第37話「新たなる大地を目指して」
グランヴェール王国からクヌ村へと続く街道を進んで行き、広い草原へと出た。
ガッチェスを迎えに行っていたリュートたちと、ここで待ち合わせをしていた。
「おぉー! やっと来たかーー!!」
そこには、既に到着していたリュートたちの姿があった。
「ギルさん! お待たせしてすみませんでした」
「大丈夫だ、もう少し遅かったら危ないところだったけどな……」
おぉう……。
師匠は顔を見るまでもなく、お怒り状態ッ!
迫力だけで、大気が震えてる気がするッ!!
「やっほー☆ エリノアとの別れが寂しくて、時間が掛かっちゃったのかなぁ〜?」
こいつ…!
隣で師匠が、今にも爆発しそうなのにッ!!
「うるせぇよ!! お前とこうやって話すのは、本当に変な感じがして慣れないな……」
面と向かって話すのは、夢の中くらいだったからな。
けど、その見た目マジでなんとかしてほしいんだが?
なんで俺そっくりなのかもわからんが、女なのが一番わからない、理解できない!!
もしも年の離れた姉がいたら、こんな見た目だったのかもな。
なんだ、美少女じゃないか。
「妾を待たせるとは、覚悟はできておるのじゃろうな!?」
そんなことを考えていたら、いつの間にか師匠が俺の背後にいた。
今にも殴りかかって来そうな迫力だ! チビリそうッ!!
「す、すみませんでした師匠!! 以後、気をつけます!!」
俺は急いで、買ってきたブドウのような果物を師匠に差し出した。
師匠はそれを俺から強奪すると、満足そうに頬張り出した。
「ふ、ふんっ! 今回だけは妾の寛大な心で許してやるのじゃ! 次はないと、その頭にしっかりと教えておくんじゃぞ!」
ふー、あっぶねぇ……!
師匠にだけは、逆らったらいけないな!!
俺はホッと一息ついた後に、リュートの隣にいる人物に歩み寄った。
「ガッチェスさん、お久しぶりです!」
ガッチェスは俺の顔を見て、優しく微笑んでから頭を撫でてくれた。
「リュウ、達者にしていたか? 久しぶりに会ったと思ったら、こんなに大勢の仲間が出来ていたとはな……」
そう言われて、草原へと集まった仲間たちを見回した。
「俺だって、気付いたらこんなに大勢の仲間ができてたことに驚きを隠せませんよ……」
最初の街だけで、本当にたくさんの事があった。
俺たちの冒険は、これからだというのに!
「よーし! それじゃ、新たな仲間との出会いや、いきなり古代兵器と戦ったりしちゃったけど、俺たちの冒険はこれからだ! みんな、これからよろしくな!」
やらないといけないことも、増えたけどな……!!
「ほんと、まだまだ始まったばかりなのよね。私なんて、一回死にかけたのに……」
「たくさんお仲間が増えて、賑やかになったのですよぉ〜♪」
「妾はあくまでも、リュウを鍛えてやるだけなのじゃぞ! そのついでに、子供たちを見ておくだけじゃ、見ておくだけなのじゃぞ?」
「アヴァロン様、まるでパンドラ殿のようですぞ」
「素直じゃないお嬢さんが2人になっても、面倒なだけですぜ」
「ジュリウス、ギル。そこは妾のお茶目さに対して、可愛いと絶賛するところじゃぞ?」
アホな師匠は放っておいて、まずは次の目的地だな。
「それじゃあ、早速今後の方針について話し合おうか。まず俺たちは、獣人種の子どもたちを送り届けるために、東の大陸にある【天ノ夜月】を目指す。そのためには、この中央大陸を囲む海を越えなければならない」
俺は地面に簡単な世界地図を描く。
小さい頃、家の書斎で何度も見たから覚えていた。
みんなそれを食い入るように見ているから、真剣に考えてくれてるのだろう。
「海には強力な魔物が多く生息していて、船で渡ることは難しいとされている。そのため、大陸を渡る方法は『2つ』に分けられているんだ」
まず1つ目が、『飛空艇』を利用した空からの大陸移動。
飛空艇は空を飛ぶ戦艦で、武装された船の装備はAランクモンスターを討伐できるほどなのだそう。
ちなみに、一般的なモンスターはA〜Fランクに分類されている。
Aランクを超えると並みの冒険者やハンターでは討伐・狩猟することは難しく、騎士団や国の軍隊、Sランク冒険者や特別な許可を得たハンターが動くレベルのSランクモンスターに規定される。
2つ目は、地底の奥底で大陸同士をつなぐ《ダンジョン》である【リディリス大迷宮】を通る方法だ。
飛空艇はかなりの金がいるから、現実的にはダンジョンを突破することになると思う。
この人数分の料金は、さすがにブラックドラゴンの素材を全部売ったところで足りないだろうな。
全員が乗るのは金銭的に難しい。
しかし、これにも問題がある。
「リディリス大迷宮をこの人数でってなると、かなり危険じゃない? ランクの低いモンスターがいる階層を抜けるとしても、予想外の事態は考慮しないとだし、何よりも食料が持つかどうかも」
いつになく、パンドラが真剣な表情で唸っている。
明日は槍でも降ってくるのか?
