第33話「異世界について学ぼう!」
「––––見ろ! 人間じゃない人までいるぞ!」
「荷物を運んでいるあの生き物は、竜なのか?」
「アレは『ガルドラ』と呼ばれる地竜だ。商会や傭兵団の移動時に、アレを利用している」
「あの人たちは、『ドワーフ』っすよ!この国は、ドワーフの王様が統治しているんすよ! だから、この国の武器や防具、その他の技術も最先端をいってるっす!」
「俺たちが持ち込んだ異世界の情報をもとに、向こうの世界にしかなかった物まで作ってしまった。それが良いことなのかは、わからないがな……」
そう言ったレンさんの表情は、少し暗かった。
「さぁ、ここが俺たちのアジトの《アルスマグナ城》だ。『ドワルゴン王』には、いつも世話になっている」
巨大で迫力のある城が、僕らの眼前に現れた。
重々しくも頑丈な城の迫力は、なんとも言えない雰囲気を出している。
「すっげー! デカすぎだろ! 本物のお城だぜー!」
「本当に異世界に来てしまったんだな……」
僕たちの乗った車は、城門を潜り抜けて中へと入っていく––––。
車を降りて歩いていると、傭兵の1人が話しかけてきた。
「お疲れさまです、レン殿! ボスがお待ちしております!」
「出迎えご苦労、了解した。これから向かう」
「は! 君たちが新しい子たちだね? ようこそ、異世界へ」
「あ、どうも。貴方も、異世界人なんですか?」
「あぁ、そうだよ。日本人じゃないけど、頑張って勉強したんだよ! どうだい、上手だろう?」
「お喋りはそこまでにしとけよ、カール。ボスへ報告されたいか?」
「それは困りますね! では自分は仕事へ戻りますゆえ、失礼!」
そう言ってカールは笑いながら、去っていった。
「勘弁してやってくださいっすよ、隊長! あれが彼の良い所なんですから!」
「そんなことはわかっている、冗談だ」
「隊長が言うと、冗談に聞こえないっすよ!」
「あはは! おっちゃんは顔が怖いからな!」
「余計なお世話だ、クソガキ」
そんな笑い話をしながら城内へ入ると、目の前は豪華な景色が広がっていた。
「うわ〜! とっても綺麗! こんな所に住んでみたいな〜!」
「本物のお城なんて、初めて入ったよ〜! へぇ〜、こんな風に作られてるんだ!!」
「見ろよコウ! 本物の鎧に剣まである! かっこいいなぁ!!」
「はしゃぐのは後にしてくれるか? ボスを待たせてるんだ」
「あ、すいませんでした……」
「大丈夫っすよ! 後でみんなで探検するっすよ!!」
僕たちはレンさんの後をついて行き、城内を歩く––––。
「––––よし、ここだ。ちょっと待ってろ」
そう言ってレンさんは、大きな扉を叩く。
「ボス、第3部隊のレンです。ただいま帰還しました」
「–––入れ」
扉の向こうから、低い声が聞こえたのを確認して、レンさんは扉を開けた。
「失礼します」
そこにいたのはハリウッドスター顔負けの、左目に眼帯をつけた渋い顔の男だった––––。
–––––
「例の子供たちを保護してきました」
「あぁ、ご苦労だったな。さっそくで悪いんだが、クラウス博士を呼んできてもらえるか?」
「了解しました、少々お待ちください」
そう言ってレンさんは部屋を出て行った。
「クレアは、報告書をまとめておいてくれ」
「了解……」
「トーブ、お前には話がある。どうやら今回の任務がギリギリだったのは、お前に原因があるそうじゃないか」
「えっ!? いや、あれは事故っすよ! まさかスライムが、あそこまで滑るなんて思わなかったんすよ!!」
「スライムを踏み潰して走行するとは、何を考えている……。無事だったから良かったが、これに懲りたら二度とするなよ?」
「了解っす! 肝に銘じておくっす……!!」
ボスって凄い人なんだな……。
あのお調子者のトーブさんが、叱られた犬みたいになってる。
「さて、見苦しい所を見せてしまったな。説明もろくにできずに連れて来てしまい、本当にすまないと思っている。私の名前は、『アルノア・アルベルタ』だ、アルと呼んでくれて構わない。私はこの世界の人間ではなく、異世界人だ」
「ケンタです。こっちは妹のリンです」
「どうもです……」
「コウスケだ!」
「ソウジロウです」
「ミナミです〜」
「君たちを呼んだのは他でもない、この世界についてだ。私たちが知っている限りのことを、君たちに話そう」
そう言ってアルさんは、僕たちにこの世界についてを語ってくれた––––。
–––––
「––––龍神……ですか」
「そうだ。他の神々も、闇の龍神を倒すためなら手段を選ばないだろう」
アルさんからは、様々なことを聞かされた。
まずは、この世界の生き物について。
文化や大陸、海などについて。
そして、闇の龍神がこの世界を滅ぼそうとしていること。
それを止めるため、他の龍神や神々が、あらゆる手段を使っていること––––。
「––––そして僕たちは、その闇の龍神や他の神々が自分勝手に好き放題暴れるのを防ぎ、この世界を守ろうとしているんだよ!」
「うわ!? びっくりした!!」
気がつくと背後に、眼鏡をかけ白衣を着た銀髪の男が立っていた。
