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龍刻の転生者  作者: 勇者 きのこ
少年期 第5章 長き旅路編
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第38話「スキルを習得しよう」

 





「イテッ! あー、もう!!」


 俺たちは今、だだっ広い草原を抜けた先にある大きな森へと足を踏み入れていた。


 かなりの時間を馬で移動したが、未だに森を抜けられないので休憩をしているところだ。


「ちょっと、大丈夫!? もう……これで何回目よ?」


「ご主人様ぁ、立てますかぁ〜??」


 そんな中、俺は片目だけの龍眼に慣れないでいた。


 力に振り回されて、足取りもおぼつかない。

 水を汲みに歩くだけでも一苦労だ。


「ったく、今日も空は青いな……」


 確かに龍神の力を使うのは禁止って宿で言われたけどさ、封印までする必要はないと思うんだがッ!?


「なに気色悪いこと言ってんのよ。ほら、これあげるから付けなさいよ」


「気色悪いって……。––––これは、眼帯か?」


「おやぁ〜? パンドラちゃん、プレゼントですかぁ??」


「な!? ち、違うわよッ!! ただ、一般人にその目を見られたら面倒だからってだけで、全然そんなのじゃないからッ!!」


 おいおい、喧嘩すんなよ。


「んと、こうか?」


 あれ? 何も見えなくなった?

 おかしいな、龍眼には透視能力もあったはずだが……。


「それは私のお宝の1つよ。魔眼とかの効果を抑制することができるの。龍眼に効くかわからなかったけど、問題なさそうね!」


 おぉ! まだちょっと距離感とか曖昧だけど、さっきよりはマシだ!


「付けてる間は良いじゃろうが、外した時が大変じゃぞ? 片目だけ開眼させても、使いこなせなければ宝の持ち腐れじゃ」


「大丈夫ですよ、師匠! ちょくちょく外して、片目だけでも動けるように修行しますからっ!」


 これが俺の最後の切り札になるかもしれないんだ、ちゃんと使いこなせるようにしないとな。


「皆さん、今日はここで野営をする準備をされては如何ですか? もうすぐで日も沈み始める頃です」


 そうだな、これ以上進んで暗くなっても危ないだけだ。


「なぬ!? この妾に、野宿をしろと言うのかジュリウス!」


「我慢なさってください、アヴァロン様。私もお父上様の旅にお供をさせて頂きましたが、その時によくこうして野宿をしましたぞ」


 ジュリウスは昔を思い出すように、顎に手を当てながらしみじみとそう言った。


「また父上じゃ、いつもそうじゃ! 妾は父上とは違うのじゃ!」


「ですがアヴァロン様。ずっとそうやって、我儘を言い続けるおつもりですか?」


 師匠のお父さんってことは、先代の火の龍神か。

 ジュリウスさんって神がやっぱ絶対強いよな……?


 いや、今はそれよりも喧嘩をやめさせないと!


「––––もうよい! リュウよ、今日の修行はジュリウスにしてもらうんじゃぞ!」


「お待ちください! アヴァロン様!!」


 ジュリウスの制止も聞かず、師匠は転移魔法でどこかへと消えてしまった。


「はぁ、まったく……」


 ジュリウスは大きなため息をついて、ドカッと勢いよく岩に腰を下ろした。


「お見苦しいところを見せて申し訳ありません」


 バツの悪い顔をしながら眉間を押さえながら空を見上げるジュリウスは、今なにを思っているのか。


 俺にはわからないが、きっと師匠のことを大切に思ってるんだろうな。


「––––さて、それでは参りましょうか。 戻ったら、さっそく修行ですぞ?」


 ジュリウスに促され、水を汲んで重みが増した樽を抱えた。


 帰りに転んでしまい、もう一度汲み直すはめになってしまったのは内緒だ。






 –––––






「それでは––––これから貴殿が知り得なかった事について、語るとしましょう」


 すっかり日も沈み、夕食も食べ終えた頃、焚き火を突いていたジュリウスがそう言った。


「パンドラ殿とミシェル殿は既にご存知かと思いますが、この世界には魔法とは別に『スキル』というものが存在します」


「えぇ、まぁ……。けど、そんなに詳しく無いわよ?」


「スキルなんて、滅多に覚えられるものではありませんからねぇ〜」


 いやいや、お前ら知ってたなら教えてくれれば良いじゃないか。


 精霊の時もそうだったけど、そん時にならないと絶対に教えてくれないよな!!


「そうですなぁ––––例えば貴殿が履いている、その靴。それは魔法道具(マジックアイテム)ですな?」


「えぇ、そうです。父が誕生日にくれたんですよ、今ではとても大切なものです……」


 この靴、今じゃ形見でもあるんだよな……。


「そうでしたか……良き父上ですな。さて、例えばその靴ですが––––その靴は魔法ではなく、スキルが付与された物です」


 え? だって、魔法道具だろ?

