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龍刻の転生者  作者: 勇者 きのこ
少年期 第3章 冒険編
24/51

第23話「兵器」

 







 –––グランヴェール王国 王城内–––




 突如として鳴り響いてきた大地を揺らす轟音に、王城内は騒然としていた。


 先ほどまでエリノアの婚約発表についての日取りなどを決めるために国王と話し合っていたグリル・ファーレンガルドも、その想像を絶する光景に空いた口が塞がらなかった。


「あ、あれはなんだっ?!–––––おいカルシェ君、すぐに国王陛下を避難させるんだ!!」


「は、はいっ!直ちにっ!!」


 事の重大さにいち早く気が付いたグリルは、すぐに護衛に付いていた騎士のカルシェナールに指示を出す。


「なんと言う事だ……やはり騎士団を同行させるべきだった……」


 エリノアからは一応、奴隷として囚われている獣人種の子供たちを奪還する話は聞いていた。


 本来であれば多くの騎士を向かわせるところなのだが、囚われていたのが獣人種だと聞いて事を大きくすることができなかった。


 最悪の場合、外交問題にまで発展しかねない。


「だがこれは流石に……っ!! すぐに騎士団を向かわせなければっ!!」


 港での異変をすぐさま察知した蒼天の騎士団はすでに、国民たちの避難を始めている。


 騎士団長が遠征でいない今、動かせる騎士の数も限られている。

 早急に手を打たねば、この国が滅びるかもしれない–––––っ。


「–––––頼む、エリノア。どうか無事でいてくれ……っ!!」


 再び我が子を失うかもしれない、そんな窮地を前にただ眺めることしかできないというこの状況を前に……グリルは言い得ない無力感に苛まされそうになる–––––が。


「大丈夫だ、きっと大丈夫……エリノアのことを守ってやってくれ–––––リュウ君っ」


 エリノアと一緒にいるのは、あの光の龍神だ。


 きっと大丈夫だと自分に言い聞かせ、グリルは祈りながらも執務室を飛び出た–––––。







 ––––– 







 壁を盛大に破壊して屋外へと飛び出したリュウとエリノア。


 その二人の目の前では、異様な光景が広がっていた。


 一目散に逃げ出す男たち、その背後に見えるのはパンドラたちの姿–––––。


 ミシェルとパンドラ、ギルが、逃げていく賊たちとは真逆の方を見上げて息を荒くしている。

 その顔はいつもの余裕な表情ではなく、ひどく焦っているようだ–––––。


「–––––おーいっ!みんな無事か!?」


 リュウが背後から大きく声をかけると、すぐにパンドラとミシェルが駆け寄ってきた。


「ご主人様ぁ♡私は大丈夫ですよぉ〜!!」


「待ってたわよっ!アンタたちが助け出した子供たちも無事よ、さっき合流したわ」


 パンドラが顎で指す方向を見ると、崩れた瓦礫からひょっこりと獣人種の子供たちが顔を覗かせている。


「あの子たちの首に付けられてた“隷属の首輪”も外しといたわよ、これで獣人種の“闘力”ってのも使えるんじゃない?–––––今はそれより、アレ(・・)を見て」


「いや今さらっと凄ぇこと言ってなかったか?隷属の首輪ってなに?呪い?あと“闘力”って–––––」


 色々と聞きたいことがあるリュウの頭を、パンドラは無理矢理曲げる–––––。


 –––––そこには建造物を踏み潰し、浮かぶ船を薙ぎ払い、大地を踏みしめながらこちらへ向かってきている–––––巨大なロボの姿があった。


「–––––なんっじゃありゃあああああ!?!!??!?!?」


 デッカ!!え!!?デッカ!!!?


 窓からチラッとは見えたけど、実際見ると迫力が段違いだぜっ?!


「なんとか俺があの距離までぶっ飛ばしたが、それでも全然ダメージは無さそうでな。まったく、困ったもんだぜ」


「そうよリュウっ!ギルってば、意外と凄いのよっ?!あんな巨大な鉄の塊も、あっという間に吹っ飛ばしちゃったんだからっ!!」


「意外ってなんだっ!!一言余計だぞ、ちびっ子っ!!」


 目をキラキラと輝かせながら失礼なことを口走るパンドラに、さすがのミシェルも呆れた様子だ。


【おいそこのガキどもおお!!そいつらは俺の商品だぞおお!!】


 うおっ!!?


