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龍刻の転生者  作者: 勇者 きのこ
少年期 第5章 長き旅路編
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第39話「近況報告」

「すまないが、少し寄りたいところができた」


時は少し遡り––––リュウたちが意気揚々、声高々に出発をしようとして居たその時、そう言ったのはガッチェスだった。


「1人で行く。あとで合流するから心配するな、先に行け」


「いやいや、歩いて行くんですか!? 俺たちは馬車ですし、それにどうやって合流するんですか!?」


確かに、ガッチェスはどう合流するかを考えていなかった。

リュウの指摘(ツッコミ)に少し困った顔をする。


「あ、だったら私が一緒に行きます! 離れててもご主人の匂いをたどれますし、私だったらガッチェスさんを担いでも馬よりは速く走れますよ!!」


カンナは腕を曲げて力こぶを作ろうとしたが、華奢な腕にはなんの変化も見られない。


「子供に担がれるのは御免だ」


想像してみてほしい。

大の中年男性が、幼くか弱そうな女の子に担がれる姿を。

一生の恥である。


「だったら、リオについて行かせるわ! あの子だったら大丈夫でしょ?」


勝手に乗り物にされるリオのことを気にかける程の優しい心の持ち主はいないようだが。


「ところで、どこに行くつもりなんですか? どうせなら全員で行きませんか?」


「うん? まぁ、ちょっとな。その必要は無い、お前たちは先を急げ」


リュウの問いを濁し、ガッチェスとカンナはいつの間にか召喚されているリオに跨った。


「我輩は馬ではないのですが––––」


「なんか文句あるわけ?」


小さな抵抗も虚しく、リオは黙って馬になるしかなかった。





–––––




大草原の中を突風の如く駆け、あっという間に森へと足を踏み入れた。


凄まじいスピードで迫る木々を踊るように躱し、何百メートルもある崖を軽々と飛び越える。

背中に乗っているガッチェスは縦に揺られ横に揺られ、それでも何食わぬ顔をしている。


「ったく、どうして我輩が––––」


ぶつくさと文句ばかり吐きながらも走り続ける。


「わー! 私よりもずっと速い!!」


「フンッ! 当たり前だ、我輩は牙狼王なのだぞ?」


カンナから尊敬の眼差しを向けられて、リオはフフンッと得意げに笑う。主に似たのか。


「確かに速いな、もう着いた」


山の麓に見えるのは、まるで隕石でも落ちたのかと思うほどの巨大なクレーターと、その近くでせっせと木材などを運ぶ村人や魔物の姿が見える。


「––––む?」


と、背後から忍び寄る者の気配に気づいたリオは、その愚か者の姿を見て思わず己の正気を疑った。


そこにいたのは、牙を剥き出しにして獰猛な唸り声をあげる、一匹の犬型の魔物だった。


力は弱まっているとはいえ、我輩は牙狼王なのだぞ?

どんな魔物でも、生きる意志のある者なら我輩を見た瞬間に一目散に逃げだす筈なのだが……。


「……ック、クアハハハッ!! この我輩を舐めているのか、それとも正気を失くした愚か者か。余程来世に急ぎの用があるのだろうな?」


–––––アオオォォォン


魔物は遠吠えを1つすると、向かって来るでも無く、道を塞ぐ形でその場に立っている。


「今の咆哮……仲間を呼ぶものでは無く『危険信号』、逃げろという意味か」


自らを犠牲にし、逃がすための時間稼ぎか?