 魔法だっていうから、俺はてっきり付与魔法だと––––。


「イマイチ、理解できないという顔ですな。分かりやすく言えば『スキル』によって『物』に力を与えた物を、“マジックアイテム”と呼んでいます」


 スキルで付与した物なのにマジックアイテム??


「スキルと魔法の違いが知りたそうですね。よろしい、ではこちらをご覧ください」


 そう言って、ジュリウスは俺たちの前で実演して見せてくれた。


 ––––まずは魔法。


 ジュリウスは腰の短剣を抜き、自らの剣に火属性の魔法を付与した。


 刀身は炎に包まれ紅く染まり、周りの闇を照らしている。


「これが魔法での『付与(エンチャント)』ですが、これは大気中の”魔素“を火のエネルギーに”魔法“によって変換し、それを剣に纏わせる、ということです」


 ジュリウスは短剣を鞘に収めて、ふっと息を吐いた。


「––––次にスキルでの付与ですが、よく見ていてください」


 そう言ってジュリウスは再び剣を抜き、その剣に炎を纏わせた。


 だが今度はさっきとは違い、剣を抜き終わる前(・・・・・・・・)から刀身は炎を纏っていた。


「スキルは、周りの魔素から力を与えるのではなく、そのもの自体が力を持ちます。故に、魔力を使うことなく、瞬時に力を発揮することができる強力な代物です」


 ––––例えるならそう、焚き木に火打ち石で火をつけるのではなく、焚き木そのものが火を纏う力を持つ。


 スキルとは周りからではなく、その身から生み出す力だ。


「それと、スキルは『成長』していくものです。そのままのスキルだとなんの役にも立たぬことが多いのですが、それを成長させていくことで力は増し、さらには別のスキルへと【進化】をすることもありますぞ」


 ジュリウスは懐から一冊の本を取り出すと、それを俺に差し出した。


「貴殿の()は、この世界のとは構造が違いますな。もしや、リュウ殿は異世界から来たのですかな?」


 なに、わかるのか!?

 さすがジュリウス、なかなか鋭い男だな。


 と言っても、俺の場合は”転生“なのだが––––。


「まぁ……それに近いと思います。その魂の構造ってのは、この世界と別の世界は違うんですか?」


「この世界にある魔素に適応するために、魂の構造が変化するのです。それによってスキルを手にしたり、魔力量が変動したりますな」


 つまり、スキルってのは誰でも持ってるってわけでも無く、生まれつき持っていることもあるってことか。


「異世界から来た者の魂はこちらの環境に適応しようとするため、歪な形になったりすることもあるそうですが、リュウ殿には特に問題は見られませんな」


 魂の形とか、人間の理解を超えてるな……。

 とりあえず、問題無いって言われて安心したよ。


「それでは、ここに手を置いてもらえますかな? この本は『スキルブック』と言って、とある神がスキルをこの本に封印した物です」


 俺が持っていた本をジュリウスが開くと、そのページは淡い光を放ちながらペラペラとめくれていく。


「これは一回限りの使い捨ての魔法道具ですが、これを使うことで誰でも手軽にスキルを身に付けることができるという優れものですぞ?」


「日常生活で使うような魔法でも出来るような簡単なスキルしか身につけられませぬが––––それでも魔力を使わずに済むので、今の貴殿にぴったりだと思いますがな」


 おぉ!

 スキルって、意外と簡単に手に入るものなんだな!


「もしや、スキルは簡単に手に入る––––なんて思ってるのでは?」


 え、違うの!?

 そのスキルブックってのを使えば、簡単に身に付けることができそうだけど……。



「このスキルブックは、とある神が作ったもので、天界でしか手に入れることはできませんし、魔法道具に付与されているものも、完全なスキルとは呼べません」


 さらに言えば、本にスキルを封印して、それを『誰かに身につけさせる』 というのは凄く複雑な魔法を使うらしく、普通の人では無理なのだそう。


 なんだよそれ!!

 もうわけわからん、頭の中がゴチャゴチャしてきたぞ!!


「大元である鍛治スキルを身につけなければ魔法道具は作れませんし、いくら修行してもスキルを身につけられない人には無理ですからな」


 じゃあ、スキルってのはどういうものなんだよ!!

 難しくてよく理解できんわ!!