 あのロボからでっけぇ声が聞こえたぞ!!?


【もう許さんぞガキども!!!捻り潰してくれるわああ!!】


 って、この声、あの変なおっさんじゃねぇか?

 てことは、あのロボにおっさんが入って操縦してるってことか??


 なんだよ……ロボが喋ってるわけじゃねぇのか……。


「あのゲス野郎……なんであんなの持ってやがんだよっ!?」


 そう呟いた俺の言葉に同意するようにギルも呟いた。


「全くだ……。あれは古代兵器アトランタ、あれ一機で国を滅ぼすことができる兵器だ」


「はっ!?古代兵器!!?!?」


「そ、そんなのが街で暴れでもしたら……!!」


 古代兵器と聞き最悪の想像をしたエリノアの顔が、みるみる険しくなる。


 それもそうだ。

 自分の生まれ育った国が、あっという間に滅亡の危機にさらされている。


 そんな彼女の心境が分かり得るものなどいない–––––。


「–––––絶対にここで食い止めるぞ」


 だが、その想いに応えるかのようにリュウが決意を固める。


 まだそこまで長い付き合いでは無いが、リュウもこの国を案外気に入っている。

 と言うより、この国を守るためにエリノアが戦うのならリュウたちも共に戦うだろう。


「けどご主人様ぁ〜……あのスクラップにはぁ、魔法が効かないみたいなんですよぉ」


 先ほどからミシェルが魔法で足止めを試みるも、魔導鎧よりも強力な装甲の前には魔法など無意味だった。


「どうやらあの装甲、魔力を吸収するみたいだ。よく見てみると装甲に当たって砕け散ると言うより、当たった直後に消えている。あの巨体を動かすエネルギー源も、外から吸収した魔力を変換してるんだろうよ」


 うざったそうに言うギルの言葉を聞き、リュウは思考を重ねる。


 今リュウが使える魔法は聖級までだ、恐らくダメージを与えるどころか魔力源に変換されてしまうのが目に見えている。


 まずは無難に、物理攻撃によって装甲を削り切るのが先決だろう。


「とにかく、近づくしかないようだな。ガンガン斬りまくるぞっ!!」


「ぃよっし!!エリノア、足を引っ張らないでよね!!」


「それはこっちのセリフだぞ、パンドラッ!!」


「全員、武器を構えろ!目標《古代兵器 アトランタ》!!お前ら!死ぬんじゃねぇぞ!!」


 ギルの合図で一斉に駆け出し、リュウたちは戦闘態勢に入った。


 今まさに、この国の命運を賭けた決戦の火蓋が切って落とされたのだ–––––。






 –––––





 いける、大丈夫だ。


 俺はこの世界に来て、たくさんの努力を重ねてきた。

 

 バハムートを倒した時はミラの力を借りたが、俺はもうあの時の俺じゃない。

 絶対に同じことは繰り返さない、もう誰も奪わせやしねぇッ!!


 大丈夫だ、俺ならできるっ!!

 ビビってんじゃねぇ、”心の剣を抜け”–––––ッ!!


