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子猫以上、弟未満。  作者:
第一章
11/32

11.

 悪いとは、人道的に言ってはならないことかもしれないが、龍司にとって内心頭を抱えるものだった。

 一人、部屋に残して自室に籠もったときコーヒーを手に姿を出した和輝。テレビを見にでたら一緒にくっついてきた。

 そもそもだ。最初に牧先輩の居酒屋で、なんと言っていたか。

 一人で部屋にいると苦しくて、呼吸のしかたがわからない、などと言っていたではなかったか。

 和輝の言った、部屋とは、それまで和輝が暮らしてきた思い出あるじいちゃん家の限定、ということではないのかもしれない。

「ここで一緒に寝ていいですか?」

 と、言いだしたからには、だ。

 風呂上がりで、暖房も効いている部屋なので上半身裸のままでベッドに転がって雑誌を眺めていた龍司に、またしてもノックの音だった。

 濡れた髪に、持ってきたパジャマを着た風呂上がりの和輝が立っていた。

「わざわざ狭いここに、か?」

「布団、十分敷けるから」

「おまえ、今まで一人で寝たことがないなどと言わないだろうな?」

「そんなこと、ないです・・・じいちゃんと一緒の部屋で寝ていたわけじゃないです・・・。でもじいちゃんが死んでから、一人でいるのが嫌になった・・・」

 ひっそりと語られた言い訳など、聞かなければよかったとすぐに思った。

「こんなことをして、俺は部屋を出入りするとき踏んでゆくぞ」

 慌てて追い出そうとしたが、無理だった。

「あ、それは一瞬のことですし、きっと大丈夫です!」

 和輝の言う通り、本当に細っこい腕を大柄な龍司が踏みつけても平気なものだろうか、ではなく龍司がちゃんと踏まないようにしないとならないことになのだが、素朴な笑顔で言われると龍司はそのあとが続けられなかった。

 返事に渋っていると、和輝も不安そうになってきた。

「駄目ですか?・・・駄目なら、向こうで寝ます・・・」

 龍司は風呂上がり、普段であればパンツ姿で歩き回るのだ。風呂上がり、テレビを付けて、新聞を捲りながらぼうっとした時間をリビングの方で過ごす。

 けれど昨日から、他人がいるので部屋に籠もっている。和輝にリビングダイニングを明け渡して個室に入って境界線を、お互いのプライベートを作っているのに和輝が広い部屋を空けて、こちらの小部屋に来てしまっては全く意味はない。

 そのうえ、龍司の配慮に虐めにあったように肩を落とされて、悲しげに「向こうで寝ます」ではとても虚しい。

「俺も向こうで寝るか・・・」

「布団並べて?」

 龍司が自問に呟くと、嬉しそうに和輝の声が跳ねた。

「面倒だな」

 ベッドから剥ぐのが面倒だし、リビングが散らかることになる。朝の仕事も増えそうだった。

 リビングに布団セットを一式置きっぱなしにするより、マシかと考え直していた。

「なるだけ壁の方で寝て、通り道作れよ。じゃなければ踏み潰すぞ」

 わかりましたと返事と同時に飛びだしていっていそいそと布団が運び込まれていた。

 布団を敷くには、三段棚は邪魔になった。

 龍司は気になったが、ごろっと寝ころんだままあえて、無視しているとしばらく考えた末に和輝は龍司に聞いていた。

「これを動かしてもいいですか?」

 部屋のものには触るなと言い渡されているからだろう。

「ああ、適当に動かせ」

 パジャマを着ないで上半身裸のままでいるのは共同生活のマナーに反することかもしれないが、龍司は和輝には気を使うことをやめた。

 すると。

「・・・風邪引かないですか?」

 三度も言われたので、龍司は仕方なく上衣を着た。




 ときには、誰かと朝を迎えることがあるが基本的に龍司は一人だ。独身を謳歌している。

 それに今日は、誰かと同衾したような気合いだってなく、どちらかというと地味に、脱力気味だった。

 この先、広がる未来に不安を感じながら眠りについたものだから、悪霊を呼び寄せたと思った。

 はっと気がついた。

 それは自分覆い被さる黒い影、長髪黒髪のワンピースの目を剥いた女、爪を尖らせる枯れ木のような腕を想像して、気配に目を覚ました龍司は暗闇の中で自分に危害を加えようとする影に応戦しようと龍司は腕を掴んだのだ。

 すると、何かが違う肉の柔らかい感触に「うわあっ」という悲鳴が続いた。

「い、痛い苦しっ、苦しい、龍司さんっ・・・」

 ベッドの上に相手の身体を押さえ込みながら、反対の手でリモコンをさぐって部屋の明かりを付けていた。

「また、おまえか・・・」

 長髪女がいなくて安堵したかわりに怒りが湧いていたが、同時にどっと身体の力が抜ける気分だった。

「和輝、どういうつもりだ、再婚の妨害をした復讐か!?」

「ち、違うよっ」

 苦しいと潰れた声で訴えるので、龍司は腕の力を抜いて解放してやると和輝は顔を上げた。

「あんまり、静かだったからさ。静かで息の音、聞こえなかったからちゃんと呼吸しているか気になって・・・呼吸してなかったら早く気が付いて救急呼ばなきゃだめだから・・・と思って・・・」

 とつとつと言った内容は、龍司にとってあまり深く追求したくないものだと思った。

 考えすぎかもしれないが、わかりやすい一つの想像が成り立ってしまっていた。

 甘えっ子で一人で寝たことがなかったわけでなく、以前は一人でちゃんと寝ていたという話を少し前に聞いたばかりだった。

 そこに加わった新情報。呼吸していないなら早く気づいて救急車を呼ばないといけないから、という和輝が訴える理由は何かに起因していると考えると。

・・・ああ、何も考えたくない。

読んでいただき、ありがとうございます!

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