「スキルとは、【魂の力】を具現化したものです。スキルと一言で言っても、その種類は様々ですぞ」


 まずは【単体スキル】という一般的に知られているスキル。


 付与系や強化系、それ以外にも1つのスキルで1つの能力を発動するスキル。


「ご主人様のその靴には、『疾走』という強化系の単体スキルが付与されてるのですよぉ〜♪」


 次に【統合スキル】という、単体スキル同士が集まって、別のスキルヘと『進化』したスキル。


「これはあまり知られておりませぬが、相性の良いスキルは時に混ざり合い、別のスキルに進化するという現象があります。スキル保有者の魂の力に比例しますが、より強力でレアなスキルですぞ」


 そして次に【称号スキル】だ。


 これは誰もが手に入れることが出来るような代物ではなく、厳しい苦行や生まれつきなどの特殊な条件で身につくスキルなのだそう。


 鍛治スキルもこの部類に含まれているとなると、相当な厳しい条件下での苦行を耐え抜いた人がこの魔法道具を作ったのだろう。


「私は火の龍神の眷属ですので、《緋天の加護》という称号スキルを持ってます。それと前に言った2つのスキルは、称号スキルが無いとまず習得できません」


 ということは単体スキルも統合スキルも、称号スキルを手に入れなければ身につかないと。


「そんな時にはスキルブックですぞ。さぁ、ここに手を置き魔力を––––」


 ジュリウスに促されるまま、俺は本の上に手を置き魔力を流した。


「––––おぉ!!」


 すると本は光を纏わせ、俺の全身に微弱な電気が流れるような感覚が襲った。


「さて、そのスキルを使って手を自らの胸に当てるのです」


 言われた通り手を胸に当てる––––すると。


解析開始(スキャニング)


「なんか、解析開始とかいう文字が頭に浮かんだんですが」


「大丈夫です、そのまま続けてくだされ」


 ––––解析完了(スキャンクリア)


 性別 男

 種族 ???

 称号 【???/解析者】


 スキル ・解析


 状態異常・龍封


「なんか色々と出てきましたが、一部だけ靄がかかった感じで見えません」


 なんか、モザイクがかかったみたいな感じだな。


「それはまだスキルの熟練度(レベル)が足りてないせいだと思いますな。まぁ、慣れればいつの間にか見えるようになってるはずです。今度は、見えているスキルの名称を強く念じてみてくだされ」


【解析者】


 ・解析対象の情報を見ることができる。


「スキルの名称はなんでしたかな?」


「解析者ってスキルです」


 ふむ、だいたい使い方はわかったが、1つだけ言わせてほしい。

 レベル上がるまで絶対役に立たないスキルだなッ!!


「……レベルって、すぐに上がりますか?」


「何度も繰り返し使い続ければ、地道に成長していくものです」


 くっそー、やっぱ根気強く使うしか無いよな……。


「他にもスキルはあるはずですが、今はアヴァロン様に封印されてますからな……」


 あぁ、どうりで龍神のスキルが見当たらないわけだ。


「魔力を使わないからと言って、連続での使用には気をつけてください。魂の力ですので、使いすぎは危険ですからな–––––特に、龍神の力は……」


 ジュリウスはそこまで言いかけて、言葉を濁すように黙り込んでしまった。


 使いすぎるとどうなるの!? ねぇッ!!

 目を逸らすんじゃねぇよジュリウスてめぇ!!


「おっと、最後に1つ言い忘れてましたな! この世界にはもう1つ、【特殊能力(ユニークスキル)】と呼ばれるものもあります」


「このスキルは非常に希少なもので、世界に1つと同じものが存在しないのです。だいたいが生まれつきで、それ以外は取得条件すら謎に包まれた【魂を具現化】したスキル」


「リュウ殿の持つ《絶対領域》もその1つで、龍神の力とリュウ殿の魂が結合した時にできた産物ですぞ。ユニークスキルが如何に強力で強大なスキルか、身をもって体感したはずです」


 確かに、あのスキルは本気でヤバかった。

 魔法(チート)以上の能力(チート)だったぜ……。


「さてと、スキルについては以上ですが、あとはその身で実際に覚えていくしかありませんな」


 夜も更けてきました、と簡易テントの方に視線を向けたジュリウスが、そう言って苦笑いを浮かべた。


 なんだろうと後ろを振り返ると、両隣に座っていたはずのパンドラとミシェルがスヤスヤと寝息を立て、そこにいつの間にか戻ってきていた師匠が川の字で眠っていた。


「リュウ殿も寝られますかな? 見張りは私にお任せを」


「いえ、交代で見張りましょう。それに、俺はもう少し起きてようと思います」


 ふと空を見上げると、元いた世界では決して見ることのできないような綺麗な星空がある。


「––––リュウ殿が前に居た世界は、どのような空でしたか?」


 ジュリウスにそう問われ、だが顔を見ることなく––––、


「––––手を伸ばせば儚く散ってしまいそうな、そんな空でした」


 本当に静かに、そう答えた。


「そうですか……」


 ジュリウスのそう呟く声が夜空に吸い込まれ、後に残るのは静寂だけだった–––––。





































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