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子猫以上、弟未満。  作者:
第二章
22/32

10.

 でもそんなキスとは全く違う。

 和輝のセカンドキスだった。

 それは、また同じ龍司相手とになってしまった結果だが六才の自分から行動したものとは全然違った。

 洋画にありそうな濃厚なものは、恋人同士がするようなものだと和輝は思った。

 そんなキスを自分にした龍司は・・・。

 と和輝が考えてしまっても、不思議はないことかもしれない。

 ああ、でも。そこまでではなくて、たまたまキスしたい昂揚した気分だったのかもしれない。そうだとして。

 そうすると、龍司は知らなかったけれど、そういうタイプの人だということになってくる。

 和輝は絨毯に戻って座り込んで冷静に考えようとしていた。

 いきなりでちょっと驚いたことだったけれど、差別をしてはいけないことだろう。

 最近ではニュースでも時々やっているではないか、同性同士で結婚とか。もっと近い日本の芸能界でも、そういうのを認めているのだから。

 それは自由に考えて良いことなのかしれないというのは、和輝が辿り着いた結論だったのだ。

 キスされて驚いて血の上がった頭が、黙々と考えていた。龍司は全然お風呂から出てこないので。

 悪い魔女に奪われることを恐れていた相手だったが、魔女に盗られそうなのを指をくわえて見ていないで、もしかすると龍司は、もっと簡単に自分が貰ってもいいということかな?

 だから、龍司は女の人相手のように、男の和輝にキスをしたーーー。

 どうしてしたのか、理由を和輝は聞いたが、龍司は答えなかった。

 復讐、とはっきり言うのはあまりにえげつないという大人の自制心だったが、そのためにかえって誤解が生まれてしまっていた。

 和輝にとって、恋愛はまだよくわからなかったが、わからないなりにそれは正当な理由になると思ったのだ。

 母が和輝を連れて、赤の他人の龍司の家に入り込むことができた同じことになる。

 血の繋がらない弟は、とても不安定なものだった。

 絆だって十二年前の一年でしかない。とすると和輝が龍司のところに、今こうしていることはおかしいのだと、和輝本人が思っているからもっとしっかりした理由ができるなら、他のことは多少目を瞑ることが出来そうだった。

「うん。僕は、別に気にしない」

 声に出してみると、一層、そういう気になっていた。

 龍司が求めていることで、和輝にとっても求めている大きな理由を得ることになる。

 なら全然、平気かも。頷いて決意を新たにしたが、その全然という内容の中味は、全く具体的には思い浮かんではいない。なぜって今まで考えたことなど無かった、自分に関係ないことだと思っていたのでさっぱりと、想像がつかなかった。

 見えているのは一点。

 和輝は、長風呂のタイプの龍司が風呂を出てくるのを待っていた。

 和輝は熱めの湯にカラスの行水にパッと入ってサッと出てくるのが好きなくちなので、信じられないほどの長湯をいらいらしながらひたすら待っていた。

 動物園のクマのように風呂場への扉の前でうろうろしていても埒があかないので、床にお尻を付けてじっくり待ち始めて程なく、中の気配が動きだして扉が開いた。

 パンツに、バスタオル。髪を洗った頭にもタオルという龍司が、廊下の和輝をぎろりと見たがそれだけだった。

「嫌みな奴だな。風呂は空いたぞ」

「そ、そうじゃなくて・・・」

 上手く言い出せない和輝を置いて、龍司はさっさとダイニングの冷蔵庫に向かって行ってしまった。

 慌てて和輝は、追いかけていった。

 冷蔵庫に冷やしてあった水のペットボトルだった。

 グラスに移して、勢いよく風呂後の水分補充がされていた。

 こういう光景は、記憶にあるものだった。

 和輝の知っている龍司とは違うところがある。

「前は牛乳だった」

 もう中学生の頃には十分身長は伸びていて見上げるほど背は高かったが、龍司はまだ子供で、牛乳やスナック菓子をよく口にしていたけれどここには、両方とも置いてなかった。

 それが少し寂しかった和輝に、龍司は予想外の方向にシビアだった。

「太るだろうが」

「えっ」

「それに牛乳は洗剤で洗わないといけない。面倒だ」

 飲み干したグラスを、簡単に水洗いして水切りに置いた龍司は振り返ると、和輝を見下ろすと言った。

「俺はもう伸びなくていいが、おまえはまだ伸びるかも知れないから、望みに縋って牛乳だな」

「僕の身長は、一応、これでも標準ですっ!」

 剥きになって言わなくてはいられなかったのは、龍司と牧に出会ってから少し気になるようになっているからだ。

 高校のバレー部繋がりの二人の前に立ってみると、小さかろうと劣等感に感じなくてもよいだろうと思ってみても、少し悔しかった。

「あのっ!」

 悔しさに紛れて、強く切り出していた。

 黒いソファーに移動して両手で髪を拭いている龍司がうるさそうに、ちらりと和輝に目を向けた。

「なんだ」

 言いたいことがあるなら言えと、無言に圧されると怯みそうになったが腹の底に空気を溜めて堪えるのだ。

「・・・あの・・・僕って、龍司さんにとって・・・」

 口の中が乾いてしまって、言葉にする前に唾を飲みこんだ。

「弟、とか思うことはできないのかなって・・・そりゃあ、そうですよね。弟としていたのだって、ほんの少しの間だったし血の繋がりだってないわけだから・・・」

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