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龍刻の転生者  作者: 勇者 きのこ
少年期 第4章 異世界への道編
32/51

第31話「未知なる世界への道」



––––お兄ちゃん!


––––ねぇってば!


「––––起きてよ! お兄ちゃん!!」


「––––んあ?」


蝉の声がうるさい夏の昼下がり。


田舎のばあちゃんの家の居間で、扇風機にあたりながら昼寝をしていた僕は、僕の体を揺さぶる妹––鈴に起こされてしまった。


「なんだよぉ……。お兄ちゃんは今、忙しいんだよ」


「お昼寝してるだけじゃん! コウちゃんたちと遊ぶ約束してたでしょ? みんな待ってるよ!!」


「––––いっけね! すっかり忘れてた!!」


僕は急いで飛び起き、簡単に身支度を済ませた後、家を飛び出した。


「そんじゃ、ばあちゃん! 行ってくるね!」


「はいはい、いってらっしゃい。山の神様にいたずらされるんじゃないよぉ〜」


「あっ! 待ってよ、お兄ちゃん!! 鈴も行ってきまーす!」


「遅いぞ鈴! 早くしないと置いてくぞ〜!」


玄関に置いてあった虫捕り網と虫かごを持って、僕は鈴と待ち合わせの場所へと向かった––––。





–––––





「おっせーぞ、健太!」


「ごめんコウ、すっかり忘れてた!」


「ケンちゃん、どうせ鈴に言われて思い出したんだろ」


「うっ! 宗次郎の言う通りです……」


「後は、美波だけか?ったく、あれだけ遅れるなって言ったのによー」


「そう言うな幸助、いつもの事だ」


幸助が不貞腐れていると、向こうから少女が走ってくるのが見えた。


「ごめんよー! みんな待ったかい?」


「遅いんだよメガネ!」


「いや〜、ごめんね! 昆虫採集と聞いて、罠を作る為の道具とか持ってきたのさ!」


「まさか、中学生にもなって虫捕りすることになるとはな……」


「鈴はまだ、小学生でーす」


「まぁまぁ! みんな揃った事だし、行こうか!」


そう言って僕たち5人は、古い神社のある裏山へと向かった。


これから起こる事を知りもせずに––––。





–––––





「おい! 見ろよ! このカブトムシ、デッカいぞ!?」


「残念だが、コウ。僕のヒラタクワガタの方がかっこいい––––痛い痛い痛い痛い!! 顔にカブトムシをくっつけるな!!!」


「えへへぇ〜、ここに罠を設置すれば、もっとレアな獲物が……!!」


「美波、よだれ垂らすな」


「きゃあああああ!! お兄ちゃん! 蜘蛛! 蜘蛛!!」


かなりの田舎という事もあり、小一時間くらいで思ったよりも、たくさんの虫を捕まえることができていた。


「なぁ! もっと上に行けば、レアな虫がいるんじゃないか!?」


「だったら、神社の周りが良さそうだな」


「鈴、大丈夫か?」


「うぅ、お兄ちゃん。ぐすっ……」


「そうと決まれば、さっそく出発だよ! 鈴ちゃんは、お兄ちゃんの手をしっかりと握ってるんだよ?」


「うん……」


そうして僕たちは、山頂付近にある神社を目指した。





–––––





「––––なぁ。なんか、変じゃないか?」


そう言いだしたのは、コウだった。


「あぁ、やけに静かだ……」


宗次郎の言う通り、鳥の鳴き声どころか、木々のざわめきさえも聞こえない。


「お兄ちゃん、なんだか気味が悪いよぉ……」


鈴の、僕の手を握る力が強くなった。


「なんだか不気味だ。すぐに山を降りよう」


コウがそう言った時、美波が何かに気づいたように言った––––。


「––––ねぇ。この階段、こんな所に分かれ道なんてあったっけ?」


僕たちがいつも神社へ向かう時に使う階段は一つしかなく、当然分かれ道なんて無いはずだ。


「ねぇ! これがなんなのか、気にならない!?」


美波は未知の発見により、興奮を抑えきれないようだ。


「バカ、やめとけ! それこそ、山の神様のいたずらかも知れないだろ!?」


「だーいじょうぶだって! もし本当に神様がいるんだったら、会ってみたいね!!」


コウの制止も聞かず、美波は階段を上っていった。


「––––待て! バカやろ!!」


コウも美波を追って、階段を上っていってしまった。


「ケンちゃんはどうする? 僕はあの二人が心配だから追いかけるけど、鈴ちゃんもいるし……」


「俺も行く。鈴は、ここで待っててくれるか?」


「いや! 一人は怖いもん……」


鈴は僕の腕を抱き締めて、離そうとはしてくれない。


その体は、プルプルと震えていた––––。


「––––仕方ない。鈴ちゃんも連れて行こう」


「あぁ、そうするよ。足元に気をつけるんだぞ、鈴」


僕はそう言って、鈴を連れて階段を上った––––。





–––––





「うひょおおおぉぉぉぉ!! 見てよこれ!! 大発見だ!!」


「こんな所に、こんなものあったっけなぁ?」


光が遮られた薄暗い森の中––––美波と幸助が見つけたのは、中からほんのりと光が漏れ出している、小さな洞窟だった。


「––––よかった、二人とも無事だった」


「なんだ、これ。ちょっと怖いな……」


「お兄ちゃん……」


––––何故、洞窟の中から光が漏れ出しているのか。


洞窟の中の天井が崩れ、太陽の光が漏れ出しているのか。


いや、そんな明るさじゃ無い。


これはまるで––––、


「––––この洞窟かなり変だ。早く戻ろう」


「何言ってるのさ!? こんな未知の発見を前にして、戻ることなんてできないよ!! 早く調べないと––––!!」


「待てよ美波!! ––––あぁ、くそっ!!」


