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龍刻の転生者  作者: 勇者 きのこ
少年期 第5章 長き旅路編
41/51

第40話「チビドラ」

 






 ––––ちょっと待ってくれ理解できない。


 気がつけば、目の前には白竜。

 そう、目の前だ。目と鼻の先だ。


 最初、ヴァルキリウスに呼び出されたのかと思ったが……。

 ヴァルキリウスはこんなスラッとしてないし、こいつは一体何なんだ?


 てか、ドラゴンだよな?

 なんかすっごい毛並みが良いけど、撫でたらその感触の虜になりそうだけど、本当にドラゴンなんだよな?


 ねぇ、わかる? 目の前なんだよ? 息がかかってるんすよ!?

 目ぇ合ってるし、逸らせないし、なんか喰われそうだしッ!!?


 –––––ガパァ。


 あらまぁ、立派なお口ですこと––––なんて悠長なこと言ってる場合じゃねぇぇぇ!!


 おいおいおいおい、やばいって喰われるって!!


 あ、ああぁぁぁぁ……うわああああ!!!


「––––うおおおぉぉぉ!?」


「え、なに!? て、敵!?」


 あ、あれ……?


「なーーんだ! 夢か〜〜(笑)」


「な〜んだ、そうなのね〜〜♡ じゃ、ないわよ! びっくりしたじゃない!!」


 目が覚めた途端にパンドラからの強烈なパンチ。

 うん! しっかり目が覚めたよ、どうもありがとう!!


「じゃねぇよ、痛ぇじゃねぇか!!」


「あんたがいきなり大きな声出すから悪いのよッ!!」


 さらにもう一発とは酷すぎる!!


「てか、なんで俺ここで寝てんだ?」


 確か、ジュリウスと交代で見張ってて……そんで俺は寝た。

 そこまでは覚えてる、大丈夫だ。


「けど、馬車の中で寝てたはずなんだよなぁ〜」


「そんなの知らないわよ! 早く出てってよ、この変態ッ!!」


 変態呼ばわりは酷すぎやしませんかねぇッ!!?


「ん……うるさいのですよぉ〜」


「あ、悪いミシェル––––って、うおおぉぉぉ!!?!?」


「ちょっと!? あんたなんで裸なわけ!!? あんたも見てんじゃないわよッ!!」


 本日3度目の顔面パーーンチ☆


「あれぇ〜? なんでですかねぇ〜♪」


「私に聞かないで……」


 ぬおおおお!! なんでも良いから回復魔法プリーーーズッ!!


「おー、起きたかのぅ? ならば、早速朝の稽古じゃぞ!!」


 テントの幕をバッと開けて、爽やかな笑顔で師匠が入って来た。


「––––なにやっとるんじゃ?」


「あぁ、師匠! 良いところに来てくださった!!」


「この変態が私たちの寝床に侵入してたんですよ!」


 それを聞いた師匠は、キョトンとした顔で言った。


「ん? 妾が連れてきたのじゃが、問題あったかのぅ?」


 お前が犯人かぁぁい!!


「師匠、色々と問題があるんです。パンドラはまだしも、ミシェルはもうこれだけ魅力的な女性になりました」


「そんなぁ/// 照れるのですよぉ〜♡」


「私は違うって言うの!? 魅力的じゃないって言いたいの!?」


 いや、だってお前……。


「なによその顔ッ!」


 ふっ、甘いわッ!

 貴様のパンチなど、すでに見切って–––グハァッ!!


「主ら、何がしたいのじゃ……」






 –––––






「なぁ、俺はな。この世界に来て、今まで過ごしてきて、どーーーしても我慢出来ないことがあるんだよ」


 朝の稽古も終わり、みんなで朝食を食べていた。


 突然の俺の発言に、皆が何事かとこちらを見る。


「あぁ、そう言えばお主は転生者じゃったの。して、どうしたのじゃ?」


 ジュリウスの時もそうだったけど、もうちょっと転生者ってのに興味ないわけ?


 パンドラもミシェルも、特に触れてくることはないし。

 そんなに珍しくないの? ちょっと寂しい。


 いや、今はそんなことよりも、どーーーしても言わせて欲しいッ!!


「白いお米が食いてぇんだよぉぉぉぉ!!」


 7年もこの世界で暮らしてきて、一度も目にしたことがない愛しい白米くん!!