「面白い、実に面白いぞッ!! この我輩に立ち向かうその勇気、仲間のために犠牲になる覚悟、そうまでして守りたいものがあると言うのかッ!!」


では望み通り、その喉笛を噛み切ってくれる––––そう言いかけた時、


「待って! ここは私に任せて、ティアラは早く逃げてッ!!」


突然、茂みから飛び出てきた少女が、リオたちに向けて剣を構えた。


一つ括りにした白髪は微粒子を纏ったように輝き、虹の蝶の髪飾りは日の光を浴びて淡く煌めいている。


「さぁ、私が相手です! 貴方達の好き勝手にはさせないんだからッ!! ––––って、あれ?」


その時ようやく、いつ止めに入ろうかとオロオロしていたガッチェスが、ホッと胸をなでおろした。


「待ってくれ、彼女たちは俺の知り合いだ。––––すまないな、シルヴァレン。ティアラも、怖がらせて申し訳ない」


そう言いながらガッチェスは––––本気でビビっていたのであろう、小刻みに震えながら涙を浮かべるカンナの頭を優しく撫でた。


「お、おじさん……怖いですッ」


「な!? 我輩はおじさんでは無い!!」


シルヴァレンと呼ばれた少女は剣を鞘に収め、


「まったく、本気で心配したんですからね!? またバハムートみたいなのが来たのかと……」


そう言ってため息を一つした後、後ろでキョトンとしている犬型の魔物––––ティアラを撫でた。


「ティアラ〜、よく頑張ったね〜! よーしよし、もう大丈夫だよ〜」


ティアラは気持ちよさそうにクゥンと鳴いて、麓に見える村へと駆け出して行った。


「まさか、魔物が人間の村を守る為に……? その命を犠牲にしてまでも、だと……!?」


リオは未だに理解ができないといった風に、ブツブツと呟いている。


「ここじゃなんだし、うちに案内しますね。ガッチェスさんも、みんなに用があって来たんでしょ?」


「あ、あぁ。おい、行くぞ……?」


リオはまだ何か呟いていたが、ガッチェスに言われて村へと足を進めた。


こうして、ガッチェスたちは無事にクヌ村へと到着したのだった。





–––––





「あら、ガッチェスじゃない! 久しぶりね、今日はどうしたの?」


クヌ村の中でも一際大きな家に案内されたガッチェスは、庭で剣の手入れをしていた炎のような赤髪の美女に声をかけられた。


「アインスか、久しいな。丁度いい、メイアも含めてお前たちに話がある」


「メイア? だったら中にいるはずだから、入って来て!」


アインスは家の中に入っていった後、シルヴァレンが玄関の扉を開けて、中に入るように促した。


「あ、私はどうすれば……」


付いて来たのは良いものの、どうすれば良いのかわからずにオロオロしているカンナを見て、シルヴァレンはカンナの手を引き優しく微笑んだ。


「ほら、あなたも入って! あ、でもワンちゃんはちょっと……」


「ワンちゃんでは無い! 我輩は牙狼王であるぞ!? ––––これで文句あるまい(ドヤッ」


と、『魔人化』により人の姿になったが、


「え、凄いです! 人の姿になれるワンちゃんは初めて見ました!!」


「だから! 我輩は牙狼王!! ワンちゃんでは無いッ!!」


いまいち己の凄さを理解してもらえず、歯嚙みをしていた。


「で、でも、私は獣人だから……」


獣人種は魔族。

いくら人類種に姿が近いとはいえ、魔族を恐れている人間も少なくは無い。


「大丈夫! この村の人たちは、魔族だからって差別したりはしないよ! それに、私の友達にもエルフの子もビーストの子もいるよ!」


そう言いながらシルヴァレンは、カンナの頭を優しく撫でた。




玄関を抜けて案内されたリビングには、原色のインクを落としたように綺麗な青髪の美女––––メイアがいた。


「久しぶり、元気だった? あら、貴方が誰かといるなんて珍しいわね?」


メイアはガッチェスの陰に隠れているカンナと、数々の武勇伝を誇らしげに語り、己の凄さをシルヴァレンに聞かせ続けているリオを見て言った。


「あぁ、こいつらは……まぁ簡単に言えばリュウの仲間だ」


「我輩はパンドラ様にお仕えしているだけで、あの小僧の仲間になった覚えは無いがな!」


後でパンドラにチクってやろう。

そう考えるガッチェスに、驚きの声をあげたのはシルヴァレンだった。


「え、リュウの!? ワンちゃんって、パンドラちゃんのお友達だったの!?」


「お友達では無い、下僕だッ! 無礼者め!!」


メイアとアインスも驚いた様子で、リオとカンナの顔を見る。


「あの子に仲間ねぇ……。この村を出て行ったのもついこの間なのに、随分と早いわね〜」


アインスにまじまじと見つめられ、カンナはさらにガッチェスの背に身を隠した。


だが、ピンッと立った栗色の耳と尾が隠れきれておらず、その姿がなんとも愛らしく思える。


「さすが私の子ねっ! なんだかんだ、上手くやってるようで良かったわ!」


メイアはフンスッと胸を張り、誇らしげにそう言った。


「こ〜んなに可愛い子、どこで捕まえたんでしょうね。ほんと、父親にそっくり……」


アインスは溜息まじりにそう言ったが、その顔は、昔を懐かしむ笑みを浮かべている。


「こいつ以外にも、獣人種の子供らが奴隷として囚われていたところを、リュウたちが助けたんだ。それで今から俺たちは、獣人種の大陸の【天ノ夜月】に子供らを送り届ける旅を始める」