「なによその顔は? あんたの中での私ってどんなイメージなのか、詳しく教えてもらえるかしら?」
ひえッ!?
ちょ、パンドラさん!? どうか剣を納めてください!!
「……まぁいいわ、話を戻しましょ。リディリス大迷宮を抜ける以前の問題よね。この人数で、しかもあの複雑な道を通ってどうやって東の大陸に行くつもり?」
そう、問題はそこだ。
この大人数でリディリス大迷宮を抜けようにも、迷宮内の道は複雑になっている。
「だったら、グループで二手に分かれるってのはどうだ? ほら、飛空挺に全員ってのは無理だろうが、それでも半分以上は乗れるんじゃねぇか??」
それだ! さすがギルさん、頼れるねぇ!!
「だとすると、ダンジョン攻略のメンバーは?」
「ん? そんなの決まってんだろ。リュウにパンドラ、ミシェルとカンナと、あとはアヴァロン様とお前だ!」
あ、やっぱダメだわこの人。
面倒な事はジュリウスに任せて、自分だけ楽しようとしてやがるな。
ニカッといい笑顔で肩を叩かれたジュリウスさんがめちゃくちゃ嫌そうな顔をしている……。
「カンナ、これから危険な旅になると思うけどお前は大丈夫か?」
俺はいつの間にか隣にいたカンナにそう聞いたが、大丈夫そうだ。
「もちろんです、ご主人! カンナがご主人を責任持ってお守りしますね!」
あぁ、うん、嬉しいんだけどね??
後ろの人たちの視線が怖いくらい突き刺さってるからね??
パンドラさん、ミシェルさん、落ち着いてくださいね?
「えぇ!? お姉ちゃん、そいつと一緒に行くのかにゃ!?」
「ごめんね、ウヅキ。でも、大丈夫だよ! また少しの間離ればなれになっちゃうけど……みんなのこと、よろしくね?」
ウヅキも寂しいのだろう。
カンナの手を握りながら、俺の方を睨んでいる。
あぁ……! そんなに熱い視線を向けられたら、僕っ!!
「何やってんのよ、気持ち悪いわね……。そうと決まったんなら、あとはダンジョンをどうするか決めましょ」
そうなんだよなぁ、どうやって突破したもんかね。
誰か道のわかる人がいるなら別なのだが。
「それなら、リディリス大迷宮の入り口がある場所の近くに大きな街があったはずだ。そこへ行けば案内人を雇うことも、地図を手に入れることも可能だろう」
今まで黙って話を聞いていたガッチェスが口を開いた。
「ガッチェスさん、リディリス大迷宮を通ったことが?」
「あぁ、昔な。あのダンジョンには貴重な鉱石や素材があるから、それを手に入れるために冒険者を雇って何度か攻略をしたことがある。昔の話だから、今ではもう道を覚えてはいないがな」
なるほど、ダンジョンに入る人を目当てにした商売ってとこか。
「お、決まったか? だったら、こいつは貰ってくぜ」
ギルは俺から金貨が入った袋と、ブラックドラゴンの残りの素材を受け取って、それを馬車の荷台に積んだ。
「リュート、子供たちを頼んだぞ。もしなんかあったら、俺がお前を許さねぇからな」
俺は子供たちにこれからのことを説明していたリュートの所へ行き、右手を差し出した。
「おっと、これは厳しいお言葉だね––––ボクに任せとけって!命に代えてでも守り抜くと約束するよ」
ったく、頼もしい奴だよお前は。
リュートは俺と握手をしてから、子供たちを連れて馬車に乗り込んだ。
しばらくは、あいつともお別れか……。
「よーし、目指すはビーストの大陸、天ノ夜月だな! 全員馬車に乗り込め!! 出発だーー!!」
ギルは馬車を出発させて、広い草原を駆け出した。
「リュウーー!! お互いに強くなって、絶対にまた会おうなーーー!!」
「お姉ちゃーーん!! 元気でにゃーーー!!」
「またお会いしましょうねーー!」
「ばいばーい!」
リュートたちが馬車の荷台から顔を出し、大きく手を振ってる姿が遠くなっていく。
「おーーう!! お前らこそ、死ぬんじゃねぇぞーーー!!」
「みんなーー! 元気でねーーー!!」
馬車の姿はどんどん遠くなっていき、見えなくなってしまった。
「さてと! そんじゃ、俺たちも出発しますかーー!!」
ここからまた、俺たちの冒険がスタートするんだ!