「やぁ、驚かせて申し訳ない! 僕はクラウス博士、この世界の住人だよ。ある程度の話は聞いたと思うから、ここからは僕たち《異界の反逆者》について話そうか!」
そう言ってクラウス博士は、持ってきていた機材をいそいそと準備し始めた。
「おいレン、話が長くなりそうなんだが?」
「あぁ、申し訳ございません。どうしてもと聞かないもので」
「お前、本当は面倒くさかったな……?」
クラウス博士の準備ができたようで、部屋に設置されていた大きなモニターに映像が映し出される。
「驚いたかい!? 君たちの世界の技術を、僕たちの世界でも実現したんだよ! いや〜、本当に最高だよ!!」
「えぇ〜!? この世界でも、私たちの住んでいた世界のものまで存在するんですよねっ!? 具体的には、どれくらいですかっ!?」
「おぉ! 興味があるのかい!? では、後で私の部屋に案内しよう!!」
クラウス博士とミナミは、意気投合しだした。
「そこまでにしておけよ、クラウス。はやく話を進めてくれ」
ボスが話が長くなりそうなのを防ぎ、クラウス博士は渋々と話を始めた。
「まずは、これを見て欲しい。これが僕たちのいる世界の地図だ」
最初にモニターに映し出されたのは、この世界の地図のようだ。
「これを見たら、ここが本当に異世界だってのがわかるな……」
元いた世界とは全く違った大陸や海。
「ここが今僕たちのいる大陸で、人類種やドワーフ、その他にも多くの種族が住んでいる《中央大陸》だ。ここを中心に説明していくよ」
「この中央大陸を囲むように、他の大陸があるんだよ。ここから他の大陸に行くには、必ず海を渡らなければならない」
「ここから東にある大陸が、ビーストの住む大陸《天ノ夜月》だ! ビーストは自分たち以外の種族を嫌っているのか、文化や大陸の情報を公開しないんだ。だが、《異界の反逆者》はここに偵察部隊を派遣し、その秘密を暴くことに成功したんだ! なんと、ビーストの文化は君たちの元いた世界の、古き日本の文化に似ていることがわかったんだ!!」
「ビーストの使う武器は刀と呼ばれるもので、日本刀と全く同じ! なんと服装までもが、侍をイメージさせるんだよ!」
なにそれカッコいい!!
決めた、僕は天ノ夜月に行くぞ!
「僕たちは天ノ夜月の古い文献を調査していくうちに、とある仮説に行き着いたんだ。もしかすると、文明が栄えていなかった頃の天ノ夜月に日本から来た異世界人が現れ、この文化を広めていったんじゃないかってね!!」
「けどもちろん、他の大陸にもビーストは存在しているよ! まぁ、そのほとんどが冒険者か『奴隷』なんだけどね」
「奴隷……ですか」
奴隷なんてものが、この世界に存在しているなんて……。
「おっと、なにやら暗い感じだね。では、気を取り直して! 次に、中央大陸から西、天ノ夜月の反対側に位置する大陸、《エルム大陸》だ! この大陸にある【エルム深層林】と呼ばれる場所に、エルフとフェアリーが住んでるよ。この大陸は別名『大海樹林』と呼ばれていて、広大な森により形成されているんだ」
「それに加えてエルフは他の大陸との繋がりが少なく、多くの危険な魔物が巣食う森の奥に住んでいるということもあり、謎が多い種族だよ」
「そして中央大陸から北に位置する大陸、《ガルナ大陸》だよ! まぁ、ここは大陸というよりも、頂上が見えないほど大きな山が重なってできた大陸なんだけどね」
「この大陸には、恐ろしいほど巨大なギガンティアと呼ばれる巨人や、たった一体で国を滅ぼしてしまうほどの力を持ったドラゴンが住んでいるから、近寄らないことが賢明だね」
ど、ドラゴン!?
やっぱり、ファンタジー世界だ!
「そして、中央大陸から南にあるこの大陸が《ヨルム大陸》だ! ヨルム大陸は別名『魔大陸』と呼ばれていて、この大陸のどこかに【魔界】へと繋がる『死の門』があると言われているんだ……! その先には、恐ろしい魔王や、それを率いる大魔王がいるって話だよ。その他にも、普通の冒険者じゃ勝てないような魔物もいるらしい。ま、あくまでも噂だけどね!」
「話を戻すよ! この大陸には主にデモニアと、君たちの世界で言う悪魔、この世界ではデーモンと呼ばれる種族が住んでいる。この大陸は正直言って、入ったら二度と出ることはできないと思ったほうがいいかもしれない」
「そして、この世界の海を支配している種族のウンディーネが住んでいると言われている《海底神殿》が、この世界の海のどこかにあるみたいだ! いや〜、恥ずかしながらこの世界の住人でも、この世界のことを詳しく知らないっていうのが事実なんだ」
「まぁその原因は、今から約200年前に起きた大規模な戦争のせいで、世界の流れが大きく変わってしまったからなんだけどね……」
「その時に、憎き闇の龍神アグレウスは、封印されたという」
ここまで黙ってクラウス博士の話を聞いていたアルさんが、口を開いた。
「悪いが、歴史の話は次の機会としよう。他にも君たちには色々と知ってほしいことがあるが、魔術のことを簡単に説明しておこう」
おぉ、いよいよ魔法の説明ですか!?
僕も早く魔法を使えるようになりたい!!
まだまだ説明が長引きそうなので、次の話で!