 出てくるものはパンばかり、俺は元日本人なんだよお米が食いたいんだよぉぉ。


「お、こめ? なんじゃそれは、美味いのか?」


「何言ってるんですか師匠ッ!! あれ無くして食は語れません!!」


 俺は師匠にお米の素晴らしさを語った。


 白く輝き湯気踊る米の上に、黄金に輝く卵をかけ、悪魔的に黒いのに何故だか悪魔的に食欲を掻き立てる醤油を垂らす。


「あれは、至極美味である……」


 あぁ、思わず涙が溢れてしまう。

 今すぐ君に会いたいよ、白米くん。


 まぁ、醤油無いんだけどな。


「お、おいジュリウス! 今すぐにその『おこめ』とやらを手に入れてくるのじゃ!!」


 どれほど美味いのかと想像をしたのだろう。

 師匠はよだれを垂らしながら、ジュリウスに叫んだ。


「む、無理を仰らないでください! その『おこめ』を見たこともありませんぞ!?」


「大丈夫ですよジュリウスさん! この『解析』のスキルがあれば、いつか見つかるはず––––あれ!?」


 何気なくそこらへんに生えていた植物を解析しようと鷲掴みにして、気付いてしまった。


 思わず冷や汗を流す俺を見て、パンドラが不思議そうな顔をする。


「なに? どうしたの?」


 ただの勘違いかと思い、もう一度『解析』を試みる––––が。


「スキルが、発動しないんだ……」


 返ってくるのは、ただただ静寂。


 昨日みたいに【草】とか役に立たない情報くれよ!


「失礼します––––これは!」


 すかさずジュリウスが俺の肩に手を置いた。


 このスッと体を風が通り抜けるような感覚、ジュリウスが俺を『解析』しているのだろう。


「どうじゃ、消えておるのか?」


「いえ、解析スキルは消えてはいません。ですが、アヴァロン様が封印したスキル同様『(ロック)』をされた状態に……」


 な、鍵!? それって結局使えねぇじゃんッ!!


 にしても、一体誰が?

 わ、妾ではないぞ!? という師匠の言葉を信じれば、他の誰かだが。


「––––そんなことする奴はいねぇしな。仲間を疑いたくはないな」


 一旦別行動をしてるガッチェス達とも考えられない。

 まさか、敵か!?


「あ、そう言えばリュウ。朝、夢がどうのって言ってたわよね? それが関係あるんじゃない?」


 あー、どんな夢だっけ?


「んーと。確か、白くて大きくて……なんか毛並みが良かった。んで、そいつに食われそうになった時に目が覚めた」


 うん、なんかそんな感じだった気がする。


「適当じゃのう……。どうじゃ、なにかわかったのか?」


 パンドラとミシェルはしばらく黙り込み、ハッとしたように顔を上げた。


能力封印(スキルバインド)が使えて、白くて毛並みが良いドラゴンって言ったら!」


「まぁ、あの子(・・・)しかいないのですよぉ〜」


 え、ちょっと待って!

 ドラゴンよりも、スキルバインドの方に興味があるんだけど!! ねぇってば!!


「ねぇリュウ、あんたのそのお腹についてるポケットか袋か、よくわかんないやつだけど」


 え、これ?

 いつか収納系の魔法でも覚えたらここに秘密道具でもしまって、『ど◯でもドア〜〜』(←例の声とあの音楽)をしようと思ってたやつだけど。


「ちょーっと大人しくしてなさいよ?」


 え、なに? なんでそんなじりじりと迫ってくるの!? いや、やめて! にじり寄らないでぇ!!


 らめぇぇぇぇぇぇぇ!!!


「ほら、はやく出てきなさいッ! ちょっと、リュウ!? 大人しくしてなさいってば!!」


「無理言うなって! ちょ、マジでくすぐったいから!! やめ、アァーーーッ♂」


 痛いッ! なんだよ、ちょっとした冗談だろ!?


 あれ? パンドラの腕、すっぽり入ってるよな?

 このポケット、そんなに深くないぞ!?


「イタッ! 噛んだわねぇ〜!? もう手加減しないわよ、このバカ!!」


「え、噛んだってなにが!? 俺の◯次元ポケット、いつの間にミミック化してたの!?」


 助けてミシェルさーーんっ! って、どさくさに紛れて人の体弄ってんじゃねぇぞミシェルてめゴラァ!!


「ほーら、捕まえたわよ! さぁ、観念しなさいッ!!」


 パンドラの手により、俺の◯次元ポケット(予定)から引っ張り出されたのは–––––。


「ムゥ、ムッ! グルルッ!!」


 それはあまりにも小さすぎて、もはやその名で呼んで良いものかと悩むほどの––––手乗りドラゴンだった。


 全身が真っ白い毛に覆われていて、頭部には本当に小さなツノがちょこんと生えている。


 エメラルドの瞳をクリクリと動かし、一生懸命にパンドラの腕から抜け出そうと体よりも小さな翼を動かしている。


「やっぱり、犯人はあんただったのね! こら、大人しくしなさい!」


「まったく、困ったちゃんなのですよぉ〜♡」


 いや、困ったのはお前の方だよ二度とするなよ!?

それに、こんな小さくなかったぞ?

俺が夢で見たのは、もっとデカくて迫力があったというか。


 って、それよりも––––。


「こいつ、可愛すぎだろぉぉぉ♡♡♡」


「いや、そうじゃないでしょ!? 普通ならこの子が何者かって話に入るはずよねッ!?」


 おぉっと失礼! あまりにも可愛いのでつい、な♡


「このちっこいのはなんじゃ? お主ら、知っておるのか?」


 なんだよ師匠が聞くのかよ!

 んじゃ、俺はこいつを愛でるとしよう!


「良いからあんたも聞きなさい」


 パンドラに首根っこを掴まれ、大人しく地面に正座する。

 ちょーっと俺よりも体が大きくなったからって、威張ってんじゃねぇぞ!!