これからの冒険のことを考えると、興奮が抑えられないぜ……!!
「待つのじゃ」
勢いよく馬に跨ろうとした俺は突然、師匠に首根っこを掴まれてしまい、危うく転んでしまうところだった。
なんだよ! いったいどうしたんですか師匠!?
なんでそんな真剣な顔してるんですか!?
「リュウよ、妾は御主の師匠じゃ。故に、妾は御主に力の使い方を教えようぞ」
龍神の力の使い方、つまりは修行ってことか!?
いったいどんな過酷な修行を課せられるのだろうか……!!
「顔を出すのじゃ、ほれ」
「え、顔、ですか?」
俺は不思議に思いながらも、師匠に言われるがまま、顔を近づけた。
「え、ちょッ!? 痛い痛い!! 師匠、痛いですッ!!」
すると突然、師匠に顔、というか目に手のひらをグリグリと押しつけられた。
「ええい、うるさいやつじゃ! 男じゃろうが、我慢せい!!」
またコレかよ!
あんたら龍神は、俺の目になんか恨みでもあんのか!?
「––––よし。今、御主の龍眼にちょいと細工をさせてもらったぞ」
は? 細工って、どういうことだ?
「妾ばかりを見てるから気づかんのじゃ! 試しに、片目を閉じて周りを見てみるのじゃ」
俺は言われた通りに左目を手で押さえて、辺りを見回した。
……特に何も変わってないのだが?
「愚か者! そっちではない、右目を抑えるのじゃ!!」
だったら最初からそう言えよ!!
「––––!? これって……」
師匠は龍神だから効果がなかったのだろう。
周りの景色が、まるで時が止まっているかのように見える。
俺は自分の意思とは関係なく、『左目だけ』が龍眼を開眼している状態になっていた。
逆に、右目だけで周りを見渡したがなんの変化もなかった。
どうやら師匠は俺の左目だけ、龍眼を無理やり開眼させたようだ。
「いや師匠、左目だけってなんですか。これ、抑えられないんですけど? なんかずっと開眼状態なんですけどッ!?」
うぉい!!?
ただでさえ龍眼は多量の魔力を使うってのに、それを制御できないってなに!?
「御主はしばらく、そうやって魔力を使い続けるのじゃ。安心せい、死ぬことはない」
いやいや!
まるで死ぬことはなくても、それ以外なら有り得るみたいな言い方じゃないですかッ!?
「––––それと、龍眼以外の御主の龍神の力を【封印】させてもらったぞ。これからは、御主自身の力で強くなるのじゃ」
「––––はい!?」
俺は急いで魔法を展開したが、無反応だ。
嘘だろッ!?
アレもコレも、ユニークスキルの『絶対領域』もダメなのか!?
「ちょ、師匠ッ!?」
これじゃ俺、ちょっと魔法が使えるただの子供じゃん!!
「龍神の力を完全にコントロールできるようになるには、まずは『器』であるお前が成長するのじゃ。そんな借り物の力に甘えていては、いつまで経っても成長などできぬぞ!」
そ、そんなぁぁぁ!!
俺の異世界チート能力が! 英雄譚がぁぁぁぁ!!!
まぁ、そりゃそうだよな……。
現実は、そんなに甘くないってことだ。
「わ、わかりましたよッ!!その代わり、俺がめっちゃくちゃ強くなるまで、しっかりとお世話になりますから!!」
「ご安心を、リュウ殿。私も全力で助力致します故、貴殿の成長は保証しますとも––––修行に耐えられれば、ですがね?」
なんですかジュリウスさん、その不敵な微笑みッ!!
あーーーくっそ!! こうなりゃ全力でやるまでだ!!
「それじゃあ改めて、しゅっぱーーつ!!」
「あ、パンドラてめぇ! それは俺が言いたかったセリフだぞ!!」
「ま、待ってくださいよ、ご主人ーー!!」
「ふふっ、みんな楽しそうなのですよぉ〜♪」
–––––こうして、俺たちの長い旅と、俺の想像を絶する過酷な修行は始まったのだった。
「まぁ、今日から修行なんじゃけどな」
大変長らくお待たせしてしまい、本当に申し訳ありません!
これからも頑張りますので、どうか応援よろしくお願いします……!!