「–––––エリノアっ!俺とパンドラとギルさんを風魔法で飛ばせるか!?」


「できるが、それは危険すぎる!空中じゃ身動きが取れないぞっ?!」


「なら俺だけで良いっ!!ミシェル、あれの動きを封じれるか!?」


「完全には難しいのですよぉ〜。でもぉ〜、一瞬くらいなら可能なのですよぉ!」


「わかった!合図をしたら、エリノアは俺を風魔法で!ミシェルは、アレをどうにかしてくれ!!」


「どうなっても知らんぞっ!!」


「はいなのですよぉ〜♪」


 パンドラとギルに目で合図を送る–––––。


 二人も意図を汲み取ってくれて、こちらに頷き返してくれる。


「–––––よし、今だ!!」


 リュウの合図で、エリノアとミシェルが魔法を使う。


「風の精霊よ!天に昇る突風を放て!!『ライジング・ストーム』!!!」


 勢いよく放たれたエリノアの魔法により、リュウたちの体が一気に空高く上昇する。


【クフフフフ!マヌケですねぇ!!わざわざ、身動きの取れない空中に飛ぶとは!!】


 マースが操縦するアトランタの右腕が、凄まじい勢いで振り下ろされる。


「皆さん目をつぶって欲しいのですよぉ〜!『フラッシュ』!!」


 ミシェルの魔法により、凄まじい閃光があたりを包んだ。

 夜空に向けて放たれたそれは、騒然とするグランヴェール王国を明るく照らし上げる。


 それを直視したマースは我慢できずに、思わず目を閉じてしまう。


【ぬあああああああ!!!!目がああああ!!!】


 良いバ◯スだミシェル!!


「うおおおおおおお!!!!!!!!」


 アトランタの動きが止まった隙に、一斉に攻撃を仕掛ける。


「はああああああ!!!」


「フンッ!!!」


 パンドラとギルも剣を振り下ろす。


 –––ガキィィィン!!


 だがリュウたちの剣は凄まじい音を立てるだけで、アトランタの装甲に傷をつけることはできない。


「な!!?嘘だろっ?!傷一つ付けることすらできないのかよ!!」


 しかし、リュウはすぐさまアトランタの異変に気が付いた。


 –––––確かに見えるのだ。


 それは龍眼でしか見ることのできない、アトランタを纏うようなバリアのようなものに入ったほんの僅かな傷。


 魔法を受けた瞬間に吸収、そんな複雑な芸当をこんな傷だらけの装甲でできるはずがない–––––。


 魔力を吸収する装甲、しかし魔法を耐えていたものの正体は–––––。


「“魔障壁”かっ!!だったらオルシオンでぶった斬れるっ!!」


【ふざけやがってえええええ!!!虫けらがああああ!!!】


 しかし猛攻を浴びせようとしたその瞬間に、視力が戻ったマースがアトランタの右腕で薙ぎ払った–––––。


 龍眼で動きを捉えることができても、空中では思うように身体を動かすことができない。


「–––––ック!!」


 避けきれないっ!!


 (やべぇ……!!パンドラとギルだけでも……!!!)


「ギルさん!パンドラを頼みます!!」


 リュウはとっさに魔法で爆風を起こし、パンドラとギルをアトランタから引き離した。


 –––––だがその直後、アトランタの攻撃がリュウに直撃し、瞬く間に彼方へと弾き飛ばされてしまった。





 –––––





「リュウ!!くそっ!!」


 エリノアはリュウに飛ばされた2人を魔術で受け止めた。


「2人とも無事か!?」


「あ、あぁ!なんとかな……」


「エリノア!リュウが!!」


 パンドラは、ひどく焦った顔をしている。


 自分も同じ顔をしているのだろうか……。


「リュウなら、きっと大丈夫だ……!きっと……」


 エリノアはそう、自分にも言い聞かせるように言った。


「気をつけろ!次の攻撃が来るぞ!!」


 ギルに言われ、見るとアトランタの左腕の拳が振り上げられていた。


【虫けらが!潰れてしまえ!!】


 下卑た笑みと共にアトランタの大きな拳が振り下ろされた。


「下がれ!!」


 回避は間に合わないと判断したギルが前に出て、剣で攻撃を受けよう試みる。


 –––––その直後だった。


 突然、視界の外から凄まじいスピードで何かが飛来し、アトランタの拳の前に躍り出えるとその動きを止めた。


 その衝撃で、あたりに爆風が吹き抜ける–––––。


「–––––ここからは、ボク(・・)の番だよ☆」


 それは、赤く光る眼と笑顔の眩しい青髪の少年だった。


 少年は不敵な笑みを浮かべ、禍々しく変色した黒い刀身のオルシオンを構える。


「–––––リュウ!!無事だった……の……か……」


 そんなリュウを見て、エリノアは違和感を覚えた。


 目の前にいるのは、確かにリュウだ。

 だが、不思議と別人のような気がする。


 –––少し様子がおかしい、頭の打ちどころが悪かったのか?!!