ガッチェスはパンドラに聞いた、グランヴェール王国での出来事を話した。


リュウと戦姫エリノアの戦いのこと。

獣人種の子供らを救出したこと、アトランタとの激戦。


そしてこれから大陸を渡り、獣人種の大陸へ向かうこと。


「古代兵器の噂は聞いたわ。けれど、国を守ったのは騎士団と戦姫だって……」


「いいやアインス、リュウたちがいたからこそグランヴェール王国は滅びの危機から逃れることができたんだ」


「それもそうよ。国の危機を救ったのが騎士団でも戦姫でもなく、通りすがりの冒険者。しかも子供よ? そんなこと、言えるわけないじゃない」


もしもそんな事が民に知れ渡れば、国は信頼を失う。


無論、他国に知られるわけにもいかないので真実を歪めた。


「しっかし、国まで救っちゃうなんてね……。ほんと、自慢の息子だわ!」


アインスは笑いながら、カンナの頭を再び撫でた。


「あ、あの! ご主人のお母さん、ですか?」


「えぇ、私はアインス・ルークよ! 私とリュウは血の繋がりは無いけど、私もメイアと同じようにあの子を愛してるわ!」


え!? ご主人ってなに!? と言うシルヴァレンの言葉に答えるものはいないようだ。


「たっだいまーー!!」


「ただーまーー!」


「あ、2人とも! 帰ったらまず、手洗いうがいですよー!」


勢いよく玄関の扉が開かれ、バタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。


「メイシェル、エレナ! ちょっと買い物に行くだけで、どうしてこんなに泥まみれになるの!?」


リュウの妹––––メイシェルとエレナの姿を見て、アインスやメイアよりも先にシルヴァレンが声をあげた。


「おかえりサティファ〜。どうせまた、あの子たちが水たまりにでも突っ込んでいったんでしょ?」


「ごめんなさい、アインス。私が言っても聞いてくれなくて……」


シルヴァレンの母––––サティファレイ・ヴァナディールは、心底困ったように溜息を吐いた。


「それにしても、シロもすっかりお姉ちゃんね〜。あ、そうだサティファ! 今ちょうどガッチェスが来てて––––」


リュウの話をしてた。とアインスが言うよりも早く、


「ガッチェスさん!? それに他の方々も! 申し訳ありません、お客様がいらっしゃているとは知らずに……。すぐにお茶を用意致しますので!」


そう言ってサティファは、バタバタとキッチンに入って行った。


「あー、サティファ? そんなに焦らなくても大丈夫だから、ね?」


メイアはサティファに席に座るように促し、たった今ガッチェスから聞いたことを話した。


「ほえ〜、リュウ君も頑張ってるんですねぇ」


うんうんと頷いて、感慨深げにサティファはそう言った。


「シロも負けてらんないわね! ほら、もうウズウズしてしょうがないんでしょ?」


アインスに指摘され、負けてられないと闘志を燃やす自分に気付く。


「まぁ、我輩からすればあの小僧はまだまだであるがな」


とうとうシルヴァレンに無視をされ始めて拗ねていたリオが嘲笑うようにそう呟いた。


なぜ今そんなこと言うんだ。と思うガッチェスに、メイアとアインスが怒るのではとオロオロするカンナ。だが、


「あー、確かにあの子はまだまだね」


苦笑いをしながらそう言うアインスと、


「けど、それって逆に言えばもっともーっと成長できるってことでしょ? 私たちの子なんだもの、心も身体もさらに大きくなってもらわなきゃね!!」


誇らしげに笑って言ったメイアに、ガッチェスとカンナは安堵した。


「おじさんだれー?」


「ふわふわ〜! もふもふ〜♪」


不思議そうな顔でリオを見つめるメイシェルに、カンナの尾に顔をうずめてその毛並みを堪能しているエレナ。


「おじさんではない! 我輩は牙狼王である!」


「がろーおー? へんなのー!」


変な奴呼ばわりされ、リオは意気消沈。


「く、くすぐったいよぉ〜///」


「もっふもふ♡」


カンナはすっかりエレナのおもちゃにされていた。


「とりあえず、今日来た理由はそれだけだ。あいつはお前たちに何も言わずに行くつもりだったから、せめて俺がと思ってな」


余計なお世話だとは理解していても、やはり親に何も言わずに行くのは反対だったようだ。


「うん、わかった。わざわざありがとね、ガッチェス!」


「リュウなら大丈夫、よね! そうよね、アインス!?」


「心配しすぎだってば……!! あとはガッチェスと、この愉快なお仲間さんたちに任せるしかないでしょ?」


「けど、こんなに可愛い子と一緒に冒険するんだから、シロとしては心配なこともあるかな?」


「もう、お母さん!」


みんなで笑い合い、心が温まるこの家を出て行くには、色々と葛藤があったんだろうな。


だからこそ、リュウは何も言わずに––––いや、言いたくても言えずに旅に出ることにしたんだろう。


ガッチェスはそう考え、やはり来てよかったと思った。


「さてと、今日は村の様子を見て回って、明日の朝に出発だ。とりあえず、お前たちは俺の家に来い」


そう言って席を立つガッチェスに、


「あら、もう行くの? じゃあせっかくだし、私が案内してあげるわ!」


アインスも席を立ち、いそいそと準備を始めた。


「いや、案内と言われても、俺もこの村のことは知ってるぞ……?」


「なーに言ってんのよ! もうあんたが知ってる村じゃないわよ? これを機に、色々とリニューアルしてんだから!」


じゃーん! と、アインスは鞄から取り出した村の見取り図をガッチェスに押し付けた。


「さぁ、付いて来なさい! この私が案内してあげるわ!!」


アインスに言われるがまま、ガッチェスとカンナは外へ出た。


「あ、おい! 我輩を置いて行くな!! おーーーい!!」


メイシェルとエレナにおもちゃにされ、馬のように跨られていたリオは、普通に置いて行かれた–––––。










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