再び美波が先陣を切り、それを追ってコウも洞窟の中へと入っていく。


それに続き、僕たちも中へ入ってしまった。




今思えば、ここが運命の分かれ道だったんだろう––––。





–––––





「うわぁ……!! なんだいなんだい!! 一体これはなんなんだい!? 図鑑でも見たこと無いよ……!!」


「––––綺麗だ」


洞窟の中から漏れ出していた光の正体は、太陽の光などではなく、目の前を悠々と浮かぶ、たくさんの光の玉だった––––。


それは様々な色へと変わり、洞窟の中に幻想的な空間を作り出していた。


「見て、お兄ちゃん! とっても綺麗だよ!!」


「あぁ、そうだな––––信じられないくらい綺麗だ……!!」


「––––––––っ!!」


僕たちがこの幻想的な空間に感動していた時、宗次郎がその異変に気付いた––––。


「ケンちゃん、見てみろよ……」


僕は宗次郎に言われて、来た道を振り返った。


するとそこには、あるはずのものがなかった––––。


「––––入り口が、消えてる!?」


そう、どこを見渡しても、入り口は見当たらないのだ––––。


「どうしたんだよ、健太?」


「コウ、入り口が……無いんだ」


「––––嘘だろ!?なんで、さっき通ったはずなのに!!」


コウはそこにあったはずの入り口––––今は行き止まりとなった洞窟の壁を叩いた。


「でも、これで進むしかなくなった––––ってわけだよね? だったら、早く行こうよ!!」


「なんでお前はこんな状況でも平常運転なんだよ!!?」


「諦めろ、幸助。今は美波の言う通りだと思う。ここで嘆いてたって、仕方ないだろ?」


「鈴、絶対に僕の手を離すんじゃないぞ」


「お兄ちゃん、お家に帰りたいよ……」


「大丈夫、兄ちゃんがついてるから」


そしてまた僕たちは、奥へと進んで行った––––。





–––––





「いつまで続くんだろ、この道……」


そう誰かがポツリと呟いたのが聞こえた。


あれからどれくらいの時間が経ったのだろうか。


かれこれ、30分以上は歩いているはずだ。


みんな、だんだんと疲れが見えてきた。


「いやぁ〜! ここは一体、どういう作りになってるんだろうね!? あれからかなり歩いたけど、終わりは見えないし、ずっと平坦な道が続いてるだけだ。ここは山の中だから、そんなはずはないのにさ!」


––––この中でただ一人、美波を除いて。


「元はと言えば、お前のせいだろ!! 俺は止めたんだ、待てってな!!」


「コウ、喧嘩はやめろって! 余計に体力を消耗するだけだ」


「なんだよ健太! なんでお前はそんなに冷静でいられるんだよ––––!?」


「––––やめろ幸助!! ケンちゃんが平気なわけないだろ!? ケンちゃんは、鈴ちゃんのために冷静にならなきゃいけないんだ!!」


「二人とも落ち着けって! 」


疲れのせいか、言い争いが増えた気がする。


次第に空気が重くなり、誰もしゃべらなくなってしまった。




–––––





あれから1時間が経過した。


まだまだ終わりは見えない。

むしろ、終わりなんてないんじゃないかと思えてきた。


「––––ねぇ、お兄ちゃん。あれ、何かな……?」


すると突然、鈴が向こうの方を指差した。


「……? 何も見えないぞ?」


「よく見てよ! ほら、あそこ!」


鈴が指差している方向––––。


洞窟の壁のゴツゴツとした岩肌が少しだけ出っ張った所。


「––––ん? なんだ、あれ?」


その陰に、チラチラと何かが見える。


「おい、みんな気をつけろ! あそこに何かいる!」


「おぉ〜!? 生き物みたいだね! 見たことない生き物かな!?」


「あ、待って! その子、怖がってる!!」


「何言ってんだよ、鈴? ––––って、おい!」


いきなり鈴に腕を引かれ、その生き物がいる場所まで走り出した––––。


「––––わぁ〜!可愛い〜!!」


「なんだ、こいつ……。ちっこいな〜」


「––––きゅ?」


そこにいたのは、手のひらサイズの綿毛のような生き物だった。


「なんだいこの子は、小さくて可愛いなぁ〜! でも、見たことない生き物だね? 是非とも、調べたいものだ!!」


「やめてよ美波ちゃん! よだれ垂らさないで!! 美波ちゃんには絶対に『ハリマル』は渡さないもん!!」


「––––ハリマル?」


「そうだよ、お兄ちゃん! この子の名前!」


「名前ったって、その子は危険かもしれないんだぞ?」


「そんなことないもん!! ハリマルは良い子だもん!!」


鈴はハリマルと名付けた生き物を大事そうに抱えている。


「まぁまぁ、諦めろよ。こうなった鈴ちゃんは、手に負えないんだからよ」


「そうだよケンちゃん。こんなに可愛いんだから、大丈夫さ」


見知らぬ場所にいた未知の生物をペットのように扱う妹に心配しながらも、先を急ごうとするが––––。


「きゅ、きゅー」


「ハリマル? どうしたの? ここに何かあるの?」


突然ハリマルが泣き出し、鈴の腕から抜け出した。


最初は、やはり嫌がっているのかと思ったが、そうではないようだ。


同じ場所をくるくると回り、何かを訴えているようだ。


「––––よし、調べてみよう」


僕たちはそうして、ハリマルが訴えている場所を調べてみることにした––––。



























新章突入です!


しばらくは、主人公の出番はなさそうですねw

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