 そんな心配をよそに、“リュート”は嬉々としてアトランタを見上げている–––––。







 –––––






【ガキィ!!まだ生きてやがったか!!!】


 続けて地面を(えぐ)りながら、アトランタの蹴りが迫ってくる。


「おぉっと!危ない危ない☆」


 リュートはそれを身軽に避け、アトランタの脚を駆け上る。


「お返しだよっ☆『魔龍斬』ッ!!」


 –––––瞬間。

 黒い稲妻を纏った剣閃がアトランタへと飛来する。


 だがしかし、その攻撃もアトランタに傷をつけることはできない。


【クフフフ!!そんな攻撃は効きませんよ!!】


 だが、リュートは攻撃を止めようとはしない。


 第二撃を構え、龍眼でアトランタの装甲を凝視し–––––そして、見つけた。


 先程リュウが攻撃したことにより、装甲を纏う魔障壁にできた僅かな傷。


 リュートはそこに目掛けて、二撃三撃と『魔竜斬』を放つ。


「うおおおおおおっらああああああ!!!!!」


 すると、先ほどまでいくら攻撃しても傷をつけることができなかった装甲が破られ、ついにその右腕が音を立てて切断された。


【な、なんだとおおお!!!??!??】


 マースには、どうしてアトランタの装甲が切断されたかはわからない。


 マースだけでなく、パンドラやミシェルたちでさえだ。


 ギルもエリノアも、呆然としている。


「やっぱりね☆"オルシオン"で攻撃した部分だけ、アトランタが纏っている『魔障壁』を斬ったんだ!!そういえば、ガッチェスさんがオルシオンを渡してくれた時に、結界を解く力があるとか言ってたっけ☆」


 リュートは背負っていた“魔閃剣 グリモア”を引き抜くと、二刀流の構えでアトランタの漆黒の装甲に降り立つ。


「さーてと☆あとは君をバラバラに解体するだけだね♪スクラップにしてあげるよっ!」


 リュートは無邪気な笑みを浮かべて、アトランタに斬りかかった。


 左手のオルシオンがアトランタの魔障壁を斬り、そこを右手で構えたグリモアが削り斬る。


 先程まで無敵だったアトランタが、ついには右腕を斬り落とされた。


「な、なんかよく分からんが–––––とにかく!これで、あの巨大なガラクタをぶっ壊せる!!!」


 ギルはそう言うと、後ろの物陰に隠れている獣人種ビーストの子どもたちに言った。


「お前たち!あの機械の攻撃を受け止めることができるか!?獣人(ビースト)の力だったら、あの機械の攻撃なんざ、屁でもないんだろう!?」


「あ、あったりまえにゃ!!よ、よーし!私に任せるにゃ!!!」


 それに答えたのは茶髪のショートボブの猫耳少女 ウヅキだった。


「イザヨイ!この子たちを頼んだにゃ!!私は、あのクソ野郎に仕返ししてくるにゃ!!!"獣人ビーストの巫女“を拐って、こんな目にあわせたことを後悔させてやるにゃ!!!」


「う、ウヅキ!?気をつけてね!!?」


 ウヅキはそう言うと、力一杯地を蹴り上げ跳躍した。


【ふざけるなよ!ガキどもがアア!!】


 マースは怒りに身を任せて、アトランタの残った左腕を使いリュートを弾き飛ばそうとした–––––が、その攻撃はウヅキの回し蹴りにより防がれる。


「なけなしの“闘力”全部使って私も手伝うにゃ!!!あんたはさっさと、こいつをバラバラにするにゃ!!!」


「了解☆☆」


 ウヅキがアトランタの攻撃を防ぎ、リュートが斬る。


「俺たちも戦うぞ!右腕の切断面を狙え!!」


「わかったわ!ミシェル、エリノア!行くわよ!!」


「はいなのですよぉ♪♪」


「言われなくても、そのつもりだ!!」



 アトランタとの最終決戦が始まった–––––。


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