「この子の名前は『ミル』って言って、先代の光の龍神の精霊よ」


 先代の––––ってことは、ミラの精霊!?

 けど、ミラはもう……俺のせいで。


「はい、そこ! 落ち込んでないで話を聞く! 宿主を失った精霊は契約を終え、自由の身になるの。つまり、はぐれ精霊ってとこね」


 こいつ、ミルもはぐれ精霊の一種か。


 元だけど、光の龍神の精霊って言うんだから何気に凄いやつじゃねぇか!?

 こんなちっこいのに、見かけによらず凄いんだなぁ……。


「多分、リュウが指にはめてるその光の指輪に住み着いてたんでしょうね。んで、新しい光の龍神のあんたの魂に反応して、指輪から出てきたんでしょ」


 なんだよ、最近やけに頭が回るじゃねぇか?

 パンドラって、こんなに頭が良かったっけ?


「何よその顔、絶対バカにしたでしょ!?」


「してないしてない! それで? 出てきた後もこうやって俺のポケットに入り込んで、知らない間に連れ回してたと」


 なんだよ、やっぱ可愛いじゃねぇか〜♡


「ご主人様ぁ、それはちょっと違うのですよぉ〜?」


 え、なにがだ?


「その子は本能的にぃ〜、ご主人様と一緒にいれば美味しいご飯が食べられると思ったんだと思うのですよぉ〜♪」


 ご飯? 白米はやらんぞッ!!


「違うわよ、その子は【スキル】を食べるの。あんたの解析スキルも、この子のご飯になったってこと」


 おいチビドラてめぇ!!

 いくらミラの精霊だからって、それはさすがに許せんぞぉ!!


「大丈夫よ、まだどこかに隠し持ってるはずだから。この子は獲物の魂から捕食したスキルを、一時的に『木の実』のような形にして保管しておくの」


「それをご主人様が食べればぁ〜、スキルにかかった鍵も外れるはずなのですよぉ〜♡」


 おぉ! だったら返してくれないか!?

 俺はあれでチートするんだよ!!


「ムゥ……」


 チビドラ––––ミルは落ち込んだようにトボトボと歩き、俺のポケットの中から一つの木の実を取り出した。


「おう、どうもありがとう♡––––おい」


 こいつ、全然離さねぇ!!

 てかやっぱドラゴンだわ! 力強ぇッ!!


「ムゥッ!! 」


 なんでそんな顔するんだよ!


「ムゥ……」


 ミルは観念したのか、やっと木の実を差し出した。

 涙を浮かべ、体を震わせ、ヨダレを垂らし。


「そんなに我慢すんのかよ……。だーっもう! ここで取り上げたら俺が悪者じゃねぇか!!」


 あーもう、なんか代わりになるもんねぇかな?


「のう、リュウよ。そのちっこいのが奪って木の実に変えたスキルをお主が食べれば、いくらでもスキルが取り放題だとは思わぬのか?」


 ––––なるほど、確かに!!


「おぉ! それだよ師匠ナイスアイデア!!」


 このチビドラを利用すれば–––––利用すれば……。


「やっぱ無理っす師匠。俺にはちょっと、罪悪感が……」


「だらしないのぅ。まぁ、それがお主らしいと言えばそうなんじゃがな!」


 とにかく、このチビドラからスキルを返してもらわんと!


「ミシェル、あんたスキルブック持ってなかったっけ?」


「あぁ〜、そういえばぁ♡ でもぉ、役に立たないスキルですよぉ〜?」


 え、なに!? ミシェルもスキルブック持ってんの!?


「ミシェルさん、それください」


「はいなのですよぉ〜♡ 」


 ミシェルは一冊の本を召喚し、俺に差し出した。


「これはぁ、『叡智』と言うスキルなのですよぉ〜♪ このスキルを使えばぁ、学習能力を得ることができるのですよぉ」


 えっと、それってつまり?


「つまり、人間のあんたには意味ないってこと」


 使えなッ!? なにこのスキル使えなッ!?


「まぁ、これでもミルの飯にはなるのか。ほら、これやるから解析スキル返してくんね?」


「あ、バカ! 本ごと差し出したら––––」


 パンドラが言うよりも早く、俺がミルの前に置いた本が光を放ち出した。


「え、なに? なんかマズかった!?」


「それじゃあ、ミルがスキルを変化させれないじゃない……」


 あ、俺がスキルを保有してからじゃないと、ミルは木の実に変えれないのか。


「ほう、なるほど。これでは、ミル殿が『叡智スキル』を保有したことになると。その証拠に、スキルブックが消えてしまいましたな」


 それじゃあ解析スキルの代わりにならねぇじゃん!! 何してんだよ俺ぇぇ!!


「ほんとバカねッ! 学習能力なんて付いちゃったら、どうなるかわかったもんじゃ–––––」




 ––––この日、新たな力を持つ龍が誕生した。


 ––––その竜はのちに、【能喰竜(スキルイーター)】と呼ばれ恐れられることになるが、それはまだ後の話である。



















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