーという世界観を感じてこようと思ってる。


『主人公、大変だ!』

「作者か。男主人公の風呂場の描写や会話なんて読者は喜ばない。それに、風呂に入ってる時間は俺が唯一ゆっくりと静かにいられる時間なんだ。お前と喋っていたら疲れる。用があるなら明日にすれ」

『冷たい事言うなよ。まだ二日前の事を怒ってるのか? アレはエルフを登場させる前にお前の無敵ぷりを読者に知ってもらうためだって言っただろ』

「エルフの村というワードが出たからお前から話を聞くまでもなくエルフの村に行く。お前と喋る事は無い。構成でも練ってろ」

『あのなぁ、男の風呂場なんてどうでもいいのに作者である俺が慌てて声をかけたんだ。少しは察っすれよな』

「エクスに何かあったのか?」

『違う。お前がプレートアーマを装備したまま風呂に入ってるのか疑問になったんだ』

「一大事だな」

『あぁ。一大事だ。……今までの流れだと、俺が与える装備は魔王を倒さないと外せない呪いが付いている、と思われている可能性が高い。もしも、お前が何も説明しないまま裸で風呂から出てきたら、呪われた装備のアイデンティティと設定の穴を読者に突っ込まれる』


 作者は時折言っていたな……『今でも漫画では同じ服を毎回着ているのに小説だと不潔感があるだのセンスが無いだの、なんちゃらこんちゃら』と。その結果、作者は設定を練りに練るように改心したのだが……


 とりあえずお気づきの方には悪いから言っておく、この作者はいい加減なんだ。そして、過去を振り返らない猪さんの猛進よろしくなのだ。


 まぁ、アレだ。作者の言うとおり、作者が与えた装備品は呪われた装備で魔王を倒すまで外せないというイメージが今までの流れからあるため、俺がこの場で裸だったなら違和感を感じると思う。もしも、この物語が読者の目に届くような事があれば、あの部分を読み逃した読者は誤解するだろう。


「作者。読者の指摘に怯える前に、この物語はシュレッダーには届く事はあっても読者の目に届く事はないだろ?」

『携帯小説の無料投稿サイトに投稿した』

「…………………………マジか?」

『あぁ。無料とはいえ読者の目に届く以上は指摘がある』

「印税が入るなら指摘も我慢できるけどタダは堪えらないって事か?」

『印税は、店頭に並ぶ前、印刷された時点で部数分の印税が決まっている。指摘されても手遅れだ。読者は作者がすでに印税を貰う権利を得ているのをわかっていて指摘をくれるんだ。そもそもお前以外からの指摘は、印税とは関係無く無料投稿サイトであっても真摯に受け止める。だが、無料投稿サイトには投稿した後、所謂、出版した後にも関わらず手直しができるんだ。指摘を受けたら直せるなんてある種の魔法だ。幅広い読者に気持ち良く読んでもらいたいから手直しするなら早い内がいい。お前に異存が無ければ手直ししようと思う』


 なにコイツ! なにまともな事を言っちゃっんてんの! なんか変な物でも食ったんじゃねぇの! つか、お前以外の指摘は真摯に受け止めるって主人公を蔑ろにしすぎだろ!


『お前がリフォームしていた二日間は暇だったから投稿したが……ミスったな』

「おい、連載を増やしたくないと言っていたのは誰だ? つか、投稿する前に見切り発車の構成を練れよ。完結の糸口さえ無い物語に…………お前、まさか自分では打開策が浮かばないからって、読者からの声で完結方法を模索しようとしてんのか⁉︎」

『一人で根を詰めても良い結果は生まれない。それは良い作品が生まれないという事だ。一人より主人公と、二人より読者と、いずれ幾人になり、みんなで作り上げた愛憎模様が一つの作品として花を咲かせる』

「俺の指摘は受け入れないくせに都合の良いこと言いやがって。そもそも、それは構成を完成さしてから物語を書く作家が言う事だ。見切り発車した作者が言うな。つか、見切り発車のくせに読者の目に届く場所に投稿するとは……思い切ったな」

『早とちりだった。今まで投稿したのを全体的に手直しする方向でいいか?』

「アホ……」


 この作者は【推敲】という言葉を知らないのか……いや、自分で言った事を忘れるぐらいだからな。と思いつつ、


「お前が俺に装備品を与えた時を思い出せ。もしくは投稿したのを読み返せ。つか、作者が自分で言った事を忘れるってどういう事よ。どんだけ物語や主人公に対して適当なんだ?」

『俺がお前に装備品を与えた時?』


 浴室内にカチッカチカチとカーソルをクリックしたであろう音が響くと、


『この辺だな。お前の地の文、肉の骨(呪)のくだりがあって……台詞で主人公が「今回はどんな呪いが付いてるんだ?」、俺が『心外だな。呪いは一切無い。なんちゃらこんちゃら』と……なるほど、俺は呪いは一切無いと言ってるな』

「俺から見たらお前のそんなところが一大事だって話だ。とりあえず、見切り発車の構成とお前の適当な性格以外は問題ない。つか、主人公を休ませるのも作者の仕事だろ。ゆっくりと風呂に入らせてくれ」

『うむ。悪かったな。あと最後に、俺の座右の銘は推敲だ。そして現在、エクスとエルフが一緒にシチューを食ってるが、ゆっくりと疲れを癒すといい。俺はキャバクラに行くから続きは明日執筆する。ゆっくり休めよ』


 プツンという効果音が浴室内に響くと、作者はこの世界からいなくなった。


「……、……あの、クサレ、作者、が!」


 座右の銘が推敲の時点で、今までのくだりはあのクサレ作者の嫌がらせ以外何でもない! それに! なんでエクスとエルフが一緒にシチューを食ってんだよ!


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