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物語の主人公と物語の創造主

 

 あらすじにも書きましたが、この物語は小説の基本概念をぶち壊している物語です。


 

 主人公……物語内の存在であり、登場人物を牽引していく中心人物。


 語り手……物語内の存在であり、ストーリーテリングにおいて作者読者と並ぶ重要な存在。


 作者……物語を創る者。


 物語を牽引する以上はどんな主人公でもハッピーエンドやデットエンド問わず起承転結を歩み、物語は完成する。


 結論を言えば、ストーリーを進行し牽引する主人公は前衛や後衛など関係なく最後まで生きれるのだ。そう、主人公とはヤツが創ったチートな存在という事だ。


 しかし……


 たとえ主人公がチートであっても、たとえ一人称で語り手という大任を背負っても、ソレはヤツが創った構成上のモノになり、ヤツの掌の上で動かされているだけにすぎない。


『主人公にしてやってるだけありがたいと思え』


 語り手のお役目に(いそ)しんでいる最中に横槍したのはヤツ。俺がいる真っ白な空間にはいなく、ハウリングしながら響く高笑いは時代劇の悪代官様を思わせ、聞いてて不快になる。


『主人公の思うとおりに魔王と闘えると思ったら大間違いだ! そして、魔王を倒してお姫様とのラッキースケベに授かれると思ったら勘違いだ。バカめ!』


 いつもこの調子だ。俺が主人公らしい事をしても最終的にはこの真っ白な空間に戻され、期待させるだけさしといて結局はお姫様を創っていない。魔王を倒しても第二第三の魔王が現れた物語もあったな。

 ヤツの性格の悪さが際立つのは魔王戦の前にレベル上げをしたい時、経験値が欲しいまさにその時に一ポイント(雑魚敵)のみを大量にねじ込み精神的なダメージを与えてくるのだ。それも一匹一匹倒さないと魔王を倒せるレベルにはならないというクソゲー顔負けの構成だ。


『主人公は作者の掌で動いているにすぎない。主人公になれて良かったな! がははははははははははは‼︎』


 ヤツとは作者。三人称では神の声と言われる存在であり、主人公さえ逆らえない創造主である。物語を創る存在であり現実の人間でもあるため、作者とは物語を創る事はあっても彼のようにでしゃばり……いや、口出しはしない。それは小説や漫画問わず作者は登場人物ではないし、文法上最低限のルールでもある。


 しかし、この物語では……いや、俺が主人公の物語では作者がでしゃばってくる。


 俺は他の物語を創る作者の元で主人公になりたかった。何故、こんな作者に捕まってしまったのか…………転生するなら他の作者が良かった! こんな人生、書籍化する時に編集さんに捻じ曲げてもらうしかない! いや、作者がでしゃばる物語が書籍化なんてないな。だから……


 誰か、この作者(バカ)の代わりにまともな物語を牽引できる主人公にしてくれ!


『さて、主人公よ。次の創造世界だが……』

「創造とか言ってんなよ。テメェの妄想世界だろバカ。そもそもさっきのはなんだ⁉︎」


 さっきのとは、レベル九九九になるまで旅をさせられ、やっと魔王と闘えると歓喜し、激戦を楽しみに魔王と対峙した時「はぁぁぁぁぁ!」と力を溜めた瞬間に吹っ飛んでいった魔王の事だ。


『レベル一の最弱装備でも倒せる魔王を倒すためにレベル九九九にする主人公は見ていて傑作だったぞ。最後なんて「はぁぁぁぁぁ!」とか言っちゃって、恥ずかしくないのか? あなたは精神疾患ですか?』

「やめて、それ恥ずかしい、マジ恥ずかしい」

『いやいや、主人公らしい主人公が減ってる中で「はぁぁぁぁぁ!」とやってくれるのはお前だけだ。これからも語り手の突っ込み共々期待している』

「エンドロールを流してくれ。主人公ほど恥ずかしい職業はない。頼むからモブにしてくれ」


 作者に懇願する。こんな主人公と作者のやり取り自体、物語を創る上ではあり得ないのに、作者がでしゃばるからあり得てしまう。


『モブになるのか? 次の創造世界ではヒロインと出会うところから始まるのだが……』

「是非、主人公でよろしくお願いします!」


 間髪入れず土下座する。

 ヒロインだ! 待ちに待ったヒロインだ! しかも物語の冒頭からって事は出会える! この作者に出会ってから何回ヒロインのいない物語を歩まされ、何回クソゲー顔負けの魔王を倒し、何回この真っ白な空間に飛ばされてきた事か……

 数える事さえ無くなった転生後の人生。もう、何が理由でこの世界に転生してきたかなんて忘れちまったぐらいだ。


『ヒロインの名前はアルジ•コウ•キル•エクス。お前好みのヒロインにしてやる。今まで溜め込んだヒロインに対しての欲求を吐き出せ!』

「前提は可愛い! 美人じゃないぞ! 可愛いいんだ! 気弱な天然お姫様みたいな感じで一生守ってあげたいと思えるヒロインだ!」

『体型は⁉︎ ボンキュッボンか⁉︎』

「作者! ボンキュッボンは今では死語だ! 年がバレるぞ!」

『おぉっと、俺も初めてのヒロインに興奮しちまった!』

「作者。ここは敢えて体型は控え目にするべきだ。下手にボンキュッボンにしたら読者が喜ぶだけで俺や作者が気を使っちまう」

『敢えて読者への期待を無くす…………うむ、貧乳のチラリズムも……』

「もうちょっと欲しいな」

『……、お前、拘ってるな。まぁいい。BとCどっちだ?』

「BとCの中間、着やせしていたのか⁉︎ という意外性を持ちつつ控え目な膨らみを補う形の良さ。その辺は作者の文章力にゆだねる」

『……、あまり期待するなよ』


 作者はため息混じりにふぅと息を吐く。カタカタとパソコンのキーボードを叩いたのか真っ白な空間にタイピング音が響く。


『ここまでお前は主人公らしく頑張ってきたからな。俺も少しは努力する』

「それでこそ作者だ。俺もやっと主人公らしくなれるな」

『お前はいつでも主人公らしいぞ。だから今回の世界観は主人公の王道中世ヨーロッパ的な世界観のファンタジーだ。世界観に合わせてヒロインは金髪碧眼の白人。まぁ、気に入らないなら醤油顔のお前と同じ日本人に……』

金髪(ぱっきん)碧眼キターーーーーーーーー!」

『問題は無いようだな。中世ヨーロッパ的な世界に大和撫子のヒロインをぶち込みたかったが……まぁいいか。それといつもどおり俺の物語の手抜き……ではなく、構成上はレベルや能力は引き継がれる。魔法的なのはこれから覚えろ』

「魔法キターーーーーーーーー!」

『いつもの事だが、今まで溜め込んだ装備やお金は次の創造世界には持ち込めない。世界観が違うからな』

「レベルと能力があれば十分だ。今までもそうだったしな」

『そうだな。だが、今回は特別に防御力最強のかっこいいプレートアーマーと攻撃力最強の聖剣エクスカレバーを与える』


 俺の身体には炎や冷気を跳ね返しそうな純白に輝くプレートアーマーが装備され、右手には硬い皮膚のドラゴンでさえ真っ二つにできそうな大剣が装備される。

 こんな見た目から最強装備だとわかる武具が今までにあっただろうか……いや、皆無だった。前々回の最強武器なんて漫画で描かれるような【肉の骨(呪)】だったからな。しかも攻撃したら自分のヒットポイントを一にするし、魔王を倒すまで装備から外せない呪いまで付いていた。おそらく、このエクスカレバーにも何かしらの呪いが付いてるはずだ。


「今回はどんな呪いが付いているんだ?」

『心外だな。呪いは一切無い。設定上では魔王エクスを唯一倒せる聖剣だ。主人公らしく魔王を両断してやれ』

「魔王エクス? ……、ヒロインはアルジ•コウ•キル•エクスだったよな?」

『うむ。ヒロイン兼魔王のエクスだ』

「…………」

『…………』


 真っ白な空間が静寂に包まれる。


 これはアレだな。間違いなく……


「呪われてんだろ! 作者の悪意という呪いが付いてんだろ! やっとヒロイン登場でヒロインを殺す聖剣なんてありえねぇ!」

『ははははは。まぁ、そう熱くなるな。あらゆる手段でお前を倒しにくるだけだ。主人公を倒せるわけないのにな。バカな魔王だ』

「その辺は読者が楽しむ部分だろ⁉︎ なに倒せるわけないとか言ってんだ!」

『ヒロイン兼魔王エクスの装備はツギハギの布生地ワンピースに日記帳だ。病弱で年中寝たきり、日記に葉っぱの枚数しか書くことがない悲運のヒロインだ。たまに魔王らしく外に出ても同じ木の葉っぱを数えて風邪をひく。誰でも同情しちまうが、そんな魔王兼ヒロインをお前は倒すのだ。楽しいだろ?』

「無理無理無理! 無理無理無理!」

『お前が無理と言っても、気弱な天然お姫様ヒロインは魔王だとバレてる事に気づかないであの手この手で主人公を倒そうとする。お前の都合なんて二の次三の次だ。さぁ行け! 中世ヨーロッパ的なファンタジーの世界へ!』

「待て待て待て! ちょっと待————————」


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